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11. とても滑稽な台風ダンスですわね

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 マクナリー伯爵家の夜会は多くの人が招待されており、とても賑やかに開かれておりました。 

「マクナリー伯爵。お招き感謝します。」
「ウィリアムズ公爵令息ジョシュア様、本日は我が家の夜会へと足を運んでくださりありがとうございます。婚約者であらせられるアルウィン侯爵令嬢も慎ましやかでとてもお美しい。そして素敵なドレスをお召しですね。」
「今宵の夜会は婚約者のエレノアも楽しみにしていたんですよ。ゆっくりと過ごさせてもらいます。」

 あら、いつもの傲慢さはどこへやら。
 本当に学院外では好青年を上手く演じていらっしゃる。

「マクナリー伯爵、ご招待に感謝いたします。」

 私はマクナリー伯爵へ向けてカーテシーをいたしました。
 夜会での私の振る舞いはなるべく控えめに、公爵令息であるジョシュア様をより引き立てるようにすることを求められているのです。

「おお……。これはこれは。とても美しいカーテシーですね。」 
「エレノアのカーテシーはとても洗練されていて美しいんだ。婚約者である僕も鼻が高い。」
「そうでしょう。いや、仲が良くて羨ましいことです。それでは、ごゆっくり楽しんでください。」

 ジョシュア様が私のカーテシーを褒めることはいつものことです。

 私がジョシュア様から褒められることといえば、幼い頃から文字通り血の滲むほど練習したカーテシーとダンスくらいのものですわ。
 それに学院外では、気持ちが悪いほど仲睦まじい婚約者のフリを私だけではなくジョシュア様も演じられますから、実際はとても冷め切った関係だとは誰も勘づかないでしょうね。

「エレノア、一曲踊るぞ。」
「はい。」

 またここでもアピールなのですね。

 私とジョシュア様は二人とも、ダンスは人に教えられるほどの腕前ですから。
 そんな二人で踊ると意図せずともホール内ではとても目立ちます。

 そして私とジョシュア様はとても仲の良い婚約者だと周囲の目には映るのです。

 ダンスが一曲終わって一旦壁際へ下がりますと、年配の痩せ細った男性にエスコートされたドロシー嬢がこちらへと歩いてくるのが見えました。

 周囲には、同じ学院に通う子息令嬢が何人か見えました。
 皆一様に学院でのジョシュア様とドロシー嬢のやりとりを知っているが故の好奇心で、目をキラキラと輝かせてこちらを伺っているのです。

 『他人の不幸は蜜の味』ですわね。

「こんばんは、ジョシュア様。」
「……ああ、ドロシー嬢。君も来ていたのか。」

 何が『君も来ていたのか』よ。
 今日のお昼間に学院でそのような話をなさっていたくせに、今では周りに配慮して他人行儀な態度をなさるなんて滑稽だわ。

 しかも高位貴族であるジョシュア様へ伯爵令嬢から先にお声をかけるなど、あり得ないことです。
 やはりまだ貴族としてのマナーがまだ身についてきらっしゃらない。
 だから今までは夜会に参加していなかったのかしら。

「ウィリアムズ公爵令息様、そしてアルウィン侯爵令嬢。我がドロシーと懇意にしてくださっているとお聞きしております。どうぞこれからもよしなに。」

 やはりこの枯れ枝のように細身の不健康な方がプライヤー伯爵なのね。
 情婦を養子にするなんてことをなさった癖に、平然と娘としてその情婦を紹介するなどとマトモな方とは思えません。

「プライヤー伯爵、二学年での編入とは心細かろうと僕もエレノアも気にかけているんですよ。学院では皆と仲良くやっていますし、心配無用です。」

 ドロシー嬢をエスコートするプライヤー伯爵に接するジョシュア様はよそ行きの笑顔を貼り付け、まるで知らない方のようです。

、私ジョシュア様とダンスしてみたいわ。」
「ドロシー、お前はまだ踊れないだろう?」
 
 はい?ダンスがおできにならないと?

「伯爵、大丈夫です。僕がリードしますから。ドロシー嬢、どうか僕とダンスを一曲踊って下さいませんか?」
「わぁ。まるで王子様とお姫様みたいですわね。お願いします。」

 無邪気な子どものように喜ぶドロシー嬢と、お顔の少し引き攣った様子のプライヤー伯爵は対照的ですわね。

 それにしても、伯爵は随分お顔色も悪いわね。
 体つきといい、どこかお悪いのかしら?

 私はそのまま壁際でお待ちすることにして、プライヤー伯爵はお知り合いのところへと向かわれました。

 「あらあら、まるで台風のようですわ。」

 ダンスホールの中へと入っていったジョシュア様とドロシー嬢でしたけれど、ドロシー嬢は破滅的にダンスがおできにならないと言うか、そもそも習ってもいないのではないのでしょうか。

 腕前が一流のはずのジョシュア様がリードしきれずにそこら中の方達にぶつかりながら回っているのです。

「ふふっ……。とても滑稽だわ。」

 思わぬ悲惨な場面に私は可笑しくて笑いを堪え切ることが困難で、扇で口元を隠すのに必死でした。



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