公爵令嬢は学園生徒会から幼馴染を全力で守りたい。

のんのこ

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生徒会の彼女

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学園でのお昼はいつもファルトと食堂で食べていた。


「…なんか、サラのシーフードパスタの方が美味しそう。そっちにしたら良かったかも」

「ファルト、あなたそれ毎日言ってるわよ?隣の芝生は青く見えるって本当ね」

「サラの食べてるものは美味しそうに見えるんだよ」


ぷくっと頬を膨らませて拗ねるファルト。

こんなに可愛い十七歳ってなかなかいないんじゃないかな。



「はぁ、仕方ないなぁ。私のパスタも食べる?」

「食べる」

そう言ってファルトはあーんと大きく口を開く。


「…これも毎回言ってるけど、口を開けるんじゃなくてフォークを持ってくれない?」

「サラのけち。俺最近すごい疲れてるんだよ?口に食べ物運んでくれるくらいしてくれてもいいと思うんだ」


「……はぁ、いつまでたっても子どもなんだから」

そう言うと彼は目付きを鋭くさせたものの、依然として口は大きく開いたまま。


渋々くるくるとパスタを巻き付けたフォークを彼に運ぶと嬉しそうにパクリと口に含んだ。


「美味しい?」

「ん、美味しい。ありがとサラ」


満足そうなファルトに僅かに笑みがこぼれる。

私も大概彼に甘い。


彼がパクパクとお昼を食べ進めるのを見守りながら、私は自分のパスタに口をつける。


…うん、ちゃんと食べられてるみたいで良かった。


あまり眠れないようだけど、とりあえず昼と夜はご飯を食べていることは確認できている。


安心してランチを楽しんでいた時だった。



「ファルト様!いつも学食で昼食を召し上がっていたんですねっ」

そんな綺麗なソプラノの声が響いた。


「…シンシア嬢」

「生徒会のみんなで食べようっていつも言ってるのに、全然来てくれないんですから!もう、私怒っちゃいますよっ?」


可愛らしく唇を尖らせる彼女こそ、男性ばかりの生徒会の紅一点である一年生のシンシアさんなのだろう。

そして、この彼女が…ファルトを苦しめている要因の一人。


淡い橙のサラサラとしたロングヘアに透き通るような桃色の瞳が華やかな美少女だった。


「お昼は彼女と過ごすことに決めてるんだ」

ファルトは笑顔でそう返事を返した。



「え…でも、ファルト様は確か婚約者などはいませんでしたよね??」

「婚約者ではないよ。こちらはサラ、幼馴染なんだ」


私とファルトが婚約者だなんて、有り得ない話だ。

想像したら面白くて少し笑ってしまう。


「初めまして、ファルトの幼馴染で、チェインズ公爵家のサラ・チェインズです。以後お見知り置きを」

「私はシンシアです!」


家名も名乗らないやけにあっさりとした挨拶になんとなく私は彼女に好かれていないのかもしれないと感じた。

顔色を窺うも、表情は終始にこにこしていて掴みどころのない人だと思う。



「あのっ、婚約者でもない女性と昼食なんて、何か誤解が生まれてしまうんじゃ…」

「お互い決まった相手もいないから大丈夫だと思うよ。別に誰かに迷惑をかけているわけでもないしね」


「でもっ、これから二人ともそれぞれ別の相手と一緒になるかもしれないんだし、そういうことも考えた方がいいと思います…あ、私なんかが差し出がましかったですね、ごめんなさい…でも、やっぱり距離が近すぎるのも二人のためじゃないから…」


彼女は私達の何を知って、このような苦言を呈してくるのだろうか。

二人のためじゃないなんて、そんなこと余計なお世話だ。


「ははっ、わざわざありがとう。でも大丈夫だよ。もしも何かあったら俺はサラに貰ってもらうから」

「ファルト様、冗談を言ってる場合じゃ…」


「冗談じゃないよ?サラだって俺の事大好きだし。ね、そうでしょ?」

「ファルト、最近あなたあざとすぎる気がする」


彼は自分の容姿が整っていることを自覚してこんなことを言ってくるのだ。

こてんと首を傾げる様は小悪魔な本性を理解していても破壊力抜群だ。


「とにかく俺のことは心配しなくて大丈夫だから。シンシア嬢はみんなとご飯食べてきな?ほら、向こうでレオ先輩達がシンシアのこと待ってるよ」


ファルトの視線の先を辿ると男性が二人テーブルについてこちらを見つめていた。


彼らは確か、共にファルトと同じ生徒会の方々だったと記憶している。


輝かしい金髪の方は副会長で公爵令息のレオナルド・オルガード様で、落ち着いた黒髪の彼は生徒会役員で伯爵令息のアイザック・バーン様だ。


「そうです、みんな待ってくれてるんです!だから早くファルト様も行きましょう?」


…どうしてそうなるの。

ファルトをちらりと一瞥すると困ったように眉を垂らして苦笑を浮かべていた。



「あの、今日のところはファルトも食べている途中で移動するわけにも行かないし、私に譲って頂けませんか?」

「…サラ様」


「シンシアさんも早く昼食をとらないと、午後の授業が始まってしまいますし…」


シンシアさんは納得いかないといった表情を隠すことなく私を見つめていた。

それでも渋々諦めてくれて、捨て台詞をはいて私たちの前を去っていく。


「あんまりファルト様のこと縛り付けないであげてくださいねっ」


……ああ、私、彼女のこと苦手みたい。



「俺、サラに縛られてるなんて思ったことないからね」

「ええ、わかってる」


「ごめん今はタイミング逃しちゃったけど集まりの時しっかり言っておくから」


ファルトは心底申し訳なさそうにそう言うと、頭痛を耐えるようにこめかみを押さえていた。


「あんまり無理しないようにね。別に私は気にしてないから」

「うん、ありがとう。ちゃんと話してくるから、サラは公爵邸で俺のこと待ってて」

「うん」


なんだか不安だ。

ファルトがつらい思いをすることがなければいいのだけど。






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