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第二章 竜の文化、人の文化

二十一話

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「こちら、お気に召して頂けるといいのですが」

 やっと時間が取れたと、苦笑するタウネを庭に通す。

「いえそんな、っ」

 言葉を返すアイリスの前に、明るい色の蓋と持ち手付きの籠が出現・・した。

「……こちら、は」

 少し、動揺と興奮で声が震えたと、アイリスは思う。竜は畳まれた空間に荷物を仕舞うのだと覚えはしたが、目の当たりにすると息を呑んでしまうのだ。

(駄目。失礼にあたる。冷静にしなきゃ)
「ウチの新商品です。どうぞ開けてみて下さい」
「! ……ありがとうございます」

 竜の酒。その言葉だけでも好奇心がくすぐられるアイリスだ。
 蓋を開けると、中には小ぶりな瓶が五本。

葡萄酒ワインの……赤、ロゼ、白、赤の発泡酒スパークリング……? それに林檎酒シードル

 見るだけで分かる質の高さ。それはなかにもそとにも言える。

「……綺麗」

 赤をおもむろに持ち上げる。
 小ぶりだからか、別の、また魔法か何かか。軽々と持ち上げられる瓶を日にかざし、透き通る硝子と液体を確かめる。

(竜の物は、本当に質が高い……不純物が全然無いわ……この瓶も、どうやってここまでの透明度を……?)

 この味、まっさらな状態で。

「あの、今ひとくち──」
「ダメよアイリス」

 封に伸ばしかけたその手が止まる。振り向くと、呆れ顔のブランゼンがすぐ側まで来ていた。

「ここではあなたは未成年で、未成年はお酒は飲めないの。教えたわよね?」
「……ぐ」

 アイリスは思わず唸る。
 人の世界では酒は日常的に、大人から子供まで飲んでいた。もちろんアイリスも。
 生水を直に飲むのは危険であり、そもそも確保も難しい。なので酒は水の代わりだった。

「教わり、ました……」

 だがしかし、ここでは違う。
 竜の都では飲み水、それ以外の生活用水も充分に確保出来る。加えて成長阻害の恐れがあると、未成年──百九十歳以下は飲酒禁止だ。
 竜換算で、高く見積もっても百八十二歳であるアイリスは、ギリギリそこに届かない。

「酒、興味はあるんだよな……」
「だめだよダンファ」

 この、自分より幼く見える人間が、酒の味を知っている。
 先日知った時より驚きは薄いが、抵抗無く酒瓶を手に取った姿に、ダンファとズィンは世界の違いを見た。

「あなたも何でお酒を持ってくるのよ……」
「いえ、こちらは飲んでも美味しいですが、料理などに使い易いよう改良したもので」

 苦笑気味なタウネの言葉を聞きながら、アイリスはワインを籠に戻した。
 アイリスは今日は、主にタウネと話をするだろうと考えている。

「アイリスさんは、自ら料理もするとお聞きしましたので。その腕も相当だと」

 他にいるのはダンファとズィン、ブランゼンにファスティに……

「いえ、私は……簡単なものを作れる程度で」

 少し遠くにいる、ヘイルだけだから。


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