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アーロン

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「だからといって神を呼び出すやつがあるか!」

アーロンはオカンムリである。

ふと思い立って暖炉の前でスキルを使ったのだ。
アーロンが来るかな……と思って。

果たして、布ゴミを探っていたらアーロンが来た。

「だって、寂しかったんだもの」
「人間風情がホイホイ呼び出せると思われては困る」

アーロンは顰め面だ。

「あ、あと、お供物をしたかったの」

ジャムを小さなお皿に乗せて出す。

「味見してみて? 一番に食べて欲しかったの」

「いや、それは、でもアナスタシア様を差し置いては……」

アーロンは意外と甘い物が好きなのかもしれない。目に見えて狼狽した。

「アーロンのお墨付きが出たらアナスタシア様にもお供えします」


そう言うと、アーロンの中で何かスジが通ったみたい。そうか、とつぶやくとパクリとジャムを口に入れた。

「うまい」

そう! 良かった!

それじゃあ、どうぞ、と小さなお皿にもう少し乗せて渡す。思い立って紅茶も添えた。
ロシアンティーだよ。

自分の分も入れる。

「しかし、供物は神棚にあげてくれ」
「でもスキルも使いたかったんだもの」

これは嘘じゃない。レベルアップが近いと言われたし。
それに神棚はアナスタシアを祀っているんだよ。

「私はアナスタシア様の守護のものだから、アナスタシア様から分けていただける」


おお。そうなんですか。
意外とアットホームな神様の台所事情。おすそ分けとかしてるんだね。

「それとはちょっと違うんだが……」

でも、そうなると、やっぱりスキルの上達が大切だ。
だって、きちんと定期的に売れるものが欲しいもの。そうすれば、お供物もレベルアップするよ。

ガラスは売れそうだけど、あんまりガラスだけに頼るとすぐに目をつけられそうだ。
すでにハーマンさんが来てるし……。

「ああ」

私の考えていることがわかったようで、アーロンはちょっと左指を動かすような仕草をした。

「フィルタリングなら、もう手持ちポイントで購入可能だぞ。どうするか?」


ポイント制なの?!
びっくりだ。

「まあな。レベル1のフィルタリングでいいか」

「もう一つは事業系資源ごみだったっけ」

「ふむ。でもあれはもう少しポイントがかかる」

そうなんだね。

「フィルタリングのレベル1ってどんなことができるの?」

アーロンの説明によると、本当に簡単な物の分離だそうだ。

例えばプラスチックのボタンがついたシャツや、瓶のプラスチックラベルがついたまま資源ごみに出されていた場合。

今まではそもそもスクリーンに出てこなかったけれど、これで出てくる。そして、神力を使うことで分離させることができる。

「布ものの幅は広がるぞ。長めの縫い目をほどけるようになるにはもう少しレベルアップしなくてはならぬが」

長めの縫い目が解けるようになるとジッパーが外せる、と聞いて一気にテンションが上がった。
スーツとかワンピースとか、ジッパーなしのものだと、カジュアルな物が多いけど、ジッパーを外せるようになると幅が広がるよね。

ウールみたいな、厚手の布地が沢山手に入りそう。

「生地は全て天然素材なのに縫い糸だけが化繊の服もあるからな」

アーロンの説明にびっくりしてしまう。なんと! そんなことが!

「それじゃあ、フィルタリングお願いします」

頼むとアーロンは頷いて私の頭の上に手をかざした。

金色の光がキラキラと光って……それから私の中にそっと入って行った。

「ほら、スキルを使って見るといい」

頷いて発動させると!

すごい。今まではなかったような量の資源ごみがスクリーンに登場した。特に服類。
想定通りシャツは多かったけどそれ以外にもたくさん……!

「洗濯用のラベルが化繊のものだな」

あー。

そういうのが全部今までははねられていたのか……


素材の幅が一気に広がったし、ものによってはうまくほどけば型紙もとれそう。
デニムやシャンブレー素材のシャツやジャケットもあってかなり嬉しい。ズボンはまだないけど……。

早くジッパーを取れるようにしたい。

フィルタリングが必要な素材はスクリーンに出てくるとき赤い光が点滅する。スクリーン下部に出てくるリストをタップすると、取り外さなくてはならない部分が光るので確認ボタンを押して取りはずす。

確かに疲れる。神力を使っているんだね。

「まあ、神力を増やすことだ。さすれば、できることも増やしてやれる」


となりでアーロンが言った。
そうか。
スキルはできるだけ使ったほうがいいんだな……

「それは、そうだ。使えば使うだけ神力はのびる。とはいえ使いすぎると障害もでる」

疲労骨折みたいなものかな。

言葉はきついもののアーロンの声はきれいだと思う。落ち着くし、深みがある。さすが神。

心の中でアーロンを讃えていたら突然アーロンが真っ赤になった。

「おま……お前は……」

なんだろう、と顔を見てふと気づく。
「あれ、アーロンが霞んでない……」

前に会った時はインクの薄くなったプリンターの印刷みたいだったのに。

「私は神だからな。人に讃えられれば存在が確たるものになる」

本当?!

意外な神と人との関係!

ビックリしてたら「パッパパー」とファンファーレが鳴った。

《称号『神を讃えるもの』を取得しました!》


「アナスタシア様、おやめください……」

アーロンが、ガックリうなだれた。

えーっと、よくわからないんだけど、アナスタシアのジョーク、なの?
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