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本編1 『幼少期』

第4話 あれから3年。修行と偽物の洗礼式

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苺花が異世界に転生し、『ストロベリー・ディ・シュタイザー』として第二の人生を送ることになって、早3年。

侯爵家の長女として産まれたが、早々に捨てられ、別邸で生活する事になった。
本邸の裏にある林を抜けた先にある、旧侯爵邸。

鬱蒼と木が生い茂る中にポツンと建っている屋敷は長年放置され、ボロボロの汚屋敷。
家具等もそのまま放置されており、寝具もギシギシのカビ臭い煎餅布団だった。

自我の無い赤子だったら何も分からなかっただろうが、ストロベリーは転生者。産まれた時から自我があったので、環境に状況に愕然とした。

まぁ、屋根のある所で寝られるだけ良かった。だから渋々その状況を受け入れた。

普通なら現状にショックを受けて発狂しそうだが、キュリオス様から遣わされた『小兎神族のウル』がストロベリーのサポートとして傍に居てくれる事になったので、そこまで悲嘆する事もなく、現実を受け止め楽しく過ごそうと心に決めた。

そして、0歳からウルのサポートを受けながら勉強と魔法の訓練をし、ある程度成果が出てきた。
なので3歳になった今、今度は体術と剣術の鍛錬をするべく別邸の裏にある森の中の拓けた場所までやって来た。

綺麗なミルキーピンクヘアーは、長いと鍛錬の邪魔になるので、ボブマリンヘアーにしている。
ウルは『勿体ない!ロングヘアーのほうが可愛いのに』と文句を言っていたが、無視だ。短いほうが楽なのだ。

今より成長して、ロングヘアーにしたかったら伸ばせば良いじゃない。
シャンプーが無い世界だから、髪の毛がギシギシになるのよね。3歳にロングヘアーのお手入れは無理。
だから、マリンカットにしている。超ラク。グッジョブボブヘアー。


《じゃあ早速、体術と剣術の鍛錬を始めるよぉ。先ずは体力をつけないとだから、走り込みと素振りね。
身体強化を使わず、己の体力のみでランニングだよぉ。スピードを緩めず、一定の速さで1時間ね
そのあと、少し休憩してから素振り50回ねぇ。》


「どひゃー!ランニング1時間!?3歳児に過酷すぎじゃない!?スピードはどのくらいでも良いのよね?」


《そそ。まぁ、3歳児にスピードなんて出せないからさ、ヨチヨチとゆっくり走って大丈夫!レディーゴー!》


「まぁ、確かにね」と納得してから走り始めた。最初の10分くらいは余裕だった。
平坦な場所じゃないけど。小石がゴロゴロしているし、木の根が地面から出てて全く平坦な道じゃないけど!
軽々と超えながら走った。余裕で、ドヤ顔しながら。

だけど、10分過ぎた辺りから徐々に辛くなってきた。足が上がらない!
ヒーコら言いながら、小石に躓き、木の根に足を取られてすっ転びながらも走った。
若干涙目で「負けるかぁ!」と気合いで走り続けた。

そして1時間、ボロボロになりながらも走りきった!地面に寝転がり、大の字になって青空を見上げた。


「はぁ、はぁ、ふぅ…。キツかったぁ!でも清々しい気分!……空は、異世界も日本も変わらないんだね……」


青空を見上げて、青春の1ページみたいな事をしていたら、黒い塊が光を遮って空中に現れた。


「ギギャー、ギギャー」実に不快な鳴き声。やめて、気分が急降下する。


「うわぁ……。私の目覚まし時計君だ。怪鳥め!お前は朝だけでいいよ!」


清々しい気分が台無し!!と、鳥を睨みつけてから立ち上がり、空間収納からレモン水を取り出しグイッと飲んだ。


《ギャオコンドルねぇ。煩いよねぇアレ。
攻撃してくるわけでもなく、討伐しても使える素材無いし、食べても美味くないし、ギャーギャー鳴いてるだけとかぁ。本当に迷惑ぅ》


以前、「唐揚げが食べたい!」と思い至って、朝からギャーギャー煩いし、鳥だから捌いて唐揚げにしてやろうと、魔法の練習がてら1羽討伐したのだ。

そしてウルの助言の元、解体して、私の収納に入ってた醤油とニンニクで味付けし、(大地の神様からの贈り物らしい)片栗粉をまぶして油で揚げ、『怪鳥の唐揚げ』を作った。

匂いと見た目は良かった。そして、久々の唐揚げ!期待に胸を膨らませ、「いざ実食!」と口に入れて、グミュッと噛みちぎった。

そう。『ちぎった』のだ。
私の知る唐揚げの食感は、衣がサクッと肉汁ジュワッとし、ジューシーな柔いお肉と、甘い肉汁!口の中がパラダイス!になるのが当たり前だった。

だけど……『怪鳥の唐揚げ』は、弾力があり硬く、ジュワッと溢れる肉汁は「臭い!!」だった。
匂いに釣られて《ボクも食べる!》とウルも欠片を口に入れたのだが、あまりの不味さに失神した。

あれは焦った。不味さで死んだかと思った。

無駄にデカい怪鳥。「たくさん揚げとけば何時でも食べれる!」と意気揚々と揚げた。味付けした肉全部だ。

しかし、一つ。一口食べて吐き出した。不味すぎて食べれなかった。完全に失敗である。調味料の無駄使い。
涙目で「クソっ、クソっ」と文句を言いながら、大量に揚げた山盛りの肉を地面に穴を空けた中に放り込み、
八つ当たりするように、風魔法で切り刻み、火魔法で炭にした。

そんな私の天敵、『ギャオコンドル』が太陽光をバックに「ギギャー、ギギャー」と鳴き叫んでいる。
本当に不快。あの声とあの姿を見ると『怪鳥の唐揚げ』を作って食べた時を思い出す。

硬い臭い唐揚げ……貴方も食べてみますか?


「ウル~。煩いし邪魔だから、精神魔法掛けてババアの部屋の近くで永遠に鳴いてもらおうと思うの。どう?愛娘からの贈り物。最高でしょ?うふふ」


《あはっ!最高だねぇ。でも、ベリーちゃんママも、パパも、兄も、今侯爵邸にいないと思うよぉ。》


「ん?そうなの?別に興味無いからどうでも良いけど……。あ、あれか!偽侯爵令嬢の3歳の洗礼式!」


《そうそう。『偽ストロベリーちゃん』ねぇ。血の繋がりが無いのに、夫人の素質を受け継いだかのような、我儘、傲慢、尊大なお嬢様の3歳の洗礼式。
朝からキラキラのドレスアップして、家族で出掛けて行ったよぉ。よくあの巨漢が入るドレスがあったよねぇ。特注かなぁ?ママんもあの娘もはち切れんばかりのダイナマイトボディだからさぁ》


「我儘、傲慢、尊大……ヤバイね。たしか、ゲームではヒロイン枠の子だよね?聖女の素質を持ったゆるふわ系女子だったっけ?欠片も素質無さそう。
巨漢が収まるドレス……そりゃ特注でしょうよ……贅沢し過ぎて内蔵ヤバそう……絶対に痛風になるよ」


《乙女ゲームではヒロイン枠なんだけどぉ。ココは現実世界だから、あの子は聖女にはならないよぉ。
あのまま成長したら、たぶん『悪役令嬢』になるんじゃない?王子様の婚約者を狙ってるんだっけ?狙われた王子様可哀想……》


本来ヒロイン枠なのに、環境が悪すぎて悪役令嬢になっちゃうのかぁ。狙われてる王子様、マジでご愁傷様……



そうそう。乙女ゲームで思い出した。何故、別邸に捨てられた『ストロベリー』が5歳の時に父に遭遇して実娘だとわかったのか?だが……

別邸の傍に生えてる木の根元に座り、本を読んでた所に侯爵がたまたま散歩に来て遭遇し、『ストロベリー』の容姿を見て直ぐに『実娘』だとわかったのだ。

ミルキーピンクの髪にパープルゴールドの眼、くっきり二重の大きな眼に、小さい鼻、プルプルの唇。
女神の如き容姿は、侯爵の曾祖母と瓜二つだったのだ。だから、直ぐに『実娘』だと分かったということだ。

それと、『偽ストロベリー』が『キャロル』だと分かるのは、3歳の洗礼式でなのだ、
そう。まさに今日である。洗礼式で神の祝福を受け、鑑定の儀でステータスが見られるようになって、偽物だと判明するのだ。

それでも……偽物だと判明しても、侯爵はキャロルを娘として受け入れる。
「なぜか?」だって……侯爵家の天使だから。
しかも、聖属性持ちだし、後の聖女だとわかっているから。だから、放り出すことをせず受け入れるのだ。

それが乙女ゲームでのヒロイン、『キャロル・シュタイザー』の経歴と、『実娘ストロベリー』発見の秘話なのだ。

さて、現実世界の『キャロル・シュタイザー』はどうなるのだろうか?ゲームと同じような展開になるのかな?


「今日の洗礼式……どうなるのかしら?うふふ。楽しみね」


《楽しそうだねベリーちゃん。ま、結果は後でボクが教えてあげるからさ、今は鍛錬の時間だよ!時間は有限!
5歳から冒険者登録出来るから、それまでひたすら鍛えるよ!次は素振り100回、ふぁいとー!》


「えぇぇ!さっきは50回って言ってたのにぃ~!鬼~!悪魔~!変態兎~!」


《あっははは~。頑張ってぇ!それとボクは変態兎じゃないからね!》


「ごっめ~ん!あははは!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

森の中で日光を浴びながら、幼女とチビ兎が和気あいあいと修行をしている頃、
シュタイザー侯爵一家を乗せた馬車は、娘の3歳の洗礼式の為、王都にある大聖堂へと向かっていた。

本来、3歳の洗礼式といえば一大イベントだ。みな気合い十分に、親も子もソワソワと落ち着かず、
「我が子に是非、神々の祝福があらんことを」と必死に祈りながら大聖堂へと集うのだ。

『神は気まぐれ』といわれるが、新星キュリオスを統べる神々は気まぐれでは無い。きちんと素質を見抜いて祝福を授けるのだ

だから将来、世界に不和を齎すような素質の子は祝福を授からず、スキルだけが付与される。
そういう子は国に監視されながら生きて行かなきゃならないので、行きずらい事この上ない。

滅多にそんな子は現れないが、過去に2、3例あるから皆必死で神に祈る。
だから、シュタイザー侯爵も兄アルヴィンも、馬車にガタゴト揺られながらも必死に祈っている。

そんな中、ピアーズ侯爵夫人と『偽ストロベリー』は、我関せずと、ぺちゃくちゃお喋りに夢中である。


夫人 「ストロベリー、今日は第2王子様も来ているのよ。可愛いらしい貴方は見初められるかもしれないわ。
そうなったら婚約者になれるのよ。国で一番の幸せ者になれるわ。だから不遜な態度を取らないで、大人しくしてなさいね。きっと向こうから声を掛けてくるわ」


「おーじ様?えほんのキラキラのおーじ様?わたくしがひめ様になれるのね。ステキね」


夫人 「そうよ。その為に洗礼式に行くの。それと貴方は可愛いくて素敵なレディですもの、素晴らしい祝福を授かるわ。良かったわねストロベリー」


「しゅくふく……はい!おかあさま!ふふふ、たのしみ!それにしても、アルヴィンおにい様はステキね。
今日までお会いできなかったのが残念ですわ~。第2おーじ様がだめだったら、おにい様のおひめ様になるわ!良いでしょ?おかあさま」


ヴェルディ侯爵とアルヴィンは、目の前で喋る2人の会話に、頭が痛くなった。
確かにストロベリーと同じ歳の王子はいる。が、今日は洗礼式。「婚約者が~」とかいう話しになるような場面は無い。

【大聖堂に到着したら上位貴族は別室で待機し、下位貴族から順番に子供だけ呼ばれ、祈りの間で祝福を受ける。】
コレが所謂『祝福の儀』そして、

【全員で大広間に集まり、枢機卿の説法をききながら、名前を呼ばれたら前に進み、神像の前に置いてある『鑑定水晶』に手を当て、自分のスキルカードを手に入れる。】
コレが『鑑定の儀』と呼ばれる儀式。

この『祝福の儀』と『鑑定の儀』を行う間は、喋ってはならない、走ってはならない。を徹底しなければならない。

鑑定の儀を終え、大聖堂から出れば会話は許されるが、自分のスキルを明かすのも、相手のスキルを聞くのもタブーとされている。
そして、身分を明かして挨拶するのも禁止されている。

例えば、「侯爵家が長女ストロベリー・ディ・シュタイザーと申します」と、挨拶してはダメだということ。
もし挨拶する場合はファーストネームのみ明かしていいことになっている。

そんな決まり事があるので、大抵の人は儀式が終われば例え知り合いに会おうが会釈だけして帰途につく。

それでも、中には決まりを守れずスキルを自慢したり、身分を明かして無理やり相手に言わせたりと、好き勝手に振る舞う輩はいる。

直近だと3年前だ。アルヴィンの時に、同じ歳の第一王子にアピールするべく尊大な態度を取った令嬢がいた。
子も子なら親も親。令嬢と一緒になって周りを威嚇し威張り散らしていたのだ。

「神聖な儀式の決まり事も守れないのなら」と、国王から厳重な注意を受け、爵位降格の沙汰が下り、神罰として、与えられた祝福を消されたのだ。

そんな事になってしまったら大変なので、皆絶対に口を閉ざすのだ。同じ轍は踏まない。踏みたくないのだ。

だから、馬車の中ではしゃいでる妻と娘を見ながら、ヴェルディ侯爵とアルヴィンは、「何も問題を起こしてくれるな」と、道中ずっと手を組み祈っている。


大聖堂に着いた。(降りる前にもう一度注意しとこう)と、

侯爵 「ピアーズ、ストロベリー、いいか、もう一度言う。儀式の決まりは絶・対だ。帰途につくまで喋るなよ?わかったな」と、ダメ押しの注意をしてから馬車を降りた。

『偽ストロベリー』は感動していた。大聖堂の美しさに、広場の噴水や緑の絨毯、カラフルな花達に。
目に映る光景があまりにも綺麗で、思わず声を出しそうになってしまった。

「ッ!?……(あっぶない。しゃべっちゃダメってなのに、こえを出してはしり出しそうになってしまったわ。
はぁ……ステキね……まるで私のためにある場所ね……ココがほしいわ。……あら?この場所知ってる気がする……なぜかしら……
まぁいいわ。うちはお金もちだし買えるわよね?お父様に頼んでみようかしら……ひめになる私のためだもの……ぜったい手に入れるわ!)」


お前の為の場所じゃないし、買えるわけがない。自分勝手なその思考が怖い。これは我儘を超えている。

『偽ストロベリー』が周りの風景に感動し、危ない思考をしている間に、ヴェルディ侯爵と夫人、アルヴィンは、スタスタと大聖堂の中へ入って行った。

それに慌てた『偽ストロベリー』は走って後を追い、大聖堂の中で声を荒らげた。


「おとう様!おかあ様!おにい様!おいていくなんて酷いですわ!今日は私の日なのよ!ココは私、ひめの場所なのよ!みんな私のうしろを歩きなさい!!」


「「「!?!?」」」(何を言ってるんだこの娘は!!)


ヴェルディ達は、あまりの事に反応出来ず、目の前で捲し立てる娘を凝視していた。


「そこのへいみん!わたくしを早く部屋にあんないしなさい!グズでノロマね!うちは侯爵家なのよ!頭を下げてうやまいなさい!」


その場にいた案内人のシスターや、ブラザーは驚愕して、女の子とその一家に胡乱な視線を向けてから、急いで個室に案内した。その間も女の子はシスター達に悪態を吐いていた。

ヴェルディ侯爵が今日という日に最も恐れていた事が起こってしまった。まだ待機室にも入ってない状態でだ。

待機部屋に入り、「まだ儀式の前なので神も大目に見てくださるでしょう。この先は静かに厳かにお願いします。
それでは順番がくるまでこの部屋にてお待ち下さい。」
と、修道士に注意され、
「あぁぁ…本当に申し訳ない…」と謝罪し唸り、ソファに沈んだヴェルディ。

アルヴィンは悲壮感に漂う父の背中をゆっくり撫で、声を出さず慰めていた。
視線は、目の前にふてぶてしくしている自分の母親だという女と、妹だという女に固定したまま。

問題を起こした我が妹と我が母は、座ろうとしているが、肉の塊をドレスに無理やり押し込めたので、今にもはち切れそうだ。
そんなムッチムチな身体を屈め、上質なソファにやっと座ったが、ズンっと沈みこんだ。「ブチッ」

まるでコントのようだ。ピアーズと『偽ストロベリー』の肉を押さえつけていたコルセットの紐がちぎれたのだ。同時に背中部分も裂けた。
ピアーズは気付いているけど、微動だにせず何事もないように振舞った。

その辺は「流石プライド高いだけある!」と賞賛するが、この後どうするんだろうか。


「??」

(なんかブチッて聞こえたけど……なんだろ?それにしても、2人の座ってるソファ沈みすぎて座面が床につきそう……贅沢し過ぎな証拠の体型だな……
女性でコレはダメじゃないだろうか?酷い。醜い……
こんな子が妹とか、絶対に友達に会わせられないよ。恥ずかしすぎる。)

『偽ストロベリー』はこのあと祝福の儀式に向かい、ピアーズは鑑定の儀を受ける娘を見届けるため会場まで移動だ。
大丈夫なんだろうか?無事に全ての儀式を終えられるのだろうか?

裂けたドレスに焦ってるのはピアーズだけだ。ヴェルディは項垂れたままだし、アルヴィンも『偽ストロベリー』も状況を理解していない。

さてどうする?プライドの塊ピアーズ侯爵夫人。儀式の時間まであと少し。対策はあるのか……

コンコン
《ストロベリー様。神の祝福を受ける時間となりました。祈りの間までご移動お願い致します。
ご家族の方は、鑑定の儀をする会場までお越しいただき、儀式が終わるまで待機願います。
この部屋を出た瞬間から儀式は始まっています。喋らず静かにご移動下さい。それではストロベリーさんこちらへ》


「ふん!いつまで待たせるのよ。おかしもなければ飲み物も無いし、バカにしてるのかしら!さっさと終わらせなさいよ!わたくしは侯爵令嬢よ!おーじ様が私を待っているんだから早くしてちょうだい!」


そう尊大な態度で『偽ストロベリー』が言葉を発した瞬間、侯爵は耐えきれず頬をぶっ叩いた。「バチーン!!」


侯爵 「いい加減にしなさい!何様のつもりだお前は!
神聖な儀式をなんだと思ってる!菓子なんかあるわけないだろう!毎日バリボリ食べてるからそんな也してるんだろ!
肉でドレスが裂けてるじゃないか恥ずかしい!ストロベリーの洗礼は中止だ!
来いアルヴィン帰るぞ!こんな子が祝福を授かるわけがない!5歳で平民と一緒に儀式を受けさせる!
それまでは教育だ!5歳までにその性格と態度が治らなければ貴族籍から抜くからな!」


堪忍袋の緒が切れたヴェルディは、言うだけ言って、呼びに来てくれた修道士に儀式の中止を告げ、アルヴィンを抱え早歩きで大聖堂から出て行った。

ピアーズは夫のあまりの剣幕に震え、出て行ってしまったヴェルディを追い掛けるため、頬を抑えて泣いてる『偽ストロベリー』の手を引き急いで馬車へと向かった。

憤怒したままのヴェルディの向かいに座り、行きとは違って恐恐としながら帰途についた。

道中、『偽ストロベリー』はずっとボロボロと泣いていた。が、父親が怖くて、叩かれた頬が痛くて泣いてるわけじゃない。気分は悲劇のヒロインなのだ。


(お兄様、可愛い妹が泣いてるのよ、可哀想でしょ?抱き締めて慰めてくれてもいいのよ?
お兄様は私が大事でしょ?だってこんなに可愛いんですもの。ほら、余所見してないで早く慰めてちょうだい!
だって私はヒロインなのよ?お兄様は攻略対象なの。王子の前に貴方を先に攻略するわ!うふふふ)


と、気持ち悪い思考をしながら、金髪&碧眼の麗しいお兄様にチラチラ視線を送っていた、普通の3歳児の思考回路じゃない。
元々は幼児特有の我儘さと傲慢さだったのだが、大聖堂に着いて建物を見た瞬間からストロベリーの何かが変わった。

今までより更に傲慢に尊大になり、幼児特有の可愛らしさが也を潜めた。変化に気付いたのはピアーズだけ。
それは屋敷で常に一緒にいるから分かることで、ヴェルディもアルヴィンも普段関わらないから気づくことも無い。

『偽ストロベリー』の異様さに父と兄が気付くのは何時だろうか。5歳か、10歳か、15歳か……

そして、『偽ストロベリー』改め『キャロル』が心の中で呟いていたセリフ……ヒロイン、攻略対象……まさか彼女は……

さて、シュタイザー侯爵家は今後どうなっていくのか。それは誰にも今はまだ分からないのであった。
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