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職人女子の心意気

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「良かったの?」

成り行きで、ハーマンさんとの取引を阻止しちゃったけど、継続的にアナベルさんと取引をできるとは限らないのでちょっと心苦しい。

「いいんです。おっしゃっていただいたように女性に直接売り込んでみます」

「……そうは言ってもアナベル、女は簡単には顧客層にはならんぞ」

親方が口を挟む。

確かにこの国では男性がお財布を握っていることが多いんだよね。
例外的なのは市場でやり取りをするおかみさんたちで、彼女たちは実は自由になるお金をこっそり隠し持っていたりする。
でも、靴や革製品は高いから簡単には新品は買えない。アナベルさんの継続的な顧客層は……どうなんだろう。

「それ、私、考えていたんです。親方」

「ほう」

「ここ数年で私みたいな若い女の子が増えてるじゃないですか」

アナベルは親方さんの目をしっかりと見た。

「なるほど……徒弟として働いている子達か……」
親方さんが唸る。

「はい。彼女たちをメインターゲットにします」

高給取りではない。というか、徒弟は基本お給料はもらえない。でも、作ったものを売ったり頼まれ事をしたりして現金収入がある若い女の子たちを中心に売り買いをしたいのだ、とアナベルさんは言った。

「このまま人数が増えてくれれば、女性優先の職人というのはむしろ強みになるかと……」

「ううむ……」

親方さんはまだちょっと半信半疑だ。

「ハーマンさんとの関係にひびを入れてしまったかもしれず、申し訳ありませんが……」

「いや、それはお前が気にするようなことじゃあない」

親方はその部分は特に気にしている様子もなく軽く笑った。
「あれは確かに買いたたきすぎだが、まあ、様子見の値段だろう」

あ……そうか。あそこから交渉してくはずだったんだ。

「……でも、他の人はあんな低い値段から始まらなかったですよね、親方……」

「そうだな」
親方は頷いた。
「だから俺は蹴ったのは正解だと思っている。まあ、あそこで交渉できるようになりゃ一人前だがな」

「お恥ずかしいです……」

まあ、なんだ、お前が好きなようにやってみろ、というと親方さんは豪快に笑って離れていった。

アナベルさんは真面目な顔をして「足型を作らせていただいてもいいですか?」と尋ねた。
「よろしかったら、私の部屋はいががでしょう。人目につきませんから」

あー。スカートをたくし上げたりするもんね。
チャーリーがちょっとモジモジしているのに気づいたので、買ったばかりの手綱を渡して、古い手綱を返してきてもらうようお願いする。

「私はこれが終わったら市場まで自分で帰るから先に市場に直行していて」
「マージョ大丈夫か? 迷子にならないか?」

子供じゃないから大丈夫だよ! ていうか、そういうチャーリーもここに来るとき迷いかけてたよね。大丈夫かな……。

「俺は大丈夫だよ!」
チャーリーは胸を張って出ていった。
その背中を見て、アナベルさんと私は思わず、ふふっと顔を見合わせて笑ってしまった。



でも、チャーリーに席を外してもらったのは大正解だった。
アナベルさんの部屋でとっても話が弾んでしまったのだ。
考えてみたら、この世界に来てから同じくらいの年ごろの女の子と話をしたのは初めてかもしれない。

子供とか、年上の人ばかりだったものね。
アナベルさんは、聞き上手の話し上手だ。
羊毛やラノリンの処理をどうしようかって思っていて……
なんて話をついついしてしまった。そしたらアナベルさんが食いついてきた。

「あのですね、実は職人女子会があるんです……よかったらマージョさん、参加しませんか? 一緒に仕事をしたい人がいるかもしれませんよ?」


職人女子会?!

いや、でも私は職人というか……?!

「トーマスさんから伺ってます。手芸品とか、色々市場で売ってらっしゃるって」

あら!

アナベルさん!

目が今キラリーンって!
って!!

「今日はホワイトさんの荷馬車に乗せてもらって来たので夜遅くまではいられないんです。でもポニーを買ったので、そのうちゆっくり来れると思います」

そう言うとアナベルさんは頷いた。パールの手綱を買ったばかりだものね。

「2週間もすれば足型ができます。本当はそこで一度最終確認をしたいので、来ていただけるといいのですが……そのときに私の部屋に泊まるとか、…あの……いかがです?」

えっ……。それは、とてもありがたいけど……でも……。

「あ、あの、割とあるんです、同性のお客様に泊まっていただくとか!」

「いや、でもそれは申し訳なくはないでしょうか、さすがに……!」

「そしたら、その夜に合わせて女子会をセットします」

「……!」


「私はマージョさんに泊まっていただけると嬉しいです」

「わ、私もありがたいですけど、でもどうして……」

「職人女子の心意気です。信じてあれだけのお値段で発注していただいたんですもの、いい靴にします。絶対」


あ……。知ってる。
これ、確かに職人さんだ!

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