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悪魔な旦那様と暮らしてます。
その2 そして二人はいつまでも幸せに・・・の後。(アーロン視点)
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アエリアの授業中は本当にやる気が出ない。スチュワードの奴、生真面目に毎日五時間もアイツを占有する。しかも宿題を出されるとアエリアはそれが終わるまで部屋から出て来ない。実習ならばせめて顔を出せるが、座学だとうるさがられるだけだ。あいつのやりたい事なんだから止めるつもりはもちろんないが、その間絶対に邪魔が出来ないってのが辛い。
結婚してからは俺が欲しいと求めれば基本的にアイツは受け入れてくれる。ここしばらく、授業中以外はほとんどいつでも俺の視界に入る場所にいてくれてさえいる。これまでの苦しさに比べればこんな数時間の授業などなんという程の物でもないはずなのだがそれがやけにこたえる。
こんなんでアイツが逝ってしまったら俺はどうするんだろうか。
ズキンと胸が痛む。
人間達の寿命はどれくらいだった? 確か長くても百年くらいじゃなかったか? という事は後八十年足らずか。
しかも人間はどんどん老いていく。どんなに俺がせがんでもどうせ後四、五十年程しか俺に触らせてくれないだろう。考えれば考えるほど短く感じる。
竜王である俺の老いは多分あと数年で止まってしまう。その後は擬態で外見を繕ってごまかしながらいくしかない。そして俺はアイツを送らなければならないんだ……
その事を考えると気が狂いそうになる。
親父があの人に殺してくれと頼んだ気持ちが今の俺には痛いほどわかる。俺もこいつが逝く時に殺してくれと哀願するだろうか。でもなんかアイツは絶対に俺の言う通りにはしてくれない気がする。きっとただ殺してくれないんじゃなく、俺が想像できないような斜め上のことをされそうだ。いつだってそうだ。アイツのやることは俺には想像がつかない。
「師匠、授業終わりましたぁ!」
元気よく執務室に入って来たアエリアがばさりと教材をテーブルに投げ出して俺の所に回り込む。以前は俺が呼ばないと来なかったが、最近は俺が呼ぶ前からここにきて俺の膝によじ登る。これだけ俺に構われていつも苦しそうにするにも関わらず、それでも自分から俺の元に来てくれる。それが何よりうれしい。
膝の上のアエリアの腰に手を回してゆっくりと引き寄せる。ぴたりと細い腰が俺の腹にあたって艶めかしい。
「今日は何をやったんだ?」
「えっと、精霊界を通して二つの離れた地点を繋げる訓練です。やっと精霊界への呼びかけが出来るようになったところで終わっちゃいました」
どうもコイツにとって精霊界とのやり取りが一番難しいらしい。魔術に関してはあんなに簡単に吸収して変な応用まで出来てしまうのに不思議なものだ。
俺はアエリアが嫌がらない範囲で腰に回した腕に力を込めていく。
「一度精霊界に降りてみたほうがお前は分かりやすいかもしれんな」
「え? そんなこと出来るんですか?」
「……特殊な方法を使えば可能だ。ただし誰にでも出来るわけではないがな」
うわー精霊界旅行っと暢気な声を上げているのが何故か忌々しくて手の中の資料を置いてアエリアの頭を撫でまわす。
「師匠髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃいます」
「いつものことだろ。大人しくしてろ」
艶やかな髪もコイツの小さな頭も何もかもが愛おしい。アエリアの頭を片手で掴んで俺の頬をアエリアの頬に押し当てる。
「師匠くすぐったい」
俺がグリグリと頬を摺り寄せるとアエリアが笑う。
嫌がられない。逃げ出さない。
そんなアエリアの反応が嬉しくて仕方ない。
それどころか、何を思ったのか俺の頭を撫で始めた。
「師匠の髪の毛、真っすぐでうらやましい。お手入れいりませんよね」
……本当にコイツは何をし始めるか分からんな、いつも。俺の髪に指を通して梳き始める。勝手に俺の髪留めを外したようだ。そのまま俺の髪を生え際から掻き上げる。アエリアの細い指が俺の額の辺りから頭の形を確かめるように後ろに掠めていくのがこそばゆくて、軽く目を瞑ってしまう。
「師匠、色っぽい……」
「お前、それは男に言う言葉じゃないぞ」
ちょっと顔をしかめてアエリアの顔を見ればすでに赤くなっていた。
なんで俺の髪をとかしただけで赤くなるんだコイツは。ちょっとやってみたくなる。アエリアの髪は今日は邪魔にならないように結い上げられているので、これを外してしまわないと指が通せない。
「これ外すぞ」
そう言いおいてエリー達が丁寧に結い上げた髪留めを一つ一つ外して、結い上げられていた髪を下ろし、根元から両手の指を差し込んでアエリアがやったように掻き上げてやる。アエリアが気持ちよさそうに瞼を落として震わせた。
ああ。確かにこれは色っぽい。少し頭が後ろに反って細い喉が露わになるのがまたそそる。アエリアが目を開ける前に軽くその唇にキスをした。
「ん……」
嫌がるどころか、嬉しそうに頬を緩めるのが目に入ってドキリとさせられる。
つくづく思うが結婚してからこっち、コイツは俺がする事をなんでも気持ちよさそうに受け入れてくれる。回数こそ減らしてくれと懇願されるが、それ以外で嫌と言う言葉を聞くことがなかった。
時々思う。本当にここまでしてしまっていいのかと。コイツは無理をしてるんじゃないだろうか。
「アエリア、嫌なことはないか?」
非常に漠然とした質問になってしまって自分でも笑ってしまう。なのにアエリアはやけに真剣に考えて答えてくれた。
「師匠、師匠のくれるもので嫌なものはないですよ。いつも私の欲しい物しかくれませんから。師匠がパーティーとかで嫌そうなのは私もちょっと嫌です。師匠と一緒にもっと色々したいですけど、師匠が寝かせてくれなかったり切りなくやり続けるのは嫌と言うか身体が無理です」
生真面目な奴だ。
コイツは自分が馬鹿だと思っているらしい。俺にはそうは思えない。決して頭脳が明晰とか切れるとか言うことではなく、コイツは本当によく色々考えている。俺が思っている以上に色々考えたうえで俺とこうしていてくれている。
「そうか」
畜生。俺はコイツのように自分の思っていることを言葉にして伝えるのが苦手だ。俺の言葉が足りないと、コイツは時々不安そうな顔をする。それが情けなくてなんとか言葉を探すのだが、本当に難しい。
「俺はお前が隣にいてくれればそれでいいんだがな」
図らずも俺が絞り出した答えをアエリアは非常に気に入ったようで、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「師匠、私もです。師匠さえいてくれれば嫌な事はありません」
本当にかわいい事を言う。つい力いっぱい抱きしめてしまう。
「ぐへっ! し、師匠、だから師匠のキュウは力強すぎ!」
「わ、悪い」
そんなことを言ったって、たまには思うままに抱きしめたくもなる。
アエリアは俺が日がな一日ただただやり続けたいと思っていると考えているようだが、別にそんなことはない。いや、出来なくもないしそれはそれで魅力的だが、それ以上にこうしてコイツが俺になついてくるのが非常に楽しい。
前にも思ったが、結局俺はコイツの喜ぶ顔を見ていたいんだとつくづく思う。
とは言え、コイツがあと十分もこのまま抱き着き続けたら、きっとまた襲ってしまうのだろうが。
それはきっとコイツが俺を欲しがってるからだ。そういうことにしておこう。
結婚してからは俺が欲しいと求めれば基本的にアイツは受け入れてくれる。ここしばらく、授業中以外はほとんどいつでも俺の視界に入る場所にいてくれてさえいる。これまでの苦しさに比べればこんな数時間の授業などなんという程の物でもないはずなのだがそれがやけにこたえる。
こんなんでアイツが逝ってしまったら俺はどうするんだろうか。
ズキンと胸が痛む。
人間達の寿命はどれくらいだった? 確か長くても百年くらいじゃなかったか? という事は後八十年足らずか。
しかも人間はどんどん老いていく。どんなに俺がせがんでもどうせ後四、五十年程しか俺に触らせてくれないだろう。考えれば考えるほど短く感じる。
竜王である俺の老いは多分あと数年で止まってしまう。その後は擬態で外見を繕ってごまかしながらいくしかない。そして俺はアイツを送らなければならないんだ……
その事を考えると気が狂いそうになる。
親父があの人に殺してくれと頼んだ気持ちが今の俺には痛いほどわかる。俺もこいつが逝く時に殺してくれと哀願するだろうか。でもなんかアイツは絶対に俺の言う通りにはしてくれない気がする。きっとただ殺してくれないんじゃなく、俺が想像できないような斜め上のことをされそうだ。いつだってそうだ。アイツのやることは俺には想像がつかない。
「師匠、授業終わりましたぁ!」
元気よく執務室に入って来たアエリアがばさりと教材をテーブルに投げ出して俺の所に回り込む。以前は俺が呼ばないと来なかったが、最近は俺が呼ぶ前からここにきて俺の膝によじ登る。これだけ俺に構われていつも苦しそうにするにも関わらず、それでも自分から俺の元に来てくれる。それが何よりうれしい。
膝の上のアエリアの腰に手を回してゆっくりと引き寄せる。ぴたりと細い腰が俺の腹にあたって艶めかしい。
「今日は何をやったんだ?」
「えっと、精霊界を通して二つの離れた地点を繋げる訓練です。やっと精霊界への呼びかけが出来るようになったところで終わっちゃいました」
どうもコイツにとって精霊界とのやり取りが一番難しいらしい。魔術に関してはあんなに簡単に吸収して変な応用まで出来てしまうのに不思議なものだ。
俺はアエリアが嫌がらない範囲で腰に回した腕に力を込めていく。
「一度精霊界に降りてみたほうがお前は分かりやすいかもしれんな」
「え? そんなこと出来るんですか?」
「……特殊な方法を使えば可能だ。ただし誰にでも出来るわけではないがな」
うわー精霊界旅行っと暢気な声を上げているのが何故か忌々しくて手の中の資料を置いてアエリアの頭を撫でまわす。
「師匠髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃいます」
「いつものことだろ。大人しくしてろ」
艶やかな髪もコイツの小さな頭も何もかもが愛おしい。アエリアの頭を片手で掴んで俺の頬をアエリアの頬に押し当てる。
「師匠くすぐったい」
俺がグリグリと頬を摺り寄せるとアエリアが笑う。
嫌がられない。逃げ出さない。
そんなアエリアの反応が嬉しくて仕方ない。
それどころか、何を思ったのか俺の頭を撫で始めた。
「師匠の髪の毛、真っすぐでうらやましい。お手入れいりませんよね」
……本当にコイツは何をし始めるか分からんな、いつも。俺の髪に指を通して梳き始める。勝手に俺の髪留めを外したようだ。そのまま俺の髪を生え際から掻き上げる。アエリアの細い指が俺の額の辺りから頭の形を確かめるように後ろに掠めていくのがこそばゆくて、軽く目を瞑ってしまう。
「師匠、色っぽい……」
「お前、それは男に言う言葉じゃないぞ」
ちょっと顔をしかめてアエリアの顔を見ればすでに赤くなっていた。
なんで俺の髪をとかしただけで赤くなるんだコイツは。ちょっとやってみたくなる。アエリアの髪は今日は邪魔にならないように結い上げられているので、これを外してしまわないと指が通せない。
「これ外すぞ」
そう言いおいてエリー達が丁寧に結い上げた髪留めを一つ一つ外して、結い上げられていた髪を下ろし、根元から両手の指を差し込んでアエリアがやったように掻き上げてやる。アエリアが気持ちよさそうに瞼を落として震わせた。
ああ。確かにこれは色っぽい。少し頭が後ろに反って細い喉が露わになるのがまたそそる。アエリアが目を開ける前に軽くその唇にキスをした。
「ん……」
嫌がるどころか、嬉しそうに頬を緩めるのが目に入ってドキリとさせられる。
つくづく思うが結婚してからこっち、コイツは俺がする事をなんでも気持ちよさそうに受け入れてくれる。回数こそ減らしてくれと懇願されるが、それ以外で嫌と言う言葉を聞くことがなかった。
時々思う。本当にここまでしてしまっていいのかと。コイツは無理をしてるんじゃないだろうか。
「アエリア、嫌なことはないか?」
非常に漠然とした質問になってしまって自分でも笑ってしまう。なのにアエリアはやけに真剣に考えて答えてくれた。
「師匠、師匠のくれるもので嫌なものはないですよ。いつも私の欲しい物しかくれませんから。師匠がパーティーとかで嫌そうなのは私もちょっと嫌です。師匠と一緒にもっと色々したいですけど、師匠が寝かせてくれなかったり切りなくやり続けるのは嫌と言うか身体が無理です」
生真面目な奴だ。
コイツは自分が馬鹿だと思っているらしい。俺にはそうは思えない。決して頭脳が明晰とか切れるとか言うことではなく、コイツは本当によく色々考えている。俺が思っている以上に色々考えたうえで俺とこうしていてくれている。
「そうか」
畜生。俺はコイツのように自分の思っていることを言葉にして伝えるのが苦手だ。俺の言葉が足りないと、コイツは時々不安そうな顔をする。それが情けなくてなんとか言葉を探すのだが、本当に難しい。
「俺はお前が隣にいてくれればそれでいいんだがな」
図らずも俺が絞り出した答えをアエリアは非常に気に入ったようで、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「師匠、私もです。師匠さえいてくれれば嫌な事はありません」
本当にかわいい事を言う。つい力いっぱい抱きしめてしまう。
「ぐへっ! し、師匠、だから師匠のキュウは力強すぎ!」
「わ、悪い」
そんなことを言ったって、たまには思うままに抱きしめたくもなる。
アエリアは俺が日がな一日ただただやり続けたいと思っていると考えているようだが、別にそんなことはない。いや、出来なくもないしそれはそれで魅力的だが、それ以上にこうしてコイツが俺になついてくるのが非常に楽しい。
前にも思ったが、結局俺はコイツの喜ぶ顔を見ていたいんだとつくづく思う。
とは言え、コイツがあと十分もこのまま抱き着き続けたら、きっとまた襲ってしまうのだろうが。
それはきっとコイツが俺を欲しがってるからだ。そういうことにしておこう。
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