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12 体温
しおりを挟む視界は涙で歪み、幾筋もの雫が頬を流れ落ちていく。
感情のままに心の内を伝えた興奮から、小刻みに体が震えていた。
少しでも気を抜けば、足元から崩れてしまいそうだ。
だから、フレディが私に近づいてきていることを見落とした。
「エリーゼ様……!」
「ひっ……!」
気づくと、大きな身体にすっぽりと覆われていた。
……だ、抱き締められている?
男の人に、私の執事に、あのフレディに……抱き締められている!
人と触れ合ったことがないので、どうしたらいいか分からずに汗ばかりが出る。
「やめ……」
フレディの胸を両手で押してじたばたするけれど、身体の隙間を埋められて、より密着感を強めてしまった。
心臓の音まで聞こえてしまうような、ぴったりとした隙間の無い距離感。
床から引っこ抜かれるような体勢でフレディの脚の間につま先立ちで立っていた。
「これからは、私がずっと一緒におります。
エリーゼ様が生きていたいと思えるような世界を作って、誰よりも幸せなお嬢様にしてみせます。
ですから……」
背中に回る腕の力は強くて、それでいて触れられる部分は温かさを感じる。
低くてどこまでも優しい声色が耳に心地いい。
勝手なことばかり言うフレディに怒りが湧くはずなのに、どうしてだか何かが満たされていく。
そして、フレディは私の耳元でうっとりと囁いた。
「……エリーゼお嬢様、私と一緒に生きてくれませんか?」
掠れた声に、絡め取られていた全身がゾクリと粟立った。
どうしよう、こんなにも胸が熱い。
どうしよう……
どのくらい時間が経ったのだろうか。
一瞬のようで永遠にも思える時間。
フレディに抱き締められながら、涙が少しだけ乾いてきた頃。
ーーコンコン
「……ああ、髪を切るメイドが来たようです。
ですが、出直していただきましょう」
フレディは私の背中にきつく回っていた両腕を解放すると、胸ポケットからハンカチを出し、さっと私の涙を拭く。
そして、ドアへ向かっていった。
その背中に、声を掛ける。
「……いいえ、フレディ。
少し落ち着きました。
もう、入ってもらって大丈夫です」
髪を切ってくれるという話は、本当のことのようだ。
確かに今は酷い顔をしているけれど、もし断ってしまったら、次に来てくれる保証なんてどこにも無い。
「かしこまりました」
フレディは短く答えると、部屋のドアを開けた。
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