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悪役令息は悪役令息のヤケに巻き込まれる
色気ダダ漏れ護衛騎士
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ドミニク・バローに不信感を抱きつつも目立ったトラブルなく図書館の案内は終了。僕たちはにこやかに笑うバロー氏に別れを告げて王都の城下町へと移動した。
移動する馬車の中、少し拗ねた様子のコンラッド様が僕をぴったりと抱き寄せてバロー氏が触れた手やら肩やらをにぎにぎさすさすする。そんな小さな嫉妬が嬉しくて、僕の方も彼の肩に頬を擦り寄せた。
「図書館は素晴らしい物でしたが、あの司書はいただけない。滞在中図書館にまた行くことがあったとしても、あの男に案内を頼んではなりませんよ」
「行くなとは言わないんですね?」
「言いたいところではあるが……あなたの本好きは昔からよく知っている。あなたの大切な趣味を一時とはいえ禁じることなど私にできはしませぬよ」
そう言って苦笑するコンラッド様。本当にこの人は、僕のことを尊重し大切にしてくれる僕には勿体無いくらい素晴らしい人だ。
だからこそ、その想いに僕も応えたいと思うのだ。同じようにあなたが大切だと伝えたいのだ。
「あなたにダメだと言われたら、少しくらい我慢できます。僕だってあなたを悲しませたくありませんし、それに……」
「それに?」
思ったことを口にすることの気恥ずかしさに言葉を切れば、コンラッド様が僕の手を握りしめて問いかけてくる。微笑んでいるけど誤魔化しを許さない視線が注がれて、顔が赤く染まるのを自覚しつつ俯いてぽそぽそと呟いた。
「独占欲を向けられるの、僕はその……嬉しくなるタイプですから……」
僕は子供の頃からずっとコンラッド様一筋の人生だったから、その大好きなコンラッド様にわかりやすい形で愛情や執着を見せられると喜んでしまう。実に単純な男なのだ僕は。恥ずかしさに俯いた顔を上げられず、僕は彼の言葉を待った。
というか、特に反応がないのだけど何か言ってほしい。えっ、もしかして引かれてる?コンラッド様そういうの好きなタイプじゃなかった?!どどうしよう?!
「ヴィンセント殿……」
「って、え?わっ?!」
俯いたまま頭の中でパニックを起こしかけていると、コンラッド様に突然体を抱きすくめられる。さっきまでも肩を寄せ合っていたのだが、今はぴったりと密着している。密着したせいで首元からセクシーな重くて甘い香水の香りがして、混乱も羞恥も忘れて胸が高鳴った。
そして、僕の耳元で蕩けるような声で囁かれたのだ。それも、するりと反対側の耳を指先で撫でながら。
「そのように可愛らしいことを仰いますな。このまま王宮へ戻らず朝まであなたをこの腕に閉じ込めてしまいたくなる」
「へ……?」
まるで夜を思わせるような甘く掠れた声。言われた言葉の意味を理解するよりも前に僕の腰は砕けた。椅子に座ってなきゃ膝から崩れ落ちてたね。
「そ、それって」
待って。どういう意味?どういう意味だと思えばいいんだ?!とまた違うパニックに陥りかけている僕に追い討ちをかけるようにコンラッド様がそっと耳を食む。いたずらに太ももを撫でる手も手伝って、僕の脳みそは沸騰寸前だ。
「昼の日なかから愛欲に溺れるというのもまた新婚旅行の楽しみでは?」
「なっ、そっ、コンラッドさま?!」
「ふふ」
慌てる僕を見てコンラッド様が溶けた目で笑っている。愛しいと、余すことなく伝えてくれるあの目だ。
まだ日の高いうちから、異国の地の珍しい景色や物に目もくれずお互いだけを求めて欲望に耽溺する。それはなんて贅沢で、不遜で、堕落した行いだろうか。
ああでも、僕の愛しい伴侶殿が望むのであれば、僕だって……
と、彼の頬に手を伸ばしかけたところで我に返った。
「だ、ダメ!ダメですよ?!僕らはクリスとシャルルに同行している貴族でフランジーヌの王族方々にもお心配りをいただいているマグダレートの代表です!そのような自分本位の行動は慎むべきことで!」
「ヴィンセント殿、冗談、冗談です。私とてわかっておりますよ。それだけあなたの言葉が嬉しかったのだと伝えたかっただけなのです」
「冗談……?!も、コンラッド様!」
「ははは」
危なかった。危うくコンラッド様の策略に乗ってしまうところだった。すんでのところで正気を取り戻した僕がぷるぷると首を横に振る姿を、コンラッド様はいつものように鷹揚に笑って眺めている。
いつもこんな風に簡単に手玉に取られてしまう。僕が手練手管で落とした男のはずなのに、今や僕が手の上の子猫ちゃんだ。悔しい。
実際のところ彼の目元は全然笑っていなかったんだが、テンパっている僕はそれに気付いていない。だからその後の不穏な呟きも、綺麗さっぱり聞き逃してしまったのだ。
「何、焦ることはない。丸一日ベッドで過ごすのは国に帰ってからの楽しみにしておくとしよう」
「?コンラッド様、何か仰いました?」
「いや、何も?」
聞こえていたら何か対処もできただろうに、不覚である。ひと月後の僕の体は隅から隅まで骨も残さず丸呑みされたと記しておく。
移動する馬車の中、少し拗ねた様子のコンラッド様が僕をぴったりと抱き寄せてバロー氏が触れた手やら肩やらをにぎにぎさすさすする。そんな小さな嫉妬が嬉しくて、僕の方も彼の肩に頬を擦り寄せた。
「図書館は素晴らしい物でしたが、あの司書はいただけない。滞在中図書館にまた行くことがあったとしても、あの男に案内を頼んではなりませんよ」
「行くなとは言わないんですね?」
「言いたいところではあるが……あなたの本好きは昔からよく知っている。あなたの大切な趣味を一時とはいえ禁じることなど私にできはしませぬよ」
そう言って苦笑するコンラッド様。本当にこの人は、僕のことを尊重し大切にしてくれる僕には勿体無いくらい素晴らしい人だ。
だからこそ、その想いに僕も応えたいと思うのだ。同じようにあなたが大切だと伝えたいのだ。
「あなたにダメだと言われたら、少しくらい我慢できます。僕だってあなたを悲しませたくありませんし、それに……」
「それに?」
思ったことを口にすることの気恥ずかしさに言葉を切れば、コンラッド様が僕の手を握りしめて問いかけてくる。微笑んでいるけど誤魔化しを許さない視線が注がれて、顔が赤く染まるのを自覚しつつ俯いてぽそぽそと呟いた。
「独占欲を向けられるの、僕はその……嬉しくなるタイプですから……」
僕は子供の頃からずっとコンラッド様一筋の人生だったから、その大好きなコンラッド様にわかりやすい形で愛情や執着を見せられると喜んでしまう。実に単純な男なのだ僕は。恥ずかしさに俯いた顔を上げられず、僕は彼の言葉を待った。
というか、特に反応がないのだけど何か言ってほしい。えっ、もしかして引かれてる?コンラッド様そういうの好きなタイプじゃなかった?!どどうしよう?!
「ヴィンセント殿……」
「って、え?わっ?!」
俯いたまま頭の中でパニックを起こしかけていると、コンラッド様に突然体を抱きすくめられる。さっきまでも肩を寄せ合っていたのだが、今はぴったりと密着している。密着したせいで首元からセクシーな重くて甘い香水の香りがして、混乱も羞恥も忘れて胸が高鳴った。
そして、僕の耳元で蕩けるような声で囁かれたのだ。それも、するりと反対側の耳を指先で撫でながら。
「そのように可愛らしいことを仰いますな。このまま王宮へ戻らず朝まであなたをこの腕に閉じ込めてしまいたくなる」
「へ……?」
まるで夜を思わせるような甘く掠れた声。言われた言葉の意味を理解するよりも前に僕の腰は砕けた。椅子に座ってなきゃ膝から崩れ落ちてたね。
「そ、それって」
待って。どういう意味?どういう意味だと思えばいいんだ?!とまた違うパニックに陥りかけている僕に追い討ちをかけるようにコンラッド様がそっと耳を食む。いたずらに太ももを撫でる手も手伝って、僕の脳みそは沸騰寸前だ。
「昼の日なかから愛欲に溺れるというのもまた新婚旅行の楽しみでは?」
「なっ、そっ、コンラッドさま?!」
「ふふ」
慌てる僕を見てコンラッド様が溶けた目で笑っている。愛しいと、余すことなく伝えてくれるあの目だ。
まだ日の高いうちから、異国の地の珍しい景色や物に目もくれずお互いだけを求めて欲望に耽溺する。それはなんて贅沢で、不遜で、堕落した行いだろうか。
ああでも、僕の愛しい伴侶殿が望むのであれば、僕だって……
と、彼の頬に手を伸ばしかけたところで我に返った。
「だ、ダメ!ダメですよ?!僕らはクリスとシャルルに同行している貴族でフランジーヌの王族方々にもお心配りをいただいているマグダレートの代表です!そのような自分本位の行動は慎むべきことで!」
「ヴィンセント殿、冗談、冗談です。私とてわかっておりますよ。それだけあなたの言葉が嬉しかったのだと伝えたかっただけなのです」
「冗談……?!も、コンラッド様!」
「ははは」
危なかった。危うくコンラッド様の策略に乗ってしまうところだった。すんでのところで正気を取り戻した僕がぷるぷると首を横に振る姿を、コンラッド様はいつものように鷹揚に笑って眺めている。
いつもこんな風に簡単に手玉に取られてしまう。僕が手練手管で落とした男のはずなのに、今や僕が手の上の子猫ちゃんだ。悔しい。
実際のところ彼の目元は全然笑っていなかったんだが、テンパっている僕はそれに気付いていない。だからその後の不穏な呟きも、綺麗さっぱり聞き逃してしまったのだ。
「何、焦ることはない。丸一日ベッドで過ごすのは国に帰ってからの楽しみにしておくとしよう」
「?コンラッド様、何か仰いました?」
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