Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか

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4・崩壊と甘癒

叱られるのもいいな

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 自分が言いたいことを言いきった千紗子が、荒い息を整えて顔を上げると、キッチンの入口に立っている雨宮が片手で顔を押さえて体を震わせている。

 (あっ!私ったら、他人の家のことなのに、なんて失礼なことをっ!)
 
 体を震わせている雨宮は、きっと怒りをこらえているのだろう。

 「す、すみませんでした。雨宮さんの私生活をとやかく言う権利なんて私にはないのに………」
 
 慌てて謝罪するけれど、目の前の彼はまだ顔を伏せて肩を震わせている。

 「雨宮さん…、本当にごめんな、」

 「くっ、くくっ…あははははははっ!」

 突然雨宮が大きな声で笑い出した。

 「雨宮さん……」

 大きな口を開けてお腹を抱えて爆笑する雨宮を、千紗子はただ茫然と眺める。
 雨宮は苦しそうに時折息継ぎをしながら、しばらくの間本気で笑っていた。


 「す、すまん…くくっ」

 爆笑は収まったものの、まだ笑いを残しつつ雨宮が謝る。目尻に溜まった涙を指で拭いながら。

 「いえ…失礼なことを言ってしまって、申し訳ありませんでした」

 何がそんなに可笑しかったのか分からないけれど、とりあえず千紗子は自分の非礼を謝る。

 「失礼なことなんて千紗子は言ってない。だから謝らなくてもいいんだ」

 (じゃあどうして、雨宮さんはそんなに笑ったの?)

 「千紗子、口に出して言って?」

 「え?」

 「何となくだけど、俺には千紗子の言いたいことは分かる。けれど、それは『なんとなく』の推測であって、千紗子の考えていることが全部分かるわけじゃないんだ。さっきは俺の体のことを心配して叱ってくれたんだろ?あの時の千紗子はすごく勇ましくて恰好良かったぞ。」

 「勇ましくて、恰好良かった……」

 言われ慣れない言葉を復唱すると、じわじわと恥ずかしくなってきて顔が熱くなる。

 「ああいう千紗子もとても素敵だ。さっきみたいに、俺にはなんでもハッキリ言って欲しい」

 雨宮の甘い発言に、更に顔の赤みが増す。

 「ほら。さっきの続き、言ってごらん?絶対怒ったりしないから」

 甘い瞳で見下ろされて、頭をポンッと一撫でされる。

 千紗子は視線をさまよわせた後、目線を上げて口を開いた。

 「何が……雨宮さんは何がそんなに可笑しかったんですか?」

 千紗子が思い切って聞いたその言葉に、雨宮は嬉しそうに微笑んだ。

 「誰かに叱られるなんて本当に久しぶりで、その誰かが千紗子だった。普段自分の思いをあまり口にしない千紗子に叱られるくらい俺の食生活はホントに酷いものなんだな、と思ったら可笑しくて堪らなくなったんだ」

 「そうだったんですね………」

 「ああ」

 頷いた雨宮がニコニコと上機嫌に続ける。

 「でも、こうして千紗子に叱られるのもいいな」

 「えっ!?」

 「なんだか、奥さんに叱られてるみたいだ」

 「おっ、おく、おくさん!?」

 突拍子もない雨宮の発言に、千紗子の頬がまた赤くなる。

 「千紗子は本当に可愛いな」

 熱くなった頬をするすると撫でられて、千紗子は口をパクパクとさせる。

 「水、ちゃんと飲んでおけよ。俺も風呂に行ってくるから」
 
 楽しげにそう言って、雨宮はその場から立ち去った。

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