98 / 138
98.国境の小競り合い
しおりを挟む
「お家騒動はともかく……ニドムレン男爵の野心とはどういうことでしょうか? 確か、ニドムレン男爵は援軍として駆けつけてくださったと思うのですが……」
アデルジェスも参加し、この島に来るきっかけとなったのが、国境付近での小競り合いだ。
伯爵子息が孤立してしまい、一時は危険に晒されたものの、すぐに援軍が駆けつけてきた。その援軍がニドムレン男爵だったのだ。
小競り合いにしては援軍の規模が大きかったこと、やけに素早く駆けつけてきたことは少々驚いた。しかしニドムレン男爵は勇猛だとか好戦的だという噂がある。
そのため、そういうものだろうとあまり気に留めなかった。
「この国は現在、平和だ。多少の小競り合いはあっても、大きな戦というものはない。国民にとっては良いことなのだが、そうは思わない輩もいてね。その代表格がニドムレン男爵なのだよ」
ウインシェルド侯爵はふう、と息を漏らした。
「ニドムレン男爵はその名が示すとおり、男爵だ。男爵というのは貴族の中では低い身分なのだが、彼にはもっと上に行きたいという野心があってね。だが、平常時では難しい。手っ取り早く昇進するには、やはり大きな戦だ。そこで功績をあげるのが一番だと考えたのだろう。彼は戦争を引き起こしたかったのだよ」
「え……」
アデルジェスは目を見開いてウインシェルド侯爵を見る。
援軍として助けに来てくれたと思っていたニドムレン男爵が、まさかそのようなことを考えているとは予想もしなかった。
「国境の小競り合いは、たいしたものではない。しかし、そこで伯爵子息という身分ある者が殺されればどうだろう。ニドムレン男爵とグリンモルド伯爵は友人同士でもあってね。『親友の息子の弔い合戦』とでも称して、事を大きくできるかもしれない。それがきっかけとなり、大戦争に発展する恐れもある。昔の百年戦争だって、きっかけは小競り合いだったというからね」
国境の小競り合いは、本気で領土の切り取りや相手方の殲滅を狙うようなものではない。互いの不満解消の意味合いもあり、小規模に終わらせるのが暗黙の了解となっている。
とはいっても、実際には死人だって出るし、決して安全なわけではない。戦場に違いはないのだ。
「……ご子息を殺そうとしたのは、ニドムレン男爵だったということですか?」
「そうだね。もっとも、彼にとってはきっかけにさえなれば誰でもよかったのだろうが。そのためにグリンモルド伯爵夫人をそそのかしたのだろう。グリンモルド伯爵夫人は自らの息子を跡継ぎに据えたい。二人の思惑が合致したのだよ」
「それで、ご子息を殺そうと……」
赤子を抱いて艶然と微笑んでいた夫人の姿が、アデルジェスの脳裏によみがえる。あの赤子を跡継ぎに据えたかったのか。
アデルジェスも参加し、この島に来るきっかけとなったのが、国境付近での小競り合いだ。
伯爵子息が孤立してしまい、一時は危険に晒されたものの、すぐに援軍が駆けつけてきた。その援軍がニドムレン男爵だったのだ。
小競り合いにしては援軍の規模が大きかったこと、やけに素早く駆けつけてきたことは少々驚いた。しかしニドムレン男爵は勇猛だとか好戦的だという噂がある。
そのため、そういうものだろうとあまり気に留めなかった。
「この国は現在、平和だ。多少の小競り合いはあっても、大きな戦というものはない。国民にとっては良いことなのだが、そうは思わない輩もいてね。その代表格がニドムレン男爵なのだよ」
ウインシェルド侯爵はふう、と息を漏らした。
「ニドムレン男爵はその名が示すとおり、男爵だ。男爵というのは貴族の中では低い身分なのだが、彼にはもっと上に行きたいという野心があってね。だが、平常時では難しい。手っ取り早く昇進するには、やはり大きな戦だ。そこで功績をあげるのが一番だと考えたのだろう。彼は戦争を引き起こしたかったのだよ」
「え……」
アデルジェスは目を見開いてウインシェルド侯爵を見る。
援軍として助けに来てくれたと思っていたニドムレン男爵が、まさかそのようなことを考えているとは予想もしなかった。
「国境の小競り合いは、たいしたものではない。しかし、そこで伯爵子息という身分ある者が殺されればどうだろう。ニドムレン男爵とグリンモルド伯爵は友人同士でもあってね。『親友の息子の弔い合戦』とでも称して、事を大きくできるかもしれない。それがきっかけとなり、大戦争に発展する恐れもある。昔の百年戦争だって、きっかけは小競り合いだったというからね」
国境の小競り合いは、本気で領土の切り取りや相手方の殲滅を狙うようなものではない。互いの不満解消の意味合いもあり、小規模に終わらせるのが暗黙の了解となっている。
とはいっても、実際には死人だって出るし、決して安全なわけではない。戦場に違いはないのだ。
「……ご子息を殺そうとしたのは、ニドムレン男爵だったということですか?」
「そうだね。もっとも、彼にとってはきっかけにさえなれば誰でもよかったのだろうが。そのためにグリンモルド伯爵夫人をそそのかしたのだろう。グリンモルド伯爵夫人は自らの息子を跡継ぎに据えたい。二人の思惑が合致したのだよ」
「それで、ご子息を殺そうと……」
赤子を抱いて艶然と微笑んでいた夫人の姿が、アデルジェスの脳裏によみがえる。あの赤子を跡継ぎに据えたかったのか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
145
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる