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86.後遺症
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「ヴァレン!」
怒気を滲ませたミゼアスの声が響く。
「うっわ、ミゼアス兄さんが怒ったー。逃げろー」
緊張感のないヴァレンの声と共に、ばたばたと足音が遠ざかっていった。
「まったく……あの子はいつまでも見習い時代のようだよ……」
ぶつぶつと言いながら、ミゼアスは隣の部屋に向かう。そして盆を持って帰ってきた。
盆には野菜や干し肉が挟まれたパンがいくつか乗っていた。水差しも一緒だ。
「あの子は気が利くんだか、利かないんだか、わからないよ……」
ため息をもらしながらミゼアスは盆を寝台横の卓に置く。
「はは……ヴァレン、だっけ? 賑やかな子だよね。ふざけているようだけれど、何か色々手回ししてくれたみたいだし。ミゼアスのこと、よく知っているみたいだね」
ありがたくパンをもらいながら、アデルジェスは笑う。
「まあね。結構長い付き合いだし。あの子が見習いだった頃からだから……六、七年くらいかな。今いる白花の中じゃ、多分あの子との付き合いが一番長いと思う」
ミゼアスもパンを手に取りながら答える。
「あのさ……ミゼアスって、年齢いくつなの?」
「……きみとあまり変わらないくらいの年だよ」
ということは、十八か十九くらいだろうか。エアイールが売られてきたばかりの時点でミゼアスはすでに五花だったらしいが、ここでは十二歳くらいから客を取ると言っていた。
エアイールが現在十六歳だというから約五年前とすると、それなら当時は十三か十四くらいという計算になる。ありえない話ではないように思えた。
「ねえ……きみ、どうしてそんなに僕の年齢にこだわるの? 年増は嫌かい?」
「年増……って……いや、ただ見かけが若いから実際の年齢はどうかなってだけで……別に年齢で好きになったり嫌いになったりしないよ」
「そう? それならいいんだけれど……。前にちょっと言っただろう。昔の病気の後遺症があるって。この見かけもその一つ。成長が止まっちゃったみたいなんだよ。もう何年も身長も伸びていない。この先、突然成長が再開するのか、それともずっとこのままなのかはよくわからないけれど……」
「え……」
アデルジェスは目を見開いてミゼアスを見つめる。
「僕はもしかしたら、ずっと大人になれない身体なのかもしれない。白花としては最高の利点なんだけれど……でも、僕はもうきみ以外の相手に抱かれたくない……」
俯きながら、ミゼアスはぽつりと呟く。
「ねえ、こんな成長しない化け物は嫌かい? 一夜を共にして遊ぶにはいいけれど、側に置いておきたいとは思えないかい?」
「そんな……!」
泣き笑いのような顔で見上げてくるミゼアスを、アデルジェスは衝動的に抱きしめた。
「俺はミゼアスがそのままだろうが、成長しようがどうでもいい。側にいてほしい。俺以外の奴に抱かれてほしくない」
思いを吐き出すと、ミゼアスが震えながらしがみついてきた。
怒気を滲ませたミゼアスの声が響く。
「うっわ、ミゼアス兄さんが怒ったー。逃げろー」
緊張感のないヴァレンの声と共に、ばたばたと足音が遠ざかっていった。
「まったく……あの子はいつまでも見習い時代のようだよ……」
ぶつぶつと言いながら、ミゼアスは隣の部屋に向かう。そして盆を持って帰ってきた。
盆には野菜や干し肉が挟まれたパンがいくつか乗っていた。水差しも一緒だ。
「あの子は気が利くんだか、利かないんだか、わからないよ……」
ため息をもらしながらミゼアスは盆を寝台横の卓に置く。
「はは……ヴァレン、だっけ? 賑やかな子だよね。ふざけているようだけれど、何か色々手回ししてくれたみたいだし。ミゼアスのこと、よく知っているみたいだね」
ありがたくパンをもらいながら、アデルジェスは笑う。
「まあね。結構長い付き合いだし。あの子が見習いだった頃からだから……六、七年くらいかな。今いる白花の中じゃ、多分あの子との付き合いが一番長いと思う」
ミゼアスもパンを手に取りながら答える。
「あのさ……ミゼアスって、年齢いくつなの?」
「……きみとあまり変わらないくらいの年だよ」
ということは、十八か十九くらいだろうか。エアイールが売られてきたばかりの時点でミゼアスはすでに五花だったらしいが、ここでは十二歳くらいから客を取ると言っていた。
エアイールが現在十六歳だというから約五年前とすると、それなら当時は十三か十四くらいという計算になる。ありえない話ではないように思えた。
「ねえ……きみ、どうしてそんなに僕の年齢にこだわるの? 年増は嫌かい?」
「年増……って……いや、ただ見かけが若いから実際の年齢はどうかなってだけで……別に年齢で好きになったり嫌いになったりしないよ」
「そう? それならいいんだけれど……。前にちょっと言っただろう。昔の病気の後遺症があるって。この見かけもその一つ。成長が止まっちゃったみたいなんだよ。もう何年も身長も伸びていない。この先、突然成長が再開するのか、それともずっとこのままなのかはよくわからないけれど……」
「え……」
アデルジェスは目を見開いてミゼアスを見つめる。
「僕はもしかしたら、ずっと大人になれない身体なのかもしれない。白花としては最高の利点なんだけれど……でも、僕はもうきみ以外の相手に抱かれたくない……」
俯きながら、ミゼアスはぽつりと呟く。
「ねえ、こんな成長しない化け物は嫌かい? 一夜を共にして遊ぶにはいいけれど、側に置いておきたいとは思えないかい?」
「そんな……!」
泣き笑いのような顔で見上げてくるミゼアスを、アデルジェスは衝動的に抱きしめた。
「俺はミゼアスがそのままだろうが、成長しようがどうでもいい。側にいてほしい。俺以外の奴に抱かれてほしくない」
思いを吐き出すと、ミゼアスが震えながらしがみついてきた。
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