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15 ヘアカット
しおりを挟む「エリーゼ様、レイアをいかが致しますか?」
え……
この人の処遇を、この屋敷で最も発言権の無い私が決められると言うのか。
私の返答を待つフレディに面食らった。
レイアは……20歳前後くらいか。
私よりも年上なのは間違いない。
悪魔という発言は気になるけれど、なんだか現実離れした大袈裟な言い方だし、ひょっとすると全部嘘なのかもしれない。
……フレディもレイアも私に呪いとか悪魔とか嘘をついて、本心は嘲笑っているのかな。
もしそうなら、望みが見えた。
「どうするも何も……特にありません。
そんなことより、予定通りに髪を切ってくれませんか?」
厄介者の私を2人がかりで殺すのだろう。
だったら、騙されていたままでいい。
フレディでもレイアでも、どちらでもいいから私を殺してくれることを期待した。
「……かしこまりました。
レイア、慈悲深いエリーゼ様に感謝するといい。
次にエリーゼ様を愚弄したり危害を加えようとしたら、殺す」
「承知致しました」
「エリーゼ様、私も監視しております。
万一の際は取り押さえますので、ご安心ください」
「……はい」
そんなふうに取り繕わないで、早く殺せばいいのに。
レイアは床から立ち上がると、手慣れたようにケープを私の首に巻いて、鋏を出して髪を切り始めた。
その雰囲気に、殺意は混じっていない。
……油断させるために、だろうか。
ちょきちょき、と鋏が鳴る音と、髪が切れていく感覚が少し気持ちいい。
人に髪を切ってもらうのが初めてだったから、本当に不思議な体験だった。
床に落ちる髪の毛の重い音が続く。
絡みついて塊になっていた部分も綺麗に落ちていく。
髪を切られる感覚が楽しくて、考え事を一旦手放した。
まるで、厄が落ちていくかのような、晴れやか気分になっていく。
どんどん軽くなっていく頭と、鋏が通る感覚、前髪も作りますねとレイアが言ってくれて、なんだかよく分からないけれど気分が良かった。
先程の殺気なんて微塵もない。
そう思っていると、鋏はいつの間にかケースに仕舞われ、ケープが外された。
「終わりました。
いかがでしょうか?」
「あ……ありがとう、ございます」
鏡を渡され覗き込むと、久しぶりに見た私がいた。
血色は悪く、頬はこけて、皮膚はめくれてガサガサ、瞼はぶよぶよに赤く腫れていて、なんともバケモノのような酷い顔をしているが、確かにショートカットのこの髪型はセンスが良い。
「エリーゼ様、とてもお美しいです」
フレディは感嘆の息を漏らした。
それはどういう神経なのか、疑ってしまう。
しかし、殺しの絶好のタイミングなのに、何事もなく終わってしまった。
本当に、レイアに悪魔とやらの呪いが掛かっていて、それが解けたというのだろうか。
……まさかね、あるわけがない。
でも、床に散らばっている灰色のタワシのような毛を見て、胸がスッとしたのは確かだった。
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