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しおりを挟む侍女が国王の訪問を告げてきた。
お腹に顔を付けていたマリアは、不満そうな顔で立ち上がり後ろに控える。
そして一応礼儀上、フィオナも立ち上がりアルヴィンを迎えた。
「あぁ・・・楽にしてくれ」
いつもと違い、どこか緊張したような面持ちで現れたアルヴィン。
フィオナが座ると、いつもであれば向かい側に座るのだが、今日はすぐ横に腰かけた。
そして何か言いたそうにするも、なかなか口を開かない。
何なのかしら。言いたいことがあれば言えばいいのに。
顔を見るのも嫌なくせに、何で毎日来るのかしらね。
どんなに彼が謝罪しても、フィオナには響かなかった。
取り敢えず「子供はちゃんと生みますから」とだけ答えれば、彼はなんとも言えない表情をしたのを覚えている。
余りに何度も謝罪してくるから取り敢えず「もういい」とは言ったが、彼自身、納得していない様子。
だが、フィオナはあの時にもう気持ちが決まってしまったのだから、今更謝罪されても何も変わらないのだ。
はっきり言って、あの文句を言っていた時のままならば、こんな風に顔を合わせる事もなかったのに・・・と、何故彼の心境が変わってしまったのかが分からない。
つまりは、彼の恋心は何ひとつ伝わっていないという事。
「好き」や「愛してる」と言えない分、態度で示していたつもりだったが、全て子供の為だと思われていた。
二人でこうして会っても、ほとんど会話もない。
「体調はどうだ」とか「無理はするな」とか、ありきたりな事しか言えず、フィオナも「はい」「大丈夫です」としか繰り返さない。
フィオナが歩み寄る気持ちが無いのだから、当然と言えば当然なのだ。
「陛下、何か言いたい事でもあるのですか?」
痺れを切らし、フィオナが切り出した。
アルヴィンはちょっと迷ったようにしたが、覚悟を決めたかのように口を開いた。
「腹の子が・・・動くのか?」
その言葉に「おや・・・」とフィオナが眉を上げた。
「えぇ。胎動を感じる時期になりましたので」
「そう、か」
事務的に返せば、どこか悲しそうに眼を伏せた。
もしかして、触ってみたいのかしら。・・・でも、女性に触れたり触れられたりするのは嫌なのよね?
それが妊婦だろうと何だろうと、相手は女なんだもの。
―――でも、一応・・・聞いた方がいいのかしら?父親だし?
「触ってみますか?」
その一言に、弾かれた様に顔を上げるアルヴィン。
その目は期待に満ちていて、思わず仰け反ってしまった。
「いいのか?」
「陛下が大丈夫なのであれば、どうぞ」
そう言って、彼と向き合うように座りなおした。
こわごわと手を伸ばし、少し膨らんできたお腹に手を置いた。
その瞬間、これまで誰に話しても、誰にお腹を触られても、どこか欠けているような感覚だったものが急に満たされた、そんな感じがしてフィオナは不思議な面持ちになる。
そしてそれを感じ取ったかのように、その手を狙いすましポコンとお腹の内側から叩かれた。
「え?動いた?」
びっくりしたように目を見開き、お腹を見つめるアルヴィン。
「あぁ、自分の父親だとわかったのでしょうか。こんなにすぐ反応を返す事はあまりないのですが」
「・・・父、親・・・・」
そう呟くと、そのアイスブルーの瞳から、スッと涙が零れ落ちた。
驚いたのはフィオナ。
「陛下!?どうされました?」
ハラハラと涙を流すアルヴィンに、困ったようにオロオロするフィオナ。
周りも動揺しているものの、「妻のお腹に触って、子供が反応。それに感動して泣いている」という光景が当てはまる為、誰も何も言えない。
ひとしきり泣いた後、涙を拭きながらアルヴィンが「すまない」と謝罪した。
「こんな俺にも反応してくれる、この子に申し訳なくてね・・・」
そうか・・・この子が産まれたら私はここからいなくなるんだものね。
それを望んだのは陛下だし・・・
一人納得しながらも、やはり一抹の寂しさが胸をよぎる。
私はちゃんと、子供と別れることができるのだろうか・・・と。
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