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第三章 生誕祭

十話

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 プツェンは茶目っ気たっぷりに言って、舌まで出し、てへっと笑った。

「魔力感知の上手いお前だ、ここに着く前から気付いてたんだろ? で、素知らぬ顔をして俺達にカマかけでもしてやろうと、そんな考えだったんだろう?」

 ソファの背に凭れたヘイルは呆れ顔で腕を組み、浅く溜め息を落とす。

「さすが我が弟。そこまでお見通しってワケね」

 プツェンはうんうんと頷き、ヘイルへまた顔を向けた。

「で、いつそれが分かったの? ヘイルとアイリスさん──人間の魔力が同質って事は、今までの常識がひっくり返るわよ?」
「結構前だ。アイリスがみやこに来て、数日の間だな」
「あら、そんなに前から」
(……え、……えっ?)

 どうしてそんなに、するすると話が進むのか。自分とヘイルの魔力の話は、避けるべきものじゃなかったか。
 アイリスの中にまた疑問が増える。
 と。

「アイリスさん。私はね、人間にそれほど抵抗がないの。だから、そんなに心配しなくて大丈夫よ?」
「えっ、は、……はい……。……え?」

 プツェンがこちらを向き、ニコッと笑みを向ける。今度はその笑みに、裏は感じられなかった。

「……アイリス、こいつはな、昔、俺達と一緒に祖父から、……人間の話を聞いていたんだ。だから都のおさ達の中でも、話が分かる方なんだ」

 ヘイルは苦い顔をしながら、そう説明してくれる。

「そ、そうなん、ですか……」
「ああ、だから、俺とアイリスの魔力の関係がバレても、そんなに問題にはならない。安心していい」

 眉間を揉みながら、ヘイルは言う。

「あら、失礼しちゃう。私だって人間に興味があるの、あなたも知ってるでしょ?」
「……まあ……」
「まあって何よ、まあって」

 プツェンは頬を膨らませ、けれどすぐに、優しい顔になってアイリスに向き直る。

「アイリスさん、こんな弟だけど、よろしくね」
「えっ、は、はい……こちらこそ……?」
「それと、私も人間の話を聞きたいわ。良いかしら?」
「あ、それは、はい。私で良ければ」
「アイリス、流されるなよ。こいつは自分の興味関心でどんどん動く。相手を丸め込めるのも上手い」
「ちょっと、酷くない? 私はただ話を聞きたいって言っただけなのに」
「……」

 また頬を膨らませるプツェンに、ヘイルは姿勢を正し、向き直り、

「──で、本当の目的は何だ? プツェン」

 と、低い声で問うた。

「……もー。相変わらずキツイ目をするわねぇ」

 プツェンは紅茶を一口飲み、ふぅ、と息を吐いてから、

「お忍びで羽を伸ばしに来たのも本当。アイリスさんに会いに来たのも本当よ。……で、ヘイル。あなたの懸念するところは……あるっちゃあるけど、ないっちゃない。そんなところかしら」

 プツェンは小首を傾げ、口には笑みを佩き、その瞳を細めて。

「生誕祭について、何か連絡は受け取ってる?」

 と、今度はそんな事を聞いてきた。

「生誕祭? ……いや? 特に何も聞いていないが……。……何か、あるのか」

 ヘイルがその切れ長の目を眇め、一段低い声で問う。

「んー、それがね、風の噂、よりは正確なところから聞いた話だけど」

 プツェンはそんなふうに前置いて、

「アイリスさんを生誕祭のいわいの席に呼ぶ話が、出てるらしいの」
「……はあ?」

 ヘイルは眉間にシワを寄せ、

「は、……え、どうして……?」

 ブランゼンは顔を驚きに染める。

「……それ、出どころは言えないって事?」

 シャオンの声も低い。

「ええ、出どころは言えない。だって今はまだ、これはあくまで〈噂〉だから。けど」

 プツェンは口元に、右手の人差し指を立てて。

「ここだけの話。マーガントが動いているって、聞いたわ」
「……あいつか……」

 ヘイルは眉間にシワを寄せたまま、また腕を組む。

「何を企んでる? あいつは」
「さあ? ただ」

 プツェンは真面目な顔になり、

「人間嫌いのあの竜が、生誕祭という特別な祭典にわざわざ人間を呼ぼうとするなんて、何があるか気になるでしょう?」

 声を落としてそう言った。

「……」

 室内に、静寂が満ちる。

「…………、……ぁ、のぉ…………」

 そこに、とても小さな声が、とてもとても控えめに、響いた。

「……すみません、その……」

 おずおずと訊ねたアイリスに、周りの視線が集まる。

「生誕祭って、どのような祭典なんでしょうか……?」


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