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冒険者~修行~

芽生え

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しばらく唖然としてると、冒険者らしき男が声をかけてきた。

「そんなとこで何してんだ?」

「わたしたちは、ラディウス学園の生徒よ。ここに住んでるシェリに会いに来たんだけど」

「その家なら1週間位前に、火事で焼けたぞ」

「え!?シェリ……この家の人たちはどうしたの!」

「そこまで知らないが、父親が冒険者だったから、冒険者ギルドに聞いてみたらどうだ?」

「ありがとう!行くわよ!」

ケイティを先頭に、冒険者ギルドへと向かった。
フェリーチェとアルベルトは、ガイに抱えられて移動している。
ギルドに入ると、一斉に視線が集まった。
それを気にするでもなく、受付カウンターまで進み用件を伝えた。

「こんにちは、わたしは受付のミリーといいます。ご用件は何でしょうか?」

「すみません。聞きたい事があるんだけど」

「はい、どうされました?」

「わたしたちは、ラディウス学園の生徒なんだけど、後輩の家に行ったら全焼してたのよ。父親が冒険者だと聞いたから、何かしらないかと思って」

「そうですが。父親の名前は分かりますか?」

「……名前?……モネ、知ってる?」

「え!?知らないけど……」

「後輩の名前では分からないだろうか?」

「彼女の名前は、シェリといいます」

「シェリちゃんですか?それなら、ここの治療室にしますよ?」

「本当!?行ってもいいかしら?」

「えぇ、案内しますね。ただ子どもたちは、行かない方が良いと思います。シルバさん……シェリちゃんのお父さんは酷い怪我で、治癒師の方でも命を繋ぐのが精一杯の状態ですから。今も治療されてます」

「私、行きます」
「僕も行くよ」

「2人は問題ないので、案内をお願いします」

「分かりました。どうぞ、こちらです」

ミリーはミゲルとフェリーチェたちを見て治療室に案内した。
案内された部屋に入ると、疲れはてた状態でイスに座るシェリがいた。

「「シェリ!」」

「え……ケイティさん、モネさん……皆さんどうして?」

「あんたが学園に来ないから、心配で家に行ったのよ」

「火事で全焼したって聞いたけど、シェリは大丈夫だったの?」

「はい、わたしが帰った時に家が燃えていて、急いで消火したんですけど……お父さんが」

シェリの視線の先には、カーテンで仕切られたベットがあった。
全員が、そちらを見ているとカーテンを開けて女が出てきた。
その女を見て、ミゲルとネイサンが声を上げ、女も目を微かに見開いた。

「「あ」」

「……何だ、久しぶりじゃないか坊やたち」

「「お久しぶりです。叔母上」」

「ここで何してんだい?」

彼女の質問にミゲルが答えた。

「シェリは後輩なんです。学園に来なかったので心配で来たんですよ。それにしても、いつ旅から戻られたんですか?」

「2週間前だよ。忙しくて知らせる暇がなくてね」

「叔母上が治療をしているのですか?」

「まぁね……酷いものだよ。時間を掛ければ傷は治せるが、手足が切断されてるうえに目も潰されてるから、元の生活には戻れんだろうさ」

「ちょっと待って!ただの火事じゃないって事?」

「ねぇ、そういえば他の家族はどこにいるの?」

「……分かりません。探したけど、どこにもいなくてっ……ギルドでも探してもらってるんですけど」

ケイティとモネに聞かれ、必死で泣くのを我慢しているシェリの姿を見て、ミゲルが動いた。
ミゲルはシェリに近付くと、頬に手を添え目を合わせるために上を向かせた。

「……あの……ミゲル様?」

「酷い顔だ。食事はしているのか?睡眠は?」

「お、お父さんが大変なんです。家族も行方不明で……」

「お前が食事をしなければ父親が治るのか?眠らなければ家族が見つかるのか?」

「それはっ……」

「お前がやってる事は無駄な事だ。分かったら、ちゃんと食べてちゃんと寝ろ。そんな体じゃ、いざという時に動けないぞ」

「む、無駄って……わたしはただっ……お、お父さんと家族がっ……し、心配……っつ……わぁ~ん!」

ミゲルの言葉に限界が来たのか、シェリが泣き出した。
ミゲルは頬から手を離すと、シェリをそっと抱き締め優しく頭を撫でた。
シェリはミゲルの腰に抱き付き泣き続けていたが、しばらくして泣き声が寝息に変わったので、ミゲルが抱き上げ空いてるベットに寝かせた。

「おい、言いたい事があるなら言え。ニヤニヤするな」

「いや~あんたがそんな事するなんて以外で」

「でも、泣けて良かったですよ。気が張り詰めてましたもんね」

「さすがです兄上」

「お兄様、格好いい~」

「兄様、泣かせるの上手いね」

「ああいうやり方もあるのか」

「‘お兄様’に‘兄様’って何だい?」

ミゲルの行動に、それぞれ感想を言っていると、フェリーチェとアルベルトの呼び方に引っ掛かった人物がいた。
シャルロッテの疑問に、ネイサンが2人を紹介した。

「そういえば、会うのは初めてでしたね。2人とも、この人は父上の姉シャルロッテ様ですよ。叔母上、こちらはアルベルトとフェリーチェ、私たちの弟と妹です」

「始めまして、アルベルトです」
「始めまして、フェリーチェです」

「あたしが旅に出る前はいなかったね。いつの間にこさえたんだい?まぁ良いか、わたしはシャルロッテだよ。呼び方は好きにしな」

「じゃあ、叔母様って呼びますね」
「僕もそうする。あと、僕たち養子だから」

「そうかい。なんにしろ、あいつらが家族と認めてるなら、あたしにとっても家族だからね。困った事があったら町の治療所にいるから、いつでもおいで」

「「は~い!」」

シャルロッテが、元気よく返事をした2人の頭を撫でていると、ミゲルが声を掛けた。

「叔母上、シェリの家族について何か思う事が?」

「何でだい?」

「眉間に皺が寄ってました」

「目敏いね。……あんたたちは、今この国で誘拐事件が多発しているのは知っているかい?」

「えぇ、確か犯人を数名捕らえたと聞きましたが」

「ルフィーナに聞いたんだけど、その誘拐の手口は、家族の前で力ある大人の1人を拷問して、抵抗する意思を無くした女と子どもを連れ去るらしい。今回の件と似ているとは思わないかい?」

シャルロッテの言葉に全員が息を飲んだ。

「捜索の方は?」

「まだ、見付かってないよ」

「では取り合えず、シルバ殿の怪我を治しましょう」

「それは無理だよ。欠損したものは治らないからね」

「それができる魔道具があります」

ミゲルがそう言って、首に下げていたペンダントを外した。

「何だい?そんなの聞いた事ないよ」

「何それ!?そんなの持ってたの?」

「ケイティ、落ち着いてよ。それどころじゃないでしょ」

「友人にもらいました。試させて下さい」

「叔母上、兄上の言う友人はアンジェラ叔母上の体を治しました。貴女の甥が1人増えましたよ」

「何!?アンジェラをか?そうか……子を授かったか。……分かった。試してみな」

シャルロッテは、カーテンを開きミゲルを中に入れた。
シーツを捲ると、両手両足をなくし目に包帯を巻いているシルバがいた。
ミゲルは顔をしかめると、ペンダントをシルバの首にかけた。

「所有者をミゲルからシルバに移行する」

ミゲルがそう言うと、ペンダントが淡く光だしシルバの体を包み込み傷が治り始め、失った手足も元に戻ろうとしていた。

「全くとんでもないね。いったいどこの誰なんだい?」

「今度、紹介しますよ。これで、彼が目覚めれば何か分かるかもしれません」

ミゲルとシャルロッテが話している間、ケイティとモネはネイサンと話していた。

「確か、アンジェラ様を治したのってサヨ様よね」

「あの魔道具に付与してる魔法で治したんですか?」

「そうですよ。怪我はもちろん、欠損部位も元に戻せます」

「本当に規格外ね」

「それもだけど、そんな貴重な魔道具を他人に使えるミゲル様も凄いですよ」

「そうですね」(こうでもしないと、フェリが手を出してしまいますからね。それに……)

ネイサンたちから離れた場所では、フェリーチェたちが話していた。

「さずが兄様。フェリの事、分かってるね」

「後で新しいの渡さなきゃ」

「それにしても、兄様はシェリが好きなのかな?」

「う~ん。妹みたいな認識なのか女の子の認識なのかは、まだ分かんないかな?」

「……お前たち、他の人間の気持ちには鋭いのに、何でお互いの気持ちには鈍いんだ」

「「え?」」

「いや、何でもない」

呆れたように自分たちを見ているガイを不思議に思いながら、アルベルトはシャルロッテに話し掛けた。

「ねぇ叔母様、何で旅に出たの?」

「修行だよ。わたしは家を出て、治癒師をしてたんだけど、自分の力不足を感じてね。3年間いろんな場所に行ったよ」

「力不足って……もしかしてアンジェラさんの事ですか?」

「そうだよ。でも、結局あの子を治す力は身に付かなかったよ。だから、あの子を治したサヨって子には……とてもとても興味がある」

その獲物を狙う様なシャルロッテの視線に、フェリーチェは密かに震え上がった。

(怖い!?バレたらどうなるの!?)
(うわぁ……ガイを見る父様みたいだ)
(要らんところが似たな……フェリーチェ頑張れ)

それぞれ話していると、シェリとシルバが同時に目覚めた。

「あれ?わたし……いつの間に……」
「あ~よく寝た~」

起き上がった2人は、お互いの方を見て目が合った。

「おはようお父さん」
「おはようシェリ」

「………お父さん!?お父さん!」

「うおっ!?どうしたシェリ!泣いてんのか!?誰が俺の娘を泣かせやがった!お前か!」

「え?ち、違います!」

自分に抱き付き泣き出した娘に、シルバは近くにいたミゲルに食って掛かった。

「落ち着きな。シェリの涙の原因はあんただよ。まぁ、こいつも泣かせたけどね」

「叔母上!」

「あんたは?」

「あたしは治癒師のシャルロッテだよ。あんたの治療をしてたんだ。何も覚えてないかい?」

「治療……そうだ……俺は手足を……何で治ってるんだ!?目も見える!あんたが治してくれたのか?」

「あたしがしたのは、延命処置だけさ。手足や目が治ってるのは、ここにいるミゲルが貴重な魔道具を使ったからだよ」

「「え?」」

シャルロッテから、詳しい話を聞いたシェリとシルバは、ミゲルに土下座しようとして止められた。

「そんな事しなくて良い」

「しかし!」「でも!」

「なら、これから言う事を前向きに検討してくれないか?」

「「え?」」

「父、クロード・ファウストからの伝言だ。‘シェリ殿、貴女の魔法と戦闘においての判断力は見事だった。現在、我が国の宮廷魔術師部隊は人材育成に力を入れていて、研修生制度を立ち上げる事になった。貴女を是非迎え入れたい。’以上だ」

「ファウストって、宰相様か!?」
「魔術師の研修生ですか?」

「もちろん学業優先だから、研修は授業後や休日になる。両立は大変だが、学ぶ事は多いだろう。すぐに返事をする必要はないから、良く考えてくれ」

「わたしたちも誘われてるのよ。わたしは、やるつもり」

「わたしも、貴重な体験だから受けようと思うわ」

ケイティとモネの言葉に、考え込むシェリの頭を優しくポンポンしながらミゲルが声をかけた。

「焦らなくて良い。今はいろいろあって、疲れているだろう。ゆっくり休め」

「ミゲル様………っつ」

ミゲルの顔を見たシェリは、ボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にさせ飛び退いき、顔を手で覆った。

「わた、わたし、何て事!……抱き付いて泣くなんて!」

「お、おい、大丈夫か?顔が赤いが熱でもあるのか?叔母上、診てください」

「そいつは、不治の病だ。あたしには治せんが、自然と治るさ」

「は?不治の病なのに、自然と治るって何ですか?」

「心配ないから、ほっといてやれ」

そのやり取りを、ケイティとモネはニヤニヤ見守り、シルバは複雑な表情で見ていた。
ファウスト家のメンバーはというと。

「ネイサンお兄様は良いの?」

「何がですか?」

「だって、いつもミゲル兄様に近付く女の人を追い払ってるでしょう?」

「確かに、どこの馬の骨とも知らないバカ女なら徹底的に排除しますが、彼女なら大丈夫でしょう。それに……」

「「それに?」」

「弄りがいがありそうです」

「「そうですか……」」

「それにしても、兄上も鈍いですね」

「以外だよね~気付くまでに時間掛かりそうだよ」

「お兄様って普段は鋭いのにね。そういう人って、恋愛事には鈍いのかな?」

「え……それ言っちゃう?お前たちが言っちゃうの?」

「「何が?」」

「ガイ、良いじゃないですか。外野はニヤニヤ見守りましょう」

「はぁ~」

ガイが溜め息をついたとき、ドアがノックされてルフィーナが入ってきた。














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