悪役令息は結託することにした

木島

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ギリアン伯爵の胸のうち 2

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 幼い頃からレッドメイン殿は勤勉な子供だった。
 伝統と格式を重んじる母君の熱心な教育により貴族としての振る舞いを叩きこまれ、周囲からの期待に応え続けた。
 彼は厳しい伴侶教育を受けてなお、殿下と私以外の前で弱音を吐くことはしなかった。そして、王子の伴侶として申し分のない人物として成長していったのだ。

「クリスと私は親友です。けれど、他のどんな方々よりも強い絆で繋がった伴侶となれるでしょう。苦楽を共にし、二人でこの国のために力を尽くすと誓ったのです」

 そう言った彼の瞳は希望に満ち溢れ輝いていた。
 私はそれがこの世の何よりも美しく尊いものに見えたのをはっきりと覚えている。
 彼は殿下との未来が明るいものと信じていた。二人で手を取り合い、肩を組んで歩んでいくものと思っていた。そして私も同様に彼らを主と仰ぎ騎士として生涯傍に侍ることを疑ってなどいなかったのだ。

 それが形を崩し始めたのは一人の少年が現れてから。

 殿下は本気の恋をし、思い悩んだ。いつの間にかエイマーズ殿と人生を分かち合いたいと考えるようになっていたのだ。

「彼は下位伯爵家の、しかも遠縁からの養子というではないですか。そのような出自のわからぬ方と交流を深めるのは感心しませんね。あなたは王子なのですよ?付き合う相手はよく考えてください」

 殿下とエイマーズ殿と親交が深まるにつれて、レッドメイン殿は目に見えて苛々とし始めた。仲睦まじかった二人の間に亀裂が入り、口論のようになることも増えてきたのだ。

「どうしてそんなことを言うんだ?彼は良き友人だ。お前も友人に身分は関係ないと言っていたじゃないか」
「ええ、ええ。本当に友人ならね。あいつは大方あなたの愛人の座でも狙っているんだろう。浅ましいことだ」
「ヴィンセント、それは言い過ぎだ!」
「はっ!どうだか!」

 結局、レッドメイン殿に何を言われても殿下はエイマーズ殿との関係を断つことはなかった。
 それに危機感を募らせたのかレッドメイン殿はエイマーズ殿に辛く当たるようになり、時に行き過ぎではと思うような振舞いをし始める。それに対して殿下も原因は己にあると、エイマーズ殿と距離を置くべきと頭では理解しておられた。

 だが時に、理性を裏切るのが感情というもの。

「愚かなことをしていると自分でもわかっている。ヴィンセントに不満があるわけでもない。それでも私はシャルルと共にいたいんだ。私は心から愛する人と、隣り合って生きていける未来がほしい」

 殿下は愛する恋人を伴侶とすることを望み、レッドメイン殿とは友で在り続けることを選んだ。

「ならば、責任を果たされよ。殿下と共に歩まずとも、あの方が幸福であれるように。殿下の決定で不幸な人生を歩むことがないように。この決定が間違いではなかったと思っていただけるように。無二の友とおっしゃるならば、そのくらいのことはして当然かと」
「ああ、必ず。私の身勝手で彼を不幸にさせはしない」

 そう答えた殿下の目に迷いはない。私はそのことに安堵すればいいのか、怒ればいいのかわからなかった。

 王族としての立場を考えるならお諫めするべきだし、あれだけ殿下のために研鑽を重ねてきた彼を見限ることを薄情だとも思う。けれど、愛する者と結ばれたいと切に願う気持ちも理解できた。
 二人が年端もいかぬ頃からずっと見守り続けたのだ。騎士としてだけではなく、年の離れた兄弟のように思ってきた彼らには誰よりも幸福であれと願っている。

 ならば私にできることは、彼がこの先婚約の解消は最良の選択であったと思えるよう尽力することだけだ。

 そう思って私は婚約解消を受け入れた彼の背を追った。
 そしてそこで思いもよらぬことを聞いてしまったのだ。

「父の事業の出資者の方が、私のことをいたくお気に召しているようでしてね。万が一私の婚約が白紙になれば後添いとして迎え入れたいと望まれているのです。だから婚約解消が父に知れたら最後、卒業後は父よりも年嵩の男性の伴侶としてラングバードへ嫁ぐことになるでしょう」
「何と……」

 まさか婚約を解消した途端に望まぬ縁談に応じねばならない状況に置かれていたとは。
 これは悠長なことは言っていられない。聞けば相手は隣国の公爵家。話がまとまってしまう前に彼に相応の相手を見つけねば抵抗できない。

 彼からも婚活を助けてほしいと乞われ、私も快諾した。
 デートをしてほしいと言われたことも、彼自身に見合いの練習が必要だと思ったし、私は彼の好みを知るために必要なことだと頷いた。
 この時の私はまだただ彼に見合う相手を探し出し、引き合わせることだけを考えていた。
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