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「どうした!?なんで、泣いてる?」
「……」

もう二度と家族のことで泣くことにはならないだろう、と思っていたのに。
不意打ちだった。
今でも、私の心の過半数はあの人たちが住んでいたのだ。
夢を見るのだ。あの人たちが今の私の姿を見て、謝ってくれることを、妹のようにうれしがってくれることを夢見ていたのに、その機会は永遠にやってこないことを知った。
あの時は、いったい何がショックだったのかわからなかったけど、私はずっと許してほしかったのだ。

「私に呪いをかけたのは、たぶん父と母なの」
「ん」

私の顔を複雑そうに見ているジェイフを見ながら、ふと思った。
妖精に家族はいるのかしら。

「父と母は、私を生んだのに結局愛してくれることはなかった。それどころかすっごく嫌っていたわ。どうしてかしら」
「それで?」
「私は、もう二度と会いたくないと思っていたけど、私の両親が死んだと聞いたとき、とてもショックだった。生きていれば別にいいと思っていたけど、会おうと思ったことはなかったから…でも、本当は謝ってほしかったのかもしれないって思って」
「なぜ?」
「…わからない。でも、やっぱり私許してほしかったのかもしれない。私が生きていてもいいって言ってほしかったのかもしれない。あれだけポッドに言われて、聖女様にも言われたけど、やっぱり父と母にも、私が生きていてもいいってうれしいって言ってほしかったなぁ…」

もう、二度と会えない。
謝ってもらうこともない。


「そういえば、妖精にも両親っているの?」
「いない。俺たちは正確に言えば生物ってわけじゃないからな。生殖活動もしないから、子もいない。動物のように子孫を残すということはないんだ。…そういう意味では愛を知らないと言えるな」
「そうだったのね。そういえば、ポッドからも聞いたことないわ」

ポッドも友人の話をしたことはあれど、家族の話は一度もしたことがない。
だとすれば、妖精はどうやって生まれてくるんだろう。
少しの間、ポッドといたけれど、私は結局妖精のことについて、ほとんど知らない。本にも書いていないから、勉強することも出来ない。
ジェイフは、妖精と人間が関わってはいけないと言っていたから、当たり前か。
今まで、妖精と友達になった人間って、どれくらいいるのかしら。
その人たちも妖精によって、人生が変わったのかしら。
…国を滅ぼされようとした人は、いるのかしら。教科書には、そんなこと書いてなかったけど、もしかしたら、ひっそりと滅ぼされた国もあるのかもしれない。これからどうなるのかしら。私が住んでいたあの国が消えたら、私たちの世界は、何を思うだろう。
神様について、私たちはどれほど知っているのだろう。教えられているのだろう。
漠然と、私たちに魔法の力を与えてくれる慈悲深い存在とだけ教えられているけど、私たちに刃を向けることはないと思っている存在が、実はそんなに私たちを愛しているわけではないと知ったとき、どうなるんだろう。
…どうにもならない。出来ないか。
今まで通り、神様の顔色を窺って、生きていくだけだ。
だって、何も出来ないのだから、知る必要もない。
だから、教えられないのかもしれない。
聖女様は知っているのかな。神様が、本当は人間のことに興味なんて持ってないって。

「でも、仲間意識はあるのよね?友達はいるもの」
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