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第二章 竜の文化、人の文化

四十六話

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 アイリスの言葉に、異を唱える者はいなかった。逆に、

「そうだ! 昼飯! どうりで腹減ってると思った!」
「やっとか~。お腹空いた」
「先生の言う通り。お昼にしよう」
「あ、え、えと。私も……」

 ゾンプ、ケルウァズ、モア、ドゥンシーと、それぞれ教科書を片付け、自分の弁当をカバンから出していく。
 それを見て、アイリスはほっと、小さく息を吐いた。
 そこへ。

「皆さま、お待たせしました」

 美味しそうな匂いを纏わせるトレイを持ったファスティが、家から出てきた。

「ファスティ、丁度いいところに」
「ええ、頃合いを見ておりましたから。もうそろそろだと」

 ブランゼンが言えば、ファスティはゆっくりと頷く。

「ファスティさん、すみません。お昼の準備を任せっきりにしてしまって」

 今日は、アイリスは勉強をするのだから昼の支度はファスティがやると、事前に決めてあったのだ。ファスティはゆっくり静かに、アイリス達が言語の教科書を読み合わせている間に席を立ち、キッチンで昼の用意をしていた。
 アイリスの言葉に、ファスティは柔らかく微笑む。

「いえいえ。これもわたくしの仕事のうちですから。さあ、冷めないうちに、お召し上がり下さいませ」

 ファスティはトレイから、様々な料理をテーブルへ置いていく。
 味の違う大きなミートパイが三つ、これまた味の違う大きなキッシュが四つ、大人の拳二つ分ほどのパンが沢山。それにサラダが山盛りと、同じく山盛りの果物達。

「美味そう! それ、おれ達も食べていい?」
「ええ、勿論です」

 ファスティの返答に、ゾンプは喜びの声を上げた。
 対して、アイリスは。

(……うん。それなりに、見慣れてきたわ。……たぶん)

 この、目の前の量に、未だに少し圧倒される。けれど、これでも全員分の昼食にするには、この量は少なめな方だと、アイリスもだんだんと分かってきた。これは、アイリスに合わせてくれているのだ。
 アイリスは、この沢山の食べ物の量についても独自に仮説を立てている。この、人間と竜の食事量の違いは、魔力量の違いに繋がるのではないかと。
 竜は大量に魔力を保持し、消費する。それを潤滑に回すために──あるいは補うために──大量の食事、もといエネルギーが必要になっているのではないか、と。

(憶測に、過ぎないけれど。……あっ)

 アイリスが思考を巡らせている間に、料理は全て並べられたようだった。

「す、すみません! ぼうっとしてて、なんのお手伝いも……!」
「いいのよ、そんなの気にしなくて」

 ブランゼンが笑って、軽く手を振りながら言う。

「さあ、食べましょう……と、言いたいところだけど」

 そしてその顔が、呆れに変わり、一つ所へ向けられた。

「ヘイル」
「…………ん?」

 あの話の後、また椅子に戻ったヘイルは、今度は竜の医術書と古い人間の記録とを見比べていた。

「……、……ああ、昼か」

 顔を上げ、目に入った景色を──テーブルに並べられた料理や弁当や、それぞれ椅子に座るゾンプ達を見て、ややあってから、ヘイルは呟くように言った。

「ああ、じゃなくて。みんな、あなた待ちよ?」
「そうか。すまん」

 ヘイルは本を閉じ、横のテーブルに元のように並べ、席を立つ。
そして開いている席──それはちょうど、アイリスとゾンプの間だった──に座った。

「皆すまない。待たせたようだな」


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