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一年前のあれこれ 3
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『押して駄目なら引いてみろ』とはよく言ったもので、潮が引くように離れて行ったシャルルをクリスは急速に意識するようになった。
クリスから積極的に話しかける姿を目撃するようになり、よく二人きりで話をしていると周囲も気付き始めたのだ。
「ねえ、聞いてくださる?ここだけの話なのだけれど……」
噂好きの生徒たちが自分の目にした光景を親しい友人たちに打ち明ける。しかし、噂好きの友人は大抵の場合同じように噂好き。『ここだけの話』という定型文で始まる話は人を変えどんどん広がっていくものだ。
「私たちそこで、殿下とエイマーズさんが二人きりでお話をしていらっしゃる姿を見てしまったの」
「それはもう仲睦まじいご様子で、私驚いてしまって……!」
こそこそと、だがどこかから漏れ聞こえてくる噂話。
普段であれば聞き流すそれも我が婚約者が関わっているのならそうはいかない。僕は流れてくる二人の噂話を可能な限り収集し、状況を整理することにした。
二人を目撃した者たち曰く。
二人は人目を忍ぶような人気のないところで会っていることが多く、楽しげな笑い声が聞こえてきたそうだ。その様子は非常に仲睦まじく、まるで恋人同士のように身を寄せ合っていることもあると言う。
「クリストファー殿下もエイマーズさんもとても整った容姿をしていらっしゃるでしょう?バラ園で微笑み合っている様子なんてまるで絵画のような美しさでしたわ」
「あら、婚約者のレッドメイン様だって凛々しいお顔立ちよ。殿下と二人並んで立っていらっしゃる姿なんて、眩しすぎて直視できないわ!」
「レッドメイン様は厳格な方でいらっしゃるけど、エイマーズさんは明るくて元気な方よね。真逆のタイプという感じで」
僕とシャルルを比較するような話まで出始めている。これは、本格的に僕に飛び火してくるのも時間の問題だ。
「我々は殿下とエイマーズさんは仲の良いご友人と伺っておりますが」
「ええ、ええ。私もそのように伺っております。けれどあれは……」
「エイマーズさんもお可愛らしくて親しみやすい方ではありますけど、殿下にはレッドメイン様がいらっしゃるでしょう?あれはいただけないわね」
由々しき事態再びである。
僕はもう一度シャルルと話をすると決めた。もちろんその後クリスにも雷を落としに行かねばなるまい。婚約者であり親友でもある僕に黙ってコソコソ会っているということは、『そういうこと』だと受け取られてもおかしくない。両者にきちんと言い聞かせて、立場の自覚と節度というものを持ってもらわなくては。
そう思っていた矢先、シャルルから一通の手紙が届いた。
届いたと言っても家にではなく教室の机の中だ。放課後に小サロンを借りたので来てほしいという、用件だけの簡素な手紙。
「手紙の書き方も知らないのかあの男は」
呆れたものだが、長ったらしい挨拶を書かれていても困るだけか。この件も含めて顔を合わせて話をしようと決めて僕は呼び出しに応じることにした。
シャルルとクリスがどのような関係を持っているにせよ僕がクリスの婚約者だ。
実際のところクリスと僕は決して互いに恋愛感情があるわけじゃない。けれど友人として彼に好意を抱いているし、彼を誰よりも理解しているのは自分だと思っている。将来伴侶として共に生きていくことを誓い合った仲だ。誰にも割り込めない固い絆があると信じている。
信じているのに、僕はなぜかあの男の存在が恐ろしかった。
シャルルが今までの僕の全てを壊してしまう。そんな気がしてならなかったのだ。
完膚なきまでに打ちのめし、二度と立ち上がれないように打ち砕いて彼から遠ざけなければいけない。そのためなら多少強引な手段を取っても構わない。そんな風に思う自分がいる。
胸の奥から湧き上がる焦燥を抱えながら僕は彼との二度目の対峙に挑んだ。
そしてそれが僕の運命を大きく狂わせることになったのだ。
クリスから積極的に話しかける姿を目撃するようになり、よく二人きりで話をしていると周囲も気付き始めたのだ。
「ねえ、聞いてくださる?ここだけの話なのだけれど……」
噂好きの生徒たちが自分の目にした光景を親しい友人たちに打ち明ける。しかし、噂好きの友人は大抵の場合同じように噂好き。『ここだけの話』という定型文で始まる話は人を変えどんどん広がっていくものだ。
「私たちそこで、殿下とエイマーズさんが二人きりでお話をしていらっしゃる姿を見てしまったの」
「それはもう仲睦まじいご様子で、私驚いてしまって……!」
こそこそと、だがどこかから漏れ聞こえてくる噂話。
普段であれば聞き流すそれも我が婚約者が関わっているのならそうはいかない。僕は流れてくる二人の噂話を可能な限り収集し、状況を整理することにした。
二人を目撃した者たち曰く。
二人は人目を忍ぶような人気のないところで会っていることが多く、楽しげな笑い声が聞こえてきたそうだ。その様子は非常に仲睦まじく、まるで恋人同士のように身を寄せ合っていることもあると言う。
「クリストファー殿下もエイマーズさんもとても整った容姿をしていらっしゃるでしょう?バラ園で微笑み合っている様子なんてまるで絵画のような美しさでしたわ」
「あら、婚約者のレッドメイン様だって凛々しいお顔立ちよ。殿下と二人並んで立っていらっしゃる姿なんて、眩しすぎて直視できないわ!」
「レッドメイン様は厳格な方でいらっしゃるけど、エイマーズさんは明るくて元気な方よね。真逆のタイプという感じで」
僕とシャルルを比較するような話まで出始めている。これは、本格的に僕に飛び火してくるのも時間の問題だ。
「我々は殿下とエイマーズさんは仲の良いご友人と伺っておりますが」
「ええ、ええ。私もそのように伺っております。けれどあれは……」
「エイマーズさんもお可愛らしくて親しみやすい方ではありますけど、殿下にはレッドメイン様がいらっしゃるでしょう?あれはいただけないわね」
由々しき事態再びである。
僕はもう一度シャルルと話をすると決めた。もちろんその後クリスにも雷を落としに行かねばなるまい。婚約者であり親友でもある僕に黙ってコソコソ会っているということは、『そういうこと』だと受け取られてもおかしくない。両者にきちんと言い聞かせて、立場の自覚と節度というものを持ってもらわなくては。
そう思っていた矢先、シャルルから一通の手紙が届いた。
届いたと言っても家にではなく教室の机の中だ。放課後に小サロンを借りたので来てほしいという、用件だけの簡素な手紙。
「手紙の書き方も知らないのかあの男は」
呆れたものだが、長ったらしい挨拶を書かれていても困るだけか。この件も含めて顔を合わせて話をしようと決めて僕は呼び出しに応じることにした。
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実際のところクリスと僕は決して互いに恋愛感情があるわけじゃない。けれど友人として彼に好意を抱いているし、彼を誰よりも理解しているのは自分だと思っている。将来伴侶として共に生きていくことを誓い合った仲だ。誰にも割り込めない固い絆があると信じている。
信じているのに、僕はなぜかあの男の存在が恐ろしかった。
シャルルが今までの僕の全てを壊してしまう。そんな気がしてならなかったのだ。
完膚なきまでに打ちのめし、二度と立ち上がれないように打ち砕いて彼から遠ざけなければいけない。そのためなら多少強引な手段を取っても構わない。そんな風に思う自分がいる。
胸の奥から湧き上がる焦燥を抱えながら僕は彼との二度目の対峙に挑んだ。
そしてそれが僕の運命を大きく狂わせることになったのだ。
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