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第二章 竜の文化、人の文化
三十話
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突如響いたその声に、アイリスは今度こそバランスを崩す。
「ブランゼンか」
ヘイルはそれを意にも介さず、すぐにしっかりと抱え直した。
「アイリスの事ならもう把握しているぞ」
『あっ良かっ……え?』
きょとんとした顔が見えるようなその声に、アイリスも目をぱちぱちとしばたたく。
「え、……ブランゼン、さん?」
この声はどこから、と竜の形のしなやかな首を回す。
『アイリス! 無事なのね!』
「は、はい」
『良かった……!』
ブランゼンの大きく息を吐く音が聞こえ、アイリスはなんだかもぞもぞと落ち着かない気分になる。
(……あれ? そもそも、この体勢……)
同時にふと、意識から外れていたこの状況に、アイリスの頭が回り始めた。
(えっあれっ、私、)
『ヘイル、私もそっちへ行くから』
そんなアイリスの横から、ブランゼンの声がまた届く。
「分かった。では──」
ヘイルはちらりと下を見やり、
「城へ降りていよう」
「えっ」
「そこから昇ったしな」
『城から? バルコニーからって事?』
ヘイルは戸惑うアイリスの背をさすり、ブランゼンの声を聞き流しながらゆっくりと降下していく。
「まあ、今はアイリスだ」
『……そうね。すぐ行くわ』
何かを察したらしい声音でブランゼンは返し、そこから声は聞こえなくなる。
逆に下から幾つかの声が聞こえ出す。
「ヘイル様ー?」
「今度は何を……」
使用竜と思しき数名が咲いたままの窓から顔を出し、ヘイル達に向けて声をかけた。
「ちょっとな。アイリスが……あぁ、彼女がアイリスなんだが」
窓から回廊へと降り立ち、ヘイルは抱えている竜へ目を向ける。
「え? あの噂に聞いた」
「人間の」
「飛行時の私達そっくりですねぇ」
使用竜達もアイリスを見、少し驚いたような、それでいてどこかマイペースな調子で口々に言った。
「今はそうだが……まあ、その話は後でだ」
「分かりましたー」
「あ、その」
何か言わなければ、とアイリスも彼らに向き直る。
「ブランゼンが、それと恐らくファスティもこれから城に来るだろう。三の客間は使えるか」
「はい。今すぐにでも」
「では二竜が来たら案内してくれ。それと軽くつまめそうなものも頼む」
しかしヘイルと使用竜達の間で話はとんとんと進む。
「かしこまりました」
使用竜達が頭を下げると同時に窓はまた継ぎ目のない大きな水晶の板に戻り、アイリスはその光景に目を丸くする。
「では、行くぞ」
そう言って歩き出したヘイルに、窓に目を向けたままアイリスはこくりと頷き、
「え、あ、はい……え?」
ややあってから、はっとしたようにその横顔を見つめた。
「ブランゼンか」
ヘイルはそれを意にも介さず、すぐにしっかりと抱え直した。
「アイリスの事ならもう把握しているぞ」
『あっ良かっ……え?』
きょとんとした顔が見えるようなその声に、アイリスも目をぱちぱちとしばたたく。
「え、……ブランゼン、さん?」
この声はどこから、と竜の形のしなやかな首を回す。
『アイリス! 無事なのね!』
「は、はい」
『良かった……!』
ブランゼンの大きく息を吐く音が聞こえ、アイリスはなんだかもぞもぞと落ち着かない気分になる。
(……あれ? そもそも、この体勢……)
同時にふと、意識から外れていたこの状況に、アイリスの頭が回り始めた。
(えっあれっ、私、)
『ヘイル、私もそっちへ行くから』
そんなアイリスの横から、ブランゼンの声がまた届く。
「分かった。では──」
ヘイルはちらりと下を見やり、
「城へ降りていよう」
「えっ」
「そこから昇ったしな」
『城から? バルコニーからって事?』
ヘイルは戸惑うアイリスの背をさすり、ブランゼンの声を聞き流しながらゆっくりと降下していく。
「まあ、今はアイリスだ」
『……そうね。すぐ行くわ』
何かを察したらしい声音でブランゼンは返し、そこから声は聞こえなくなる。
逆に下から幾つかの声が聞こえ出す。
「ヘイル様ー?」
「今度は何を……」
使用竜と思しき数名が咲いたままの窓から顔を出し、ヘイル達に向けて声をかけた。
「ちょっとな。アイリスが……あぁ、彼女がアイリスなんだが」
窓から回廊へと降り立ち、ヘイルは抱えている竜へ目を向ける。
「え? あの噂に聞いた」
「人間の」
「飛行時の私達そっくりですねぇ」
使用竜達もアイリスを見、少し驚いたような、それでいてどこかマイペースな調子で口々に言った。
「今はそうだが……まあ、その話は後でだ」
「分かりましたー」
「あ、その」
何か言わなければ、とアイリスも彼らに向き直る。
「ブランゼンが、それと恐らくファスティもこれから城に来るだろう。三の客間は使えるか」
「はい。今すぐにでも」
「では二竜が来たら案内してくれ。それと軽くつまめそうなものも頼む」
しかしヘイルと使用竜達の間で話はとんとんと進む。
「かしこまりました」
使用竜達が頭を下げると同時に窓はまた継ぎ目のない大きな水晶の板に戻り、アイリスはその光景に目を丸くする。
「では、行くぞ」
そう言って歩き出したヘイルに、窓に目を向けたままアイリスはこくりと頷き、
「え、あ、はい……え?」
ややあってから、はっとしたようにその横顔を見つめた。
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