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第六章 隠し事はなんですか?
(三)
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ミナセも、けげんな顔をする。
「どうして彼は、掟を破るようなことをしているんだろうね」
「……レオは、閉じこもるのがつまらないから、出てきたって、言ってたけど」
「つまらないって……、そんな理由で? ひとを襲ってしまうかもしれないのに」
ミナセの声が鋭くなって、わたしはあわてた。
「で、でもレオ、悪い子には見えないよ。ひとを襲いたくないから、小屋に鍵をかけて閉じ込めてくれ。って頼んできたんだし!」
ミナセは顎に手を添えた。
「部屋にいたくないから家出したのに、小屋に閉じこもっているのかい?」
「え? うん、そうだけど」
「それじゃあ家出してきた意味がないのに?」
「あ、たしかに……」
うなずいたけど、わたしは思い出す。
「モーリスさまに間違って渡した宝石、赤輝石って言うらしいの」
「赤輝石……、力の宿った石かい?」
「そう。吸血衝動をおさえる力があるんだって。それをもって、レオは遊び歩くつもりなのかも」
そう言うと、ミナセは「そっか」と頭を悩ませた。
「でもやっぱり、変じゃないかな。家出には、べつの理由があるのかもしれない」
わたしたちは、レオのいる小屋をじっと見つめる。
「うん……、変なのは、わたしも思うよ」
レオは、きっと、なにかを隠している。
(でも、なにを?)
お父さんたちにあんなにおびえて、家出してきた本当の理由って、なに?
でも、小屋を見つめたってなにもわからない。
「あ、そうだ。ミナセの指輪、渡すね!」
重たい空気に耐えられなくなって、わたしはぱちんと手を叩いた。ミナセから修理を頼まれていた指輪が、お店にあったんだ。いそいで取ってきて、ミナセに渡した。
「どうぞ、確認して」
「……うん、きれいに直ってる。ありがとう」
そこでやっとミナセは笑ってくれた。
透明感のある深い橙色の宝石がはまった指輪だ。
ミナセは大事そうに指輪を月明かりに照らして、チェーンに通すと、ネックレスみたいに首に下げた。服の下にしまって、ふうっと息をつく。
「これがないと落ち着かないから、助かったよ」
「おばさんの形見だもんね」
実はあの指輪、事故で死んでしまったミナセのお母さんのものなんだ。ミナセはずっと大切にしている。わたしのお母さんもそれを知っているから、修理はひときわ、ていねいに行っていた。
こうして微笑んでくれるミナセを見ると、わたしもうれしくなる。宝石って、ひとを笑顔にできるものなんだ、って思えるから。
ミナセは満足そうな顔で、もう一度お礼を言って、背を向ける。
「レオのことは、気をつけてね」
去り際、ミナセはひと言だけ残していった。
(……気をつけて、って言われてもね)
わたしは小屋をふり返って、ため息をついた。
「どうして彼は、掟を破るようなことをしているんだろうね」
「……レオは、閉じこもるのがつまらないから、出てきたって、言ってたけど」
「つまらないって……、そんな理由で? ひとを襲ってしまうかもしれないのに」
ミナセの声が鋭くなって、わたしはあわてた。
「で、でもレオ、悪い子には見えないよ。ひとを襲いたくないから、小屋に鍵をかけて閉じ込めてくれ。って頼んできたんだし!」
ミナセは顎に手を添えた。
「部屋にいたくないから家出したのに、小屋に閉じこもっているのかい?」
「え? うん、そうだけど」
「それじゃあ家出してきた意味がないのに?」
「あ、たしかに……」
うなずいたけど、わたしは思い出す。
「モーリスさまに間違って渡した宝石、赤輝石って言うらしいの」
「赤輝石……、力の宿った石かい?」
「そう。吸血衝動をおさえる力があるんだって。それをもって、レオは遊び歩くつもりなのかも」
そう言うと、ミナセは「そっか」と頭を悩ませた。
「でもやっぱり、変じゃないかな。家出には、べつの理由があるのかもしれない」
わたしたちは、レオのいる小屋をじっと見つめる。
「うん……、変なのは、わたしも思うよ」
レオは、きっと、なにかを隠している。
(でも、なにを?)
お父さんたちにあんなにおびえて、家出してきた本当の理由って、なに?
でも、小屋を見つめたってなにもわからない。
「あ、そうだ。ミナセの指輪、渡すね!」
重たい空気に耐えられなくなって、わたしはぱちんと手を叩いた。ミナセから修理を頼まれていた指輪が、お店にあったんだ。いそいで取ってきて、ミナセに渡した。
「どうぞ、確認して」
「……うん、きれいに直ってる。ありがとう」
そこでやっとミナセは笑ってくれた。
透明感のある深い橙色の宝石がはまった指輪だ。
ミナセは大事そうに指輪を月明かりに照らして、チェーンに通すと、ネックレスみたいに首に下げた。服の下にしまって、ふうっと息をつく。
「これがないと落ち着かないから、助かったよ」
「おばさんの形見だもんね」
実はあの指輪、事故で死んでしまったミナセのお母さんのものなんだ。ミナセはずっと大切にしている。わたしのお母さんもそれを知っているから、修理はひときわ、ていねいに行っていた。
こうして微笑んでくれるミナセを見ると、わたしもうれしくなる。宝石って、ひとを笑顔にできるものなんだ、って思えるから。
ミナセは満足そうな顔で、もう一度お礼を言って、背を向ける。
「レオのことは、気をつけてね」
去り際、ミナセはひと言だけ残していった。
(……気をつけて、って言われてもね)
わたしは小屋をふり返って、ため息をついた。
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