私を見捨てた婚約者へ、さよならを

婚約者は、私を愛してはいなかった。
見ていたのは家柄で、地位で、周囲の評価だけ。
令嬢として“美しく在ること”を求められ、
私はいつの間にか、役目だけを生きる存在になっていた。

だから、婚約破棄を告げたのは――私の方だった。

それは拒絶でも、復讐でもない。
ただ、「私を見なかった人」の隣に立つ理由が、
もうどこにも見つからなかっただけ。

けれど選択の代償は重く、
私は社交界から、世界から、静かに追放される。
――それは罰のはずだった。
けれど皮肉なことに、それは“解放”でもあった。

誰かに美しく生きろと命じられない場所で、
誰かの価値を背負わない場所で、
私は初めて「私」として息をする。

一方、私を見捨てた婚約者は、
私がいなくなった世界で、少しずつ崩れていく。
失ったのが“令嬢”ではなく、
“たった一人の人間”だったことに気づかぬまま。

これは、奪わないざまぁ。
叫ばない復讐。
微笑みのまま去った令嬢が、
二度と振り返らない物語。

――さよならは、もう告げた。
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