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風颯に至る旅路
その3
しおりを挟む「ん…俺なんで寝てるんだ…」
ソファーの上で体を起こし、目を擦る。なんだか、体の動きがいつにも増して鈍い。背負った呪いの類はこの前綺麗になくなったはずなのに…何でだろう。
現時刻23:00。
お百度参りの最後の日がもうすぐやってくる。
伏見さん達と天照で話してもらい、颯人の体を神社に移動して、みんなが出羽三山神社で待ってくれている。
早朝にならないと山に登れないから、まだ俺は動けないけど。あともう少しで…きっと颯人に会える。
この前の医療産廃事件が落着して、掃除も山神への報告も終わって、早めに寝ようと思ってたんだよな…それで、珍しく月読がラーメン作ってくれて食べたところまでは覚えてる。
「真幸、目が覚めたか」
「天照…俺いつの間に寝てたの?」
天照がリビングのドアを開けて中に入ってくる。
なんで部屋が真っ暗なの?俺が寝てたから消してくれたのかな。そしていつの間に浴衣に着替えたんだ?
「夕餉の後には寝ていた。吾と月読以外は出羽三山に行かせている。手伝いが必要なのだ」
「えっ…そうなの?魚彦もか?累も?」
「あぁ、残っているのは我らだけだ。累は…真幸がゆっくり寝られるようにと、連れて行ってくれた」
「そっか、わかった」
「……」
うーん??天照がなんか変だ。仄暗い表情をしてじっと見つめてくる。
「閨にゆこう。明日は最後の詣になる」
「うん…」
お姫様抱っこで抱えられて、リビングを出た。
根太を変えたばかりの廊下は静かな足音しかしない。苦労して変えた甲斐があったな…。家を修繕するのは楽しいよ。
颯人が来たらきっと喜ぶだろうな。
細かな細工の入った古いガラス戸の向こうは中庭。ここにもクサノオウがたくさん生えてるんだ。ふふ。
ん…?天照の体温がいつもより高い気がする。
「天照、具合悪いんじゃないのか?熱があるみたいだけど」
「熱、熱か。そうだな、吾は病にかかっている」
「えっ!?何だよそれ…知らなかったぞ」
ベッドに降ろしてもらって、天照を引っ張って横に座らせる。
項垂れたままの顔が赤い。…もしかして風邪じゃないのか?長い白髪をよけて首の脈に触れると、異常な心拍数が伝わってくる。
「脈がこんな早くなって…魚彦を喚ぼう。体の調子おかしいなら言ってくれよ。ずっと我慢してたのか?…気づかなくてごめんな」
「魚彦は喚べぬ。あちらは強固な結界の中だ。其方は心配してくれるのだな…」
「当たり前だろ。仮にも俺は依代だぞ。天照は大切な仲間だよ。心配するのなんか当然だ。伏見さんに電話してみるから、天照喋ってくれるか」
こりゃもう相談してみるしかない。結界から出られれば転移できるんじゃないかな。
スマホをぽちぽちしていたら、それを取り上げて天照が首を振る。
…なして?どうしちゃったんだ?天照が変だ。
「…吾のことが好きか」
「ほぇ…?どしたの急に?」
「答えてくれ」
前髪で顔が隠れて表情が見えない。
具合が悪いからなのかな…どうも様子がおかしい。
「嫌いなら一緒に寝ないだろ。颯人の代わりしてくれてるのはわかってるし。
急にどうしちゃったんだ?大丈夫か?」
「…不安でたまらぬ。胸が痛い。手の先まで痛みが広がって、死んでしまいそうだ」
涙をこぼしながら訴えられて、びっくりしてしまう。夕飯までは元気だったのに。そんなに重たい病気なのか?
「なんで言わなかったんだ…俺が出来るだけ回復してみるから。月読は?どこに…んん???」
手を動かそうとして、体に力が入らないことに気付いた。あれ…俺も体が熱い。なんだこれ。
「…身体に薬が回り切った。もうこれしか方法がないのだ、すまぬ」
「たか…あき?」
俺を布団に寝かせてるけど、天照が寝た方がいいんじゃないのか?そんで、俺の髪の毛を編み編みしてるけど、なんで??
「閨の支度だ。動けば絡まる。」
「支度?動くって…いつもそんな事してないのに…ていうか体の具合は?手が痛いんならそんな事しなくていいよ」
「…大丈夫だよ。兄上は具合が悪いんじゃない。僕も同じだから」
「月読!?どこにいたんだよ…って…え?」
両手が突然現れた月読に引っ張られ、万歳の形になってがっちり抑えられた。
「月読…何してんの?」
「僕はね、真幸君が思っているような綺麗な神じゃない。狡猾で、卑怯なんだ。何かが欲しいって本気で思った事がないから、加減がわからない。これしか思いつかなかった」
「どう言うこと?ちょ、離して」
「離さないよ。颯人だけをずっと想ってるのに、出会った全ての者にあたたかさをくれる君が欲しい。
その優しさが僕たちだけのものになればいいって…ずっと、ずっと思ってた。僕も病だ。恋の病なんだよ」
さらさらと、頭の上から灰色の髪の帷が降りて来た。
月読が苦しそうに眉を顰めて、歪んだ微笑みを浮かべ、頬に、額に…手首にたくさんキスされる…。手首のキスはよろしくないなぁ。
というか、恋の病ってどう言うこと?俺のことが好きなのか?性愛ってこと?
…もしかして俺、危機的状況??
「今宵、真幸を妻とする。子を成し、吾らの嫁として迎えるのだ」
今度は白髪に囲まれた。天照の唇が俺の唇に重なって、舌を差し込んでくる。
熱い体温と甘さを染み込ませて、咥内を蹂躙される。口の中が熱い…どうしてこんな事をするんだ…。
「っ……や…っ」
「かわいい…嫌がってる顔も凄くいいね真幸君…」
顎を押さえて口を開かされ、舌を吸われる。月読が顔を寄せて、それを至近距離でじっと眺めているのがわかる。
浴衣の合わせから天照の手が入って、皮膚を滑る。重たい足を必死で動かしても、天照が体で布団に押し付けて来てどうにもならない。
「っ…はぁ…けほっ。やめろって!やだ…ふぁ…んんっ…」
「やめないよ。兄上の手で感じてるの?気持ちいい?敏感だねぇ…」
月読が俺の手首を浴衣の紐で縛り上げた。そんな事しなくたって体が動いてないのに。もしかして夕飯に一服盛られたのか…あー、やられた。
「やっ!み、耳かじるなっ…」
「ねぇ、どこにキスするかで意味が変わるの知ってるよね?颯人にはキスしないって言ってたけど、どうして意味を知ってるの?調べたんでしょ?」
「ちが…本当にやめ…っ!うぁ…」
「かわいい…かわいいな…兄上が子を成したら、次は僕だからね」
浴衣がはだけて、四本の手が身体中触ってくる。ぞわぞわと肌が粟立って熱を生む。
おかしい、俺はこんな風にすぐ身体が反応するはずがない。鈍いって散々言われてたのに…何でこんな…。
やだ、こんなのやだ…。
「ばかっ!俺は男だ!それに子供を作れないって知ってるだろ。何血迷ってんだ!」
「今は女子だ。元々、神はどちらでもかまわぬが」
月読と天照の瞳が暗闇でぬらり、と濡れた光を発している。
二柱とも頬が紅潮して息が荒い。俺の裸見て興奮するのやめろっ!
「ここに、物実がある」
「いっ…」
天照が指で下腹部をぎゅっと強く押してくる。痛い…。
道満に切られた傷跡を刺激されて、冷や汗が出てきた。
「颯人の遺した勾玉だ。真幸の体に溶けている。神は生殖器を必要としないが、お主が人でもある以上それが適用されるかわからぬ。
人は物実と、白き潮があれば子がなせると暦書にあった。
吾と颯人の誓を知っているだろう」
「…首飾り噛み砕いて、神様を産んだやつだろ」
「あぁ、そうだ。其方は神であり、そして人でもある。同じことができよう。このような形でするのは初めてだが」
「じゃあすんな。そんなに子供が欲しいなら、物でやればいい」
「子が欲しいのは縛りとしてだ。目的は其方なのだ」
真剣な顔のままで見つめられて、冷や汗が止まらなくなる。
この目、知ってる。俺は、これをよく知ってるんだ。
中務の人が言ってたの、あながち間違いじゃないのか。子供が作れるって言ってたアレだ。
「体を重ねて熱を分け合いたい。真幸と一つになりたいのだ。颯人の痕跡を消してやる。忘れてしまえばいい、お前が欲しい」
「どうして…?」
「「…愛してるから」」
二人の揃った声に、悲しさが滲んでいる。
天照が震える手で俺の頬を撫で、再び唇を重ねてくる。
何度も唾液を流し込まれて、それを飲み込むしかない。酸素が足りなくて、鼻から吸っても追いつかない。
「僕たちは、天津神だ。遠い昔に兄上が颯人を高天原から追放して、あれは豊葦原中国を見守る役目がある。弟は現世が好きで、真幸くんを好きでいる。颯人はもう殆ど国津神なんだ。出雲にも祀られてるだろ?
弟が戻れば僕たちは…真幸君と一緒にはいられない」
瞼を開けると、不安で仕方ないと顔に書いてある月読の顔が目に映る。天照もおんなじ顔してる。
そんな顔してこんな事されるのは、さすがの俺も初めてだな。
「すまぬ…許してくれ。憎まれても、蔑まれても、真幸と離れたくない。お前の優しさを覚えてしまった今、離れたらおかしくなってしまう」
天照が俺の首に噛みついて、胸を摘まれる。
何かを言い出す前にベッドに上がって来た月読が顎を掴んで口を塞がれた。
「んふ…ん…くるし…」
肌を滑る熱い手のひら。神経が集まる場所に唇で吸いつかれて、ピリピリ電気が走る。
呼吸を制限されて、心拍数が上がって目眩がして来た。
唇を貪りながら、譫言のように俺の名を呼ぶ月読はずっと泣いてる。
大人しくされるがままにしていると、二柱が動きを止めてじっと見てくる。
「…はぁ、はぁ…なに?」
「急に抵抗しなくなったから…どこか痛い…?」
「別にどうもしないよ。これで満足するなら好きにして」
「よいのか?」
「よくないけど…仕方ない。俺は、誰にも心をあげられないから。
国護結界を成すには、道満を倒すには天照と月読が必要だった。利用されると分かっていても、俺に降りてくれて感謝してる。だから体はあげるよ。
数ヶ月間一緒にいて楽しかったし、幸せだった。颯人がいない寂しさを忘れるくらい、大切にしてもらっていた。
それでも、心は駄目なんだ…ごめんな」
「「……」」
二人が黙り込んで、首を垂れてしょんぼりしてる。
月読は瘴気出し始めるのやめて。仮にも三貴士なんだから洒落にならないよ。
「き…記憶を消せば颯人が消える!そしたら、そしたら…」
「月読…そう荒ぶるでない。落ち着け」
「兄上と僕は違うんです。元々求められたのは兄上だけだった。
僕は無理やり降りたのに、真幸くんは優しさをくれた。僕たちよりも明らかに弱いのに、守ってくれたんだ。
他を守ることしか知らなかった僕は甘やかされて、僕のことを思う言葉に幸せを感じて、夢中になった。
誰にもできなかった、僕を守るなんて事を…簡単にしちゃうんだよ君は。」
「普通の…事だろ?」
「普通じゃない。僕が誰だかわかってるだろ。兄上がこの世で一番偉い神様だって知ってるだろ!僕はその次だぞ…。
みんなが顔を伏しているのに、君だけは顔を上げたままで微笑んで、僕をちゃんと見てくれる。
頭を下げてる者にはわからない、僕の寂しさを知ってくれる。癒してくれる。
だから欲しい…お願いだから僕だけ見てよ…!」
ありゃ…天照がびっくりしちゃってるぞ。月読は大粒の涙をこぼして、しゃくりあげて泣いてる。
二人とも思い詰めちゃった感じかなぁ…。うーん。
でも、ごめん。
一回とどめを刺します。こんな事はもうさせたくない。天照も月読も大切だからさ。
「俺は、頭が忘れても心は忘れないよ。いつかきっと思い出す。明日取り戻せるはずだった颯人のことをずっと思って、人生を終えるだろうな。
俺の一番奥には颯人がいる。颯人の生死を左右したのは俺だけだ。
俺の生死を左右するのも颯人だけ。他の人は俺たちのいる場所には入れない」
顔を手で覆った月読がわんわん泣いて、天照がそれを抱きしめて静かに泣き出してる。
高天原で、生まれてすぐに一番偉い神様になって。二柱だけで支え合ってやって来たんだろうな…。
辛いことがあっても、誰にも頼れない頂点故の孤独を抱えている。
偉くなりたくないと思ってる俺は、気持ちが嫌と言うほどわかる。
俺と違って二柱は拒否権、なかったもんな。
「いやだ…真幸くんが欲しい。離れたくない…うっ、う…ぐすっ」
「もう、しょうがないな…体が動かんからこっち来て。抱っこしてやるから。縛ったの解いてくれ」
「やだ!やだ!真幸くんに触ったら鎮められちゃうもん!僕は納得しちゃうんだ!」
「ありゃー、完全に駄々っ子だな。天照は?おいでよ」
「…真幸…」
月読を手放し、震える手で俺の手首を縛った紐を解いて、擦れた跡を優しく撫でる。俺の体を起こして、天照が抱きしめた。
手籠にするならさっさとすればいいのに。できないんだろ?
俺が寝てたんならガッチガチに縛り上げて、さっさと突っ込めば良かったはずだ。
下着がびちょびちょなんだよ。俺が傷つかないように薬まで用意してる。
ほんとにもう…おばかさんだな。
「其方を誰にもやりとうない。離れたくない。お前が作る膳も、伏見たちと視線をかわせずに寂しく微笑む顔も、吾に向ける優しい顔も好きだ。」
「んー…正直な話、好きって言うのが性愛なのが良くわからん。俺は生まれついた環境のせいでそっち方面には疎いんだ。
愛するってのは自分の全部をあげるって事だろ?心は上げられないから、妃菜と同じようにごめんなさいって言うしかない」
「…何故颯人はお前の一番奥にいる?どうして真幸の心は颯人のものなのだ」
肩に頭を擦り付けて、天照が苦しそうに伝えてくる。
月読が一人で耐えきれずに体ごとぶつかって来て、みんなでばたんと布団に倒れ込んだ。
なーにやってんだか…もう。
鼻から息を吸い、口から吐き出して薬の効果を消していく。
こんなものどこで手に入れたんだよ。ホルモン制御を崩す薬じゃないか…まったく。
「俺の心が俺のものだと尊重してくれるから。恋してチューするのはして欲しがってたけど。俺の意思を大切にして、信じて、疑わない。俺が本気で嫌だって言えば二度とやらないんだ。
ずっとずっと俺が立ち直る、立ち上がる、達成するのを待ってくれる。
俺の心は捧げてないよ。お互いの心中に俺たちは存在してる」
「そんな、そんなの愛し合ってるってことでしょ?夫婦になれるのに、どうしてそうしなかったの?」
「わかんない。体を重ねることが幸せってのに俺は結びつかないし、颯人が生きてるだけで満たされる。手を繋いでくっついて、傍に居てくれるだけでいい。」
「まぐわいをしたくないと言うことか?」
「…それについてはその…うーん。俺は体を使い古してるだろ?だから颯人にはあんまり良くないような気がする。
でもさ、心は誰にも上げたことないんだ。それこそ颯人がいる場所には誰も入ったことがないし。
みんなのことも好きだけど、種類がそもそも違う。
俺は皆んなに頼られたいし必要とされたいけど、俺が身を預けて本当に休める場所は颯人だけが持っている。…そんな感じ」
「僕たちと同じじゃないか。全部を明け渡して安らげるってことでしょ。なんだよ。颯人だけずるいよ…僕も真幸君のそばでしか安らげないのに」
「俺も知らないうちにそうなってたんだもん…天照にも、月読にも俺が期待させてたんだな、ごめん…」
「吾らがした事を怒るのが普通なのに、なぜそのように気遣う。」
「気遣うと言うか、なんというか。俺と出会う人たちはそう言う運命なんだろ?
星野さんが言ってたよ。輪廻の中でお世話になったり、縁があった人が何度生まれ変わっても身の回りに集まるんだって。それって素敵なことだと思う。天照も月読もそうなら大切にしたい」
「運命…颯人だけがそうなのではないか」
「なんで限定するの?恋とか愛とかそう言うものって名前をつけただけだろ。運命ってのは巡り合わせを命でつなぐんだ。
それを拒否したってどうにもならん時は来る。そしたら受け止めた流れを自分で努力していい方に変えるしかない。
運命を切り開くってそう言う事だと思うよ。
運命にただ嘆くなら誰にでもできるけど、死ぬほど足掻いて幸せになるってのが命が生まれる意味だと思う。俺はね」
月読が顔を上げる。涙に濡れたその頬を撫でて、雫を拭いてやるとその手をしっかり握ってくる。
「…僕たちの運命を、変えろって事?」
月読の答えに思わずにっこりしてしまう。子供みたいに素直で可愛い。
神様たちはいつだってそう。嫌な言葉を留めずに前向きな言葉を汲み取ってくれる。
「うん。出来ないって決めたら本当にできない。結果が変わらなくても過程が変わればいつかきっと結果も変わる。
不可能なんて存在しないよ。
種を植えて、それが芽吹いて、花が咲くように…時間がかかっても変化して、望んだ物じゃなくても必ず何かが実る。
挑戦しなければ何も起こらないだろ?
俺は天照も月読も大切だから一緒にいたいとは思ってる」
「それでも颯人のいる場所には行けぬと言うた」
「そうだよ。颯人が一番なんでしょ?恋してちゅーするんでしょ?僕もしたい。真幸君を手に入れたい」
「ぬーん…手に入れるってのがわからん。その人の心はその人のものだし、俺はそりゃ…その、颯人が一番だけどさ。
相棒だから恋とかちゅーとか、何かの形を今はまだ嵌めたくない。
妃菜を見習えってーの。一生懸命俺を好きになってくれて、飛鳥がそれに惚れ込んだんだぞ?誰かの心に入りたいなら貫き通すのがカッコいいと思うよ。」
「…真幸は残酷だ。」
「餌くれないのに餌をぶら下げるんだね、真幸君は」
そう言われてしまうと返答に困るんだけどぉ…。そもそも二柱の気持ちは恋なのか何なのか。微妙に違う気もしている。
「逆に聞くけど、俺性的行為にトラウマある人だけどそれを無理やりしたいの?好きな人に?」
「うっ…」
「俺なら颯人みたいにするけどな。死ぬまでそばに居て、何でもない事で笑い合えるような関係になりたい。エッチな事しなくてもいいでしょ?」
「ぬ…う…」
「ウズメさんが言うように肉体言語が必要になるって言っても年数かかると思うよー。千年とか二千年とか。」
「「むぅ……」」
二人は口をとんがらせて、額を押し付けてくる。
なんとなくわかった。暉人も月読も子供なんだ。純粋な存在の神様で、ずっとてっぺんにいたから他の人をよく知らないんだな。
月読が言う通り、人を守ることしか知らずに、寂しさを癒すこともなく生きてきて。はじめて優しくされて人を愛することを知った。
そして、俺としては妙な親心がある。
世間知らずの息子達が初めて愛を受け取ったなら、この先で何かを得られるんじゃないか?
それを見守ってやりたいとは思う。
…これってタラシと言われても仕方ないのかも知れないなぁ。颯人ならこういうのはっきりわかるよな、多分。
颯人は…奥さんいたしなぁー。子供もいるしなぁー。慣れてるよなー、そう言うの。
「俺だってそう、タックルできりゃ苦労しないよ」
「…颯人の奥殿の話か」
「そっすねー」
「真幸くんはそれで遠慮してるの?」
「ん゛ぅ…」
痛いところをついてきたな。
正直わからん。そもそも手に入れるとか結婚するとか、エッチなことに価値が見出せない俺がそれを欲しがるってのがわかんないままなんだもん。
「ふーん、まだちゃんすあるって事だね」
「なるほど、なるほど」
「何でそうなるんだよ。訳わかんない。」
「お互い子供だと言うことだ。欲しがるうちは恋で、与えたいのは愛というらしい。吾がしているのは恋なのだろう」
「僕もそうなのかな…難しいね恋愛ってさ」
「それは全くの同意だな」
おかしいな、さっきまで何考えてるのかわかんなかったのに。俺たちみんな一緒だったのか。
「颯人が戻れば全てがわかるだろう、真幸も、吾らも」
「兄上、作戦会議しましょう。真幸くんのそばにいるにはどうしたらいいか」
「そうしよう。真幸ははよう寝るがよい」
「おい。手篭めにしようとしてたくせに。何だそりゃ」
「ふふ、おかしい…真幸君のそばにいるといつもこうなる。幸せだよ。僕は真幸君に出会えてよかった。絶対離れないからね」
「吾もだ。遠い未来の先に…吾が蒔いた種が花咲くとよいな。真幸、すまなかった」
「僕も、ごめん」
二人がぺこりと頭を下げて、俺もようやくホッと胸を撫で下ろす。グーパンチせずに済んで良かった。
「いいよ。まぁあれだ…神様になったんならどうせ長生きだし。これから先もよろしく頼みます」
「「応」」
やれやれ、俺の人生は波瀾万丈だな。
颯人が大人しく帰ってきてくれるといいけど。
「あっ、浄化の術があったんだった。おぱんつ綺麗になあれ⭐︎」
「…なんと、催淫効果があったのか…」
「もったいなーい」
「うっせい。はよ寝ろ。…明日はまたどーせ一波乱あるんだ。作戦会議するなら静かにしてくれよな」
俺の胸元に顔が乗った二柱が頷くのを見て、目を閉じた。
応援ありがとうございます!
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