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とりあえずお茶。
しおりを挟むさて。
ちょっと途方に暮れて、家に帰ってきた私はとりあえずお茶を飲むことにした。愛用していた急須は強化ガラスのものだったから持ってこれなかった。でも茶漉しはある。湯呑みにお茶を入れて生活魔法で熱湯を入れ、お茶が出たところで茶漉しをとおしてマグカップにととと……とお茶を注ぐ。
うん。
なんかそれっぽい。
緑茶もあまりたくさんあるものではないから、大切に飲もう。この茶筒の中身がなくなる頃には庭のハーブでハーブティーを飲んだり、それなりにこちらの生活にも適応できるといい。
一息ついて石畳に暖炉の部屋を見ていたら、なんだか笑えてきた。
心配なことはあるけれど、きっとなんとかなるだろう。アナスタシアだって、あれだけ責任を感じていたのだもの、めちゃくちゃな無理ゲーは要求しないだろう。
日本から持ってきた食材をなんとかすることにした。
冷蔵庫も冷凍庫もない新しい家では持ってきた食材がどのくらい持つかは甚だ心もとない。冷蔵庫の中身も一緒に持ってきたから、しばらく食事に困らない程度の食材はある。玉ねぎ。にんじん。じゃがいも。豚肉。各種スパイスと調味料。ハム。卵。うんうん。
豚肉が塊であったので塩を刷り込む。本当は重さを測って塩と砂糖をまぶし、ラップできっちりと包むのだけれど、もちろん、ラップなんて便利なものはここにはない。
さらにいうと計量はかりもない。ちょっと恐ろしいけれど目分量だね。
大体重さの3-5%ぐらいの塩と、その半分ぐらいの砂糖でいいはず。
見当もつかないのだけれど、とりあえず心持ち塩を多めにすりこんでおく。それから新しい布巾できゅっと包んだ。
料理するときは塩抜きをしたり、塩を使わずにスープにしたりしなければいけないけれど、これで腐敗せずに熟成するはず。うまく燻製させたり乾燥させると生ハムになるんだよね。アナスタシアがくれた「知識」にあるかどうか後で見てみよう。
今度、庭のハーブを今度取り込んで乾燥させよう。
乾燥させたハーブの葉で包んだら塩豚だってきっと美味しいものができる。今回は無理だけど、いつか豚を潰したら大量に肉の保存を考えなくちゃいけない。そうなったら長期にわたって食中毒を起こさずに食料の保存ができるようにしたいものね。
牛乳は大きめのガラス瓶に入れてこちらに送ってもらったのだけれど、これもできるだけ涼しそうなところに置く。
それからオレンジというか、ぽんかん。実家から送られてきた、と知り合いに大量にわけてもらったもの。
2キロ近くあったんだよね。
いくつかはそのまま食べることができるけれど、そんなに長く持つものでもないだろう。
作っちゃおうかな、マーマレード。もともとマーマレードを大量に作って職場の同僚に分けるつもりだったのだった。
でもばん!と二袋買った砂糖を今すぐ使うのはもったいない気がする。きっとこの世界では高級品だと思うし。
ちなみに、ビニール袋入りだった砂糖は、この世界にくる時に、琺瑯容器に移し替えられている。
琺瑯、はまって揃えたんだよね。よかった。シリコンの蓋は全滅だけど、見せる収納用の琺瑯蓋の物もあるよ。
台所のものを色々眺めていたら冷凍していた作り置きのミートソースが溶け始めているのに気づき、「あ、これはマーマレードどころじゃないや」と苦笑した。
今晩はパスタだね。
マーマレードは明日にでも考えよう。それにぽんかんはご近所さんにおすそわけしてもいい。
うん。そうしよう。
屋根裏部屋から食器や食材を一階へ持ってくるために何度も往復しながら私は考えた。
とりあえず一人暮らしを実現させるために、ご近所さんとの関係性は不可欠だ。
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