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・・『開幕』・・

・・マーリー・マトリン・・4・・3・・

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「・・アァ・・フゥ~・・やっと戻って来たな・・本当にありがとう、マーリー・・君がいなかったら、こんな実験は出来なかったよ・・お陰で自分の限界時間と限界時の状態が把握出来た・・改めて感謝するよ・・」

「・・どう致しまして、アドルさん・・好いタイミングで止める事が出来て、好かったです・・あと、お手伝いする事はありますか・・?・・」

「・・そうだね・・ちょっとシャワーを浴びて着替えて来るからその間、僕の書いた文章と記事に誤字・脱字が無いかチェックしてくれるかな・・?・・スペルチェッカーアプリを使っても好いよ・・それとも、一緒にシャワーを浴びようか・・?・・」

「・・あの・・すみません・・それはまだ・・」

「・・(笑)・分かったよ・・それじゃ、ちょっとの間頼むね・・?・・」

「・・分かりました、ごゆっくりどうぞ・・」

・・替わりの下着と着替えを見繕ってバスルームに入る・・給湯温度を丁度良いレベルに調節して、たっぷりと浴びる・・浴びながらまたストレッチとマッサージを自分に施す・・頭を洗い、髭を剃り上げて身体も丹念に洗う・・バスに浸かってしまうと眠ってしまいそうなので止めておく・・丁度好い頃合いで上がる・・髪の水分をタオルに吸い取らせながら戻ると、マーリーはまだ固定端末のモニター画面をスクロールさせていた・・。

「・・どうだい・・?・・スペルチェッカーは使わなかったの・・?・・」

「・・使いましたが反応がありませんでしたので、自分でも読もうと思って読んでいました・・でも物凄い分量なので、とてもじゃありませんが読み切れません・・本当にアドルさんは凄いです・・」

「・・いや、マーリー・・こんな事は異能の範疇であって、才能と呼べる程のものでもないよ・・でも、ありがとう・・」

・・そう言いながら私は、書き込んだ総ての記事と文章を選択してコピーし、会議室のタイムラインにペーストしてアップした・・。

(・・またこの分量だと、驚かせてしまうかな・・?・、)

「・・さあ、マーリー・・今日の仕事は終わったよ・・お疲れ様・・お互いに頑張ったね・・シャワーを浴びて、着替えておいで・・僕は一服しながら一杯呑っているから・・」

「・・分かりました・・では、お風呂を頂きます・・」

「・・よく温まるんだよ・・?・・」

「・・はい・・」

・・そう言ってマーリーは着替えを携えてバスルームに入った・・私はトレイにモルトのボトルとウィスキーグラス、プレミアムシガレットのボックスとライターと灰皿を乗せ、寒くないよう上下でもう一枚着込んだ上にコートを着て、トレイを持ってベランダに出る・・テラステーブルにトレイを置いてデッキチェアーに腰を降ろした・・どうしたものか・・この予感もおそらく当たる・・明日は彼女が来るだろう・・グラス3分の1にモルトを注いで一口含むとボックスから1本を取り出して咥え、点けた・・。

・・お気に入りのモルトだが、今日は苦い・・『・・迷いがある時はな、何を呑んでも旨くないのさ・・』・・あれは大学時代の先輩で、誰だったかな・・?・・プレミアムシガレットを喫い、蒸して燻らせながらモルトをもう一口含むが、今夜はあまり親和性が上がらないようだ・・まあ別に迷うような事でもない・・彼女が来たら、適切・適当に対応すれば好いだけの事だ・・7分間ほどで1本を喫い終り、1杯を呑み干して部屋に戻る・・着込んでいた物を脱いで片付けてから会議室『DSC24』のタイムラインを更新して観ると、先程にアップした記事に対してのコメントが8件に、ザック・オークマン艦長の『カオス・カスタリア』を同盟に参画させるか否かについての意見が7件寄せられていた・・記事についてのコメントではまた凄まじい分量でのアップに驚いたと言う事と、あまり無理はしないでよく休んで欲しいと言う事と、説明してくれれば記事は書くからもっと仕事を振って欲しいとの要望が寄せられている・・。

・・ザック・オークマン艦長の『カオス・カスタリア』については、7件とも私の提案を是として賛成する意見が寄せられている・・私は、驚かせてしまった事については申し訳無かったと謝罪した上で、何でも気が付いた事・思い付いた事があったら感想・提言・改善案・提案等内容の属性は問わないから自由に書き込んで欲しい・・その内容の必要性が高いと判断出来れば、その提案の発案者に実現に向けての作業を頼みます、と書き込んだ・・『カオス・カスタリア』に関してはもう少し意見を集約した上で判定します、との一文を書き添えてアップし、会議室から退室して閉じた・・。

・・今日はもう頭が働かないから、これ以上の書き込みはしない・・立ち上がってキッチンでコーヒーを点て、ミルクティーを淹れているとマーリー・マトリンがバスルームから出て来た・・しっかりと部屋着に着換えていて髪も乾かしている・・。

「・・やあ、早かったね・・しっかり温まったかい・・?・・」

「・・はい・・しっかりと温まりました・・お風呂、頂きました・・ありがとうございました・・」

「・・(笑)・そんなに畏まって丁寧に言わなくても好いよ、マーリー・・さあ、ミルクティーが仕上がったから、座って・・?・・」

「・・ありがとうございます・・1日に2杯も頂けるなんて、感動です・・」

・・2人でまた、ダイニングテーブルに対面で座る・・。

「・・君のストレス軽減の為に、ちょっぴりシナモンを入れたからね・・?・・」

・・そう言って、自分のコーヒーを一口含む・・。

「・・ありがとうございます・・頂きます・・」

・・そう言ってカップを両手で持ち上げ、湯気の温かさと香りを確かめてから一口飲むマーリー・・。

「・・美味しい・・癒されます・・感動です・・私は倖せを感じています・・」

「・・(笑)・ありがとう、マーリー・・しかし・・今夜はもう寝るだけなのに、しっかりした部屋着に着換えたんだね・・?・・」

・・そう言って、二口飲む・・。

「・・(笑)・寝る時には、また着換えます・・」

「・・そうなんだ・・(笑)・なあ、マーリー・・話して置きたい事がふたつある・・ひとつは、アリシアがハイスクールを卒業したら、今自宅にしている賃貸を引き払って本社の近くに物件を見付けて転居するよ・・だから、こうして逢えるのは後2年半って処だな・・もうひとつは、アンブローズ・ターリントン女史が明日ここに来るだろう・・何の根拠も無いけど、かなり強く感じているよ・・君が今日ここに来ると感じていたのと同じぐらいにね・・」

「・・そうですか・・転居の事は仕方ないと思います・・元々アドルさんは二重生活をされていて、住居費用を多く負担されていますから・・私やリサさんを避けようとする意図ではないのですよね・・?・・」

「・・それは無いね・・この程度で避けられるとも思ってないよ・・君達の一途な行動力を掣肘するなど、出来ないとも思っているからね・・ただもうひとつだけ言って置きたいのは・・『ディファイアント』が入港するのは午後11時になる・・私は退艦したら、出来るだけ早くここに帰って来て寝なきゃならない・・翌日は普通に仕事があるからね・・多分開幕までにはここにもアイソレーション・タンクベッドが搬入されるだろうとは思うけれども、それでも時間的にはギリギリだ・・だから・・退艦した私を出迎えには来なくて好い・・来たら、君を送って行かなきゃならなくなるから・・」

・・そう言って、また二口飲む・・。

「・・分かっています・・そんな押し掛け女房のような真似まではしませんから、安心して下さい・・でもリサさんは来ますよね・・?・・」

「・・彼女にも一応は言うよ・・でも彼女の行動は制御出来ないけどね・・何と言っても僕の専任秘書だから・・でも何か仕事を頼んで来させないように仕向けられるかも知れないね・・実際にどうなるのかは分からないけど・・」

「・・分かりました・・アンバーさんはどうします・・?・・」

「・・彼女は今僕のデスクを使っているから、同じフロアの仲間だ・・明日僕は昼飯を食ったらリサと一緒に出るから、彼女がフロアに来るのは午後からだろう・・何だか姑息な手を使うようで気が退けるんだけど、スコットやズライにも声を掛けて彼女の歓迎会までじゃないにしても、一緒に食事をしようって誘ってみて貰えるかな・・?・・彼女が何か理由を付けて断るようなら、無理強いはしなくて好いよ・・それで彼女が本当にここに来たら、僕の方で適切・適当に対応するから・・夕食会に誘ったけど断られた場合にだけ、僕にメッセージで報せてくれるかい・・?・・」

「・・分かりました・・やってみます・・」

・・そう応えながら、ゆっくりとミルクティーを飲むマーリー・・。

「・・非公式宣伝部長にそぐわない仕事を依頼してしまって悪いね・・?・・」

・・そう言ってコーヒーを飲み干す・・。

「・・大丈夫です・・アドルさんの為なら何でもやります・・」

「・・マーリーのその一途さは危険だよ・・リサもそうだけどね・・いつかもしかして君達を危険な事態に巻き込んでしまったら、俺は自分で自分を許せなくなるだろうな・・」

「・・大丈夫です・・そんな気配を少しでも感じたら私・・ハイラム・サングスター艦長やヤンセン・パネッティーヤ艦長と、ザンダー・パスクァール艦長やフィオナ・コアー保安部長にも、直ぐに連絡しますから・・」

「・・(笑)・こりゃ、一本取られたね・・そこまで考えてくれているなら、心配ないか・・?・・」

「・・ハイッ・・!・・」

・・そう笑顔で元気に応えるマーリー・マトリンが、可愛く・愛おしいと思う・・。

「・・じゃあ、マーリー・マトリン非公式宣伝部長に訊いて置こうかな・・?・・『ディファイアント』を含む我が共闘同盟の活躍を、SNSを駆使してどのように宣伝するのか・・?・・」

「・・アドルさんは、出来るだけ多くの参加者と一緒に出来る限り長く、このゲーム大会を楽しんで過ごそうとしています・・アドルさんの思考・姿勢・態度・言動は、『ディファイアント』としての行動に於いても、共闘同盟としての行動に於いても同じであって首尾一貫しています・・それは、例えば『ディファイアント』や共闘同盟に対して今は敵対的な思考・姿勢・態度・言動を採っている参加者に対しても同じなのです・・だからアドルさんは、出来る限り戦闘は避けると・・例え戦う事になっても回復不能な程の損傷は与えないと、仰っているのです・・以上の事を前提として踏まえた上で『ディファイアント』と共闘同盟の行動を分析し、SNS上にて解説します・・」

「・・マーリー・マトリン・・やはり、スポークスマンとしての君は最高だ・・君を選んだのは、間違いじゃなかった・・今はまだ無理だけど、資金に余裕が出来たら君を会社から引き抜いて、共闘同盟の専属宣伝部長に招聘するよ・・」

「・・ありがとうございます・(笑)・将来の楽しみとして、期待させて頂きます・・(笑)・・」

「・・うん・・楽しみにして置いてよ・・ああ、ちょっと今からスコットに通話を繋ぐから、君は声を出さないでいてくれ・・好いね・・?・・」

「・・はい、分かりました・・」

・・私は携帯端末を取り出すとスコット・グラハムをコールし、繋がるとスピーカーに切り換えてテーブルの上に置いた・・。

「・・やあ、スコット・・こんな遅い時間にすまないな・・今は話しても大丈夫かな・・?・・」

「・・先輩・・?・・ああ、どうも、今晩は・・珍しいですね・・この時間に先輩が掛けて来るのは・・勿論、大丈夫ですよ・・どうしました・・?・・」

「・・ちょっと気になる事があってさ・・お前に訊けば分かるかと思ったんだよ・・共闘同盟が完成して以降に、ブックメイカーでのメイキングベットに変化はあるかい・・?・・」

「・・先輩はブックメイクしないんじゃないんですか・・?・・」

「・・しないよ・・でもメイキングベットの傾向に変化があるのなら・・それを以て今後に起こる事象の、予想・予測も不可能じゃないんじゃないかな・・?・・」

「・・そうですね・・分かりました・・詳細はブックメイカーのメインサイトを観て貰った方が早いんですけれども、共闘同盟が完成してから同盟に参画している各艦にベットが集中している傾向が確かに観られますね・・」

「・・やはり、そうか・・他に特定の軽巡宙艦に対して、ベットが集中しているような現象は観られるのかな・・?・・」

「・・う~ん・・あまり細かく観ている訳じゃないのではっきりとは判りませんが、7.8隻はいるようですね・・それがどうかしたんですか・・?・・」

「・・おそらくその7.8隻の艦長達が、SNSの艦長グループの中で同盟に敵対して対抗しようと、気勢を挙げているメンバーなんだろうと思うよ・・」

「・・へえ・そうなんですか・・そんな処からも判るもんなんですかね・・?・・」

「・・まあ、10中8.9に近い処だろうけどな・・処で、艦長が自分の艦にベット出来るのか・・?・・」

「・・出来ますよ・・ブックメイカーは公営ギャンブルじゃないですからね・・」

「・・そうか、分かった・・ありがとう・・夜遅くに通話を繋いで済まなかったね・・」

「・・どう致しまして・・何時でも何でも訊いて下さい・・僕に判る事なら、何でもお応えしますよ・・」

「・・ありがとうな・・頼りにしてるよ・・」

「・・明日は出社されるんですよね・・?・・」

「・・ああ、行くよ・・午前中は仕事して、昼飯を食ったらリサさんと一緒に出るから、また後は頼むな・・総合共同記者会見だから、見せ場はあまり無いだろうけどな・・」

「・・それでも、フロアのメンバーと一緒に観ていますよ・・頑張って下さいね・・?・・」

「・・ありがとう・・まあ、俺なりにやるよ・・それじゃ、お休みな・・?・・」

「・・お休みなさい・・好い夢を・・」

「・・ああ、それじゃ・・」

・・通話は、スコットの方で切れた・・携帯端末の電源を切って充電ジャックにセットする・・。

「・・スコットにも幸せになって欲しいな・・」

「・・エドナさんもアドルさんの事が好きですよね・・?・・」

「・・ああ・・そう言ってるね・・」

「・・アドルさん、モテ過ぎですよ・・」

「・・それを俺に言われても困る・・俺にはどうする事も出来ない・・」

「・・何とか上手くいって欲しいですけれどもね・・」

「・・ああ・・それじゃ、マーリー・・歯を磨いて俺達も寝よう・・明日も色々あるからさ・・明日の朝食は、君に頼んで好いかな・・?・・」

「・・分かりました・・任せて下さい・・」

「・・最後に一杯呑む・・?・・」

「・・頂きます・・」

・・立ち上がって先程ベランダで呑んだモルトのボトルと、ウィスキーグラスをふたつ持って来る・・ふたつともツーフィンガーでモルトを注ぎ、ひとつをマーリーの前に置いてもうひとつを右手で掲げると、彼女も右手で掲げた・・。

「・・より好い明日に・・」  「・・明日の私達に・・」  「・・乾杯・・」

・・彼女と左手を様々に握り合いながら四口で飲み干す・・彼女もそのくらいで飲み干した・・そのままマーリーの手を取って立ち、バスルームの前の洗面台で歯を磨く・・その後自室でパジャマに着換えた私が寝室に入ると、ライト・レッドパープルのサテンレース・ロングキャミソールに着換えた彼女が待っていた・・何も言わずに歩み寄って抱きすくめ、唇を重ね合う・・舌を絡めて吸い合い、彼女の耳や首を舐めながら体中に手を這わせる・・そのまま縺れ合うようにベッドに入り、厚手の毛布2枚に包まってお互いに上下を入れ替えながら身体全体で愛し合う・・私は彼女を2回絶頂に誘わせたが、彼女の手が私自身に触れる事は無かった・・私達は毛布にすっぽりと包まりながら抱き合い、お互いの心音を聴きながら眠りに落ちた・・。

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