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14 鋏
しおりを挟むあ……
はっと振り返ると、時の流れが歪んでいるかのように、ゆっくりに見えた。
どす黒いオーラに包まれたレイアが、私の首に向かって逆手に持った鋏を突き立てようとしている。
ああ……この鋏で首を刺されて死ぬのね。
全てを理解し、やがて訪れる痛みを予知して目を瞑る。
「やめろ!」
フレディの必死な声が耳に響いた。
止める必要なんて無い、少なくとも私の死を邪魔する権利はフレディに無いのに。
私は、全てを受け止めようと思い、無抵抗に手を開いて待った。
数秒の静寂
ぎゅっとつぶっていた目を開けると、ハサミが私の首に刺さることはなく、フレディがレイアの手首を掴んでそれを静止していた。
「んぐぅ……?」
先に声を出したのは、レイアだった。
「エリーゼ様から離れろ!」
レイアの手首を捻り上げて鋏を取り上げたフレディはその手首を後ろに引き倒すと、そのまま彼女は勢いよく床に尻餅をついた。
そして、彼は執事服のどこからか取り出したロープで手際よくレイアを縛り上げる。
特に抵抗することもなく、そのまま後ろ手を縛られ床に座らされたレイア。
「ん……あぐ……」
どうしてだか、レイアはみるみるうちに顔を青くしている。
「レイア、エリーゼ様に何をしたのか分かっているのか!」
フレディがそう怒鳴ると、レイアはびくりと身を小さくした。
なんだろう、この違和感。
「フレディ、様子がおかしいです。
口の中のハンカチを取ってください」
「……かしこまりました」
フレディがレイアからハンカチを引き抜くと、彼女は浅く呼吸する。
「はぁ、はぁ、はぁ……エリーゼ様……本当に申し訳ございません」
意外にも、彼女は謝罪の言葉を口にした。
「私は、エリーゼ様を、あろうことか、鋏で刺そうとしてしまいました。
あ、悪魔に逆らえなかったのです。
わっ、私は悪魔に取り憑かれて、こんな愚かなことを致しました。
た、大変、申し訳ございませんでした!」
後ろ手に縛られながらも、髪を振り乱して頭を下げるレイア。
何が起こっているのか、全く分からない。
「どういうことか分かりません……
悪魔って、なんですか?」
と言いかけた時、フレディがレイアの前に屈んだ。
「レイア、今の話では訳がわからない。
エリーゼ様にも分かるように、その経緯を最初から正直に話すんだ」
「……は、はいっ。
わ、私は悪魔に取り憑かれております。
この屋敷に勤めることになった初日のことです。
西塔に連れて行かれて、変な儀式を行われ、悪魔をこの身に下されました。
私は、普段エリーゼ様とお会いすることも無いですから、特に変わったことは無かったのですが、今日初めてお会いした時に、悪魔が乗り移ったかのような言動や行動になってしまいました。
私は……私はそれを見ていることしかできませんでした」
ほとんど泣き崩れるレイアに、フレディと顔を見合わせる。
なんだろう、この変な感じ。
フレディの豹変と、よく似ていた。
フレディは意思に反する呪魔法と言い、レイアは悪魔だと言う、私への冷遇や殺意。
「エリーゼ様、間違いありません。
私の時と全く同じでございます。
レイアも呪魔法を受け、どうやらそれが今解呪された。
これは憶測ですが……エリーゼ様を殺害しようとした時に解ける呪いかもしれません」
私を殺そうとすると、解ける呪い。
恐らく、執事やメイドに呪いをかけるように指示したのは……
そんな権限を持つのは……お父様とお母様だよね。
私に辛く当たるような呪魔法を使用人に掛けるなんて……お父様とお母様は、よっぽど私が……
……嫌いなんだ。
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