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第54話:魔法クラブその2
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――――――――――学院高等部魔道実習室にて。魔法クラブ部長ラン視点。
クラブの皆が興奮気味だ。
何せ今年は新入部員が多いから。
「五人だってよ」
「ああ、聞いた。しかもクインシー殿下と噂の聖女パルフェが含まれているんだろう?」
近年魔法クラブに入部するのは一人二人という年が続いていたのだ。
宮廷魔道士人気がないからかもしれない。
でも今年は何と五人。
しかも皇太子間違いないと言われているクインシー殿下と、建国祭で驚異の祝福を見せ付けた新聖女パルフェがいる。
どんな幸運だ。
「しかも女子が三人だって」
それな、重要なポイントだ。
聖女パルフェの他、エインズワース公爵家のユージェニー嬢とケイン子爵家のネッサ嬢と三人も女の子が入部した!
イヴ先輩が卒業してから女の子いなかったのに!
イヴ先輩女に見えなかったし!
ああ、もうユージェニー嬢とネッサ嬢は実習室に来てるんだけど、話しかけられないよ。
というか従者付きの貴族令嬢に話しかけるって、平民の自分にはハードル高いわ。
「ラン、聞いたか?」
「何を?」
「聖女パルフェは聖魔法だけじゃなく、全ての属性の魔法が使えるって」
「聞いてる。パルフェさんに見てもらえば、組み替えた魔法使っていいって許可をアルジャーノン先生にもらったんだ」
「マジかよ?」
「僕、弟に聞きましたよ。魔道理論の講義中に七属性全ての魔力塊を同時に作り出したとか」
「「「ええっ?」」」
そんなことって可能なのか?
いや、魔力塊を苦もなく形成できるなら、コツを教えてもらいたいくらいだ。
宮廷魔道士を目指す自分には必要な技術だから。
「こんにちはー」
来た、女の子の声。
聖女パルフェか?
「パルフェ様!」
「あっ、ユージェニーちゃん。殿下とマーク君も一緒に来てるんだよ」
「イヴ先輩!」
「久しぶりだね。ランが部長なのかい?」
「はい! イヴ先輩こそクインシー殿下の従者に抜擢されたとか」
「そうなんだ。日々緊張に身の縮む思いだ」
「縮むといいですね」
「ヘタレのイヴ先輩が殿下付きなんて考えられませんよ」
「あああああ、それは言わないでくれ!」
「あんた達殿下を無視して話し始めるとはいい度胸だね。これが魔法クラブクオリティかー」
「「「「あっ!」」」」
「殿下は優しいからそんなことでは文句言わないけれども」
アハハと笑い合い、互いに自己紹介する。
殿下は温厚だし、聖女パルフェはフレンドリーだ。
威張ってたりツンケンしてたりしたらどうしようかと思ったよ。
ホッと胸を撫で下ろす。
イヴ先輩が言う。
「今年はどうしたんだ? 宮廷魔道士の採用が一人もなかったと聞いた」
「あっ、それなんですけど。実技課題が『自分の持ち属性の魔力塊形成し、一秒間隔で点滅させよ』というものだったんです。今年受験の先輩方は合格できなくて」
「ふむ、ラン達は解答を用意したんだろう?」
「はい、これです」
クラブの皆で調べて導き出した、ソーサリーワードの構文だ。
「……見慣れない回路が組み込んであるな。聖女様、どう思う?」
「うん。一年生の皆、わかんなくていいからちょっと見てくれる? まずこっちのソーサリーワードの記述は魔力塊を生み出す基本的なものだよ。ここの空欄に火属性と入れたものを起動するとこうなる」
赤い魔力塊を瞬時に生み出す聖女パルフェ。
さすがだなあ。
起動が早いし躊躇がない。
「もう片方の長いソーサリーワードの記述をよく見てね。ここからここまでの回路を除くと、さっきの基本的な魔力塊の記述と同じってことはわかるかな?」
一年生達が頷く。
なるほど、ソーサリーワードを知らなくても、同じか違うかは見れば判別は付くな。
「で、長い方の記述の間に入ってるのは、『脈動』の回路って言われてるものだよ」
「脈動?」
「そうそう。散発的に効果を発揮しますよってやつ」
脈動の回路は、図書館で魔道理論に関する書籍を随分漁って探し出したものだ。
これを普通に知ってる聖女パルフェは、聖属性だけでなく本当にあらゆる魔法に詳しいのだろう。
「魔法はオリジナルのソーサリーワードを知っていて、何らかの作用を伴う回路を組み込めばアレンジできるということなんですの?」
「ユージェニーちゃん正解。こっちの長ったらしい記述も文法的には合ってるから、普通に起動するよ。先輩、お願いしまーす」
お願いされた。
聖女パルフェが許可を出したからには発動して構わないのだろう。
集中して魔力塊を生み出す。
「本当だ。点滅してますね」
「先輩ありがとう。消してくださーい」
「うん」
「一応今のでもいいんだよ? でも構文にムダが多いから削ります。例えば元の記述と付け加えた回路で、制御に関する要素内容が被ってるの。ダブってるのは魔力のムダなのでどっちかを削除しまーす。こーゆーのは回路は弄らないで元の記述の方から削除した方がいいよ。回路はややこしいやつ多いから」
バサッと記述を削る聖女パルフェ。
思い切りがいいなあ。
でも参考になる。
「元の記述のこの部分、発動後一〇分で切れる安全装置だけど、自分の意思で切れるようになってるのにこんなんいらないよね? それから……」
さらにバサバサと削ぎ落していく。
三分の二くらいになったぞ?
「こんなもんかな。先輩、もう一度発動してみてくれる?」
「わかった」
魔力塊を生み出す、が?
「うん、やはりうんと軽いね」
「記述を簡単にすればするだけ、余計な魔力が必要なくなることは覚えておこうね。その分起動も軽くなりまーす」
一年生達が頷く。ソーサリーワードそのものを知らなくても、魔法の組み立てが論理に基づいていること。
論理が正しければ発動すること。
同じ結果が出るのでもその過程や必要魔力に違いがあることがよくわかるんじゃないかな。
イブ先輩が苦笑する。
「しかしこの課題は脈動などという、聞いたこともないような回路を知ってなくちゃならないというものじゃないだろう?」
「そーだね。あたしも脈動の回路使ってる魔法初めて見たわ」
「えっ? どういうことです?」
「こーゆーことだよ」
脈動の回路を使わなくてもこの試験に合格することができるのか?
一体どうやって?
聖女パルフェが最初の基本的な魔力塊を生み出すソーサリーワードの記述を削ってる。
回路を付け加えるんじゃなくて削ることによって要求を満たす?
まさか!
「こんなもんかな。イヴさんよろしく」
「うむ」
イヴ先輩が魔力塊を生み出す。
あっ、点滅してる?
「これねえ。最初の記述から発動の安定に関する記述を消してるの」
「発動の安定? あっ、そうか!」
「そう、術者が一定間隔で魔力を強く練れば点滅するんだよ」
「思うに、削除するという発想ができるか、魔力の扱い自体がしっかりしているかを見るテストだったんじゃないか」
「そうだったのか……」
聖女パルフェもイヴ先輩も、魔法に対する理解が深い。
特に聖女パルフェはあんな無造作にソーサリーワードの記述を書き換えるなんて、超一流の魔道士だ。
アルジャーノン先生がお墨付きを与えるだけある。
「パルフェさん。これからも自分らの魔法を見てくれるかい?」
「もちろんいいよ。とゆーか先輩達がとっとと宮廷魔道士に楽々合格する水準に達してくれないと、あたしらがやりたいことできなくて困るの」
宮廷魔道士に楽々合格する水準だって?
何て頼りになる新入生なんだろう!
課外活動の時間が充実するぞ!
クラブの皆が興奮気味だ。
何せ今年は新入部員が多いから。
「五人だってよ」
「ああ、聞いた。しかもクインシー殿下と噂の聖女パルフェが含まれているんだろう?」
近年魔法クラブに入部するのは一人二人という年が続いていたのだ。
宮廷魔道士人気がないからかもしれない。
でも今年は何と五人。
しかも皇太子間違いないと言われているクインシー殿下と、建国祭で驚異の祝福を見せ付けた新聖女パルフェがいる。
どんな幸運だ。
「しかも女子が三人だって」
それな、重要なポイントだ。
聖女パルフェの他、エインズワース公爵家のユージェニー嬢とケイン子爵家のネッサ嬢と三人も女の子が入部した!
イヴ先輩が卒業してから女の子いなかったのに!
イヴ先輩女に見えなかったし!
ああ、もうユージェニー嬢とネッサ嬢は実習室に来てるんだけど、話しかけられないよ。
というか従者付きの貴族令嬢に話しかけるって、平民の自分にはハードル高いわ。
「ラン、聞いたか?」
「何を?」
「聖女パルフェは聖魔法だけじゃなく、全ての属性の魔法が使えるって」
「聞いてる。パルフェさんに見てもらえば、組み替えた魔法使っていいって許可をアルジャーノン先生にもらったんだ」
「マジかよ?」
「僕、弟に聞きましたよ。魔道理論の講義中に七属性全ての魔力塊を同時に作り出したとか」
「「「ええっ?」」」
そんなことって可能なのか?
いや、魔力塊を苦もなく形成できるなら、コツを教えてもらいたいくらいだ。
宮廷魔道士を目指す自分には必要な技術だから。
「こんにちはー」
来た、女の子の声。
聖女パルフェか?
「パルフェ様!」
「あっ、ユージェニーちゃん。殿下とマーク君も一緒に来てるんだよ」
「イヴ先輩!」
「久しぶりだね。ランが部長なのかい?」
「はい! イヴ先輩こそクインシー殿下の従者に抜擢されたとか」
「そうなんだ。日々緊張に身の縮む思いだ」
「縮むといいですね」
「ヘタレのイヴ先輩が殿下付きなんて考えられませんよ」
「あああああ、それは言わないでくれ!」
「あんた達殿下を無視して話し始めるとはいい度胸だね。これが魔法クラブクオリティかー」
「「「「あっ!」」」」
「殿下は優しいからそんなことでは文句言わないけれども」
アハハと笑い合い、互いに自己紹介する。
殿下は温厚だし、聖女パルフェはフレンドリーだ。
威張ってたりツンケンしてたりしたらどうしようかと思ったよ。
ホッと胸を撫で下ろす。
イヴ先輩が言う。
「今年はどうしたんだ? 宮廷魔道士の採用が一人もなかったと聞いた」
「あっ、それなんですけど。実技課題が『自分の持ち属性の魔力塊形成し、一秒間隔で点滅させよ』というものだったんです。今年受験の先輩方は合格できなくて」
「ふむ、ラン達は解答を用意したんだろう?」
「はい、これです」
クラブの皆で調べて導き出した、ソーサリーワードの構文だ。
「……見慣れない回路が組み込んであるな。聖女様、どう思う?」
「うん。一年生の皆、わかんなくていいからちょっと見てくれる? まずこっちのソーサリーワードの記述は魔力塊を生み出す基本的なものだよ。ここの空欄に火属性と入れたものを起動するとこうなる」
赤い魔力塊を瞬時に生み出す聖女パルフェ。
さすがだなあ。
起動が早いし躊躇がない。
「もう片方の長いソーサリーワードの記述をよく見てね。ここからここまでの回路を除くと、さっきの基本的な魔力塊の記述と同じってことはわかるかな?」
一年生達が頷く。
なるほど、ソーサリーワードを知らなくても、同じか違うかは見れば判別は付くな。
「で、長い方の記述の間に入ってるのは、『脈動』の回路って言われてるものだよ」
「脈動?」
「そうそう。散発的に効果を発揮しますよってやつ」
脈動の回路は、図書館で魔道理論に関する書籍を随分漁って探し出したものだ。
これを普通に知ってる聖女パルフェは、聖属性だけでなく本当にあらゆる魔法に詳しいのだろう。
「魔法はオリジナルのソーサリーワードを知っていて、何らかの作用を伴う回路を組み込めばアレンジできるということなんですの?」
「ユージェニーちゃん正解。こっちの長ったらしい記述も文法的には合ってるから、普通に起動するよ。先輩、お願いしまーす」
お願いされた。
聖女パルフェが許可を出したからには発動して構わないのだろう。
集中して魔力塊を生み出す。
「本当だ。点滅してますね」
「先輩ありがとう。消してくださーい」
「うん」
「一応今のでもいいんだよ? でも構文にムダが多いから削ります。例えば元の記述と付け加えた回路で、制御に関する要素内容が被ってるの。ダブってるのは魔力のムダなのでどっちかを削除しまーす。こーゆーのは回路は弄らないで元の記述の方から削除した方がいいよ。回路はややこしいやつ多いから」
バサッと記述を削る聖女パルフェ。
思い切りがいいなあ。
でも参考になる。
「元の記述のこの部分、発動後一〇分で切れる安全装置だけど、自分の意思で切れるようになってるのにこんなんいらないよね? それから……」
さらにバサバサと削ぎ落していく。
三分の二くらいになったぞ?
「こんなもんかな。先輩、もう一度発動してみてくれる?」
「わかった」
魔力塊を生み出す、が?
「うん、やはりうんと軽いね」
「記述を簡単にすればするだけ、余計な魔力が必要なくなることは覚えておこうね。その分起動も軽くなりまーす」
一年生達が頷く。ソーサリーワードそのものを知らなくても、魔法の組み立てが論理に基づいていること。
論理が正しければ発動すること。
同じ結果が出るのでもその過程や必要魔力に違いがあることがよくわかるんじゃないかな。
イブ先輩が苦笑する。
「しかしこの課題は脈動などという、聞いたこともないような回路を知ってなくちゃならないというものじゃないだろう?」
「そーだね。あたしも脈動の回路使ってる魔法初めて見たわ」
「えっ? どういうことです?」
「こーゆーことだよ」
脈動の回路を使わなくてもこの試験に合格することができるのか?
一体どうやって?
聖女パルフェが最初の基本的な魔力塊を生み出すソーサリーワードの記述を削ってる。
回路を付け加えるんじゃなくて削ることによって要求を満たす?
まさか!
「こんなもんかな。イヴさんよろしく」
「うむ」
イヴ先輩が魔力塊を生み出す。
あっ、点滅してる?
「これねえ。最初の記述から発動の安定に関する記述を消してるの」
「発動の安定? あっ、そうか!」
「そう、術者が一定間隔で魔力を強く練れば点滅するんだよ」
「思うに、削除するという発想ができるか、魔力の扱い自体がしっかりしているかを見るテストだったんじゃないか」
「そうだったのか……」
聖女パルフェもイヴ先輩も、魔法に対する理解が深い。
特に聖女パルフェはあんな無造作にソーサリーワードの記述を書き換えるなんて、超一流の魔道士だ。
アルジャーノン先生がお墨付きを与えるだけある。
「パルフェさん。これからも自分らの魔法を見てくれるかい?」
「もちろんいいよ。とゆーか先輩達がとっとと宮廷魔道士に楽々合格する水準に達してくれないと、あたしらがやりたいことできなくて困るの」
宮廷魔道士に楽々合格する水準だって?
何て頼りになる新入生なんだろう!
課外活動の時間が充実するぞ!
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