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君は遥か遠く
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そしてとうとうやってきた社交界デビューの日。俺はデビューの若者の証である黒の燕尾服に身を包み、胸元に白いバラを差してデビュタントの会場に立っていた。
「皆さんは今日この日から大人としての一歩を歩み始めました。青年貴族として、我が国の更なる発展のため若い力を存分に発揮してくれることを願います」
今日の夜会の主催となった大公が俺たちを寿ぎ、初めての夜会が始まる。
あの日から7年。
待ちに待ったこの日だったが、実は俺のデビューを待たずして彼女は社交界から姿を消していた。
俺が彼女と出会った時が最も盛んに夜会に参加していた時期のようで、以降少しずつ表に出てくる機会が減っていき、3年ほど前からは全く姿を見かけなくなったという。そして、バンタン侯爵の側には今別の女性がいるらしい。
別れた、と考えるのが妥当だろう。
2人は上手くいかなかったのだろうか。あんなに幸せそうに彼女は笑っていたのに。
「そんな……俺、ランさんに会ったら聞きたいことが山ほどあったのに」
これでは彼女に会えない。長年憧れ続けた彼女がもういないと知った2年前、俺はショックで数日部屋に引きこもった。
俺がもっと早く生まれていたらよかったのに。
俺は間に合わなかったのだ。
「ちょっと、何をこの世の終わりみたいな顔してるの。バンタン侯爵にお話を伺えばいいじゃない。諦めるのはまだ早くなぁい?あなたの気持ちはそんなものだったのかしら」
俺が12の頃に結婚して家を出た姉。引きこもってしまった俺のことを聞いた姉はわざわざ俺の尻を叩きに戻ってきてそう言った。
機会は失われたわけじゃない、まだ方法はあるはずだと。
「姉さん……そう、そうだよね!まだ会えないって決まったわけじゃないよね!」
「そうよぉ。むしろチャンスかもしれないじゃない。別れたってことは、フリーってことよ!」
「フリー!そうか!」
姉の言葉に天啓を得た俺は再起した。
そして俺は今日、上手くことが運べはバンタン侯爵に話を聞きにいくつもりだ。
7年も待っていたんだ、そう簡単に諦めてたまるか。そう考える俺の思考はどうやら顔に出ていたようで家族は呆れたため息を吐いた。
「いいかクラウス、私たちは皆お前がこの日を待ち望んでいたことはわかってる。だがおかしな振る舞いはするんじゃないぞ。わかっているな?」
「もちろんわかってますよ父さん。ちゃんと青年貴族として相応しい振る舞いをしてみせます。大丈夫大丈夫」
厳しい顔で釘を刺してきた父に向かって当然だと俺は答える。しかし父も母もそして兄も、自信満々の俺の答えに胡乱な目を向けていた。失礼な、俺だってちゃんとしなきゃいけない時はちゃんとする。既に俺と同じく今日デビューの従姉妹のエリーゼをエスコートして、ダンスを踊ったじゃないか。何を心配しているのかわからない。
バンタン侯爵に挨拶するのは社交のうちだし、何の問題もないはずだ。うん。
「心配だ……」
「ええ、心配だわ」
「父さん、これ誰か張り付いてる方がいいんじゃないか?絶対ダメだろ」
うんうん、と自分の考えに納得して頷いていると家族3人コソコソと身を寄せて囁き合っている。まあ、この7年の俺の態度を見ていたらそう思っても仕方がないのかもしれないな。彼女との出会いがきっかけで幼い頃から有翼種のことが記された文献を読み漁り、今は学術院で彼らの歴史まで研究しているのだから。
そう思いながら目当ての人物を探してぐるりと周囲を見回すと、思いの外すぐに目的の人は見つかった。ホールの奥の方でバンタン侯爵は誰かと談笑している。
「あ、いた」
「クラウス?」
その姿を確認した瞬間、俺は何も言わずに彼に向かって歩き出していた。
「皆さんは今日この日から大人としての一歩を歩み始めました。青年貴族として、我が国の更なる発展のため若い力を存分に発揮してくれることを願います」
今日の夜会の主催となった大公が俺たちを寿ぎ、初めての夜会が始まる。
あの日から7年。
待ちに待ったこの日だったが、実は俺のデビューを待たずして彼女は社交界から姿を消していた。
俺が彼女と出会った時が最も盛んに夜会に参加していた時期のようで、以降少しずつ表に出てくる機会が減っていき、3年ほど前からは全く姿を見かけなくなったという。そして、バンタン侯爵の側には今別の女性がいるらしい。
別れた、と考えるのが妥当だろう。
2人は上手くいかなかったのだろうか。あんなに幸せそうに彼女は笑っていたのに。
「そんな……俺、ランさんに会ったら聞きたいことが山ほどあったのに」
これでは彼女に会えない。長年憧れ続けた彼女がもういないと知った2年前、俺はショックで数日部屋に引きこもった。
俺がもっと早く生まれていたらよかったのに。
俺は間に合わなかったのだ。
「ちょっと、何をこの世の終わりみたいな顔してるの。バンタン侯爵にお話を伺えばいいじゃない。諦めるのはまだ早くなぁい?あなたの気持ちはそんなものだったのかしら」
俺が12の頃に結婚して家を出た姉。引きこもってしまった俺のことを聞いた姉はわざわざ俺の尻を叩きに戻ってきてそう言った。
機会は失われたわけじゃない、まだ方法はあるはずだと。
「姉さん……そう、そうだよね!まだ会えないって決まったわけじゃないよね!」
「そうよぉ。むしろチャンスかもしれないじゃない。別れたってことは、フリーってことよ!」
「フリー!そうか!」
姉の言葉に天啓を得た俺は再起した。
そして俺は今日、上手くことが運べはバンタン侯爵に話を聞きにいくつもりだ。
7年も待っていたんだ、そう簡単に諦めてたまるか。そう考える俺の思考はどうやら顔に出ていたようで家族は呆れたため息を吐いた。
「いいかクラウス、私たちは皆お前がこの日を待ち望んでいたことはわかってる。だがおかしな振る舞いはするんじゃないぞ。わかっているな?」
「もちろんわかってますよ父さん。ちゃんと青年貴族として相応しい振る舞いをしてみせます。大丈夫大丈夫」
厳しい顔で釘を刺してきた父に向かって当然だと俺は答える。しかし父も母もそして兄も、自信満々の俺の答えに胡乱な目を向けていた。失礼な、俺だってちゃんとしなきゃいけない時はちゃんとする。既に俺と同じく今日デビューの従姉妹のエリーゼをエスコートして、ダンスを踊ったじゃないか。何を心配しているのかわからない。
バンタン侯爵に挨拶するのは社交のうちだし、何の問題もないはずだ。うん。
「心配だ……」
「ええ、心配だわ」
「父さん、これ誰か張り付いてる方がいいんじゃないか?絶対ダメだろ」
うんうん、と自分の考えに納得して頷いていると家族3人コソコソと身を寄せて囁き合っている。まあ、この7年の俺の態度を見ていたらそう思っても仕方がないのかもしれないな。彼女との出会いがきっかけで幼い頃から有翼種のことが記された文献を読み漁り、今は学術院で彼らの歴史まで研究しているのだから。
そう思いながら目当ての人物を探してぐるりと周囲を見回すと、思いの外すぐに目的の人は見つかった。ホールの奥の方でバンタン侯爵は誰かと談笑している。
「あ、いた」
「クラウス?」
その姿を確認した瞬間、俺は何も言わずに彼に向かって歩き出していた。
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