踊るキミを見ていたい

朝賀 悠月

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8・ヒビ割れていく友情

俺がするべきこと

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 その日から、ひたすらずっと考えていた。
 どうするべきなのか。何をどうすることが正解なのだろうかと。

 わかってる。一番は、俺がここから出て行くこと。

 そうすればこれ以上翔哉くんを傷付けずに済む。ここは居心地が良かったけど、雄代くんとの暮らしは楽しかったけど……俺が実家に戻ることで翔哉くんのあんな顔を見なくて済むのなら、出て行く方がいいんだって。
 翔哉くんが高校生の時、悩み苦しむ心を救ったのは、雄代くん。彼の隣が、ずっと翔哉くんの居場所だった。

 その大事な居場所を、あとから来た俺がこんな簡単に奪っていいものじゃない。
 それに帰り道で見た雄代くんの表情が、何故か脳裏から離れてくれないんだ。
 きっと俺に何か言いたかったはずなのに、言わずに呑み込んだのはなんでなんだろう。
 ピリついた空気のまま帰宅して、目も合わせずにお互い自室に戻った。
 もしかしたら雄代くんは、ペアダンス中に俺が翔哉くんと触れ合うことがイヤだった、のかな。だとしたらわりと納得がいくし、腑に落ちる。
 雄代くんは、翔哉くんが大事なんだ。だからやっぱり、俺はここに居るべきじゃない。

 すぐにでも実家に帰る準備を進めよう。そう、思ったのに。
 こういう時に限って依頼されていた仕事が終わらない。せめてここを出るまでは食事当番の責任を果たそうと料理を作ったけど、一緒に食べるのは気まずかったので、仕事を言い訳にして部屋に籠った。

 スタジオに行けば、いつも通りに振る舞ってくれる翔哉くんがいる。だけどそれもフリだって、俺は気付いてる。敢えて口にはしなかったけど、その状況で一緒に踊るのは、申し訳なくて苦しかった。
 翔哉くんと二人で踊って、雄代くんが来れば三人で踊った。
 先に帰ると言ったら「俺も」と言って雄代くんも付いて来ようとしたけど、俺は翔哉くんに雄代くんを押し付けて、一人で帰った。
 するとその後、雄代くんは仕事から遅く帰って来るようになった。

「悪い。今日も翔哉と撮ってた」

 そう言われて何故か、胸の奥に違和感を覚える。胃もたれした時のような、モヤッとしたものに支配される。「そっか」と笑顔を作っても、せり上がってくる喉の詰まり。こんな得体の知れない感情に囚われている自分に、苛立つ。

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