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引きこもり女伯爵(2)
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『私に伯爵の爵位は不相応です。返上させてください。民に迷惑がかかりますので、領地を隣と統合させて民をお守りください』
そう書いたはずなのに、返事として送られてきた手紙には、
『事情を考慮し領主には代理人を派遣する。また、爵位継承は非公表とする』
と記されていた。
加えて新伯爵の任命書が同封されていたため、もうどうする事も出来なかったのだ。
(仕事もしない、公表もしないなら、いないのと同じじゃない。国王はなぜこんな面倒な事を……)
国王の考えは全く分からなかったが、非公表にしてくれるのはありがたかった。
(要は結婚しなきゃいいのよ。そうすれば、私の代でフェンネル家は途絶える。誰かに迷惑をかけることもない。ひっそりと生きて、ひっそりと死のう。それで万事解決よ!)
そう考えたクリスティーナは領主代理に屋敷を譲り、領地の端にある小さな家を買った。
一人で生きていくつもりだったけれど、屋敷から三人の使用人がついて来てくれることになった。
「私のお仕事はフェンネル家の人間に仕えることですから」
「お嬢様! 私も連れて行ってください!」
「もう少しだけ見守らせてくださいね」
この三人だけは断っても頑として意志を曲げなかった。
「あ、あの、じゃあ……よろしく、お願いします……」
しどろもどろになりながら挨拶すると、三人が満足そうに微笑んでいた。
そうしてクリスティーナの自由でひっそりとしたご隠居伯爵人生が始まったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……そういう訳で、女伯爵である私の存在ごと非公表になっているのです。このままフェンネル家が途絶えるまで家名を出さず、社交界にも出ないつもりです」
「……」
クリスティーナの話を黙って聞いていたヘンリーの顔は、とてつもなく険しくなっていた。
何かを考え込んでいるヘンリーの沈黙が恐ろしくて、クリスティーナは慌てて付け足した。
「えっと、なので、お役に立てないかと思います……。あっ、婚約破棄されること自体は問題ないのですよ? ですが爵位継承が非公表なので今の私は貴族と言えないというか……お力になれれば良かったのですが、私の今の立場では難し」
「力になりたいと思ってくれたのですね?」
ヘンリーはクリスティーナの言葉を遮って立ち上がった。その目は希望に満ちていた。
その様子にクリスティーナは思わず口を滑らせた。
「も、勿論、私で良ければご協力はしたいと思うのですが……」
「ではご協力をお願いします」
「でも……」
「伯爵が結婚しなければフェンネル家は途絶える。そこが守られれば良いのでしょう?」
「そうですが……」
「爵位公表の件についてはお任せください。すぐに解決出来ますので。要は、伯爵が正式に社交界デビュー出来れば問題ないですよね?」
「あの」
「ご安心ください。必ず伯爵の存在を皆に認めさせますから!」
クリスティーナは、怒涛の勢いで言葉を紡ぐヘンリーに気圧されてしまった。
「……ハイ……ヨロシクオネガイシマス……」
そうして思ってもいない言葉が、口から勝手に出てきてしまったのだ。
(そんなつもりじゃなかったのに、なんでこんな事にっ……!?)
今まで人と接してこなかったツケが回ってきたのだろう。
クリスティーナは今日ほど口下手なことを後悔したことはなかった。
そう書いたはずなのに、返事として送られてきた手紙には、
『事情を考慮し領主には代理人を派遣する。また、爵位継承は非公表とする』
と記されていた。
加えて新伯爵の任命書が同封されていたため、もうどうする事も出来なかったのだ。
(仕事もしない、公表もしないなら、いないのと同じじゃない。国王はなぜこんな面倒な事を……)
国王の考えは全く分からなかったが、非公表にしてくれるのはありがたかった。
(要は結婚しなきゃいいのよ。そうすれば、私の代でフェンネル家は途絶える。誰かに迷惑をかけることもない。ひっそりと生きて、ひっそりと死のう。それで万事解決よ!)
そう考えたクリスティーナは領主代理に屋敷を譲り、領地の端にある小さな家を買った。
一人で生きていくつもりだったけれど、屋敷から三人の使用人がついて来てくれることになった。
「私のお仕事はフェンネル家の人間に仕えることですから」
「お嬢様! 私も連れて行ってください!」
「もう少しだけ見守らせてくださいね」
この三人だけは断っても頑として意志を曲げなかった。
「あ、あの、じゃあ……よろしく、お願いします……」
しどろもどろになりながら挨拶すると、三人が満足そうに微笑んでいた。
そうしてクリスティーナの自由でひっそりとしたご隠居伯爵人生が始まったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……そういう訳で、女伯爵である私の存在ごと非公表になっているのです。このままフェンネル家が途絶えるまで家名を出さず、社交界にも出ないつもりです」
「……」
クリスティーナの話を黙って聞いていたヘンリーの顔は、とてつもなく険しくなっていた。
何かを考え込んでいるヘンリーの沈黙が恐ろしくて、クリスティーナは慌てて付け足した。
「えっと、なので、お役に立てないかと思います……。あっ、婚約破棄されること自体は問題ないのですよ? ですが爵位継承が非公表なので今の私は貴族と言えないというか……お力になれれば良かったのですが、私の今の立場では難し」
「力になりたいと思ってくれたのですね?」
ヘンリーはクリスティーナの言葉を遮って立ち上がった。その目は希望に満ちていた。
その様子にクリスティーナは思わず口を滑らせた。
「も、勿論、私で良ければご協力はしたいと思うのですが……」
「ではご協力をお願いします」
「でも……」
「伯爵が結婚しなければフェンネル家は途絶える。そこが守られれば良いのでしょう?」
「そうですが……」
「爵位公表の件についてはお任せください。すぐに解決出来ますので。要は、伯爵が正式に社交界デビュー出来れば問題ないですよね?」
「あの」
「ご安心ください。必ず伯爵の存在を皆に認めさせますから!」
クリスティーナは、怒涛の勢いで言葉を紡ぐヘンリーに気圧されてしまった。
「……ハイ……ヨロシクオネガイシマス……」
そうして思ってもいない言葉が、口から勝手に出てきてしまったのだ。
(そんなつもりじゃなかったのに、なんでこんな事にっ……!?)
今まで人と接してこなかったツケが回ってきたのだろう。
クリスティーナは今日ほど口下手なことを後悔したことはなかった。
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