~LOVE GAME~

佐倉ミズキ

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GAME0~その後~

その後~5~

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初恋の人……?

龍輝君を見上げると、気まずそうに目をそらされた。

「初恋の人と再会して付き合うなんてめっちゃロマンチックですよね~。私も恋愛してみたい」

凛ちゃんは手を組んでうっとりしたようにため息をついた。
恋愛してみたいって言った? あれ? 凛ちゃんは龍輝君の浮気相手では? いや、むしろ本命だったのでは?
私の頭が?マークで埋め尽くされているのに気が付いたのか、龍輝君が苦笑した。

「だから、楓の誤解だって言ったろ」
「えっと……?」

そもそも、バイト禁止なのにどうして家庭教師なんてしているの?
聞きたいことがありすぎて、整理がつかなくなってきた。
すると、突然ドーンという音と歓声があがった。
花火が始まり、この高台はちょうど良い位置にあるのか、大きくてとても綺麗だった。

「凛ちゃん、あっちでお母さんが手を振ってるよ」
「あ、もう行かなきゃ。じゃぁ、先生、彼女さん、さようなら」

凛ちゃんは礼儀正しく挨拶をして去っていった。

残されたのはポカンとしている私と苦笑気味の龍輝君。
首をかしげて見上げると、「ちゃんと説明させて」と言われた。
ゆっくり話したいからと連れて来られたのは、高台の先にある広場だった。
広場から花火は見えるが小さい。
高台の方がよく見えるため、人がおらず、私たちは周りを気にせずベンチに座れた。

「どういうことなの?」
「全部、楓の誤解なんだ。でも、そもそもそんな誤解をさせた俺のせいでもある」

龍輝君はゆっくり言葉を選ぶように話し出した。

「俺の母親は看護師でさ、近くの総合病院で働いているんだ。凛ちゃんはそこの患者」
「患者さんなの?」

元気そうな様子だったので、まさか病気を持っているなんて思わなかった。

「あぁ見えて、心臓が弱いんだ。小児科に入退院を繰り返している。彼女と会ったのは、楓と付き合いだしてすぐの頃。母親から凛ちゃんの家庭教師をしてくれないかって言われたんだ」

お母さんからの紹介で知り合ったのか……。
私は黙って先を促す。

「うちの高校がバイト禁止なのは知っていたから、そう言ったんだけどどうしてもって言われてこっそり始めたのがきっかけ。家庭教師なら家の中だし、そもそも個人で契約しているからばれにくいだろ?」

この二カ月で結構稼げたんだ、と笑う。
それに対して、むぅと口を尖らす。

「その分、ほおっておかれたけどね」
「それは本当に悪かったと思っている。楓に寂しい思いをさせるつもりはなかった」

そう謝って、私の手をギュッと握りしめる。

「凛ちゃん……、来月、心臓の手術するんだ」
「え……」

龍輝君の台詞に言葉を失う。

「学校に行けても月に数回。家で大人しくしているか、入院しているか……。だからつい、同情してしまって楓よりあの子を優先してしまった」
「でもあの子、うちの高校に来ていたよね?」

校門で嬉しそうに龍輝君に手を振って一緒に帰っていた。
元気そうな子に見えた。

「この前のだろ? まさか、見られているとは思わなかった。あの時は、久しぶりに学校へ行ったから寄ってみたんだって言われた」
「そう……」
「それにバイトの契約は夏休みまでだからもう終わったんだ。……あぁ、でもなに話しても、言い訳にしかならないな」

龍輝君は額に手を置き、ため息をつく。

「これだけは信じてほしい。楓が心配するようなことは何もない。家庭教師のバイト中だって、必ずあの子の親が家にいたし、俺もあの子もお互いに恋愛感情とかは抱いていないんだ」
「……本当?」

凛ちゃんには同情する点は多いし、龍輝君の力になってあげたいという気持ちは理解できた。
でも、本当に気持ちがぐらつくことはなかったの?

「本当です!」

急に後ろから声をかけられてびっくりする。
振り返ると、凛ちゃんが軽く肩で息をしていた。

「走ったのか?」

龍輝君が慌てて駆け寄るが、「早歩きしただけ、大丈夫!」と押しのけられた。

「彼女さん、ごめんなさい。私のせいで誤解させましたよね」
「え……」
「さっき様子がおかしかったから、もしかしたらと思って探しました。やっぱり私のせいで不安にさせてた……」

シュンとする凛ちゃんを龍輝君がベンチに座るよう促す。

「私、龍輝先生と友達になれて嬉しかった。でも、そもそも友達っていなかったから距離感とかわからなくて、それで彼女さんに嫌な思いさせたのかもって……。でも誓って言えます! 私たち彼女さんが心配するようなことは何一つありません!」

一生懸命話す凛ちゃん。
それを見て、私は肩にそっと手を置いた。

「興奮するのも、身体によくないんじゃないの? 大丈夫?」
「はい……」

落ち着くよう背中をさすると、凛ちゃんはゆっくり呼吸をした。

「凛ちゃん、教えてくれてありがとう。ちゃんとわかったから心配しなくていいよ」
「彼女さん……」
「楓だよ。確かに、二人のこと見かけて不安になったよ。龍輝君と付き合いだしたばかりで、浮気しているのかなとか、本命が他に出来たのかなとか、挙句、塾行っているとか嘘までつかれて」

フフッと笑いながら話すと、龍輝君は気まずそうに俯いた。

「でも、ちゃんとわかったから」
「楓さん、ありがとうございます」

凛ちゃんは深々と頭を下げた。そして、広場の入口で待っていた母親の所へ戻っていった。

さて、と私は龍輝君を見あげる。
そして、無言で隣に座るよう促した。

「楓……、あのさ……」
「これ、そもそも凛ちゃんはなにも悪くないよね?」

はっきりそう言うと、龍輝君はぎこちなく頷いた。

「なにも聞かずに誤解した私も悪かったけど……。龍輝君が私にちゃんと話しておけば、こんなことにはならなかったんじゃない? 塾だ、友達の妹だって嘘までついて! それともバイトの事、私が学校に告げ口するとでも思っていた? そんなに信用なかった? 凛ちゃんに同情して深入りした気持ちもわかるけど、事情はどうであれ何も言われずにそんなことされたら不安になるに決まっているじゃない!」

気が付けば、私は龍輝君に気持ちをぶちまけていた。
龍輝君も終始、黙って話を聞いている。
あ、しまった。言い過ぎたかな……。
ハッと気が付いて、どうしようと思ったら龍輝君が頭を下げた。

「いや、本当に楓の言う通りです。俺が上手く立ち回れなかったことが原因です。本当に、ごめんなさい」

目の前には可愛いつむじが見えている。
その姿を見て、昨日のお兄ちゃんの言葉を思い出した。
あぁ、お兄ちゃんの言う通りだね。
龍輝君は私の気持ちをよく聞いてちゃんと受け止めてくれている。
龍輝君はそういう人だ。

それを見て、なんだか不意に笑いが込み上げてきた。
私がフフッと笑うと、龍輝君が顔を上げる。

「楓?」
「ごめん、なんでもない」

それでも笑う私に、龍輝君は怪訝そうだ。

「いや……、なんかね。今思えばどうして疑ったんだろうって思って。だって、龍輝君付き合いだしてから変わったでしょう?」
「そうかな」

私はうんうんと大きく頷く。

「付き合う前はもっとクールで意地悪で俺様なところがあった。でも付き合いだしたら、いつも優しくて穏やかで雰囲気も柔らかくなって……。私でもわかるくらいに変わったのに、そんな龍輝君を疑っていた」
「いや、何も言われず他の女の子といるところを見せられたら普通は疑うもんだ」

クスクス笑いながら、首を横に振る。

「あ、そういえば付き合いだした時にうちのお兄ちゃん、龍輝君に何を耳打ちしたの?」

気持ちが初めて通じ合ったあの日。
玄関で出迎えたお兄ちゃんは龍輝君に何か耳打ちしていた。
急な質問に龍輝君は戸惑いながら答える。

「ん? あぁあれな。妹を泣かすなって言われた」

お兄ちゃんがそんなことを……。……うん、言いそう。
そう、泣かすなか……。

「そうだったんだ、でも……」

と、同時に涙が出て来て泣き笑いのようになった。

「楓、泣くな……」
「ごめん、泣くつもりはなかったんだけど……」

ぐずぐずと泣き出す私の顔を心配そうにのぞき込む。

「急にホッとして……。浮気じゃなくて良かった……、他に好きな子が出来たわけじゃなくて良かったって……」

泣きながら呟く。

「ごめんね、お兄ちゃんに怒られちゃうね」

冗談交じりで言うと、龍輝君は私を抱きしめた。

「俺は、楓以外を好きになるなんて考えられない」

耳元で囁かれ、ドキッとして涙が止まる。

「聞いたろ? お前は俺の初恋なんだよ。やっと手に入れたんだ、手放すわけない」
「龍輝君……」

龍輝君は私の涙を優しく拭う。

「俺も不安だった」
「え?」
「貴島。あいつ、まだ楓の事諦めきれていないだろう? お前があいつにほだされたらどうしようかと不安だった」

確かに貴島君、龍輝君のこと煽っていたな。

「貴島君に俺にしないかって言われた」
「えっ……」
「もちろん、断ったよ。私だって、龍輝君以外を好きになんてなれない」

目を見てしっかり伝えると、龍輝君は嬉しそうに微笑んだ。

「ねぇ、これからは嘘ついたりしないでちゃんと話して? 私もなんでも話すから……」
「あぁ、お互いなんでも言い合えるようにしよう。ちゃんと、話を聞き合おう」

龍輝君はギュッと私を抱きしめる。
私たちは遠慮しあってちゃんと話が出来ていなかった。勝手に悪い方へと考えて、不安になっていたんだ。
これからはなんでも話し合って、解決できるようになりたいな。
私は龍輝君の背中に手を回して、その胸に頬を埋めた。
あ、龍輝君の心臓の音が速い。
同じ気持ちだと言うことがとても嬉しかった。
すると、ドンドドンと花火が上がった音がした。
振り返ると、空にとても綺麗な花火が打ちあがっている。

「わぁ、綺麗……」

しばらく花火を見ていると、「あ、そうだ」と龍輝君が声を上げた。
不意に何かを思い出したようで、龍輝君が離れた。そしてガサゴソと鞄から何かを取り出したのだ。
龍輝君の手に乗っていたのは、小さなケースだった。

「なに、これ……」
「開けて」

手渡されて中を開けると、可愛いネックレスが入っていた。
花柄がモチーフで、キラキラしていてとても素敵だ。

「可愛い!」
「楓へのプレゼント。夏休み前に買って、今日渡そうって決めていたんだ」

初めてのプレゼントに戸惑いと嬉しさとで感動してまた涙が溢れてきた。
今日は感情がゆるゆるだ。

「貸して」

そう言って、ネックレスを手に取ると私の首にかけてくれた。

「良く似合う」
「ありがとう、凄く嬉しい」

鏡で見れないのが残念だけど、そこはあとで家でじっくり眺めよう。

「楓、好きだ。この気持ちは変わらないよ」
「私も……、龍輝君が大好き」

気持ちは変わらない、と言おうとしたけど龍輝君の唇に塞がれてしまった。
その熱いキスに、龍輝君の気持ちが伝わってくる。
応えるのに精いっぱいで、離れた時には息が上がってしまった。

「やばい、止まらなくなる……」

色っぽい声で耳元で呟かれ、身体がビクッと跳ねてしまった。

「お願いだから、可愛い反応しないで」
「してない!」

慌てて否定すると、抱きしめられながら笑われた。

「大丈夫、ゆっくりでいいから。俺ららしく、歩んで行こう」

龍輝君の優しい声にホッとする。

「うん」

頷くと、何度も頭を撫でてくれた。
焦らなくていい。
ちゃんと話をしながら、気持ちを伝えあいながら私達らしく歩んで行こうね。




~END~

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