上 下
15 / 41

15 ヘアカット

しおりを挟む



「エリーゼ様、レイアをいかが致しますか?」


え……


この人の処遇を、この屋敷で最も発言権の無い私が決められると言うのか。


私の返答を待つフレディに面食らった。


レイアは……20歳前後くらいか。


私よりも年上なのは間違いない。


悪魔という発言は気になるけれど、なんだか現実離れした大袈裟な言い方だし、ひょっとすると全部嘘なのかもしれない。


……フレディもレイアも私に呪いとか悪魔とか嘘をついて、本心は嘲笑っているのかな。


もしそうなら、望みが見えた。


「どうするも何も……特にありません。
そんなことより、予定通りに髪を切ってくれませんか?」


厄介者の私を2人がかりで殺すのだろう。


だったら、騙されていたままでいい。


フレディでもレイアでも、どちらでもいいから私を殺してくれることを期待した。


「……かしこまりました。
レイア、慈悲深いエリーゼ様に感謝するといい。
次にエリーゼ様を愚弄したり危害を加えようとしたら、殺す」


「承知致しました」


「エリーゼ様、私も監視しております。
万一の際は取り押さえますので、ご安心ください」


「……はい」


そんなふうに取り繕わないで、早く殺せばいいのに。


レイアは床から立ち上がると、手慣れたようにケープを私の首に巻いて、鋏を出して髪を切り始めた。


その雰囲気に、殺意は混じっていない。


……油断させるために、だろうか。


ちょきちょき、と鋏が鳴る音と、髪が切れていく感覚が少し気持ちいい。


人に髪を切ってもらうのが初めてだったから、本当に不思議な体験だった。


床に落ちる髪の毛の重い音が続く。


絡みついて塊になっていた部分も綺麗に落ちていく。


髪を切られる感覚が楽しくて、考え事を一旦手放した。


まるで、厄が落ちていくかのような、晴れやか気分になっていく。


どんどん軽くなっていく頭と、鋏が通る感覚、前髪も作りますねとレイアが言ってくれて、なんだかよく分からないけれど気分が良かった。


先程の殺気なんて微塵もない。


そう思っていると、鋏はいつの間にかケースに仕舞われ、ケープが外された。


「終わりました。
いかがでしょうか?」


「あ……ありがとう、ございます」


鏡を渡され覗き込むと、久しぶりに見た私がいた。


血色は悪く、頬はこけて、皮膚はめくれてガサガサ、瞼はぶよぶよに赤く腫れていて、なんともバケモノのような酷い顔をしているが、確かにショートカットのこの髪型はセンスが良い。


「エリーゼ様、とてもお美しいです」


フレディは感嘆の息を漏らした。


それはどういう神経なのか、疑ってしまう。


しかし、殺しの絶好のタイミングなのに、何事もなく終わってしまった。


本当に、レイアに悪魔とやらの呪いが掛かっていて、それが解けたというのだろうか。


……まさかね、あるわけがない。


でも、床に散らばっている灰色のタワシのような毛を見て、胸がスッとしたのは確かだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

巣ごもりオメガは後宮にひそむ

BL / 完結 24h.ポイント:7,841pt お気に入り:1,594

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:23,018pt お気に入り:12,912

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:96,570pt お気に入り:4,890

【君との夏休み】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:4,835pt お気に入り:8,540

公爵様と行き遅れ~婚期を逃した令嬢が幸せになるまで~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,116pt お気に入り:26

愛の鐘を鳴らすのは

恋愛 / 完結 24h.ポイント:41,685pt お気に入り:1,606

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:31,907pt お気に入り:11,567

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,251pt お気に入り:22,202

処理中です...