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第1章 アラスカ

08 帰国の予定と事故の聞き取り調査

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父さんと日和はその後3日ほど近くのホテルに滞在して毎日顔を見せてから日本に戻って行った。
そしてソフィーさんがさっき、これから担当医のドルフ先生の判断となんか上の方の判断か何かで事故の聞き取り調査が行われる事になったって教えてくれた。

「チュッ♡今日頑張ったら夜にでも気持ちイイご褒美をあげるからねっ♡」
「はーい♡」
俺は少しづつ動かせるようになった右腕を使ってソフィーさんの腰の辺りを少しだけ引き寄せてもう一回チューしてもらった。
「前言ったでしょ?私のキッスは特別だって。…まったく♡痛みはどうだった?まだしびれる様な感じとか残ってる?」
怒ってますよ?って顔でおでこにキスして俺の腕を優しく持ってベットに戻してくれた。
「シビレルような感じはあまりしなくなったかな。今日は特に痛みを感じてない気がする」
少しだけではあるが5本の指を自分の意志で曲げる事が出来る様になってきた。
「そうなの?今朝包帯を換えた時に見た限りでは化膿もしてないし縫い痕は完全につながっていた感じではあったけど…」
(回復が異常と言えるほどに早い…これはドルフ先生の言ってたことがもしかしたら本当って事なのかしら?)

「何々?最近シリアスなソフィーさんをけっこう見てる感じだけど何か気になる事でもあったの?」
「んーまぁ少し困ってる事があるの。でももう少し考えてから説明するわ。だから詮索しちゃだめよ?」
「おぉ~美女のお願いとか…ボク…頑張る!だからもう一回キス♡」
「まったく…ふふっ♡」
「いや、おでこにしてほしい訳ではなくってね?」
「言ったでしょ。私のキスは特別なんだって」
(こんなエッチな事しか考えてない様な高校生の男の子が…んー…こんなエッチな子に人生かけてもいいのかなぁ…困ったなぁ~♡)
ソフィーはなんとなく岐路に立たされていた。




時間はさかのぼり前日の夜(PM8:00)医務局のドルフ医師の個室
「ソフィー君は彼の…博之君の回復の速さをどう思う?」
前日から部屋に呼ばれていたのでセシリアと仕事の調整をしてから時間に合わせて部屋に来たらいきなりこう聞かれた。
「回復の速さですか?」
「そうだ。彼がここに運び込まれてからの患部のデーターと血液検査及びバイタルなどのデータがこれらだ。確認してみてくれ」
ドルフ医師はそう言ってクリップで止められた紙面を手渡してきた。

看護師に医師が見るデータを見せても普通であれば理解できないのだが、ソフィーは大学で免疫学の修士課程を取得してから看護師の道に入ったという経歴がある為、ドルフ医師の提示したデータを理解できた。

「意識が戻り始めた辺りから体内の雑菌の量が一気に減っているのと…体温の調節も…これは自律神経の復調が原因…確かに少しばかり順調に回復しすぎと言えるかもしれませんが、でも彼の年代であればそこまで異常と言えるほどとは思えませんが」
「私もこちらのデータを見るまではそう思っていたよ。これは私の知り合いの居る大学に彼の細胞を送って確認してもらったデータだ。率直な意見が欲しい」
そう言ってドルフ医師はタブレット端末を手渡してくれた。

端末には顕微鏡写真が幾つかとDNA解析結果らしき情報が閲覧できる状態で表示してあった。

「えっ?これって…」
「彼の腕と両足…両足というか下半身かな。その2ヶ所から彼の体組織とはDNA情報の違う細胞が複数…簡単に言いかえれば人じゃない生物の生体組織が複数生きた状態のまま存在している事が確認された。さらに詳しく確認しなければ何とも言えないが、もしかしたら、他の…あの事故の被害者の組織も存在しているかもしれない。これがどういう事かは君には分かるはずだ。普通であれば違うDNA情報を持つ細胞は同じ体には存在できない。異物として免疫システムに攻撃されて排除されてしまうからね。だからこれは画期的な事なんだよ。彼の体は他人の体の細胞を取り込んでそれをそのまま生かせる様な免疫システムを持っているという事だ。しかも体に害になる雑菌などは完全に除去する機能を持ったままで。彼の免疫システムを解析して再現できれば臓器移植をして免疫抑制剤の副作用に苦しんでいた人達の生存率を飛躍的に伸ばせるはずだ。もしかしたら副作用を完全に消すことも可能かもしれないという事だよ。それともう一つのPDFファイルも開いてくれ。こちらはもっとショッキングな内容だから心してみてくれ」
「もう一つ…」
ソフィーは開いてあったファイルを閉じてデスクトップ画面に存在しているPDFファイルをタップして開いた。
「…これは…間違いではないのですか?」
「一応私がデータを送った大学は幹細胞研究の権威が居る場所でね。そこの判断だよ、これは」
表示された資料には送られた細胞が博之のDNA情報を持つ細胞に入れ替わる様子が時系列に沿って写真データで提示されていた。
「本来であれば…と言うか、DNA情報というのは細胞を作る為の設計図であり…まぁここらの説明は君には必要ないな。そのデータが示す特徴を持った細胞の事を君は知っているよね?」
「…cancer cell」
「そう、がん細胞だ。でも彼の細胞は異常増殖を繰り返しているが、ある状態になると通常細胞の様に振舞い始める。これが何を意味するか君も知っているよね?」
「…stem cell」
「そうだ。君なら分かってくれると思っていたよ。そう幹細胞だ。世界中の人が望んで日本人が世界で初めて再現性のあるレシピを作り上げた細胞だ。それを我々で別のルートから大量に生成できるようになる可能性がそこにあるしかも免疫抑制効果まで手に入れられるという事の意味を考えれば…世界中のセレブがこの研究に関心を持つだろう。我々は死を克服出来る可能性を、今、手に入れたという事だ。…理解できているか?」
「はい」
ソフィーは何度も頷いた。
「君には彼が日本に戻る時に一緒に現地に行ってもらう予定だ。そして定期的に彼の細胞…出来るだけ多くの部位の細胞を手に入れてもらい、スキャンしてデータをこちらに送ってもらう事になるだろう。設備に関しては現地に支援者を用意するのでそちらで交渉してもらう事になるが、報酬とその後の待遇に関してはこちらの書類に詳しく書いてあるので、納得できるようであればサインをもらいたい」

ドルフ医師は説明を終えてソフィーに契約書を渡し部屋から退出する様に促した。




「国家運輸安全委員会から今回の航空機事故の調査の為に派遣されたアーサー・K・ミューアです」
「補佐のマイケル・H・ブロデリックです」
「桜井 博之です。どうもです」
チラっとソフィーさんとセシリアさんを見たらセシリアさんは顔の横に握り拳を作って『フンフン!』みたいなジェスチャーで…たぶん応援してくれてる気がする?
ソフィーさんは笑顔で一回頷いてくれた♡
「それでは博之君が事故に遭った時…最後に覚えている事を話してもらえますか」
補佐のマイケルさんが俺に聞いてきた。

そう言えば違和感が全く無かったからあまり気にしてなかったんだけど俺って今英語もその他の言語も日本語を聞く様に聞き取れているらしい。
なぜそんな状態になってるのかを担当医のドルフさんが頑張って調べてくれているらしいけど…
できればこの状態のままにしておいて欲しいと思うのはさすがに我が儘なのだろうか?

「博之君?」
「あぁ、はい。その…俺もそこまで詳しく覚えてる訳じゃないんで覚えてる事だけでいいですか?」
「大丈夫。我々はこの手の事件を専門的に調査する事が仕事だからある程度の断片的な情報からその時に何が起こったかを推測できるから安心して思い出せる事だけを話してほしい」
なんか惚れてしまいそうな笑顔なんだが♡

ってこいつは男だから俺が惚れるとかって意味不明な状態にはならない!ハズダ!!

「えーっとたしかぁ~♪最初機内放送があったんだ。そして…」
俺はあの体を強く押された衝撃までの覚えている事を田中と佐々木の尊厳を侵さない程度に黙秘しながら説明してみた。

「なるほど…こんな状態だったのか…博之君が感じた光って言うのは自分の真後ろの辺りから感じたのかな?それとももう少し後ろの辺りだった?」
「マイケルさん。申し訳ありませんがそろそろ良いでしょうか?」
「予定時間を既に過ぎていますので続きはまた時間を取ってお願いします」
俺が話をしている間俺の後ろで小さな声で話しをしていたドルフさんとソフィーさんが質問を繰り返そうとしていたマイケルさんを静止してくれた。

少しばかり思い出すのがしんどく感じ始めていたので正直助かった。
「ソフィーさんありがと」
「いいえ。本来であればもう少し前に止めなければならならなかったのです。こちらこそ申し訳ありません」
俺がソフィーさんと話をしている間にドルフさんがア-サーさんに話しかけて二人を引き連れて部屋から出て行った。
「実はセシリアが博之様の顔色を見てドルフ医師に申告してくれたの。彼女のおかげなのよ」
ソイーさんがそう言ってセシリアさんを見た。
「えっ?あー…まぁほら、私も専任看護師なんだから少しぐらいは仕事をしておかないと専任から外されちちゃうし?」
ちょっと恥ずかしそうに早口で言い訳するセシリアさんもなかなかに可愛いよねっ♡

「それで?今日のご褒美はいつもらえるの?」
俺がウキウキワクワク気分で二人に聞いたら恥ずかしそうに下を向くソフィーさんと意気消沈て感じに気分が下がってそうなセシリアさんが見れた。
「実は…今日はセシリアがちょっと…ね?」
「はい。実は実家で不幸があったらしくて、この後すぐにあっちに戻らなければならないの…ヒロリンのご褒美に参加できなくなっちゃった…ゴメンナサイ」
「あらそうなの?それじゃぁさすがに無理言えないか。こっちでもえ-っと…冠婚葬祭?そう言うのって大事にされてるんだよね?」
「そうね。宗教によっては色々違いがあるけど、お葬式に関しては親族なら出席はほぼ絶対ね。どんなに遠くに居ても連絡が届くなら参加出来る様に調整するのが普通よ」
「じゃぁまた次の機会を楽しみにしてるから気を付けて行ってきてね。セシリアさん」
「あぁ~~ん…私はおじいちゃんの葬式なんか行きたくないのよぉ~~ヒロリンのオチンチンをずっとここに入れていたいのぉ~~戻りたくないのよぉ!!」
泣きそうな顔でそんな事を言われたらどんな顔をしたらいいか分からない。

さすがにここで喜ぶのはまずいよね?人として…?

「ほら、さっさと行って早く戻ってらっしゃい。博之様はもう少し腕の状態が良くなるまでこっちに居るはずだからまだ何回かそんなチャンスがあるはずよ」
「ソフィーはそう言うけどさぁ~最近私だけ他所にお使いに出される事が多くてなんか…ひいきされてる感じなんだけど…」

そう言われてみれば…
「そう言えばここ数日…ソフィーさんとしかセックスしてない?」
「そういう事ははっきり言わなくてもいいの!」
ソフィーさんがまた真っ赤になった♡

セシリアさんが少しの間実家に戻りたくないって言いながら俺の下半身の辺りの布団に顔を潜り込ませていたが、ソフィーさんがなんとかセシリアさんを引っ張り出してそのまま出て行った。
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