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第1章 アラスカ

07 家族との再会…そして事故の話

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今日は朝からベッドを少し起こしてもらって室内が見渡せる状態にしてもらえた。
「なんとなく腕とか動かせるけどやっぱり少し痛い」
「それはしょうがないわ。本当ならあなたの腕って壊死しそうなギリギリな状態だったのよ。動かせるようになるだけでも神様に感謝しないと」

昨日初めてソフィーさんとエッチな関係になって色々教えてもらえたのだが、俺の体ってかなり厳しい状態だったみたい。
右腕は骨が露出した状態で海水に長時間浸かっていたらしく、雑菌だらけで病院に運ばれた時にすぐにでも切り落とすかどうかって話が出たらしい。
そして左腕は肩の辺りから何かに食われたみたいにポッキリいっていたらしく、皮が数センチぐらいの範囲でつながっていた程度だったらしい。
そして頭も右目から顎にかけて強い熱に晒された感じの火傷があったそうで、普通なら『なんでこいつ生きてるの?』って状態で運び込まれたらしい。


そして…俺の乗っていた飛行機は俺を除いて乗員乗客全員が絶望視されているらしい。

どうも墜落した辺りの海域がアラスカ湾の中でも少しばかり海流の複雑な場所で、アリューシャン列島近くのかなり深い場所だったらしく、海に浮かんでいた物は回収できているけど沈んだ物に関しては絶望視されているそうだ。
ちなみに事故の原因調査は未だ全く進んでないらしく、フライトレコーダーの回収と俺への聞き取り調査に期待がかかっているとかどうとか。

そしてセシリアさんとソフィーさんが、
「一応私たちと警備員のボブがバカなリポーターなんかをすべてシャットアウトするから安心してね♡」
って言いながら左右から同時にほっぺにキスしてくれた♡

…ボブ。どんな奴なんだろ?そのうち一回ぐらい挨拶とかしといた方が良いのかなぁ…

「さてと、こんなものかな?」
今日は昼頃に俺の家族がここに来るらしく朝からソフィーさんもセシリアさんも準備で忙しそうにしていた。
「ねぇソフィー、私のメイク変じゃない?」
「…あんたは仕事しなさいよ!何自分だけ見た目を取繕ってんのよ?!私もしたいのにあんたがそんなだから全部私が準備したのよ?!」
「でもでも!お母様に気に入られるかどうかで今後の生活に違いがあるのぐらいわかるでしょ!」
「あんたは何を狙ってるのよ!現実を見なさい!!」
「まぁまぁソフィーさんもセシリアさんも落ち着いて」
目の前で取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな感じがしたのでとりあえず止めておいた。
「でも…博之様も何か言ってやってくださいよ!この子昨日から自分の体をキレイにするためにエステに行ったりメイク用具を買いに行ったりしてたから私は全く自分の用意が出来なかったんだから!」
「ソフィーさんはそのままでも十分にキレイじゃないの?えっ?どこを磨くの?」
「えっ♡」「チッ…」
二人の顔の近くにハートマークと怒りマークが躍った気がした。
「まぁほら、今日会ったからって結婚するとかって話になる訳でもないんだからそこまで気にしなくても大丈夫ですよ。うちの両親は男女交際に関してはかなり大らかなんで」

「けっ…」「こん…」
「博之様。ちょっと失礼しますね♡」
「すぐに戻りますね~♡」
二人がお互いを見て頷いてそのまま出て行ったけど…?
そう言えば二人って何歳ぐらいなんだろ?こんな人の命を預かる仕事をしてるぐらいだからそこそこいい学校を出ていて言ってみればキャリアウーマンって事だよなぁ…俺と10歳ぐらい違ってたりするのかなぁ…?



博之が二人の年齢を26~27歳ぐらいかも?なんて考えている時、部屋を出たすぐのナースステーションの控室で熱い話し合いが行われていた。
「あんたもしかして博之様と結婚とか妙な願望を持ってないでしょうね?」
「私が誰と結婚しようとソフィーさんに関係あります?」
「別にあなたがどんなボブと結婚しようと気にならなけど博之様にコナかける気なら容赦しないわ」
「へ~ソフィーさん私と殺りあう気なのかしら?」
セリシアが少林寺拳法の下段構えをとり、すり足で距離を詰め始めた。
「事が博之様に関わるならあなたを排除するわ覚悟しなさい」
ソフィーが両腕を顔の前に持ち上げ軽く拳を握りステップを踏みながら乳を揺らし始めた。

「前からその無駄に大きな脂肪の塊が気に入らなかったのよ。今から千切ってゴミ箱に突っ込んでやるわ」
「その減らず口と緩い下の口にリッターサイズペットボトルをぶち込んでボブの部屋に放り込んでやる」

一触即発の空気が部屋に充満し始めた時、ナースステーションの呼び出し音が鳴った。

「…命拾いしたわね」
「チッ…それはこっちのセリフよ」
お互い仕事に関してはそれなりに真剣に向かい合ってきたという自負があった為、私的な事より仕事を優先する事が出来たらしい。
二人そろってカウンターに向かうと日本人らしき3人が何か紙を見ながら話しているのが見えた。

「おかぁさまぁおとうさまぁ~♡もしかして妹さんかしらぁ~ようこしそいらっしゃいませぇ~♡」
「あっ!」
少しばかりセシリアの方が反射神経が良かったらしい。




時は少しさかのぼり…


空港からツアー会社が用意してくれていたタクシーに乗って移動する家族3人の姿があった。
一人は30代ぐらいのおじさんで、中肉中背特別鍛えられている訳では無いが動きにキレがある人。
もう一人はこちらも30代ぐらいの日本人離れした風貌を持つ人で、小柄だけど出る所が出てるナイスバディーな女性。
最後の一人は10代前半ぐらいの見た目に幼いイメージの少女。

「なぁ母さん、俺は日本語しか話せないけど大丈夫か?英語で話しかけられたら『オーイエス!』ぐらいしか言えないからな」
「お父さんはちょっとの間黙っててね。日和ひよりは日常会話ぐらいは出来るのかしら?」
「母さんは日本の中学の英語に何期待してるの?私も『イエッスかもん?』ぐらいしか言えないわよ?『ヘイ!リンボー♪』」
日和と呼ばれた少女は目新しいスマホをいじり続けながら顔を上げずに受け答えしていた。
「日和、その動画は音を消して見なさいって言ったでしょ。って言うかいい加減それをいじるのはやめなさい。真面目に受け答えしないと解約するわよ」
「はーい…」
少しして日和がスマホの画面をスリープ状態にして顔を上げた。
「お兄ちゃんのおかげで私もスマホ持てたから一応感謝だねっ♪」
「それはあなたが何かトラブルに巻き込まれた場合に連絡が取れる様に渡したものなのよ。変な事に使っちゃだめよ?」
「任せて♡お兄ちゃんみたいに変な課金サイトに入って泣きながらお父さんに謝る様な事はしないわ」
「あの子も…どうしてあんな子にそだったのかしら…はぁ…まぁでも一応体に後遺症ぐらいは残るかもしれないけど普通の生活が送れる程度には回復するってお医者様も言ってくれてたから大丈夫とは思うんだけど…」
雪がそこらに少し積もっているのが見えるハイウェイを車窓から眺めながらため息を吐く母親の三月みつきだった。
「そう言えば母さんはまだ博之とは話は出来てないんだよな?」
黙っていろと言われた父親だったがさすがに黙ったままではいられなかったらしい。
「話も何もあの子まったく目を覚まさなかったんだから話なんて出来なかったわ」
「でも一応お兄ちゃんの目が覚めたって連絡はきたんだよね?」
「一応連絡はきたわ。だから急いでこうしてもう一回戻ってきたんだけど…アメリカの医療体制の融通の利かなさには困ったものよね。はぁ…」

今回博之の運び込まれた病院ではICUに入っている患者にはたとえ親族でも命に別状がない限り面会が許されなかった。
例のウィルス事情があったのも面会が許されなかった理由の一つではあるのだが、とりあえず近くのホテルに部屋が用意してもらえたので、博之の容態に何か急変があればすぐにでも部屋まで来れる様になったので少しだけ気持ちが楽になった三月だった。
現地にて被害者の親族の為に用意されたホテルの中でまんじりとも出来ずに待ち続けた2日間よりはその後の1週間はずっとましだった気がする。

そして一人だけ生還した生存者の親族が他の絶望視されている親族と一緒のホテルで生活するのが憚られたのもホテルを別に用意された理由の一つだったりする。

そのような理由から一度日本に戻って長期間の滞在準備をしてから再度こちらに来る事になり、三月は一度日本に戻ったのだが、今回の渡米はちょうど会社側からの指示があって休みがもらえた父親と、周囲の奇異の目から逃れる目的で自主休校していた妹も一緒に来る事になって少しばかり心細い感じが減っていた。

「ここの個室に移動したらしいわ。あの事故で博之だけが発見されたから一応情報が漏れて訴訟事にらない様に大事を取ってナースの人も最初に対応してくれた人がずっと専任で付いてくれてるみたいなの」
三月は勝手知ったる感じにロビーを通り過ぎ、説明しながら廊下を歩いて移動していた。
「お兄ちゃん…外人のナースさんにお世話されてるんだ…大丈夫かな?」
「大丈夫って何かだ?日和は何か気になる事があるのか?」
「お父さんあの涙の土下座謝罪の原因になったサイトの事、もう忘れたの?」
「…あぁ…そういう事か。あいつ制服を着た外人さんのサイトを見て回っててワンクリック詐欺にあったんだったなぁ…確かにまずいかもしれないなぁ…」
「あの子の制服フェチな所ってあなたの血筋なんじゃないの?」
「そういう母さんだって痴漢ごっことかずいぶんと楽しそうに相手してくれただろ?」
「もうっ♡そんな事を娘の前でいっちゃダメでしょ?ウフフッ♡」
日和が少しだけ二人から離れて歩きだした。

エレベーターに乗って12階に移動すると目の前にナーステーションがあり、用がある人が押す様に英語で案内が書いてあった。

日和がベルを押すと奥の方から二人の女性が出てきてとてもフレンドリーな感じに日本語で話しかけてきた。
「おかぁさまぁおとうさまぁ~♡もしかして妹さんかしらぁ~ようこしそいらっしゃいませぇ~♡」
「チッ…桜井様のご家族様ですね、お待ちしておりました。とりあえず医師の面談が午後一から予定されていますがご子息様とは今からお会いになりますか?」
「おぉーお父さん!なんか私外人のお姉さんの言ってる事が分かるよ!私バイリンガルになっちゃってるよ?!」
「待て日和!お父さんもこのナイスバディーのお姉さ…コホン看護師さんの言ってる事は分かったぞ!たぶん日本語をしゃべってくれてるからお前がバイリンガルな訳じゃないから!勘違いするなよ!でも国際的な事だぞこれは♪今からネイティブな英語に触れるとか日和は将来バイリンガルな美女になるかもしれんなぁ~♡」
「も~父さん気が早すぎィ~♡♡」
智樹ともきと日和は手を取り合ってとても嬉しそうな顔ではしゃぎ始めた。

「二人とも静かにしなさいってさっき言ったわよね?」
「「あっ…ハイ」」
三月の一声で我に返って静かになる二人。なんとなく家族内のヒエラルキーが垣間見れた気がする。
「オホホ♪失礼しました」

「いえ、大丈夫です。ソフィーさん、案内頼んでもいいですか?私は一応担当のドルフ医師に説明してきますので」
セシリアは父親と娘さんが話をしていた事が半分ぐらいしか分からなかったが、一応仕事を優先する気になったらしい。
「分かったわ。では…?」
「えぇ、息子の部屋まで案内をお願いします」
「ではこちらへどうぞ。まずは外部からの雑菌を持ち込まない為にエアシャワーを通ってもらって服を着替えてもらいます」
ソフィーが博之の家族を案内して行くのを見送ってセシリアは内線の電話を持ちどこかに連絡を取り始めた。
「セシリアです。今彼の家族が来ました。両親と妹です。…はい。一応ソフィーさんが…はい。何か体組織を確保するんですね。了解です。では」
「セシリアです。今…」



上着をロッカーに入れて不織布で作られた服を着させられ、ゴーグルとマスクを着用させられて部屋に案内された三月達。
部屋のドアを開けたら少しだけ空気が漏れてきた感じがして包帯だらけの博之がこっちを見てるのが分かった。

「博之…本当に目が覚めたのね…よかったわ…」
「あー母さん?まだちょっと目が見えづらくってね。何?泣いてるの?って言うか親父と日和も来たんだ」
「なんだ博之、お前なんか元気そうじゃないか。父さん心配したんだぞ?分かってるのか?」
「私は…一応心配してあげたよ?お兄ちゃん♪」

少しの間家族のほのぼのとした会話が続いた。


「とりあえずお医者さんと話をしてくるわ。日和はここに居てね」
「はーい♪」
三月と智樹が部屋を出て行って兄妹二人っきりになるとすぐに日和が自分のスマホを引っ張り出していじり始めた。

「なぁ、それってこのあいだ出たスマホだよな、なんで日和がそれ持ってるの?」
「いいでしょ~お兄ちゃんのおかげで買ってもらえたんだよ~♡ありがとね♪フンフフフフ~~ン♡」
「俺のおかげって意味わからんけど…まぁいっか。そう言えばあっちではどんな感じだったの?なんか言われた?」
「…なんかすっごいいっぱいテレビの人とかが付きまとってたみたい。学校から帰る時に何回か男の人に腕を引っ張られたの」
「お前そんな事されたのか?!マジで?!」
「お兄ちゃんの写真がけっこういい値段で売れたんだよ~♡ほらこっち見て♪」
日和が俺にスマホを向けてるが…
「俺の写真が売れたってどういう事?」
「ほら~犯罪者とか被害者の昔の写真がテレビとかで映ったりするじゃん」
「あぁ…たまに○○容疑者(45歳)って書いてあって高校生ぐらいの男子の写真が写る事があるけど…?えっ?俺の写真って被害者の写真として売れたって事なの??テレビの人とかに???」
「んーテレビだけじゃなくて雑誌とかもけっこうあったよ?」
「ちなみに…お前俺の写真でどれぐらい稼いだの?」
「…ウフッ♡いっぱい♡」
「なぁちょっとだけ俺にお礼とか無いのか?その写真って俺が生還したから売れたんじゃねぇの?」
「残念でした~お兄ちゃんが生還したのが分かったら写真の顔出せなくなったみたいで一切売れなくなったから、売れたのはお兄ちゃんが生きていたからじゃありませ~ん♡」

こいつマジで腹が立つんだが…

「って言うかこれからお兄ちゃん大変だよ。帰ったら」
少し傾斜が付いているマットレスの端っこ辺りに日和が椅子を移動させて背中を預けるようにしながらスマホをいじりつつ話を続ける。
「ん?帰ったら大変って??」
「だってお兄ちゃんの学校って同級生が全員死んじゃったんだよ?」
「…あぁそういう事か。俺って日本に戻ったら違う学校に通う事になるのか?」
「たぶんそうなると思う。って言うか私も一緒におばあちゃんの所にでも行く事になるんじゃないかな?」
日和は特に何も感じてないふりをしながらスマホをいじり続けている。
「…なんんかごめんな。俺のせいで転校とかさせる事になって」
「…別にいいよ。だって…まぁ…お兄ちゃん一応生きてたから…許してやるよ。っとちょっとトイレ行ってくる」
日和は俺に顔を全く見せずにそのまま部屋を出て行ってしまった。

はぁー…日和、泣かせちゃったなぁ…これじゃぁお兄ちゃん失格だなぁ……
そう言えば俺、あっちに戻ってももう田中も佐々木も居ないのか…困ったなぁ…


少しばかり帰国後の事が気になり始めた博之だった。
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