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5話 生死

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 私の体は熱さに耐えながら何故か暗闇を夢中でどこか探すわけでもなく歩いていた。それを制御できる訳もなく何も出来ない。ただ上から眺めているという状態だった。

「父上!」
「忙しいから後にしなさい」
「はい...」

 笑顔で近づくといつも通りの冷たい表情で突き放された。ただ私が描いた絵を見せに来ただけなのに...。最初の方はタイミングが悪かっただけかもと思っていたが物心ついてからずっとそうだ。使用人達から父上はとても偉い方なのですよと散々聞かされている。忙しいのも分かる。

 でも誕生日会だけは一緒にいて欲しかった。最初の挨拶を終えると目も合わす暇もなく早々と立ち去る。そのせいで一時期は私が父上から愛されていないのではないか、父上の子供では無いのではないのかとそんな憶測が飛び交った。根も葉もない噂だがこういう下品な噂が好きな社交界では広まっているようだ。すぐにいつの間にか無くなったが私は容姿が醜いせいかしらとか色々な事を考えた。だから構ってくれないのかも...。

 私には父上と母上しかいない。学園に行って自分の家族が異常だと知った。年少期の授業参観で家族を発表するものだった。当然ありのままを言えるはずはなく何とか嘘を言っていないが少し内容をもった当たり障りのないものにした。
 授業参観は母上は外国で外交をしていて父上だけが来ていた。

「どうでしたか?父上」
「あぁ」

 淡白な一言の言葉だけで授業参観中待たせていた馬車に乗り込む。その背中を見てやはり私は愛されていないのだと確信した。
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