34 / 411
家畜生活はじまりました!
赤裸々告白
しおりを挟む
手元のジュースにささるストローをまじまじと見る。これは、間接的なアレだ。そう思ってしまうと、一気に顔が赤面していくのが分かった。
「誰も取ったりしないから、ゆっくり落ち着いて飲み食いしなさい」
呆れたような顔をした先輩に窘められた。変な事を考えて赤面したのを、また喉を詰まらせていると誤解してくれたらしい。どっちも体のいい話じゃないけれど、本当の事を知られずホッとした。
問題のストローから意識を逸らす為に、ジュースを畳の上に置く。先輩が帰った後でチビチビと舐めようなんて考えてしまったが、そんな変質者のような思惑はすぐに振り払った。
姿勢を改めて、オレが話を聞く体勢を作ると、先輩はゆるい表情を少しだけ強ばらせ、口を開いた。
「今日あった事、すごく驚いただろう。生徒会について、ちゃんと教えておこうと思ってな」
生徒会と言われ、ゆるくなっていた頭が一瞬で固くなった気がした。オレの表情の変化に気付いたらしい先輩が、心配そうな顔をしている。
「生徒会がオカマの集団だとは思わなかった」
オレが冗談めかして言うと、先輩は少しだけ笑ってくれた。
「あれは単なる仮装だな……まあ中には本気の奴も居るらしいんだが、生徒会長の道楽みたいなもんだよ」
ずっと女装している訳ではないらしい。まあ常識的に考えて、道楽としてもどうなのかと思わなくもないが、そこは問題としてそう大きくない。
先輩が付け加えた「メイドの格好だけでなく、全裸の日もあれば、鎧や兜を着ている時もある」なんて言われても、想像をするのも嫌になるような情報は、脳内に取り入れるのを止めて、耳の中を右から左へと流すだけにした。
校内で全裸ってイジメか? いや、あそこの連中なら喜んでやりそうだな。その活動範囲が生徒会室だけであると、今は信じたい。廊下の角を曲がったら、全裸の化け物共と鉢合わせとか、本気で勘弁願う。
あの場で一番問題なのは、女装ではなかった。もっと恐くて異常なモノがあった。
そう心の中では思うのに、目の前の人を見ていると、途端に居心地が悪くなる。それを異常として受け入れてしまう事に居心地が悪くなっているのを直視したくなくて、オレは言いにくそうな先輩より先に、自分から口を開いた。
「あいつらってホモなの?」
少し間を開けて、先輩はこくんと頷いた。自分で口にして気付いた。ホモって言葉は、すげぇ嫌な感じがする。先輩の表情も明らかに嫌悪の色が滲んでいて、自分も同じように感じているのに、逃げ出したいような気持ちも一緒に寄り添っている事に気付いて戸惑う。
「生徒会に集まる連中は、別に男に対して恋愛感情を抱いている訳じゃないんだ。あー中には居るかもしれないけどな。単なる性欲の捌け口として、夜会とか言って集まっては男同士で掘ったり掘られたりしてるんだ」
「基本的には互いに同意の上で事に及ぶんだけど、中には強引にその輪の中に引きずり込んだりする事もあってな。ゲストと称して、気に入った生徒を玩具にして遊ぶらしい」
先輩の説明を聞いていると、頭がクラクラしてきた。化け物のじっとりとした手のひらに撫で回された胸が気持ち悪い。違和感を押しつけられた太股が気持ち悪い。生臭い息がかかった首筋が気持ち悪い。全身をぞわりと鳥肌が立った。なんとなく感じていたが、実際にそうだと言われると、時間が経った今でも不快感が残っているのを思い知らされる。
「大丈夫か、セイシュン」
知らず自分の両腕を抱えていた。けれど先輩の顔を見上げると、鳥肌も徐々におさまってきた。体を起こして大丈夫だと伝えると、先輩が悪い訳ではないのに、心底申し訳ないと言うような顔をさせてしまう。
「なんで先輩がそんな顔するの? 先輩はなんも関係ないじゃん」
少しでも先輩の気持ちを拭いたくて、精一杯の明るい声でそう伝えると、どうしてか先輩は「違うんだ」と呟いて更に辛そうな顔を見せた。
「セイシュンが嫌な思いしたのは、俺のせいなんだよ」
どうして先輩のせいになるのか、オレは少し首を傾げた。先輩と会長は確かに面識がありそうだったが、それが原因なのか? まさかとは思うが、頭に浮かんだ一番嫌な可能性を恐る恐る聞いてみた。
「先輩も、生徒会に入ってたり、するの?」
かなり失礼な視線を向けながら聞いたオレに、顔の前で手を振り、先輩は苦笑しながら否定してくれた。あんな連中のお仲間だったら、さすがに先輩が相手でも引く。どうゆう寄り集まりかを知った今なら尚更だ。それを確認出来てホッと安心はしたのだが、生徒会と関係ないなら、どういう意味で先輩のせいなんだろうか。
「真山に謝りに行っただろ? その事をややこしい奴に知られちまってな」
ややこしい奴ってのは、生徒会長なのかな。でも、オレの何が会長の興味を引いたんだろう。
「ん、それなんだけどな。んー、あの時さ、真山を誤魔化すのに俺がセイシュンに……その、つい、ちゅーしちゃっただろ」
恥ずかしそうにちゅーとか言うなよ。こっちが恥ずかしくて死にそうになるだろ。てか、ついってなんだ、ついって!
「だって、真山って本当にめんどくさいんだよ。生真面目って言うか、馬鹿正直って言うかさ。正攻法では折れてくれそうになかったから、つい、な」
なんとなく分かってはいたが、本気で髭との問答がめんどくなって、勢いで押し切る為にしやがったとか聞くと、一発殴らせろと言いたくなった。
しょうがないよなーと言うような表情で、軽く笑い飛ばされると、その思いは自分の胸の中だけではおさまらず『つい』殴りかかってしまった。さすがに顔面は狙わず、左肩に思い切り拳を叩き込もうとして、見事に未遂に終わる。
「まあまあ、そう怒るなよ。別に初めてって訳じゃないだろ」
オレの拳を受け止めた先輩の手のひらは、逃がさないようにか、グッと捕まえるように握り込まれた。かなりの馬鹿力で、押しても引いても動かない。
「男とは初めてだった!」
軽い感じで流しやがって。本気で一発は殴らないと気がおさまりそうにない。使い物にならない右は捨てて、もう片方で今度は腹に向けて突き上げるように打ち出した。
「そりゃそうか。……おぉ、なら、俺もだぞ。俺も初めてだ」
左は手首を掴まれた。もちろん、手応えはない。甘んじて受けるという大人な対応は出来ないらしい。
一気に距離の縮んだ先輩の顔を睨み付けてやる。相変わらず気の抜けた暢気な顔がオレを見下ろしていた。なんとか一矢報いたい。必死で頭を回して考えていると、オレの額に頭突きと言うには弱い、けど痛くないとは言い難い、何かが当たった。
「ごめんな。嫌な思いばっかりさせて」
先輩の顔がすごく近い。先輩の体温が額から伝わり、その温かさに撫でられると、オレの中で燻っていたものは一斉に消えてしまった。
「別に……そんなに嫌じゃ、なかったけど」
あの時と同じ距離で、先輩の目を見ていると『つい』本音が出てしまった。
「先輩は嫌だった?」
聞かなくていい事まで『つい』聞いてしまう。どんな答えを貰えれば満足なのか。突き放されても文句の言えない問いをしてしまった。一瞬で後悔した。先輩の顔を見るのが恐くて、そこに嫌悪の色を見るのが恐くて、目を伏せた。
沈黙が長い。数分くらいの気がした。けれど数秒、それだけの時間、先輩は何を考えていたんだろう。ふいに握られていた手から力が抜けた。オレの方も、もう殴ろうなんて気は少しも残っておらず、両手はゆっくりと下がっていく。
「俺も……嫌じゃなかったよ」
優しい声が耳を駄目にする。ついでに頭の中も。額に感じていた温もりが離れていく。視線を先輩に戻すと、心臓の音がヤバイくらい大きく鳴った。その時、オレは期待をしてしまっていた。
何を期待したんだろう。触れ合う部分がなくとも、近すぎる距離は否応なしに視線が絡み合う。右に逸らそうが左に逸らそうが、どうしても先輩へと視線は戻ってしまう。喉が渇いて、少し動かすだけでも、口の中で舌が気になってしょうがない。
一週間、色々とバタバタしていたせいもあるが、思い出さないようにしていた事が、心臓の音に合わせて、どんどんと蘇ってくる。絶対に変な気分になる、そう分かっていたから、考えないようにしていたのに、こんな状況に陥ったら、考えずには、思い出さずにはいられない。
「……そう、なんだ」
何か言葉を返すべきか迷う。迷っていたはずなのに、自然と出たのは精一杯の虚勢で、自分の内心が漏れないよう、全力でどうでもよさそうに答えるつもりが、馬鹿にしたような声になってしまい焦る。すげぇ嬉しいのに、でも顔に出たら一生表を出歩けないくらい恥かきそうで、それを必死で押さえた。
「男とするなんて思わなかったけど、最初で最後とは言え、その相手がセイシュンみたいな、かっこいい奴だなんてラッキーだよな」
冗談みたいなノリで笑う先輩を見て、落胆したなんて思いたくなかった。今すぐ押し倒してやろうかと考えてしまったが、どう考えてもその案は可笑しいので、自分の欲求とは正反対の行動を取り、大人しく少し離れた場所に腰を下ろす。理性は健在なのだ。……一応は。
それによく考えてみれば、そうそう落胆するばかりでもあるまい。男とするのはオレが最初で最後って、割と殺し文句だよな。まあ、普通に女とはする気満々って事だろうけどな!
「こらっ! ゴミを投げるな」
知らぬ間に畳んだ紙パックを先輩に投げつけていた。なんでこの部屋は家具類が一つもないんだ。こんなんじゃ全く気が晴れない。
「で、なんでオレとちゅーしたら会長がややこしくなるんだよ」
ぶっきらぼうに脱線した『先輩のせい』についての説明を求めた。もう正直どうでもいいけどな。聞いたところで、会長や生徒会とは二度と関わる気ないし。まともなオレは、そんなホモの乱交パーティーに参加する気はない。
とっとと喋れと言わんばかりのオレの態度に、心底困った顔を見せられたが無視してジト目を向け続けると、先輩は言いにくそうに口を開いた。
「その事が原因で、俺がセイシュンを気に入ってるって誤解してるんだよ、あいつ」
その一言でオレの中で何かが切れた。
「なんだよ、それ。マジでふざけてんのか!」
いきなりキレだしたオレに、先輩は申し訳ないと深々と頭を下げた。別にオレは謝られたい訳じゃない!
「オレのどこが気に入らないんだよ! 言えよ、直せたら直すから!」
「えぇ?! セイシュン、そうゆう問題じゃない気がするんだが……ちょっと冷静になってみようか、な?」
そうゆう問題って、どうゆう問題だよ。誤解って事は、そうゆう事だろ? なんか悲しいの通り越して、半端無い怒りで自分の中が一杯になっている。なんで、そんな事言うんだよ……なんで。
「誰も取ったりしないから、ゆっくり落ち着いて飲み食いしなさい」
呆れたような顔をした先輩に窘められた。変な事を考えて赤面したのを、また喉を詰まらせていると誤解してくれたらしい。どっちも体のいい話じゃないけれど、本当の事を知られずホッとした。
問題のストローから意識を逸らす為に、ジュースを畳の上に置く。先輩が帰った後でチビチビと舐めようなんて考えてしまったが、そんな変質者のような思惑はすぐに振り払った。
姿勢を改めて、オレが話を聞く体勢を作ると、先輩はゆるい表情を少しだけ強ばらせ、口を開いた。
「今日あった事、すごく驚いただろう。生徒会について、ちゃんと教えておこうと思ってな」
生徒会と言われ、ゆるくなっていた頭が一瞬で固くなった気がした。オレの表情の変化に気付いたらしい先輩が、心配そうな顔をしている。
「生徒会がオカマの集団だとは思わなかった」
オレが冗談めかして言うと、先輩は少しだけ笑ってくれた。
「あれは単なる仮装だな……まあ中には本気の奴も居るらしいんだが、生徒会長の道楽みたいなもんだよ」
ずっと女装している訳ではないらしい。まあ常識的に考えて、道楽としてもどうなのかと思わなくもないが、そこは問題としてそう大きくない。
先輩が付け加えた「メイドの格好だけでなく、全裸の日もあれば、鎧や兜を着ている時もある」なんて言われても、想像をするのも嫌になるような情報は、脳内に取り入れるのを止めて、耳の中を右から左へと流すだけにした。
校内で全裸ってイジメか? いや、あそこの連中なら喜んでやりそうだな。その活動範囲が生徒会室だけであると、今は信じたい。廊下の角を曲がったら、全裸の化け物共と鉢合わせとか、本気で勘弁願う。
あの場で一番問題なのは、女装ではなかった。もっと恐くて異常なモノがあった。
そう心の中では思うのに、目の前の人を見ていると、途端に居心地が悪くなる。それを異常として受け入れてしまう事に居心地が悪くなっているのを直視したくなくて、オレは言いにくそうな先輩より先に、自分から口を開いた。
「あいつらってホモなの?」
少し間を開けて、先輩はこくんと頷いた。自分で口にして気付いた。ホモって言葉は、すげぇ嫌な感じがする。先輩の表情も明らかに嫌悪の色が滲んでいて、自分も同じように感じているのに、逃げ出したいような気持ちも一緒に寄り添っている事に気付いて戸惑う。
「生徒会に集まる連中は、別に男に対して恋愛感情を抱いている訳じゃないんだ。あー中には居るかもしれないけどな。単なる性欲の捌け口として、夜会とか言って集まっては男同士で掘ったり掘られたりしてるんだ」
「基本的には互いに同意の上で事に及ぶんだけど、中には強引にその輪の中に引きずり込んだりする事もあってな。ゲストと称して、気に入った生徒を玩具にして遊ぶらしい」
先輩の説明を聞いていると、頭がクラクラしてきた。化け物のじっとりとした手のひらに撫で回された胸が気持ち悪い。違和感を押しつけられた太股が気持ち悪い。生臭い息がかかった首筋が気持ち悪い。全身をぞわりと鳥肌が立った。なんとなく感じていたが、実際にそうだと言われると、時間が経った今でも不快感が残っているのを思い知らされる。
「大丈夫か、セイシュン」
知らず自分の両腕を抱えていた。けれど先輩の顔を見上げると、鳥肌も徐々におさまってきた。体を起こして大丈夫だと伝えると、先輩が悪い訳ではないのに、心底申し訳ないと言うような顔をさせてしまう。
「なんで先輩がそんな顔するの? 先輩はなんも関係ないじゃん」
少しでも先輩の気持ちを拭いたくて、精一杯の明るい声でそう伝えると、どうしてか先輩は「違うんだ」と呟いて更に辛そうな顔を見せた。
「セイシュンが嫌な思いしたのは、俺のせいなんだよ」
どうして先輩のせいになるのか、オレは少し首を傾げた。先輩と会長は確かに面識がありそうだったが、それが原因なのか? まさかとは思うが、頭に浮かんだ一番嫌な可能性を恐る恐る聞いてみた。
「先輩も、生徒会に入ってたり、するの?」
かなり失礼な視線を向けながら聞いたオレに、顔の前で手を振り、先輩は苦笑しながら否定してくれた。あんな連中のお仲間だったら、さすがに先輩が相手でも引く。どうゆう寄り集まりかを知った今なら尚更だ。それを確認出来てホッと安心はしたのだが、生徒会と関係ないなら、どういう意味で先輩のせいなんだろうか。
「真山に謝りに行っただろ? その事をややこしい奴に知られちまってな」
ややこしい奴ってのは、生徒会長なのかな。でも、オレの何が会長の興味を引いたんだろう。
「ん、それなんだけどな。んー、あの時さ、真山を誤魔化すのに俺がセイシュンに……その、つい、ちゅーしちゃっただろ」
恥ずかしそうにちゅーとか言うなよ。こっちが恥ずかしくて死にそうになるだろ。てか、ついってなんだ、ついって!
「だって、真山って本当にめんどくさいんだよ。生真面目って言うか、馬鹿正直って言うかさ。正攻法では折れてくれそうになかったから、つい、な」
なんとなく分かってはいたが、本気で髭との問答がめんどくなって、勢いで押し切る為にしやがったとか聞くと、一発殴らせろと言いたくなった。
しょうがないよなーと言うような表情で、軽く笑い飛ばされると、その思いは自分の胸の中だけではおさまらず『つい』殴りかかってしまった。さすがに顔面は狙わず、左肩に思い切り拳を叩き込もうとして、見事に未遂に終わる。
「まあまあ、そう怒るなよ。別に初めてって訳じゃないだろ」
オレの拳を受け止めた先輩の手のひらは、逃がさないようにか、グッと捕まえるように握り込まれた。かなりの馬鹿力で、押しても引いても動かない。
「男とは初めてだった!」
軽い感じで流しやがって。本気で一発は殴らないと気がおさまりそうにない。使い物にならない右は捨てて、もう片方で今度は腹に向けて突き上げるように打ち出した。
「そりゃそうか。……おぉ、なら、俺もだぞ。俺も初めてだ」
左は手首を掴まれた。もちろん、手応えはない。甘んじて受けるという大人な対応は出来ないらしい。
一気に距離の縮んだ先輩の顔を睨み付けてやる。相変わらず気の抜けた暢気な顔がオレを見下ろしていた。なんとか一矢報いたい。必死で頭を回して考えていると、オレの額に頭突きと言うには弱い、けど痛くないとは言い難い、何かが当たった。
「ごめんな。嫌な思いばっかりさせて」
先輩の顔がすごく近い。先輩の体温が額から伝わり、その温かさに撫でられると、オレの中で燻っていたものは一斉に消えてしまった。
「別に……そんなに嫌じゃ、なかったけど」
あの時と同じ距離で、先輩の目を見ていると『つい』本音が出てしまった。
「先輩は嫌だった?」
聞かなくていい事まで『つい』聞いてしまう。どんな答えを貰えれば満足なのか。突き放されても文句の言えない問いをしてしまった。一瞬で後悔した。先輩の顔を見るのが恐くて、そこに嫌悪の色を見るのが恐くて、目を伏せた。
沈黙が長い。数分くらいの気がした。けれど数秒、それだけの時間、先輩は何を考えていたんだろう。ふいに握られていた手から力が抜けた。オレの方も、もう殴ろうなんて気は少しも残っておらず、両手はゆっくりと下がっていく。
「俺も……嫌じゃなかったよ」
優しい声が耳を駄目にする。ついでに頭の中も。額に感じていた温もりが離れていく。視線を先輩に戻すと、心臓の音がヤバイくらい大きく鳴った。その時、オレは期待をしてしまっていた。
何を期待したんだろう。触れ合う部分がなくとも、近すぎる距離は否応なしに視線が絡み合う。右に逸らそうが左に逸らそうが、どうしても先輩へと視線は戻ってしまう。喉が渇いて、少し動かすだけでも、口の中で舌が気になってしょうがない。
一週間、色々とバタバタしていたせいもあるが、思い出さないようにしていた事が、心臓の音に合わせて、どんどんと蘇ってくる。絶対に変な気分になる、そう分かっていたから、考えないようにしていたのに、こんな状況に陥ったら、考えずには、思い出さずにはいられない。
「……そう、なんだ」
何か言葉を返すべきか迷う。迷っていたはずなのに、自然と出たのは精一杯の虚勢で、自分の内心が漏れないよう、全力でどうでもよさそうに答えるつもりが、馬鹿にしたような声になってしまい焦る。すげぇ嬉しいのに、でも顔に出たら一生表を出歩けないくらい恥かきそうで、それを必死で押さえた。
「男とするなんて思わなかったけど、最初で最後とは言え、その相手がセイシュンみたいな、かっこいい奴だなんてラッキーだよな」
冗談みたいなノリで笑う先輩を見て、落胆したなんて思いたくなかった。今すぐ押し倒してやろうかと考えてしまったが、どう考えてもその案は可笑しいので、自分の欲求とは正反対の行動を取り、大人しく少し離れた場所に腰を下ろす。理性は健在なのだ。……一応は。
それによく考えてみれば、そうそう落胆するばかりでもあるまい。男とするのはオレが最初で最後って、割と殺し文句だよな。まあ、普通に女とはする気満々って事だろうけどな!
「こらっ! ゴミを投げるな」
知らぬ間に畳んだ紙パックを先輩に投げつけていた。なんでこの部屋は家具類が一つもないんだ。こんなんじゃ全く気が晴れない。
「で、なんでオレとちゅーしたら会長がややこしくなるんだよ」
ぶっきらぼうに脱線した『先輩のせい』についての説明を求めた。もう正直どうでもいいけどな。聞いたところで、会長や生徒会とは二度と関わる気ないし。まともなオレは、そんなホモの乱交パーティーに参加する気はない。
とっとと喋れと言わんばかりのオレの態度に、心底困った顔を見せられたが無視してジト目を向け続けると、先輩は言いにくそうに口を開いた。
「その事が原因で、俺がセイシュンを気に入ってるって誤解してるんだよ、あいつ」
その一言でオレの中で何かが切れた。
「なんだよ、それ。マジでふざけてんのか!」
いきなりキレだしたオレに、先輩は申し訳ないと深々と頭を下げた。別にオレは謝られたい訳じゃない!
「オレのどこが気に入らないんだよ! 言えよ、直せたら直すから!」
「えぇ?! セイシュン、そうゆう問題じゃない気がするんだが……ちょっと冷静になってみようか、な?」
そうゆう問題って、どうゆう問題だよ。誤解って事は、そうゆう事だろ? なんか悲しいの通り越して、半端無い怒りで自分の中が一杯になっている。なんで、そんな事言うんだよ……なんで。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる