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番外編

穏やかな春の日

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いちゃらぶには少し足りないかもしれませんが、日常の小話を書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡





瑞季ルェイジー。ああ、離れ難いな」

「ふふっ。哉藍セイランは毎日同じことを仰っていますよ」

「仕方なかろう? 私はずっと瑞季ルェイジーの傍にいたいのだから。
瑞季ルェイジーは私がいなくとも平気なのか?」

「またそのようなことを……。私が哉藍セイランなしでは生きていけないことなどご存じでしょう」

「ああ、そうだったな。すまない」

哉藍セイランのお帰りを待っておりますので、今日もお仕事頑張ってくださいませ」

「そうだな。ならば瑞季ルェイジー、いつものアレ・・を頼む」

そういうと、瑞季ルェイジーは途端に顔を赤らめて、

哉藍セイラン、屈んでください……」

と頼んでくる。

ふふっ。なんと可愛いことだろう……。

私と瑞季ルェイジーの身長差は20cm。
私がほんの少しだけ屈んでやると、瑞季ルェイジーは私の腕に手を添えて必死に背伸びをしながら、唇に口付けをしてくれた。

そっと重ねるだけの軽い口付けだが、瑞季ルェイジーからの口付けだと思うだけで幸せなのだ。

哉藍セイラン、いってらっしゃい」

ほんのり頬を染めて、送り出してくれるこんな健気な瑞季ルェイジーの可愛さに私は毎日やられている。


   ✳︎       ✳︎       ✳︎


初めてのヒートを経験し、そのまま私は哉藍セイランつがいになった。
うなじの噛まれた痕がまだズキズキとしているが、それは私にとっては幸せの痛み。

私は今まで生きてきた中で、今、一番の幸せを感じている。


「奥方さま。今日はどちらでお過ごしになりますか?」

小鈴シャオリン、今日は中庭に行こうかな。今日はいい天気だから、外の空気を吸いたくて……」

「畏まりました。それではご準備いたしますのでしばらくお待ちください」

小鈴シャオリン哉藍セイランが私の身の回りの世話をするためにとおいてくれたβの侍女。
すごく気が利くし、彼女のおかげでここの生活は過ごしやすい。

基本的に哉藍セイランからは部屋の外へはいかないようにと言われているけれど、小鈴シャオリンと護衛付きなら中庭や図書室には行っていいとお許しが出ている。

昨日、図書室からたくさん本を借りてきたから今日は中庭でゆっくりと読書をするつもりだ。

「奥方さま。ご用意ができました。中庭にご案内いたします」

私は久しぶりの外にウキウキしながら、小鈴シャオリンと護衛騎士5人に付き添われて中庭へと向かった。

大きな木の下に敷かれている毛布に案内され、そこに腰を下ろした。
巨木の下には心地よい風が通り、読書をするにはぴったりだ。

ああ、実家の離れで1人寂しく本を読んでいた自分に教えてあげたいくらいだ。
こんなに幸せな未来がやってくることを……。

暖かな春の日差しに誘われて、本を読みながら私はいつの間にかウトウトと船を漕いでしまっていた。

穏やかで気持ちの良いこの中庭でうたた寝だなんて……なんという贅沢だろう。

もう私は眠りに抗うこともできず、そのまま毛布に崩れ落ちた。
ポスっと何か心地よいものに包まれた気がしたけれど、あまりにも気持ちが良くて私はそのまま目を開けることなく眠りに落ちた。


  ✳︎      ✳︎       ✳︎

ああ、瑞季ルェイジーは今頃何をして過ごしているのだろう。

瑞季ルェイジーと番になってからというもの、私の頭の中には常に瑞季ルェイジーのことでいっぱいだ。
いかに効率的に仕事を済ませ、瑞季ルェイジーとの時間を過ごすかを考えているから、仕事的には瑞季ルェイジーと出会う前よりも格段に進んでいるだろう。

瑞季ルェイジーと番ってから、私が劣ったと評判がたてば民衆の矛先は瑞季ルェイジーに向いてしまうのだから、それは絶対に避けなければいけない。
その思いが私の仕事を捗らせていた。

私が瑞季ルェイジーのことを思えば思うほど、この天翠テンツォイ帝国がよくなるのだから誰からも文句は言わせない。

執務室で仕事をしていると瑞季ルェイジーについての報告が入った。

「陛下。奥方さまは中庭で読書をされるご様子です」

「そうか、やっぱりな。ならばあの巨木の下に案内しろ。あそこなら、危険は少ない」

「はっ。すぐにご用意いたします」

昨日は図書室で本をいっぱい探していたようだったから、今日は中庭に行くだろうとは思っていたが、やはりそうだったな。
後で様子を見に行くとしよう。


それからしばらく経って、

「陛下。奥方さまが先ほどの場所でお眠りになりそうだと報告が入りました」

滄波ソウハが慌てた様子で駆け込んできた。

「わかった。私はすぐに中庭に向かう。机の上にある書類を持ってついてこい」

「はっ。畏まりました」

急いで中庭に駆けつけると、瑞季ルェイジーが巨木の下に敷かれた毛布の上でウトウトしているのがわかる。
それでも何度か頭を振り、必死に睡魔と戦いながら持っている本に目を向けようとしている。

ふふっ。なんと可愛らしいことだ。

睡魔に抗いながら必死に遊ぼうとする赤子のようなその仕草に私は思わず顔が綻んだ。

そーっと瑞季ルェイジーに近づいていく。
もうすぐ瑞季ルェイジーの元に辿り着こうとしたその時、瑞季ルェイジーの手から本が滑り落ち、身体が毛布へと崩れ落ちていくのが見えた。

私は倒れかけている瑞季ルェイジーの身体を腕の中に受け止めた。
瑞季ルェイジーはふわりと笑顔を見せながら私の胸元に顔を擦り寄せ、そのまま眠ってしまった。

眠っている時でも抱き締めたのが私だと気づいてくれたのか……。
ああ、本当に幸せだな。

私はそのまま瑞季ルェイジーの頭を私の膝に乗せ、持ってこさせたもう一枚の毛布を瑞季ルェイジーに掛けた。
私の膝の上で穏やかな寝息を立てている瑞季ルェイジーを感じながら、私は滄波ソウハに持ってこさせた書類を持ち、仕事を始めた。

執務室でやるよりもここで瑞季ルェイジーと一緒にいる方が断然捗る事に気づいた。

これなら、毎日瑞季ルェイジーと一緒にいる方が仕事は早く終わるのではないか?
絶対にそうだ。
なんだ、それならばわざわざ離れることなどないではないか。

瑞季ルェイジーがここで昼寝をしてくれたおかげで素晴らしい事実に気づいた。
さすが、私の瑞季ルェイジーだ。

あっという間に今日のお仕事を終え、驚く滄波ソウハ

「明日からは瑞季ルェイジーも連れて仕事をする。その方が仕事も捗るのでな」

というと滄波ソウハは目の前のたくさんの書類に目を移しながら、

「はい。畏まりました」

と答えるより他はないようだった。

私が瑞季ルェイジーを守るから問題ないと護衛騎士を遠ざけ、巨木の下で瑞季ルェイジーを膝に乗せたまま、穏やかな時を過ごす。

綺麗な髪に思わず頭を撫でると瑞季ルェイジーが『うーん』と可愛らしい声を上げながら、身動いだ。


 ✳︎      ✳︎       ✳︎


大きな手が髪を撫でる感覚に愛しい人を思い出して目を覚ますと、目の前に夢に見ていた愛しい人が現れた。

「……哉藍セイラン? どうして、ここに?」

「ふふっ。私の愛しい人が中庭でうたた寝をしているというのでな、私も一緒に休ませてもらおうと思ってきたのだ。
瑞季ルェイジーのおかげで仕事も捗ったし、可愛らしい寝顔も見られたし、最高の時間だったよ」

満面の笑みでそう言われて、少し恥ずかしく思いながらも哉藍セイランの膝枕を放棄する気にもなれず、しばらくの間、そのままでいさせてもらった。

ああ、幸せだな……そう思いながら、ふと思った。

哉藍セイラン、足がお疲れではありませんか?」

「ふふっ。気にすることはない。瑞季ルェイジーは羽のように軽いから、たとえ1週間このままでも疲れなどしないよ」

「でも……」

「私の幸せを奪わないでくれ」

嘘を言っていないとわかる哉藍セイランの笑顔だけれど、私だって哉藍セイランを癒してあげたい。

哉藍セイラン、交代しませんか?」

「えっ?」

「私の膝枕はお嫌ですか?」

「そんなこと、あるわけがないだろう!!」

「でしたら、どうぞ」

そういうと哉藍セイランは少し頬を染めながら、私の膝に頭を乗せた。
いつも見上げるばかりの哉藍セイランを見下ろすのはなんとも不思議な気がする。

でも、私しか見られない姿なのだと思うだけで優越感が湧き上がってくる。

どうしても衝動が抑えられなくて、私は思わず身体を曲げ哉藍セイランに口付けを贈った。

哉藍セイラン、大好きですよ」

私の突然の言葉に哉藍セイランは目を丸くして驚いていたけれど、急に起き上がり反対に私を抱きかかえ立ち上がった。

「今のは瑞季ルェイジーが悪いのだぞ」

と言いながら、私はそのまま寝室へと連れて行かれ、何がどうなっているのかもわからないまま、その後一晩中哉藍セイランに愛され続けたのだった。
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