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第二幕
ここからは保護者の出番です
突然現れた熊ックスこと、イコリス騎士団総団長のバックス・デューダーと合流したわたしとシモンは、バックスに連れられて先程まで試合をしていた競技場に戻った。
ルチア様が何やらヒステリックになって色々と喚いてらっしゃったけど、バックスがルチア様の隣を通り過ぎる際に後頭部チョップを喰らわして沈めた。
うるさい女の金切り声ほど嫌いなものはないらしい。
ルチア様は白目をむいて半分口を開いて気絶していた。
あらら……美人が台無し。
容赦ないわね、熊ックス。
(わたしの足はバックスが気功?と呼ばれる東の
魔術で治してくれたのだ)
すると競技場には先程までは姿形もなかった、総勢20名ほどのイコリスの騎士たちがいた。
学園の生徒たちがイコリス騎士団を一目見ようと人垣を築いている。
「皆んなっ……!」
「あ、姫さまだっ」
「おぉ、姫!」
「シモン殿下!随分と久しぶりではないですか!」
「鍛錬はサボっていませんでしょうな?」
皆んなわたし達を見つけて思い思いに話し出す。
皆んな……来てくれたんだ。
わたしとシモンのピンチを聞きつけて?
でもシモンはイコリスの誰にもこの件は話していないと言っていたし……。
そんな事を考えていると、騎士の一人が教えてくれた。
「陛下ですよ」
「わ!びっくりした!どうしてわたしの考えてる事がわかったの?」
「だって口に出ていましたから」
「……やっぱり出てるんだ……」
もうホントに気をつけよう。
「お父さまが?」
その後はバックスが答えてくれた。
「シモン殿下が突然寮生活をしたいと言われたのを不信に思われた陛下が色々と調べられたのですよ。そうしてお二人を早急に保護するように
我々に命が下りました。イコリスの暗部も既に動いておりますぞ」
「暗部まで?」
こりゃあ……もう絶対大丈夫だ。
良かった……
「バックス、これからどうすればいいの?」
「とりあえずは何も。私はこれから学園長の所へ行って話をつけて参ります。学園内に刺客の侵入を許しているかもしれない警備のずさんさを嫌味した後、イコリスの暗部を配置してよいか確認します。もし向こうが許可しないのであればこのままお二人にはイコリスまでお戻りいただきます」
「学園に暗部の配置を?」
「一般生徒、もしくは教員に紛れ込ませて。暗殺者もその手でくるでしょうしな。
熊ックスがニヤリと笑う。
「卒業まで?」
「この後の話し合い次第でしょうなぁ。陛下がシモン殿下とモルトダーン国王との話し合いに立ち会うと仰っておられましたからな」
「お父さまが?」
「イコリスも無関係ではありませんし、こちらへの対応があまりにも無体すぎますからな、陛下はかなりご立腹でしたぞ」
あらま、お父さまが怒っちゃいましたか。
お父さまはいつも飄々とされているけど、頭はキレるし結構腹黒いところもあるから怒らせると厄介なのだ。
モルトダーンを取り囲む大国、ハイラントやハイラムの王たちとも学生時代からの親友だというし。
「シモン殿下」
バックスがシモンに向き直った。
「陛下はシモン殿下にも怒っておられましたぞ。
なぜ自分一人で何とかしようなどと思ったのかと。なぜ国王を頼らなかったのかと。陛下はもうシモン殿下を家族と思っておられるのですよ。そしてそれは我々も同じです」
周りにいた騎士たちも皆、頷いた。
「……すみません」
シモンは俯いた。
気まずさからではないだろう。
きっとシモンは今心から安堵し、そして温かさを感じていると思う。
わたしはさり気なくシモンと手を繋いだ。
大きな手が強く握り返してくれる。
シモンがイコリスを自分の国だと言ってくれたように、イコリスの皆んなだってシモンの事を大切に思ってる。
それはシモンが二年間、イコリスの地で頑張って来たからだ。
こうしてわたしとシモンはバックスと学園長との話し合いが終わるのを待った。
結果、学園内にイコリスの暗部数名の配置を
学園長は許可した。
多分快諾…ではないのだろうな。
バックスが和かな笑顔をたたえながら有無を言わさないオーラを発しながら喋ったんだろうな。
まぁなんにせよ、それで物理的殺害の恐怖は去ったわけだ。
本当に良かった……!
そしてとうとう、
イコリス国王を交えて、シモンが父王と面談する日を迎えた。
学園が休みの日、早朝にシモンとお父さまは出立する。
護衛にはバックス率いるイコリス騎士団一個中隊が伴う事となった。
今こそわたしの無尽蔵な魔力の見せ場だ。
わたしは騎士の一人一人に結界魔法を施す。
シモンとお父さまを守って。
そして騎士自身の身も守って欲しいと願いを込めて。
「シモン、気をつけてね。ガツンと言ってやってくればいいわ。自分はもうイコリスの人間だって」
シモンは少しだけ微笑む。
「ああ。今更ふざけるなって言ってきてやるさ」
「ふふふ」
「ニコル、私には激励はないのかい?」
お父さまがわたしとシモン、それぞれの肩に手を置いて言った。
「もちろんお父さまも頑張って!……変な親父ギャグとかは要らないからね」
「えー……渾身のギャグを考えてるんだけどなぁ」
「ふふ、……お父さま、ホントにシモンの事をよろしくね」
「あぁ、任せなさい。ここからは保護者の出番だからね」
そうね、今やシモンの保護者はお父さまだものね。
十八歳で成人を迎えるまで、もう少しわたし達の事を頼みましたよお父さま。
「さあ、じゃあサクっと片付けに行こか」
「はい」
そう言って、お父さまとシモンは出立して行った。
◇
実に2年ぶりに俺はモルトダーンの地を踏んだ。
2年前はあんなにも悔しく、離れ難かった場所だったというのに今では何の感情も湧かない。
ここはイコリスとの国境近くにある館だ。
王家が狩猟を楽しむ時などに使われている。
話し合いはこの館で行う事となった。
王宮の者とも顔を合わせるのは2年ぶりだ。
皆、捨てられたくせにまた再び担ぎ上げられ傀儡となるであろう元王子という色眼鏡で俺を見ているようだ。
陛下に伴われて部屋へと入室する。
そこには2年前に別れて以来の父王が既に椅子に座っていた。
「……おぉ……!シモン……久しいなっ。逞しくなって……!」
父は感慨深そうに俺の顔を眺め、そしてイコリス国王に向き直る。
「息子が世話になったイコリス王、心から感謝申し上げる」
俺との再会にただ喜ぶだけの父に、陛下は微笑みながら言った。
「いえいえ。なんのなんの。私は何もしておりませんよ。ここまで立派に成長したのはシモンの努力の賜物です。実に頼もしい婿で我が国も安泰です。感謝するのはこちらのほうですよ」
陛下は敢えて俺の事を呼び捨てにされた。
そして暗に俺が次期王配になる事になんら変わりはないと言われたのだ。
その言葉に父の頬がぴくりと動く。
そして負けじと言う。
「いやいや!この2年間、イコリスで遊学させて頂いていたようなものですからなあ。イコリスで学んだ事を祖国に持ち帰って、良き後継となってくれると信じておりますぞ」
陛下は笑顔を崩さずに返された。
「はて、異なことを仰る。シモンは歴とした婚姻のために我が国に来たはず。書面も交わした正式なものであるのに、今更遊学とは、モルトダーン王は物忘れが酷くなられたのかな。よい医師を知っておりますよ、今度ご紹介させて頂きましょう」
「……医師など無用。物忘れではないですぞ。2年前は故あってお預けしただけです。今や危険は去り、息子を再び後継にと押す声が広がっている。帰国できる好機だ」
「危険は去った?はて?そちらの王妃陛下による刺客の手が差し向けられていると聞きましたが?」
「その点は心配ご無用。もう既に王妃側の主犯格は捕らえ、刑に処しております。王妃も幽閉。第二王子のマイセルはそちらに婿入りさせますので、双方の国にとって問題は全て解決していると断言出来ます」
「ほほぅ。マイセル殿下をイコリスに?初耳ですけどね」
本当は既に調べがついていて、陛下はその事をご存知のはずだ。
「今、まさにお伝えして、ご納得頂こうと思いましてな」
「ほー……納得ねぇ。しないと言ったらどうするのです?」
「ははは、人格者で知られているイコリス王が、本人の意向を無視して、無理に娘婿の椅子に縛り付けるような事はなさらないと信頼しておりますからな」
「本人の意向ねぇ……だってさ、シモン、どうする?」
陛下は俺の方へと視線を向けた。
そして優しく微笑んでくれる。
言いたい事を言ってやれと、
背中を押された様な気がした。
俺は父と向き合った。
「父上。私はまず、貴方にお礼が言いたい。私を生かすためにイコリスへ縁付かせて頂き、本当にありがとうございました」
「……シモン?」
「イコリスへ行かねば、私は早々に王妃陛下の手の者に命を奪われていたでしょう。それに身分を剥奪された上での廃嫡もあり得ました。しかし父上は、私を王子という身分のまま、イコリスとの縁を結んで下さった」
俺は真っ直ぐに父を見た。
誰に言わされているのではない、
自分の意思で語っているのだとわかって欲しかった。
「そのおかげで今の私があるのです。イコリスへ行ったからこその今の私です。その上で、父上に申し上げます」
「………」
父は黙っておれの話を聞き続けた。
「私は、モルトダーンへは戻りません。戻りたくないのです。これから先もずっと、イコリスの地で暮らしてゆきたいのです。あの国をニコルと共により良くしてゆきたい。
そして女王となったアイツを陰日向なく支えてやりたい……!」
「シモン……」
陛下が温かい眼差しを俺に向けてくれる。
それに再び背中を押されたような気がした。
俺は父に言った。
「俺がなりたいのは、心から望む将来は、ニコルの夫、イコリス女王の王配です。モルトダーンの国王ではない」
まさか自分がこんな事を望むようになるなんて……。
2年前の俺が見たら卒倒するかもしれないな。
父はしばらく押し黙った後、
絞り出すような声で「そうか、わかった」
とだけ言った。
その後は何やら陛下が父にこっそりと耳打ちをされていたが、何を話されたのかはその時はわからなかった。
父の顔色が赤くなったり青くなったりしていたので相当な事だろう。
陛下から何やら聞かされた父は、
「……結婚には出席させて貰おう。イコリス王、数々の無礼、そして非礼を陳謝する。申し訳なかった」
とだけ言い、何やら気忙しく去って行った。
本当は話したい事がいっぱいあった。
これまでの俺の事、聞いて欲しい事がいっぱいあった。
でも俺たち親子は二年前にもう袂を分かったのだ。
父は……あの人はモルトダーンの王で、俺はイコリス女王の王配。
これからの長い人生は互いにその立場で生きてゆくのだ。
親子だった日々はもう、遠い過去なのだ。
不意に俺の肩に陛下が手を回してきた。
「いやぁ!よく言ってくれた!感動したよ、ニコに聞かせてやりたかった。アイツが聞いたら絶対、『全わたしが泣いた!』とかいって号泣してたな!こんなにも想ってくれて、ニコは幸せ者だなぁ」
「……やめてください……」
……俺は……居た堪れなくなった。
顔面から火が出そうだ。
ここにアイツが居なくて、ホントに良かったと心からそう思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうやら今作は短編詐欺にならずに済みそうです☆
当初の予定通りの数話分で終われそうです。
次回、最終話です。
投稿は25日になります。
よろしくお願いします!
さてまたまた宣伝ですみません。
「もう離婚してください!」
という短編の投稿を始めました。
こちらはちょっとオトナな話です。
複数人妻のいる夫と別れたくて仕方ない妻の話です。
妻は時々カンサイ弁で毒を吐いたり
怒り狂ったりします。
……どんな話やねん!と思った方は是非、お読みいただけると幸せです。
それから、
『だから言ったのに!』を
小説家になろうさんにも投稿始めました。
こにらはなろう版として、
番外編の最終話の続編を投稿しようと思っております。
『だから言ったのに!』のあの子と
『わたしは知っている』のあの子のお話しです。
もちろん暇人大賢者も出て来ます。
投稿はまだ先ですが、
その時はよろしくお願いします!
ルチア様が何やらヒステリックになって色々と喚いてらっしゃったけど、バックスがルチア様の隣を通り過ぎる際に後頭部チョップを喰らわして沈めた。
うるさい女の金切り声ほど嫌いなものはないらしい。
ルチア様は白目をむいて半分口を開いて気絶していた。
あらら……美人が台無し。
容赦ないわね、熊ックス。
(わたしの足はバックスが気功?と呼ばれる東の
魔術で治してくれたのだ)
すると競技場には先程までは姿形もなかった、総勢20名ほどのイコリスの騎士たちがいた。
学園の生徒たちがイコリス騎士団を一目見ようと人垣を築いている。
「皆んなっ……!」
「あ、姫さまだっ」
「おぉ、姫!」
「シモン殿下!随分と久しぶりではないですか!」
「鍛錬はサボっていませんでしょうな?」
皆んなわたし達を見つけて思い思いに話し出す。
皆んな……来てくれたんだ。
わたしとシモンのピンチを聞きつけて?
でもシモンはイコリスの誰にもこの件は話していないと言っていたし……。
そんな事を考えていると、騎士の一人が教えてくれた。
「陛下ですよ」
「わ!びっくりした!どうしてわたしの考えてる事がわかったの?」
「だって口に出ていましたから」
「……やっぱり出てるんだ……」
もうホントに気をつけよう。
「お父さまが?」
その後はバックスが答えてくれた。
「シモン殿下が突然寮生活をしたいと言われたのを不信に思われた陛下が色々と調べられたのですよ。そうしてお二人を早急に保護するように
我々に命が下りました。イコリスの暗部も既に動いておりますぞ」
「暗部まで?」
こりゃあ……もう絶対大丈夫だ。
良かった……
「バックス、これからどうすればいいの?」
「とりあえずは何も。私はこれから学園長の所へ行って話をつけて参ります。学園内に刺客の侵入を許しているかもしれない警備のずさんさを嫌味した後、イコリスの暗部を配置してよいか確認します。もし向こうが許可しないのであればこのままお二人にはイコリスまでお戻りいただきます」
「学園に暗部の配置を?」
「一般生徒、もしくは教員に紛れ込ませて。暗殺者もその手でくるでしょうしな。
熊ックスがニヤリと笑う。
「卒業まで?」
「この後の話し合い次第でしょうなぁ。陛下がシモン殿下とモルトダーン国王との話し合いに立ち会うと仰っておられましたからな」
「お父さまが?」
「イコリスも無関係ではありませんし、こちらへの対応があまりにも無体すぎますからな、陛下はかなりご立腹でしたぞ」
あらま、お父さまが怒っちゃいましたか。
お父さまはいつも飄々とされているけど、頭はキレるし結構腹黒いところもあるから怒らせると厄介なのだ。
モルトダーンを取り囲む大国、ハイラントやハイラムの王たちとも学生時代からの親友だというし。
「シモン殿下」
バックスがシモンに向き直った。
「陛下はシモン殿下にも怒っておられましたぞ。
なぜ自分一人で何とかしようなどと思ったのかと。なぜ国王を頼らなかったのかと。陛下はもうシモン殿下を家族と思っておられるのですよ。そしてそれは我々も同じです」
周りにいた騎士たちも皆、頷いた。
「……すみません」
シモンは俯いた。
気まずさからではないだろう。
きっとシモンは今心から安堵し、そして温かさを感じていると思う。
わたしはさり気なくシモンと手を繋いだ。
大きな手が強く握り返してくれる。
シモンがイコリスを自分の国だと言ってくれたように、イコリスの皆んなだってシモンの事を大切に思ってる。
それはシモンが二年間、イコリスの地で頑張って来たからだ。
こうしてわたしとシモンはバックスと学園長との話し合いが終わるのを待った。
結果、学園内にイコリスの暗部数名の配置を
学園長は許可した。
多分快諾…ではないのだろうな。
バックスが和かな笑顔をたたえながら有無を言わさないオーラを発しながら喋ったんだろうな。
まぁなんにせよ、それで物理的殺害の恐怖は去ったわけだ。
本当に良かった……!
そしてとうとう、
イコリス国王を交えて、シモンが父王と面談する日を迎えた。
学園が休みの日、早朝にシモンとお父さまは出立する。
護衛にはバックス率いるイコリス騎士団一個中隊が伴う事となった。
今こそわたしの無尽蔵な魔力の見せ場だ。
わたしは騎士の一人一人に結界魔法を施す。
シモンとお父さまを守って。
そして騎士自身の身も守って欲しいと願いを込めて。
「シモン、気をつけてね。ガツンと言ってやってくればいいわ。自分はもうイコリスの人間だって」
シモンは少しだけ微笑む。
「ああ。今更ふざけるなって言ってきてやるさ」
「ふふふ」
「ニコル、私には激励はないのかい?」
お父さまがわたしとシモン、それぞれの肩に手を置いて言った。
「もちろんお父さまも頑張って!……変な親父ギャグとかは要らないからね」
「えー……渾身のギャグを考えてるんだけどなぁ」
「ふふ、……お父さま、ホントにシモンの事をよろしくね」
「あぁ、任せなさい。ここからは保護者の出番だからね」
そうね、今やシモンの保護者はお父さまだものね。
十八歳で成人を迎えるまで、もう少しわたし達の事を頼みましたよお父さま。
「さあ、じゃあサクっと片付けに行こか」
「はい」
そう言って、お父さまとシモンは出立して行った。
◇
実に2年ぶりに俺はモルトダーンの地を踏んだ。
2年前はあんなにも悔しく、離れ難かった場所だったというのに今では何の感情も湧かない。
ここはイコリスとの国境近くにある館だ。
王家が狩猟を楽しむ時などに使われている。
話し合いはこの館で行う事となった。
王宮の者とも顔を合わせるのは2年ぶりだ。
皆、捨てられたくせにまた再び担ぎ上げられ傀儡となるであろう元王子という色眼鏡で俺を見ているようだ。
陛下に伴われて部屋へと入室する。
そこには2年前に別れて以来の父王が既に椅子に座っていた。
「……おぉ……!シモン……久しいなっ。逞しくなって……!」
父は感慨深そうに俺の顔を眺め、そしてイコリス国王に向き直る。
「息子が世話になったイコリス王、心から感謝申し上げる」
俺との再会にただ喜ぶだけの父に、陛下は微笑みながら言った。
「いえいえ。なんのなんの。私は何もしておりませんよ。ここまで立派に成長したのはシモンの努力の賜物です。実に頼もしい婿で我が国も安泰です。感謝するのはこちらのほうですよ」
陛下は敢えて俺の事を呼び捨てにされた。
そして暗に俺が次期王配になる事になんら変わりはないと言われたのだ。
その言葉に父の頬がぴくりと動く。
そして負けじと言う。
「いやいや!この2年間、イコリスで遊学させて頂いていたようなものですからなあ。イコリスで学んだ事を祖国に持ち帰って、良き後継となってくれると信じておりますぞ」
陛下は笑顔を崩さずに返された。
「はて、異なことを仰る。シモンは歴とした婚姻のために我が国に来たはず。書面も交わした正式なものであるのに、今更遊学とは、モルトダーン王は物忘れが酷くなられたのかな。よい医師を知っておりますよ、今度ご紹介させて頂きましょう」
「……医師など無用。物忘れではないですぞ。2年前は故あってお預けしただけです。今や危険は去り、息子を再び後継にと押す声が広がっている。帰国できる好機だ」
「危険は去った?はて?そちらの王妃陛下による刺客の手が差し向けられていると聞きましたが?」
「その点は心配ご無用。もう既に王妃側の主犯格は捕らえ、刑に処しております。王妃も幽閉。第二王子のマイセルはそちらに婿入りさせますので、双方の国にとって問題は全て解決していると断言出来ます」
「ほほぅ。マイセル殿下をイコリスに?初耳ですけどね」
本当は既に調べがついていて、陛下はその事をご存知のはずだ。
「今、まさにお伝えして、ご納得頂こうと思いましてな」
「ほー……納得ねぇ。しないと言ったらどうするのです?」
「ははは、人格者で知られているイコリス王が、本人の意向を無視して、無理に娘婿の椅子に縛り付けるような事はなさらないと信頼しておりますからな」
「本人の意向ねぇ……だってさ、シモン、どうする?」
陛下は俺の方へと視線を向けた。
そして優しく微笑んでくれる。
言いたい事を言ってやれと、
背中を押された様な気がした。
俺は父と向き合った。
「父上。私はまず、貴方にお礼が言いたい。私を生かすためにイコリスへ縁付かせて頂き、本当にありがとうございました」
「……シモン?」
「イコリスへ行かねば、私は早々に王妃陛下の手の者に命を奪われていたでしょう。それに身分を剥奪された上での廃嫡もあり得ました。しかし父上は、私を王子という身分のまま、イコリスとの縁を結んで下さった」
俺は真っ直ぐに父を見た。
誰に言わされているのではない、
自分の意思で語っているのだとわかって欲しかった。
「そのおかげで今の私があるのです。イコリスへ行ったからこその今の私です。その上で、父上に申し上げます」
「………」
父は黙っておれの話を聞き続けた。
「私は、モルトダーンへは戻りません。戻りたくないのです。これから先もずっと、イコリスの地で暮らしてゆきたいのです。あの国をニコルと共により良くしてゆきたい。
そして女王となったアイツを陰日向なく支えてやりたい……!」
「シモン……」
陛下が温かい眼差しを俺に向けてくれる。
それに再び背中を押されたような気がした。
俺は父に言った。
「俺がなりたいのは、心から望む将来は、ニコルの夫、イコリス女王の王配です。モルトダーンの国王ではない」
まさか自分がこんな事を望むようになるなんて……。
2年前の俺が見たら卒倒するかもしれないな。
父はしばらく押し黙った後、
絞り出すような声で「そうか、わかった」
とだけ言った。
その後は何やら陛下が父にこっそりと耳打ちをされていたが、何を話されたのかはその時はわからなかった。
父の顔色が赤くなったり青くなったりしていたので相当な事だろう。
陛下から何やら聞かされた父は、
「……結婚には出席させて貰おう。イコリス王、数々の無礼、そして非礼を陳謝する。申し訳なかった」
とだけ言い、何やら気忙しく去って行った。
本当は話したい事がいっぱいあった。
これまでの俺の事、聞いて欲しい事がいっぱいあった。
でも俺たち親子は二年前にもう袂を分かったのだ。
父は……あの人はモルトダーンの王で、俺はイコリス女王の王配。
これからの長い人生は互いにその立場で生きてゆくのだ。
親子だった日々はもう、遠い過去なのだ。
不意に俺の肩に陛下が手を回してきた。
「いやぁ!よく言ってくれた!感動したよ、ニコに聞かせてやりたかった。アイツが聞いたら絶対、『全わたしが泣いた!』とかいって号泣してたな!こんなにも想ってくれて、ニコは幸せ者だなぁ」
「……やめてください……」
……俺は……居た堪れなくなった。
顔面から火が出そうだ。
ここにアイツが居なくて、ホントに良かったと心からそう思う。
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どうやら今作は短編詐欺にならずに済みそうです☆
当初の予定通りの数話分で終われそうです。
次回、最終話です。
投稿は25日になります。
よろしくお願いします!
さてまたまた宣伝ですみません。
「もう離婚してください!」
という短編の投稿を始めました。
こちらはちょっとオトナな話です。
複数人妻のいる夫と別れたくて仕方ない妻の話です。
妻は時々カンサイ弁で毒を吐いたり
怒り狂ったりします。
……どんな話やねん!と思った方は是非、お読みいただけると幸せです。
それから、
『だから言ったのに!』を
小説家になろうさんにも投稿始めました。
こにらはなろう版として、
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もちろん暇人大賢者も出て来ます。
投稿はまだ先ですが、
その時はよろしくお願いします!
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