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 邪気、聖なる力が心地の良い感覚になると例えれば、これはかなり気持ちの悪くなる感覚ね。

「聖女、ね」

「勝手に祭り上げておいて、勝手に幻滅して、ほんと異世界人って最悪よ」

「異世界人?貴女まさか!?」

 勇者、その言葉が脳裏によぎった。
 そしてそれが正しいことは目の前の彼女の特徴が、言葉が示している。
 何より彼女にはあるはずの家名がなかった。

「私の名前は金子麻里。こっちの世界ならマリ・カネコよ」

「何故ゴールドマリーなんて」

「リリノアールから逃げ切る為よ?あいつは一緒にこっちに転移させられた両親を殺し、妹を男達の慰み者にして薬漬けの実験体にした!」

 憎悪の力が余りにも強い。
 怨嗟の念なんて、本来なら大気にここまで作用なんてしない。
 それだけ彼女の憎悪が鋭いということだろう。

「それはお気の毒に。私もリリノアールに大切な友人を殺されたから気持ちはわかるわ」

「そうね。貴女は大切な友人を殺されたにも関わらずその仇に協力して無実の私を貶めようとしたものね」

 今ならばわかる。
 彼女は本当にリリノアールに嵌められて悪評を吹かれていたのだろう。

「協力はしていないわ。でも貴女のことを事実確認することもなく、軽蔑な目で見ていたのは事実。それを否定するつもりはないし、謝る気もないわ」

「そう」

 更に力が増幅した。
 彼女の目は、もしかすれば私が色々な人間に向けていたかも知れない目。
 でも私は縁に恵まれた。

「マリ。貴女は私が救う。それが私が貴女にした罪滅ぼし」

 彼女の闘いは時間稼ぎ。
 その点で言えばこうした舌戦も時間稼ぎの一つかも知れない。
 
「貴女に!貴女に何が出来るの!」

「貴女のその怨嗟の念を、少しでも緩めてあげる。それ、貴女も苦しいでしょう?」

「それはっ!」

 こんな憎悪の力を体内にため込んでいたら苦しいに決まってるわよね。

「黙れ黙れ黙れ!いいわ、そんなに私を怒らせたいんですね。だったら成功よ!邪なる聖翼」

 白い翼が剥がれ堕ち、黒い翼が彼女の後ろから生えてきた。
 これが彼女の本気。

「邪なる牙よ。顕現せよ黒き漆黒の邪剣グラム」

 これはとんでもない。
 彼女のどこからともなく出てきた大剣は見るだけで恐怖して失神しかねない力を放ってる。

「剣は得意じゃないの。アメイジングホエール」

 アメイジングホエールは、普通のホエールとは違って相手を包み込む雷の潮吹き。
 そして相手の魔力を全て雷の水に流す。

「さっきからそのアメイジングって何かしら!」

 でもそんなアメイジングホエールも簡単に両断してしまう彼女大剣。
 一体どれほどの憎悪で出来ているのかしら。

「言ってなかったわね。アメイジングって手前に付いた魔法は全て超級魔法よ」

「何て出鱈目な」

「これも修行の成果かしらね」

「でも殺傷能力がほとんどないわ。超級魔法をいくら量産しようと、私は適わないわ!」

「無いんじゃないわよ。私が殺傷能力を全て無くして変換した魔法よ」

 でも別に魔法とぶつかり合えば干渉し合わない訳じゃない。
 私が調整してるのは雷の魔力であって雷の電力を減らしてるわけではないからね。

「アメイジングドラゴンフライ」

「なんでもバカみたいに言うわね!でも無詠唱じゃないなら対処はし易いのよ!」

「そうね。それが弱点ではあるし、利点でもあるのよ」

 超級魔法を超級魔法たらしめる理由は、魔力の出力に他ならない。
 詰まるところ、どの魔法も出力は超級魔法並みに出力できれば超級魔法たり得る。
 
「トンボなんて、舐めた真似をするわね!」

「違うわ。トンボは時に自分より巨大なホーネットに挑むこともあるの」

 ホーネットが強化の魔法なら、ドラゴンフライは過負荷の魔法。
 魔剣グラムがドラゴンフライを撃ち落とした瞬間、グラムが放っていた魔力が全て消失した。

「なっ!?どうしてそうなるの!?」

「これが私の闘い方!アメイジングスパロー」

「邪なる刃!」

「無駄よ」

 アメイジングスパローは全ての魔法に悪戯をする。
 彼女から放たれた漆黒の刃が上空へと向かって弾かれた。

「どんな魔法であろうと、どんな攻撃であろうと全てあらぬ方向へ飛ばす。それがアメイジングスパロー」

「名前の通りの悪戯の雀が!このぉおお!」

「アメイジングレオーネ」
 
「レオーネ・・・先代皇帝の魔法ね。今は貴女しか使えないって言う」

 そう、これはチャリオット陛下の形見のような魔法。
 魔法としてのパワーはかなり高い。

「でもこのアメイジングレオーネはレオーネとは違うわよ」

「どうでもいいわ。もうこちらの時間稼ぎは十分達したわ。だから闘いを続ける必要もないの」

「でしょうね。かなり時間を稼がれたわ。だからこそ逃がさない」

「逃げるわよ。邪なる道」

 マリの横から黒いモヤが発生する。
 転移する気なのね。

「やらせると思った?ハウリング」

 レオーネが雄叫びをあげるとモヤが消失した。
 流石の彼女もこれには驚きを隠せずにいる。

「アメイジングレオーネの咆哮は魔力を消し去る改電波を放つのよ」

「前に会った時とは大違いね。こちらが追い詰められる番って事ね」

「そうよ?」

「否定しない。だったらこうしましょう」

 そう言うと彼女は自身の首元にナイフを突きつけた。
 なるほど、そう来るか・・・

「貴女の行動から来る一番の逃走手段はこれと見たわ。動かないで、何かすれば私は自分の首を斬る」

「はったりね」

「そう思う?」

 そうね、彼女はやる。
 少なくともそうするだけの気迫が彼女にはあった。
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