~LOVE GAME~

佐倉ミズキ

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GAME1

幼馴染み?

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龍輝君に連れて来られたのは集会室。
この前、委員長会議をした部屋だった。
集会室の鍵はついていないため、出入りは自由で、扉はいつでも開いていた。

部屋の中は長机が二列に並んでいる。
黒板を正面にして、前側の窓際には、外側からは中が見えにくいように衝立が立っていた。
ある意味ここは格好のさぼり場だと思えるが、何故かいつも人の出入りはほとんどなかった。

龍輝君について中へ入ると、今日も誰もいないみたいで、無人だった。 
何となく中に入るのをためらっていると、龍輝君はお構いなしに集会室の中を横切り、奥の衝立の方へ向かう。

あれ? 衝立でよくは見えないけど、確か奥は何もなかったと思う……。 
戸惑う私に龍輝君は気が付いたようで、ニッコリ微笑み手招きをする。

「実はわかりづらいんだけど、この衝立の向こうに扉があるんだ」
「扉?」

そう言って衝立の奥を覗くと、確かに扉があった。
衝立と段ボールと荷物で囲まれており、少々わかりにくいが確かに扉が存在していた。
集会室側からだと見えないためわからない。
倉庫みたく使っているのだろうか?

「小さな資料室みたいで滅多に使われていないみたいなんだ。壊れているのか何故か中からしか鍵はかからないし、ここなら誰にも邪魔されずに話が出来る」

龍輝君がさび付いた扉を開けると、中からは埃とかびの臭いがした。 

部屋の中は約四畳半程度で、奥は段ボールが積み重ねられている。
小さな窓は開けられるようで、そこから光が差し込み、部屋の中は薄明るい。
扉が小さいので狭いと思っていたが、中は意外と思っていたより広く感じた。 

「凄い。こんなとこがあるなんて」
「鍵が壊れてて中からしか掛けれないし、先生も来ない。ちょっとした穴場だろ?」
「うん」

感心したような私の声に龍輝君はフッと笑い、資料の段ボールとは反対側の壁に寄り掛かる。
長い足を投げ出して気だるげに座る姿は一つの絵のように様になっていた。

神は二物を与えたな……。

ポカンと見ていた私に龍輝君は顔を上げて見つめかえしてきた。
真っ直ぐ見つめ返してくる視線にドキッとして一瞬たじろぐ。

そして不覚にもときめいてしまった自分に驚いた。
何をときめいているの!
今は聞きたいことが先でしょう!
そう自分を叱責して、グッと気持ちを持ち直す。

「で? 聞きたいことって何かな?」

そう、聞いてくるのに、龍輝君は疑問に思っている様子を微塵も感じさせないで、柔らかく聞いてきた。
首まで可愛く傾げるおまけつきだ。

「楓ちゃん?」
「あ、うん。……あのさ昨日、龍輝君言ったじゃない?」

ハッとして、促されるまま聞きたかったことを口にすることにした。
龍輝君はニッコリ笑いながらも、「何のこと?」と言う風な表情をする。

「昨日?」
「うん。ほら、“本当に何も覚えてないのか”って……」
「あぁ! うん、それが?」

それが? って……ねぇ……。

呆れてため息が出そうになってしまった。
すると、私が何を言おうとしていたのか理解したように聞いてきた。

「思い出したの?」
「ううん。ごめんなさい。わからないの。だから龍輝君に直接聞こうとおもって」

私が素直に謝ると、龍輝君はため息をついた。
そして、面白くなさそうに龍輝君は“ふぅ~ん”と呟く。

あ、もしかして怒ったかな。

低く、まるで人を馬鹿にしたような声色。
その発せられた人物を見上げると、そこには口角を不敵に上げ、バカにしたような目つきで私を見ている龍輝君の姿があった。

今のって龍輝君が言ったのだろうか?

目の前の人物は先ほどまでとは打って変わって、表情も雰囲気が違う。
私が見てきた龍輝君の穏やかそうな雰囲気はなくなっていた。

この人は誰?

その変貌ぶりに唖然とする。
あんなに柔らかく微笑んでくれていたのに、この目の前の人は誰だろうか。
この私を睨みながら妖しく笑う人は誰だろうか。

考えるまでもない。
この部屋にいるのは私と、春岡龍輝しかいないのだから。

これはいったいどういうこと?

「龍輝君……?」

戸惑う私に、龍輝君が面白がるような表情で一歩近づく。
反射的に、思わず後ずさる私。
すると笑いながらさらに、私に近づいてくる。

「逃げんなよ」
「だ、だって……」

そんなことを言われても無理だ。
本能的に身体が逃げようとしている。

「俺とお前の仲だろ?」
「仲!?」

ジリジリと近寄ってくる。
いつの間にか後ろは壁だった。
背中が壁の冷たさでひんやりする。

えっ!?  えっ!? どういうこと!?
訳がわかんなくなってきたよっ!?

戸惑いから軽くパニックになりそうだった
龍輝君のキレイな顔が目の前にある。
その顔に見つめられて、不覚にも急に恥ずかしくなって俯いた。
やたらと心臓がドキドキとうるさい。

なんで急にこんな展開になってるのだろうか。
知り合いだったかどうか聞きたいだけなのに、龍輝君の様子がおかしい。
どうしたらよいかわからず困っていると、頭の上から低い声が聞こえた。
もちろん、龍輝君の声である。

「俺とお前の関係、知りたいか?」
「へ? あ、う、うん」

なんだろう。
口調もぶっきらぼうで、先ほどとは違う気がする。
顔を上げると、目の前でニヤッと不敵に笑う龍輝君。
視線にたえられず、下を向いて頷いた。
龍輝君は“いいよ”と私の顎に手をかけ、クイッと上に上げた。

えっ!? 何!?

突然の行動に焦った。
まさか、顎クイッをこんなにも自然にされるなんて思いもしなかった。
ましてや数センチ前には、龍輝君のキレイな顔のドアップ。
顔が熱くなるのを感じたけど、顔を逸らしたくても顎を掴まれ動けない。
焦げ茶色の綺麗な二重の瞳は、真っ直ぐ射抜くようにうに私を捕らえて離さないでいた。

綺麗だ、と思った。
濁りのない、きれいな瞳。
吸い込まれそう。
気が付くと私もその瞳を見つめ返していた。
心臓がドキドキするのも一瞬忘れるくらいに見とれていたのだ。
龍輝君も私の目をじっと見つめたまま、逸らさない。
そして……。

「楓ちゃん」

龍輝君が可愛く囁いた。
その声にハッとする。

「俺達、幼なじみなんだよ」

幼なじみ?

龍輝君が、私が求めていた答えを言ってくれたとすぐにわかった。
しかし、その思いもよらなかった返答にキョトンとする。
幼なじみだったの?

「思い出せない? 俺たち10年以上前に会ってるんだよ」
「えっ?」

10年以上前に会っている?
10年……以上前……。
ドキンと心臓が鳴る。
それは今までの感じていたドキドキとは明らかに違う。
背中に冷や汗をかくように、嫌な胸の鳴り方だった。
だって、龍輝君の言葉に心当たりがあるから。
10年以上前にいた、幼なじみ。
思い出される懐かしい記憶。
心の奥底に封印していた、思い出したくなかった記憶。
今までずっと忘れていた記憶が一気にブワッと蘇ってきた。

『かえでちゃん』

懐かしい声が甦る。
いや。でもあのこは……。

『待ってよ、かえでちゃんっ!』

だって、あのこは……。

『かえでちゃーー……』

あのこは、もう……。

「うそ……」

私が記憶を呼び戻し、顔が青くなっていると、それを見た龍輝君はおかしそうにクスッと笑った。

「あれ? その顔は思い出した?」
「……あっ」

私が龍輝君に戸惑った表情を見せると、子どものような可愛らしい声を出して言った。

「ねぇ、かえでちゃん? どうしてあの時先に行っちゃったの? 待っていてほしかったよ」
「っ!」

どうしてーー……………。

「た……、たっくん……なの?」




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