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忘却故の悲劇
悲しいまぐわい
しおりを挟むそのまま、押し倒さなかったことだけは褒められる。
後は何一つ褒められない。
ベッドの上で横になっている、痩せたニュクスの裸体を触りながら、発情の息を私は零した。
――結局、私は君を傷つけることしか、できない――
震えている体、怖いのだろう。
何をしても、ニュクスを傷つける行為にしかならない、どれだけ優しくしようとも。
分かっているのに、そうしなければどうにもならない自分が忌々しくてたまらなかった。
「……すまない」
声を絞り出して謝罪するが、この謝罪にどれだけの意味があるだろうか。
何も意味がない、傷つける事を許せという忌まわしい言葉、でも言ってしまう、言わないでするよりも、自分が――私が楽になる。
そんな身勝手な言葉。
体を撫でる、脂肪が落ちたので胸はより薄くなっていた。
「ふ……ぁ……」
ニュクスの口から零れる甘い声。
服越しでも、感じていたのだ、直に触ればより、感じるのも分かる。
熱が悪化する。
その苦しさに耐えながら、ニュクスの体を愛撫する。
触れる度に甘い声を上げて、体を震えさせる。
勃起した雄からはとろとろと透明な液体が零れ始めていた。
秘所――女の方を確かめたい気持ちはあるが、触るのを私はためらった。
忘却して以来、私からニュクスの性器を触ったことはない。
自分の性に振り回されて、それを拒否しているニュクスを下手に刺激したくない。
どうすればいいか分からなかった。
「……いい、よ……さわ……って……いれ……て」
熱と怯え混じりの声でニュクスは言った。
怖いのに、そう言わせているのは私自身だという事に、自分の薄汚さに、嫌気がさしてくる。
なのに、熱は治まらない。
自分の体が忌々しい。
ゆっくりと体をなぞりながら、秘所を指で撫でる。
とろりと愛液で塗れていた。
ゆっくりと指をナカへと入れる。
膣内は熱く、指を待っていたように締め付けてきた。
けれども、随分まぐわっていないからやや狭い感じがした。
「……無理なら、言ってくれ、お願いだ」
「……へい、き……」
ニュクスは怯えた声で、そう答えた。
止めることができれば、どれだけいいのだろう。
けれども、熱が早く吐き出したいと、体を苛む。
何とか、抑えながら、指をゆっくりと動かす。
ぐちゃぐちゃと乱暴にされても反応するようにされた私と、ニュクスは違う。
乱暴に扱えば、ただでさえ傷つく行為なのに、より傷が深まってしまう。
だから、必死に優しく愛撫をした。
柔らかく、びくびくと震える膣内から指を抜く。
愛液でどろどろになったそこに、吐き出したがっている自身の雄をゆっくりと押しつける。
ニュクスの体がこわばるのを感じた。
「……私は、どうすればいい?」
「……ちゅう、して」
怯えたような声でそう言って、首に手を回してきた。
「……分かった」
私はニュクスに口づけて、ゆっくりと、雄を秘所に挿れた。
熱く、締め付けてくる、心地いい感触。
真逆に怯える様に、舌を絡ませこわばらせる体の感触。
――こんな酷い行為で興奮するなんて、私は最低だ――
ぐちゅぐちゅとまぐわいあう音を聞きながら、興奮する体とは真逆に心は嫌悪に満ちていく。
どれだけ心が自分の行いを嫌悪しようと、私は行為を止めれなかった。
口を貪って、体を触り、秘所を犯して――今まで貯め込んできた「欲」を膣内にぶちまけた。
膣内がぎゅうと締め付けてきて、勃起したニュクスの雄からはどろりと白く濁った液体が零れた。
まだ、自分の雄が萎える気配はない、熱は酷いまま。
「……ニュクス、すまない、すまない……」
謝っても許されることではない。
私は、どれだけニュクスを傷つけるのだろう、苦しめるのだろう。
罵って欲しい、薄汚いと、お前など嫌いだと言って欲しい。
ニュクス、どうか私に罰を与えてくれ、お願いだ。
「りあん、なら……へい、き……」
でも君は罰してくれない――いや、これが罰なのだろう。
『お前はどうやっても愛する者を救えやしない』
そういう罰だ。
救いたい相手を傷つける事しかできないという事を、私に幾度も認識させる罰。
酷い罰だ。
傷つくのが私だけならともかく、ニュクスも傷つくのだ。
この世で一番傷つけたくない、最愛の存在を――私は傷つけるのだ、自分の手で。
何度目の射精か分からない、だが漸く熱は治まった。
ずるりと萎えた雄を抜くと、ニュクスは荒い呼吸を繰り返していた。
思わず手を伸ばすが、それを止めた。
傷つけた私に、そんな権利はない。
ニュクスを傷つけたくない。
でも、私もニュクスも、もう離れられない。
忘却して安定していた時、私の事はいいとニュクスを家族の元へでも帰すべきだった。
私はその結果、またあの時のように壊れた状態になるかもしれない。
それをしなかった結果がこれだ。
傷つけて、傷つけて、苦しめるしかできない。
自分を受け入れられないニュクスを苦しめるしか私にはできていない。
壊れて助けを求めた結果――私は君を壊してしまった。
君を傷つけることしかできなくなった。
目の前が暗い、救いが見えない。
――誰も、救えない、君の事を――
「りあん……」
ニュクスのか細い声、手首を掴まれる。
「……だいじょうぶ……おれ……だいじょうぶ……だから……がまん……しないで……」
ニュクスの言葉に、返事ができなかった。
――君はそうやって、我慢をするんだね、ニュクス――
――そして、私は、それに甘えるんだ、どうしようもないと言い訳して――
――自分の薄汚さに、反吐が出る――
傷のなめ合いなら、まだ救われる。
でも、これはそうじゃない。
私がニュクスを傷つけるだけの関係。
私はニュクス無しでは、自分を保てない。
ニュクスは私以外の存在を恐れている。
そのニュクスを、私は傷つけている、苦しめている。
君は私を救ってくれる、けど私は君を救えない。
――こんなにも心が傷だらけなのに、君は私の事を優先する、そんな君の傷を癒す方法も、何も思いつかない――
まぐわった後、いつもなら一人で湯浴みをするニュクスが、共に湯浴みをするよう言い出してきた。
私に拒否する権利などない、君が言ったから。
君の願いを少しでも叶えたい、傷つけるしかできないから。
温かいお湯のなかで、ニュクスは私に体を預けてきた。
痩せた背中。
白いうなじ。
抱きしめて、口づけたかったが、ぐっと堪える。
「……りあん……」
「……ニュクス、どうしたんだい?」
「……おれのからだ、きもちわるくなかった? おかしくなかった……?」
不安げな言葉。
ニュクスの言葉に「そんな事はない綺麗だよ、君は」と返したかった。
だが、それができない。
私の「綺麗だ」という言葉で、私はニュクスを追い詰めた。
今その言葉を言ってよいのか私には分からない。
けれど、無言は悪手だ、何か言わなくては。
「……気持ち悪くなかったよ、おかしくなかったよ……むしろすまない……嫌だっただろう、私なんかに、抱かれて……」
何とか絞り出した言葉、あまり良い言葉とは思えなかった。
「……ううん、りあんで、よかった……りあんいがいは……やだ……」
ニュクスは私の言葉に、そう返して、手を握ってきた。
ただ、その言葉が嬉しいのに、悲しかった。
これからも、そんなニュクスを、私は私の事を信用している君を、傷つけるしかできないのだと、心が茨で傷つけられるように、痛んだ。
――どうしたら、私は君を救えるのだろう?――
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