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第2章 筆頭土地神は大変です

第34話 作戦決行

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 ハイネさんが村に訪ねてきた二日後。彼女が俺に教えてくれた通り、領主の使いが再びやって来た。先日よりも多くの護衛達を引き連れており、その数は少なく見積もっても四十人を超える規模だ。

「またお前達か……何度来ても同じだ!!我は土地神!お前達が何人集まろうとも、我を捕らえることなど出来ぬわ!!」

 俺は村の入り口を塞ぐように立ち、全力で神を演じ始める。そんな俺を、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめるエッケン。あの日涙を流しながら逃げていった癖に、どうやら奴にも作戦が見たいだ。

「ほざけ!!以前は少し動揺してしまったが、今回はそうはいかんぞ!お前の秘密など、バッカス様が既に見抜いておられる!!魔法部隊、構えぇ!」
「は!!」

 エッケンがそう声をかけると、フレイが持っているような長い杖を持った男数人が列を組んで杖先を向けてきた。男たちが構え終えると、エッケンはまたニヤニヤと笑い始める。

「何のつもりだ?まさか物理攻撃が効かないとみて、魔法でなら私を倒せると思ったのか?」
「ぐふふふ、そのとおり!!お前に傷をつけられなかったのは、凄腕の魔法使いがこっそりとお前に保護魔法をかけていたからなのだろう?」

 なぜかそう言って自信満々に語るエッケン。どうやらエッケンは、俺の無敵最強ボディを、魔法によるものだと勘違いしているらしい。俺ですら詳しく分かっていないのに、お前達が分かるわけないだろ。

 俺が憐みの視線でエッケンを見つめていると、何を勘違いしたのか、嬉しそうに話しかけてきた。

「おっとどうしたぁ?秘密がバレて動揺でもしているのか?ぐふふふ……今更謝っても遅いぞ!!お前は神を語り、村人達を洗脳した『邪神』だ!!ここで捕らえ、裁きを受けさせてくれる!!」

 エッケンが再び魔法部隊へ指示を飛ばそうとしたその時、隣に立っていたふくよかな男がエッケンの肩を叩いてそれを制した。

「まぁ待つのだエッケンよ。少しはあの男の言い訳を聞いてやったらどうだ?」
「バッカス様!しかし、あ奴は『邪神』ですぞ!?そんな男に情けをかけてやるというのですか!?」

 芝居じみたエッケンの口調。どうやらここであの男が喋りだす予定だったらしい。『邪神』にも情けをかける、器のでかい領主を演じたいようだがそうはいかんぞ。

「あの男は確かに神を語った罪深い人間だ。だが、どんな人間にも罪を償う機会を与えてやるのが上に立つ者の役目であろう。違うか、エッケンよ」
「バッカス様……その通りでございます!!」

 バッカスの素晴らしいお言葉に思わず涙を流すエッケン。俺も事前情報が無ければ、懐のでかい良い領主だと信じてしまった事だろう。

「その方、確かナオキと言ったか?聞いた話によれば、お主はどんな傷でも癒す魔法を使えるそうだな。その魔法を使い民を癒すことで、贖罪としてやろうではないか!」
「何と慈悲ぶかきお言葉!聞いたかナオキよ!バッカス様がお前の罪をお許しになられるそうだ!分かったら直ぐに自分の罪を認め、私達と共に来るがよい!!」

 まるで小学生の舞台でも見ているかのような寸劇に思わず笑いそうになりながらも、俺はじっと堪えてその時を待った。

 無言を貫く俺を見て、勝利を確信したエッケンが村の方へ向かって声をあげる。

「村の者達に告ぐ!お前達が崇めていた男は、土地神ではない!!神を語った『邪神』である!よって、その男を崇めていたお前達は『邪教徒』である!」
「な!!ナオキ様が邪神なわけありません!!我々のために、水や食べ物を恵んでくださっているのです!!」

 俺の背後で金髪の女性がエッケンに反論しようと声を上げる。だがそれが気に障ったのか、エッケンは眉間にシワを寄せて怒りを露にした。

「黙れぇ!とにかく、お前達も詳しく調べる必要がある!あとで領主様直々に調査を行い、『浄化』が必要と判断された者は、我々が連れていき『浄化の儀式』を執り行う!」

 エッケンの発言に、周囲の護衛達が少しざわつき始める。だがそれもほんの一時のもので、直ぐに静かになってしまった。だがその一瞬、領主がいやらしい笑みを浮かべて、俺の背後にいる女性を見つめていたのを俺は見逃さなかった。

「『浄化の儀式』か……その名目でさらった村人を、奴隷のように扱っているのだろ!!我が知らぬとでも思っているのか!!強気な女性に、鞭でぶたれるのが好きなのだろう!?何とか言ってみろ、この禿狸が!!」

 ハイネさんが恥ずかしいのを堪えて俺に教えてくれた領主の秘密。エッケンや極僅かな人間にしか伝えていない秘密を叫ばれ、バッカスは顔を真っ赤にする。

 話を耳にした兵達が騒ぎ始めるを見て、バッカスは慌てて叫ぶように指示を飛ばした。

「も、もうよい、エッケンよ!あの男を殺してしまえ!」
「は?ですが、奴が居なければ、例の計画に──」
「構わん!ルキアスの者共にはどうとでも言っておけばよい!!見せしめとして、あ奴の死体を村に送り届けてやるのも良いかもしれんなぁ!!」
「そ、そうでございますね……魔法部隊、放てぇ!!」

 エッケンも流石ちょっと呆れた様子を見せながらも、バッカスの指示にはしっかりと従う。エッケンの合図と共に、魔法使いの杖が輝き始めた。

「──『火炎球』!!」

 声と同時に、いくつもの火の玉が出現し、俺の元へ飛んでくる。目にも止まらぬ速度で飛来する火の玉を、この運動音痴な俺が避けれるはずも無く、見事に全て着弾した。

 爆音が周辺に響き渡り、土煙が立ち上がる。どう考えても、この状況で生き残れるはずが無い。誰もがそう思っていた。

「ぬははは!馬鹿な男よ!私に従っていれば、死なずに済んだものを!まぁ良い……お前達!村人共を捕らえろ!『邪教』を崇めたその罪を、私が直々に『浄化』してくれるわぁ!!」

 バッカスはそう叫びながら村の入り口へ向かって歩き始める。最早彼の歩みを止める者は誰も居ない。筈だった。

 土煙が晴れたそこには、無傷の俺が立っていたのだ。
 
「ぺっぺ!くっそ、口の中にめっちゃ砂入ってきたじゃねぇか!!」
「……はぁ??????」

 信じられないと言った表情で俺を見つめるバッカス。奴の後ろに居る仲間達も、俺の姿を見て顎が外れんばかりに口を開けて固まっていた。

 ここまで自分の作戦が上手くいくとは思っていなかった俺は、誇らしげに胸を張る。体を吹き抜ける風がとても心地いい。何だが地肌に染みわたる勢いだ。股間にぶら下がる金の玉を、力強く押し抜ける風に、俺は違和感を覚えてた。

 ゆっくりと視線を自分の体へと向ける。足元に視線を落とすと、そこには黒ずみと化した俺のジャージだったモノの残骸が落ちていた。

「くっ!お前達、何をやっている!!撃ち続けるのだ!!あ奴が死ぬまで撃つのを止めるな!!」

 俺が無傷だったことに慌てて追撃の指示を出すバッカス。それから幾度となく魔法の攻撃を受けるも、傷一つ受けない俺に恐怖を覚えたのか、バッカスは尻もちをついてしまった。

 もはや勝利は目前。だというのに俺の意識は、バッカスから完全に外れていた。

「俺が高一の時に買った、ピューマのジャージが……炭になっちまった」

 この世界に来ても、大事に大事に着ていたピューマのジャージ。それが跡形も無く消えてしまった。元の世界との唯一の繋がりが。

「……お前達は我の逆鱗に触れた!!その罪、万死に値する!!神による怒りの裁きを受けるがいい!」
「ひぃぃぃ!!お前達私の盾になるのだ!領主である私を守れ!!」

 やっと俺を神と認識したのか、慌てふためくバッカス。しかしもう遅い。お前は生きながらに地獄を見ることになるのだ。

「いでよぉぉ!!司教さぁぁん!!」
 俺の呼び声と共に、後ろの方からゆっくりと杖を突いたおじいさんが歩いてきた。彼こそが、バハマの街在住の司教であり、俺が今回のために用意した最強の矛である。
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