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しおりを挟むキャロルは“どうだ!”と言わんばかりの表情で、他三人の様子を見回した。
しかし、慌てた様子のヴィンセントはともかくとして、ローレンスとルシアンはというと、慌てるどころか眉間に皺を寄せ、なにやら不穏な空気を漂わせている。
「……アドラム嬢」
「は、はい。なんでしょう、ローレンス殿下」
「コリンもドナも、長年アナスタシアに忠実に仕えてくれている者たちだ。それは本当なのかい?嘘だったとしたら大変なことになるよ」
「はい!それは確かにヴィンセント様からお聞きしたことですわ。コリンという護衛も、ドナという侍女も、アーヴィング様がアナスタシア殿下の夫君になられることを不満に思っていたから、秘密を漏らすことをすぐに承知してくれたと!」
ローレンスとルシアンの口から、深い深い溜め息が漏れた。
「まさか、とは思ったが……」
「本当にそうだとは、まいったね兄上。……感の鋭くない僕らが揃って当たる時は、本当にどうしようもない場合が多いから……」
兄と弟は足元に視線を落とす。
ヴィンセントもキャロルも、二人が言わんとすることがなんなのかわからず困惑した。
「……開けてくれ」
すると、ローレンスは入口付近に立っていた衛兵に声をかけた。
衛兵は返事をすると、隣の部屋へと続く両開きの扉を丁寧に開けた。
「なっ……お前!!」
ヴィンセントは、扉の向こうから現れたアーヴィングとアナスタシアを見て、真っ先に声を上げた。
ふたりは神妙な面持ちで椅子に座っていた。
おそらくその原因は、ヴィンセントとキャロルではなく、ふたりの後ろに控えているコリンとドナのせいだろう。
コリンもドナも顔面蒼白。
ドナに至っては全身が小刻みに震えている。
「こ、これはどういうことですか、ルシアン様!?」
「悪いねキャロル。これまでの話はすべて姉上たちに聞いてもらっていたんだ」
「そんな!!……ですが、悪いのはヴィンセント様と、そこのふたりです!私は巻き込まれただけですわ!」
キャロルはそう言ってコリンとドナを指差した。
「キャロル……僕は女性は大事にするタイプだけど、嘘つきは嫌いなんだよ」
「ルシアン様……?」
「イアン、そこにいるか?」
ローレンスが呼ぶと、アナスタシアたちのいる部屋の奥から、ハリーとイヴを抱えたイアンが顔を出した。
「新たに話を聞かなくてはならないふたりが増えた。だから君たちにはそろそろ観念してもらわないとな。イアン。昨夜お前が見たことを包み隠さず教えてくれるか?ヴィンセントとアドラム嬢がどこでなにをしていたか」
イアンはローレンスの言葉に素直に頷くと、腕の中のハリーとイヴと目を合わせた。
「ミャッ!」
「わふっ!」
すると、イヴもハリーも『承知した』というように鳴いた。
イアンの腕から飛び降り、イヴはアーヴィングの、ハリーはアナスタシアの膝の上に乗った。
そしてそれぞれ背伸びをして、むにっとした肉球でふたりの耳を塞いだのだ。
「イヴ!?」
「ハリー!?」
同時に声を上げるふたりに向かってイヴとハリーは首を横に振った。
まるで『聞くんじゃない』とでも言うように。
それを見届けたあと、イアンは口を開いた。
「昨夜、人気のないバルコニーで後ろからアドラム嬢を抱き寄せたヴィンセント殿は、右手をスカートの中に潜り込ませました。そこからは性器をやや乱暴に弄り倒し、アドラム嬢が顔を顰めだした。ですがヴィンセント殿はアドラム嬢が悦んでいると勘違いした様子で、行為は十五分ほど続いたでしょうか。嫌気が差したアドラム嬢が、達したフリをして無理矢理終わらせたように見受けられました。別れ際、アドラム嬢は心底うんざりしたような溜め息を漏らしていましたから」
「イアン、違う。そうじゃない。お前が聞いた会話の内容を話してくれ」
「なんだ、そっちか。それならそうと早く言え」
ルシアンは右手で顔を覆った。
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