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第三章

魔眼もちの子ども

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【前書き】

大変お久しぶりになります。
本日の商業作品リリースに伴い更新を再開します。

なお、当作品は当面の間、毎週土曜日の12時に更新します。(ストックが10話以上あります)


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「最強と言われているドラゴンを、私とレイスだけで倒せちゃったなんてまだ信じられないんだけど……」

 俺はドラゴンの死体をマジックボックスに収納している。
 それをフィリムは見ながらそう呟いていた。

「フィリムがいてくれたからできたことだろ。俺一人じゃ多分死んでいたと思う」
「何言ってるのよ。本来ドラゴンなんて国の騎士団が集結して百人規模でやっと倒せるくらい強い相手なのよ。しかも、犠牲者も多く出てしまうんだし」
「だが、クレアなら一人で倒せるんじゃないか?」
「あの子は規格外よ。見るべき基準がそこに向いてるって時点でレイスも規格外になっているわね……」

 言っている意味があまり理解できない。
 クレアと共にしているのだし、俺はクレアの実力を見習いたいと思っている。

「さて、収納も済んだし村へ行くか」
「えぇ」

 ここからそう遠くない場所に村が見えている。
 ひとまずはそこに行って情報収集だ。
 俺たちの目的は魔眼持ちの人間を集めることなのだから。

「旅のお方、もしや先ほどのドラゴンはあなた方が?」

 村に到着して間もなく声をかけてきたのは、年齢は六十代くらいの老人だ。

「俺と公爵令嬢であるフィリムの二人で討伐しました」
「たった二人でドラゴンを……⁉︎ 一体どうやって倒されたのですじゃ?」
「俺たちは魔眼が使えますので」
「言われてみれば公爵令嬢のフィリム様と言えば……ではあなたの石化魔眼で……」
「よく知ってますね」

 フィリムは慣れたような口調で答える。

「い、いや別にワシは魔眼に偏見は持っていませんがな。ただ、村の若い者たちは魔眼の力を恐れているのですじゃ」
「ところであなたは?」
「おっとすまぬ。ワシはこの村で村長をさせてもらっている者ですじゃ。ともかくドラゴンを倒し村を救ってくれた方々に感謝したいのじゃ。たいしたおもてなしはできないかもしれないが……」
「いえ、俺たちは別にドラゴンを退治するために来たわけじゃなくて」
「ほう」

 村長に、ヨハネスが計画している魔眼プロジェクトの説明をした。
 さすが魔眼に偏見がないというだけあって、素直に黙って聞いてくれている。

「つまり、この村の魔眼持ちの子を王宮へ出迎えたいと?」
「そういうことです。もちろん無理強いはするつもりはありませんが」
「いや、むしろあの子は今まで可愛そうな思いをさせてしまったからの……。この村にいる魔眼の子は、ワシの孫なんじゃよ」
「だから偏見がなかったのね」
「別に孫が生まれる前からも特に偏見があったわけではありませんぞ。特別な力が宿っているだけで差別するのもどうかと思っておる。もちろん、魔眼を悪用している者がいたり、昔話で魔眼の大事故の記録などもあるから偏見を持つものを全否定することはできぬが……」

 魔眼の大事故というのは聞いたことがある。
 たしか、何百年も前の話で、魔眼の力が暴走して国自体が壊滅的な被害にあったとか。
 それ以来、魔眼に偏見を持つ文化が生まれたと聞いたことがある。

「魔眼の大事故なんて初めて聞いたわよ……」
「過去の古文書に書かれている程度だし無理もないじゃろう。だが、魔眼持ちで生まれるのは完全なるランダムじゃ。生まれてきた子に悪意などない」
「あなたみたいな人が大勢いてくれたら……」
「人間なんぞ、絶対数の多い意見に流される傾向がある。少数派の意見を持つワシや魔眼を持った孫には窮屈な世界じゃ。おっと、孫を紹介せねばな」

 今は窮屈で辛いかもしれない。
 だが、ヨハネスの願い、俺の願いで必ず魔眼に対しての偏見をなくして公平に過ごせる世界を作りたい。

「はじめまして……ジェンと言います」
「レイスだ」
「フィリムよ」

 まだ六歳かそのくらいだろう。
 その割には礼儀正しく、しっかりと頭を下げてきた。

「ジェンは魔眼を使ったことはあるのか?」
「いえ……、みんなから怖がられているから一度もないです」
「そうか。自分の力がどんなものなのかは理解しているのか?」
「なんとなく……ですけれども」

 魔眼の力は持っている自分自身でどのような力が働くかは本能で概ね理解はできる。
 俺の魔眼は空間干渉だが、なんとなく力を使ったらこうなる、というのは初めて使う前から予測ができていた。

「どんな力なんだい?」
「えぇと、何かを治したり?」
「ほう……」

 治癒か再生、もしくは時間逆行なんてこともありえそうだな。
 どれにしても、いきなり強力な魔眼使いと出会えたようだ。
 なんとなくだが、ジェンの魔眼の力自体もかなりのものを持っているような気がした。

「ジェンの希望次第なんだが、王宮に来てみるつもりはないか?」
「僕が……ですか?」
「あぁ、魔眼の力で国を救いたいと思っている」
「村のみんなからは不気味で恐ろしい力だから近寄るなって避けられていたんですよ……?」
「だが、俺たちでそういう偏見もなくそうと計画している。新しい国王陛下の望みでもあるんだ」
「へいか⁉︎ 僕も陛下の力に?」
「なれると思う。もちろん、魔眼を悪用しなければの話だけどな」

 一応、念を押しておく。
 特別な力なんて、その気になれば悪用は簡単なことだ。
 ジェンはそんなことはしないと思うが、王宮に仕える以上は善人であることが最低条件。
 ここでためらうようでは連れて行くわけにはいかない。

 だが、どちらにしてもヨハネスの心眼鑑定で善人か悪人かはわかってしまう。
 万が一にでもジェンが悪人だった場合、絶対的な心眼鑑定で悪と判断されてしまえば信頼も失い、今後の人生に大きく響いてしまうだろう。
 そうならないためにも、俺は悪人のようになってしまうが、サジを入れる必要があったのだ。

「僕は……僕自身のために国に仕えたいです。居場所がなかった……。でも、魔眼の偏見を変えてくれるっていう人たちがいるなら僕もそこで……」
「と、言っていますが、連れてってもよろしいですか?」
「もちろんじゃ。むしろ、村で居場所すらなかったジェンを救ってくれたようなもの。レイスさん、フィリム様、感謝いたしますぞ!」

 魔眼プロジェクトの第一歩、成功と言っていいだろう。
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