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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
484:煙人間
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「そいで……、何がどうなってんだこれ?」
後ろ手に縄で縛られながらも、いつも通りの余裕たっぷりなヘラヘラ顔でカービィが尋ねる。
「見ての通りさ、海賊に襲われちまった……。けっ! 舐めた真似してくれやがるぜ!!」
拘束されているとは思えないほど、とても横柄な態度で胡座をかきながら、船長ザサークは奴等を睨み付けた。
甲板を、我が物顔で歩く奇妙な生き物。
モヤモヤと、ゾワゾワと、揺らめく気体の塊。
おおよそ百人はいるであろう、白い煙のような体を持つ人間らしきそいつらは、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら、ゾロゾロとそこら中を歩き回っている。
その風貌からして、ザサークの言う通り、海賊で間違いないようだが……、身に付けている衣服や帽子、バンダナなどは、皆悉くボロボロだ。
いくら海賊にしても、それはあまりに貧相過ぎる身なりである。
まるで、何十年も同じ物しか着ていないような、そんな雰囲気なのだ。
しかしながら、体が煙なので、普通の海賊ではない事だけは確かだろう。
……まぁそもそも、普通の海賊ってのがどんなものなのか、俺には分かんないんだけどね。
奴等の目的は、この船の積み荷のようだ。
先程からずっと、甲板の床に空いている荷穴を使って、船内下層三階にある積み荷部屋から、積み荷を次々と引き上げているのだ。
商船の積み荷は、そのほとんどが趣向品と呼ばれる高価な物ばかりだ。
チーズにチョコに燻製肉、タバコにお香に……、中には石鹸まである。
果たして、奴等はそれらをどうする気なのか。
売るのか、それとも自分達で食べるなり使うなりするのか、知らないけど……
額に青筋を立てながら、ザサークがかなり殺気立っているので、こちらは気が気じゃない。
そんなザサークの隣にちょこんと……、いや、かなりビビりつつも座りながら、俺は辺りに視線を巡らせた。
おそらく、船に残っていた仲間は全員捕らえられてしまい、皆揃ってここにいるようだ。
腕っ節に自信がありそうなタイニック号の乗組員も、王立ギルドの魔導師であるはずの白薔薇の騎士団のみんなも、そして自らを世界最強と言っていたギンロまでもが、縄で縛り上げられてしまっている。
一応みんな、奇襲に対して応戦したみたいなのだが……、その数もさながら、相手が悪かったようだ。
無残にも、役に立たなかった剣や杖が、床のそこら中に転がっていた。
という事で、このような事態をまるで予期してなかった俺とカービィとノリリアは、のこのこと船に戻ってしまい、完全に不意打ちをくらった形となり……
結果、何も出来ないまま、早々に奴等の手にかかって縛り上げられてしまったのです、はい。
……くぅう~、痛いじゃないかっ!
親にも縛られた事ないのにっ!!
俺のフカフカの体には、きつ~く縄が食い込んでしまっていて、毛並みに型がついてしまいそうだ。
更には、無理矢理後ろに引っ張られたせいか、腕の付け根の関節がミシミシと地味に痛んで辛い。
そんな中、何故かグレコだけがここにはいない。
右を見ても左を見ても、見当たらないのだ。
グレコ……、いったい何処へ……?
「わっはっはっはっはっ! 思ったよりもたんまり積んでるなぁ~おいっ!?」
甲板に並べられた積荷を見て豪快に笑う、一際大きな体を持つ真っ白な煙人間。
頭に被っている帽子といい、身に付けているマントといい、たぶんこいつが奴らの親玉だろう。
まぁ、衣服は他と大差なく、可哀想なほどにズタズタのボロボロだけど。
「てめぇらっ! 俺様の積荷を漁るなんざいい度胸だっ!! 後で百倍にして返してやるっ!!!」
体を縛り付けている縄を今にも引き千切ってしまいそうなほどの迫力と剣幕で、ザサークが吠える。
閉じていても大きな口が、威嚇の為か目一杯開かれているので、それが恐ろしいのなんのってもう……、怖すぎぃっ!
だがしかし、そんなザサークよりも更に恐ろしい存在がいて……
「あぁん? おめぇ……、誰に向かって口きいてんだ??」
煙人間の親玉が、完全にキレた目でギロリとザサークを睨み付け、ゆっくりとこちらへ歩いて来るではないか。
ひっ!? ひぃいぃぃっ!!?
こっち来ないでぇえっ!!!
命の危機を感じてしまうかのようなその視線に、睨まれたわけでもないのに俺は、プルプルと体を小刻みに震わせた。
ゆっくりと、ユラユラと漂うように、ザサークの目の前まで歩いてきた煙人間の親玉は、自分を睨み付けているザサークの顔を覗き込んで、こう言った。
「何処ぞの海賊上がりのガキンチョが、俺に喧嘩を売るたぁ~、見上げた根性だな」
煙人間の親玉は、気味の悪い笑みを浮かべ、両の目をギョロギョロと不自然に左右に動かしながら、その白い手をザサークへと伸ばした。
そして……
「もがっ!? 何すっ!?? ゴハァアッ!!??」
煙人間の親玉の白い手が、文字通り煙のように、もくもくと大きく空中で広がって、ザサークの頭をすっぽりと覆うように握り潰してしまったではないか。
ザサークは苦しそうな声を上げながら、縛られて身動きが出来ない体を懸命に左右に揺らす。
しかし、煙から逃れる事は出来ない。
「おっ!? 親父ぃいっ!!?」
離れた場所で縛られているライラが、一番に声を上げた。
その目には既に、大粒の涙が溜まっている。
「船長っ!?」
「やめろぉおっ!!」
「船長を放せぇえっ!!!」
次々と声を上げるタイニック号の船員達。
けれども、煙人間の親玉は手を緩めない。
そうこうしている内に、ザサークの体の動きが鈍くなってきて……
「わははははっ! 見せしめだっ!! こいつはこのまま殺っちまおうっ!!!」
……え? やっちまう??
「いいぞ! やれやれぇっ!!」
「ぎゃはははははっ!!!」
「殺せぇっ! 息の根止めちまえぇっ!!」
いったい……、何が起きてるんだ?
まるで狂気だ。
完全に、こいつらは狂っている。
これが、本物の海賊なのか??
煙人間の親玉の殺戮行動に、それを囃し立てるがごとく、嬉々として声を上げる周りの煙人間達。
あまりのその異常さ、恐ろしさに、俺は頭がパニックになる。
やばい……、このままじゃ……
どうしよう? どうすればいいんだ??
本当に、ザサークが死ん……???
「モッモ、風の精霊を呼べ」
声が聞こえて、ハタと我にかえると、カービィが真っ直ぐ俺を見つめていた。
「こいつらの体は煙。つまり、剣も魔法も効かねぇ。けど……、体が煙なら……。風を起こせば、吹き飛ばせるかも知れねぇ」
俺がパニックに陥っているのを知ってか知らずか、 カービィはいつもよりゆっくりと、静かにそう言った。
吹き、飛ばす……? 風で??
な、なるほど……
それなら、なんとかなりそうだな……、うん!
「リィーーー、シェエェェーーー!!!」
俺は、思いっ切り息を吸い込んで、空に向かって、あらん限りの声で叫んだ。
その声はきっと、震えていたに違いない。
だって……、こんなに近くで、誰かが……、仲間が、殺されてしまうかも知れないなんて……、そんな恐怖を俺は、これまで感じた事がなかった。
だからだろうか、目の前にスッと現れたリーシェは、いつもよりずっと表情が引き締まっていて、それでいていつもより随分と大人に見えた。
『我が主を悲しませる者は、何者であろうとも許さない』
リーシェは、いつもよりずっと落ち着いた低い声でそう言うと、ピンク色の半透明な体を、その場でぐるぐると回転させ始めた。
すると、そこに大きな竜巻が発生し、煙人間達はその引力にどんどんと吸い寄せられていくではないか。
「ぐあぁっ!? なんだっ!!?」
「ぎゃあぁぁっ!? 吸い込まれるぅっ!!?」
「助けてぇえぇぇ!!!」
驚き慌てふためく煙人間達とその親玉。
その拍子に、ザサークの頭は煙から解放されて、白目を向いた状態のザサークの顔が露わとなる。
もはや意識を失っているらしいザサークは、そのまま床へと倒れ込んだ。
「ザ!? ザサーク船長!?? しっかりして!!!」
思わず叫ぶ俺。
その間にも、煙人間達は次々と、断末魔の叫び声を上げながら、リーシェの作り出した竜巻の渦の中へと飲み込まれていき……
『地の果てまで飛んでいきなさいっ! そぉお~~~れぇっ!!』
リーシェが大きく腕を振り上げると、竜巻に吸い込まれた煙人間達は散り散りとなって、悲鳴を上げながら空の彼方へと飛ばされていった。
後ろ手に縄で縛られながらも、いつも通りの余裕たっぷりなヘラヘラ顔でカービィが尋ねる。
「見ての通りさ、海賊に襲われちまった……。けっ! 舐めた真似してくれやがるぜ!!」
拘束されているとは思えないほど、とても横柄な態度で胡座をかきながら、船長ザサークは奴等を睨み付けた。
甲板を、我が物顔で歩く奇妙な生き物。
モヤモヤと、ゾワゾワと、揺らめく気体の塊。
おおよそ百人はいるであろう、白い煙のような体を持つ人間らしきそいつらは、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら、ゾロゾロとそこら中を歩き回っている。
その風貌からして、ザサークの言う通り、海賊で間違いないようだが……、身に付けている衣服や帽子、バンダナなどは、皆悉くボロボロだ。
いくら海賊にしても、それはあまりに貧相過ぎる身なりである。
まるで、何十年も同じ物しか着ていないような、そんな雰囲気なのだ。
しかしながら、体が煙なので、普通の海賊ではない事だけは確かだろう。
……まぁそもそも、普通の海賊ってのがどんなものなのか、俺には分かんないんだけどね。
奴等の目的は、この船の積み荷のようだ。
先程からずっと、甲板の床に空いている荷穴を使って、船内下層三階にある積み荷部屋から、積み荷を次々と引き上げているのだ。
商船の積み荷は、そのほとんどが趣向品と呼ばれる高価な物ばかりだ。
チーズにチョコに燻製肉、タバコにお香に……、中には石鹸まである。
果たして、奴等はそれらをどうする気なのか。
売るのか、それとも自分達で食べるなり使うなりするのか、知らないけど……
額に青筋を立てながら、ザサークがかなり殺気立っているので、こちらは気が気じゃない。
そんなザサークの隣にちょこんと……、いや、かなりビビりつつも座りながら、俺は辺りに視線を巡らせた。
おそらく、船に残っていた仲間は全員捕らえられてしまい、皆揃ってここにいるようだ。
腕っ節に自信がありそうなタイニック号の乗組員も、王立ギルドの魔導師であるはずの白薔薇の騎士団のみんなも、そして自らを世界最強と言っていたギンロまでもが、縄で縛り上げられてしまっている。
一応みんな、奇襲に対して応戦したみたいなのだが……、その数もさながら、相手が悪かったようだ。
無残にも、役に立たなかった剣や杖が、床のそこら中に転がっていた。
という事で、このような事態をまるで予期してなかった俺とカービィとノリリアは、のこのこと船に戻ってしまい、完全に不意打ちをくらった形となり……
結果、何も出来ないまま、早々に奴等の手にかかって縛り上げられてしまったのです、はい。
……くぅう~、痛いじゃないかっ!
親にも縛られた事ないのにっ!!
俺のフカフカの体には、きつ~く縄が食い込んでしまっていて、毛並みに型がついてしまいそうだ。
更には、無理矢理後ろに引っ張られたせいか、腕の付け根の関節がミシミシと地味に痛んで辛い。
そんな中、何故かグレコだけがここにはいない。
右を見ても左を見ても、見当たらないのだ。
グレコ……、いったい何処へ……?
「わっはっはっはっはっ! 思ったよりもたんまり積んでるなぁ~おいっ!?」
甲板に並べられた積荷を見て豪快に笑う、一際大きな体を持つ真っ白な煙人間。
頭に被っている帽子といい、身に付けているマントといい、たぶんこいつが奴らの親玉だろう。
まぁ、衣服は他と大差なく、可哀想なほどにズタズタのボロボロだけど。
「てめぇらっ! 俺様の積荷を漁るなんざいい度胸だっ!! 後で百倍にして返してやるっ!!!」
体を縛り付けている縄を今にも引き千切ってしまいそうなほどの迫力と剣幕で、ザサークが吠える。
閉じていても大きな口が、威嚇の為か目一杯開かれているので、それが恐ろしいのなんのってもう……、怖すぎぃっ!
だがしかし、そんなザサークよりも更に恐ろしい存在がいて……
「あぁん? おめぇ……、誰に向かって口きいてんだ??」
煙人間の親玉が、完全にキレた目でギロリとザサークを睨み付け、ゆっくりとこちらへ歩いて来るではないか。
ひっ!? ひぃいぃぃっ!!?
こっち来ないでぇえっ!!!
命の危機を感じてしまうかのようなその視線に、睨まれたわけでもないのに俺は、プルプルと体を小刻みに震わせた。
ゆっくりと、ユラユラと漂うように、ザサークの目の前まで歩いてきた煙人間の親玉は、自分を睨み付けているザサークの顔を覗き込んで、こう言った。
「何処ぞの海賊上がりのガキンチョが、俺に喧嘩を売るたぁ~、見上げた根性だな」
煙人間の親玉は、気味の悪い笑みを浮かべ、両の目をギョロギョロと不自然に左右に動かしながら、その白い手をザサークへと伸ばした。
そして……
「もがっ!? 何すっ!?? ゴハァアッ!!??」
煙人間の親玉の白い手が、文字通り煙のように、もくもくと大きく空中で広がって、ザサークの頭をすっぽりと覆うように握り潰してしまったではないか。
ザサークは苦しそうな声を上げながら、縛られて身動きが出来ない体を懸命に左右に揺らす。
しかし、煙から逃れる事は出来ない。
「おっ!? 親父ぃいっ!!?」
離れた場所で縛られているライラが、一番に声を上げた。
その目には既に、大粒の涙が溜まっている。
「船長っ!?」
「やめろぉおっ!!」
「船長を放せぇえっ!!!」
次々と声を上げるタイニック号の船員達。
けれども、煙人間の親玉は手を緩めない。
そうこうしている内に、ザサークの体の動きが鈍くなってきて……
「わははははっ! 見せしめだっ!! こいつはこのまま殺っちまおうっ!!!」
……え? やっちまう??
「いいぞ! やれやれぇっ!!」
「ぎゃはははははっ!!!」
「殺せぇっ! 息の根止めちまえぇっ!!」
いったい……、何が起きてるんだ?
まるで狂気だ。
完全に、こいつらは狂っている。
これが、本物の海賊なのか??
煙人間の親玉の殺戮行動に、それを囃し立てるがごとく、嬉々として声を上げる周りの煙人間達。
あまりのその異常さ、恐ろしさに、俺は頭がパニックになる。
やばい……、このままじゃ……
どうしよう? どうすればいいんだ??
本当に、ザサークが死ん……???
「モッモ、風の精霊を呼べ」
声が聞こえて、ハタと我にかえると、カービィが真っ直ぐ俺を見つめていた。
「こいつらの体は煙。つまり、剣も魔法も効かねぇ。けど……、体が煙なら……。風を起こせば、吹き飛ばせるかも知れねぇ」
俺がパニックに陥っているのを知ってか知らずか、 カービィはいつもよりゆっくりと、静かにそう言った。
吹き、飛ばす……? 風で??
な、なるほど……
それなら、なんとかなりそうだな……、うん!
「リィーーー、シェエェェーーー!!!」
俺は、思いっ切り息を吸い込んで、空に向かって、あらん限りの声で叫んだ。
その声はきっと、震えていたに違いない。
だって……、こんなに近くで、誰かが……、仲間が、殺されてしまうかも知れないなんて……、そんな恐怖を俺は、これまで感じた事がなかった。
だからだろうか、目の前にスッと現れたリーシェは、いつもよりずっと表情が引き締まっていて、それでいていつもより随分と大人に見えた。
『我が主を悲しませる者は、何者であろうとも許さない』
リーシェは、いつもよりずっと落ち着いた低い声でそう言うと、ピンク色の半透明な体を、その場でぐるぐると回転させ始めた。
すると、そこに大きな竜巻が発生し、煙人間達はその引力にどんどんと吸い寄せられていくではないか。
「ぐあぁっ!? なんだっ!!?」
「ぎゃあぁぁっ!? 吸い込まれるぅっ!!?」
「助けてぇえぇぇ!!!」
驚き慌てふためく煙人間達とその親玉。
その拍子に、ザサークの頭は煙から解放されて、白目を向いた状態のザサークの顔が露わとなる。
もはや意識を失っているらしいザサークは、そのまま床へと倒れ込んだ。
「ザ!? ザサーク船長!?? しっかりして!!!」
思わず叫ぶ俺。
その間にも、煙人間達は次々と、断末魔の叫び声を上げながら、リーシェの作り出した竜巻の渦の中へと飲み込まれていき……
『地の果てまで飛んでいきなさいっ! そぉお~~~れぇっ!!』
リーシェが大きく腕を振り上げると、竜巻に吸い込まれた煙人間達は散り散りとなって、悲鳴を上げながら空の彼方へと飛ばされていった。
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