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第二部
24.私のリディアお嬢様④ ローレッタ視点
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それからしばらく経ったある日の深夜、私はこっそり鍵を盗み、地下室の一番奥の部屋に足を踏み入れた。
そこで魔術書を漁りながら、置いてあった道具を使って見様見真似で入れ墨を入れた。
不器用な私にしては結構うまくできたと思う。
お嬢様によると、この黒い文様には魔力の器を広げて、外界から魔力を取り込む力があるらしい。魔力の器が小さすぎると言われた私でも、少しは役に立てるだろう。
私はこのままお嬢様をクロフォード家の便利な道具のように扱わせたくなかった。
だからお嬢様に、溜め込ませられた魔力を使って屋敷ごとぶっ壊してもらえばいいと思ったのだ。
お嬢様の中指に嵌められた魔力制御用の魔道具は、別の魔道具があれば外せる。魔法の使い方だって、どこかから教科書を仕入れてくればなんとかなるだろう。
あとは、三日おきに行われる魔力測定をなんとかすればいいだけだ。どうしようと頭を悩ませていたとき、ポットのお湯をカップに注ぐように、私が魔力の補充係になればいいのではないかと思いついた。
私の入れ墨を見たお嬢様には大変怒られたが、その思いつきは成功した。
お嬢様が魔法の練習をする度に私が魔力を補充したので、魔力測定でも不審がられずに済んだ。
お嬢様はしばらくすると、私にも魔法を覚えるように言った。
太ももの入れ墨はいつ人に見つかるかわからない。
それにクロフォード家を壊すときには多少の危険は冒すことになると思うから、自分を捕まえようとする者を気絶させるくらいの魔法は使えるようになっておくべきだと。
私はお嬢様にスパルタ気味な指導を受けながら、なんとか護身術として使える程度の魔法を習得した。
クロフォード家を崩壊させるためには、ただ息を潜めて待つだけでよかった。
いまいましいことにお嬢様には毎年入れ墨の儀式が行われるので、何をすることなく魔力は増えていく。お嬢様の入れ墨が増えるのに合わせて、私も補充係としての器を広げるよう、入れ墨の面積を増やしていった。
お嬢様が十六歳になる頃には、片手を振るだけで屋敷もここに住む者も全て消し去れるほどの魔力が溜まっていた。
「そろそろですね。もう復讐できますよ。楽しみですね」
「そうね」
お嬢様は中指の銀の指輪を眺めながら言う。
「もういつでも私はあいつらを殺せるけど、ただ殺すのはつまらないわ。一瞬で終わるなんて嫌」
「なら、どうします?」
尋ねると、お嬢様は怪しい笑みを浮かべた。
「クロフォード家の権威を失墜させた後、ずぅっと閉じ込めておきたいの。私がされたのと同じように」
私は喜んで賛成する。私のお嬢様は、なんて最高な人なのだろう。
私も全力で彼女に協力しなければならない。
ある時、お嬢様はこんなことを言いだした。
「ねぇ、最近のアデル様はある男爵令嬢を気にかけていてリディアが苛ついているんでしょう?」
「フィオナ様のことですね。ええ、そうです」
「いっそのことアデル様に婚約破棄してもらって、リディアをもっとイライラさせたいわ。うまくいったらアデル様とフィオナ様がつき合い始めるところを見せられるかもしれないし」
アデルバート様が一人の男爵令嬢を気にかけていることは前から話していたが、お嬢様は彼女に大変興味を持っていた。公爵家を敵に回す覚悟でアデル様に近づくなんて、たくましい子だわ、と何度も褒めるくらいに。
ただ、実際はフィオナ様自身にアデルバート様に近づく気はなくて、周りが勝手に騒いでいただけなのだけれど。
多分、お二人の並ぶ姿が絵になり過ぎたのと、アデルバート様の婚約者としてリディア様が不人気過ぎたのが原因だ。
「いいんですか? お嬢様、アデルバート様が好きなんじゃなかったでしたっけ。殿下が別のご令嬢とくっついても」
「自分と同じ顔の別人とくっつくよりずっとましよ」
お嬢様はすまし顔でそう言った。
お嬢様が幼い頃からアデルバート様に好意を寄せていたのは知っていた。なので本当にいいのかと迷ったけれど、彼女がいいと言うなら従うだけだ。
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