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2話
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「……か、……ですか」
声が、聞こえる。
小さな声。
聞いたことのない質の声だ。
「あ、気がつかれたようですね」
目覚めた時、目の前には知らない男性がいた。
「ここは――あの世ですか」
「え?」
「私は死んだはずです。だとすればきっとここがあの世、なのですよね。きっとそうだと思います」
すると彼は笑う。
「ああ、そうでした。飛び下りられたのですものね。ですが残念ながら……ここはあの世ではないですよ、死後の世界ではありません」
優しい笑い方だった。
見ていて癒される。
だが問題もあった。
私は死ねなかったというのか……。
あそこでならきっと上手く死ねるだろうと信じていたのに……。
「貴女は僕が助けました」
「あ……」
「怪我は軽いものでしたので、恐らく、神にでも護られていたのでは」
「……嬉しくないです、そんなの」
「まぁそうですよね。願い叶わず、ですものね。すみません、不愉快にさせてしまったかもしれません」
彼は謝罪した。
罪なんてあるわけがないのに。
罪なき謝罪を聞くと急に申し訳なくなってきて、私は思わず「こちらこそ、助けていただいたというのに……すみません」と返した。
その後、私たちは、しばらく何も話さなかった。
けれどもなんだかんだで彼の家に住むこととなったのだった。
でも、まぁ、それでいいのかも――そんな風に思っている私もいた。だって帰る場所なんてないから。実家へ帰れば妹と婚約者であった彼の幸せな姿を見ることになる――そんな屈辱、耐えられない。それに、屈辱とか何とか以前に、辛すぎるではないか。実妹の幸せだとしても、だ。あんなことになってしまった後では素直に祝えるわけもない。
だから当分ここに滞在することにしたのだった。
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