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しおりを挟む「お前はもう少し婚約者殿に優しくすべきだな」
放課後の図書室。
話があると呼び出されてきてみれば開口一番、俺が最も厭う言葉を吐きだした。
俺が思いきり顔をしかめると、まるで聖母のような顔をしたギルバートが少女のように小首をかしげた。
そのあざとい態度に俺はハワラタが煮えくり返りそうになる。
「やめろ、気持ちが悪い。なぜわざわざここに呼んだ。人が来てもいいのか」
「卒業式が近いせいか生徒会室は何かと人の出入りが多いからね。ここならば人払いも容易だ」
「ふん、どうだかな」
「そう尖るな。友人からの忠告だよ。彼女、あんなにやせて怯えて。もう本当の事を話してしまえばいいのに」
「……アルリナに会ったのか」
「怖いな。視線だけで殺されそうだ」
「うるさい」
「そこまで執着しているなら、なぜ彼女を傷つける?そういう趣味なのか、お前は」
これ以上そのことに触れるなと言う思いを込めて背を向けるが、ギルバートの言葉は止まらない。
いかに俺が残酷で非道な男かを並べ立て、俺の気持ちを逆なでにする。
生徒たちや教師の前では聖母のようにふるまうギルバートは、実際のところ俺よりも狡猾で恐ろしい男だ。
自らの見た目を最大限に活用し、誰にでも優しく慈愛の笑みを向けてはいるが、それが使える人間かどうかをいつだって見定めている冷酷さがある。
亡くなった王妃に瓜二つである彼に父である王が向ける執着は異常だ。
王は、ギルバートが自分の後を継ぐことで危険にさらされる事を何より怖がっている節がある。
王妃を愛していたが故の愛情の暴走なのだろう。だからこそ、王家の立場や国益を脅かす者達への疑心が高まり、独裁者へとなり果てようとしていた。
「いくら僕たちの父を欺くためとはいえ、このままで真に嫌われてしまうよ」
かまうものか。それこそが俺が望んでいる事なのだから。
「……まったく、返事くらいしたらどうだ」
「うるさい。二度とアルリナに近づくな」
「そこまで言われると逆に興味が湧くな」
「っ!!」
思わずギルバートの胸ぐらを掴むが、彼は怖がるでもなく慌てるでもなく、女のように微笑んで僕の手を撫でた。
「やめなよ。僕たちが争っても何もいい事はないだろう?」
「お前が煽るからだ」
「ふふ……そんな風に怒る君は新鮮だ」
ギルバートと俺は共闘関係にある。
お互い、ろくでもない父親のせいで人生を狂わされようとしているからだ。
「君の父上も残酷だね。その大半は僕の父上のせいなのだろうけれど」
「あれから陛下の様子はどうだ」
「相変わらずさ。隣国がいつ攻めてくるのかという悪夢に襲われているよ。僕をこの学園から1歩も出したくないらしい」
自嘲気味に笑うギルバートの瞳は笑みとは真逆に冷え切っている。
「哀れなものだよ。愛する女ひとり失っただけで賢王が独裁者になり果てた」
「…………」
「ああ、君はそのあたりだけは共感できるのかな?僕には不可能だ。誰かを自分以上に愛する事などない」
ギルバートは自分以外の誰も信じてはいないし愛してはいない男だ。俺の事は利用価値があり、裏切らないと知ってるからこそ傍に置いている。
愛する者を失って狂った王の気持ちは少しだけならば理解する。もしアルリナを失えば俺だってどうなるか分からない。
理解できないのは愛する女を失ってなお生きている事だ。そんなに恋しければついて逝けばよかったものを。
「家臣たちの掌握はほとんど終わっている。あとは仕上げだけといってもいい、が…そのためにはまだ君には働いてもらわねばならない」
「わかっている」
「わかっているのならば、そんな怖い顔をするな。残念だが彼女に優しくするつもりがないのならばその態度は貫けよ。今更急に変わった所でぼろが出るだけだ」
残酷に笑うこの男の本性を学園中に暴露してやりたい思いに駆られた。
とっくに逃げ出すと思っていたアルリナは俺の腕を拒まない。
俺を嫌い、憎み、学園を去ってくれればと抱いていた俺の淡い期待は叶うことはなかった。
薬を渡すという口約束を信じているのか、何度も中に精を放ってもアルリナは嫌がるどころか俺の雄を心地よく締め付ける。
あの薬は全て偽物だ。最初に渡した薬は只の熱冷まし。あとは薬に似せた砂糖玉。
アルリナの中に放った熱を誰が無駄にするものか。
繋がった場所から溢れる白濁で汚れていくアルリナの白い肌は眩しいほどにいやらしい。
思い出すだけで今すぐあの細い腕を引き、組み敷きたい衝動に駆られる。
小柄で華奢な体躯は無理をすれば折れそうなのに、酷い仕打ちに肌を朱色に染めながらもその体を俺の自由にさせる。
手のひらに収まる柔らかな胸もいい。今度飽きるまであの胸をしゃぶり続けたい。
考えるだけで腰が疼き熱がともるのを感じた。
俺は猿のようにアルリナを求めた。
我ながら馬鹿だ。
こんなことになるのならば、もっと早く、もっと手酷く学園から追い出しておくべきだった。
俺がアルリナに執着している事は元から知っていたギルバードだったが、アルリナをこの計画に巻き込む予定は元よりなかったのだ。
しかし今、俺とアルリナに関係がある事を知った以上、それを使わない手はないと言い出した。
反対しても無駄だ、ギルバートはやると決めた事は必ずやる男だ。
逆らうより、言う事をきくふりをして自分の思い通りに事を進めるほかにアルリナを守る術はない。
「守る、か」
乾いた笑いがこぼれた。
何が守るだ。彼女の心を身体を踏みつけにし、幼い憧れのような気持ちを利用して歪んだ欲望を押し付けているだけだ。
嫌いになれと願ってやまないくせに、あの口から嫌いだと言われるのを想像するだけで胸が千切れそうな痛みを訴える。
いったい俺は何がしたいのだろう。
「シュルト、今になって罪悪感を持っているのならばもう遅い。僕たちははじめてしまった」
「…………そうだな」
「せいぜい逃げられないようにするんだな。アルリナは僕たちの計画に欠かせない駒だ」
残酷に告げる言葉に俺は頷くほかに道はなかった。
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