家族から虐げられた令嬢は冷血伯爵に嫁がされる〜売り飛ばされた先で温かい家庭を築きます〜

香木陽灯

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平穏

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「クロイ様とは仲が良いのですね」

 パーティー会場から少し離れた部屋で、ナタリアとクロードはソファに座ってのんびりとしていた。

「一緒に仕事をすることが多くてな。グラミリアン家の調査に力を貸してもらったんだ」

(クロード様が心を許しているのだから、クロイ様は信頼出来る人なのでしょうね。ブローチを拒否したのは悪かったかも……)

「そうでしたか。もしかして、今日エマが来たのはお二人が……?」

「いや、あれは予想外だった。警備が甘かったようだ。まあ、皆に知らしめる良い機会になったのは幸いだった」

「グラミリアン家の評判は地に落ちてしまいましたね」

「あぁ。それに領地も金もなくなるから、かなり厳しい生活を強いられるだろうな。まあ爵位が剥奪されないだけマシだろう」

「そうですね」

(あの家がどうなろうと心配にならないのは薄情かしら? いいえ、私にはもう関係ないないことだわ。……あぁ、それにしても疲れたわ。座ると余計に疲労を実感する……)

 ナタリアはソファに座ったまま、気を失うように眠ってしまった。

 ナタリアが黙り込んでしまったのを不思議に思ったクロードは、ナタリアの顔を覗き込んだ。

「ナタリア? ……おやすみ」

 クロードはナタリアをそのまま寝かせると、パーティー会場へと戻っていった。




 数週間後、クロードは東の国との交渉の日を迎えた。

「まあ上手くやるさ。相手が小言を言う材料もなくなったから」

 ナタリアに言ったクロードは、宣言通りあっさりと交渉を成功させた。

 対応を間違えれば戦争になっていたという局面であったため、クロードに対する国王からの信頼は、一段と大きくなった。

「クロード様、お疲れ様でした。本当に交渉が上手いのですね」

「向こうの文化や習慣を知っていたから気に入られただけだよ。……ところで、ナタリアはいつになったら僕のことを呼び捨てで呼んでくれるんだい?」

「え?」

「僕達はもう夫婦だろ? いつまでも『クロード様』と呼ばれるのは距離を感じるのだが」

 クロードはいたずらを思いついたような子供のような顔をしていた。それは冷血伯爵としての顔ではなく、ナタリアの家族としての顔だった。

「でも……」

 クロードはためらうナタリアの両手をとり、優しく握りしめた。

「はい、呼んでみて」

 いざ呼ぼうと口を開くと、ナタリアは顔が熱くなるのを感じていた。

「ク、クロードっ」

(声がひっくり返った……もう、恥ずかしい)

 クロードは、ナタリアの様子を見て心底楽しそうに笑うのだった。
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