ゆめも

toyjoy11

文字の大きさ
上 下
30 / 131
【18禁】非人道的で平和な領地経営

しおりを挟む
目を覚ますと魔法有りのファンタジーな世界にいた。

日本で生きていたが、殺されて、生まれ変わってこの世界の貴族子息に転生。母は産後の肥立ちが悪く、俺が生まれてちょっとして死亡。父は俺をほとんど放置状態。3歳の頃に熱病に侵され、気付いたら、前世の記憶を思い出していた。

よもや、テンプレかと思ったら、案の定、意地悪な継母が居た。脳内花畑の父親が5歳になったばかりの俺に領地経営をしろと言って、一応、名義的には親父の領地だったとこだけど、住民0の森の奥地に俺を捨てた。

ちなみに、その際に俺の名字は取りあげられて、男爵の地位と「   」と空白の名字が与えられた。実質の勘当である。

「ハハハ。」

乾いた笑いが出るのも仕方が無い。

(これで、チートよろしく従魔能力があれば、本当に小説の主人公じゃん。)

とか思っていたら、プラントイーターが現れた。

この魔物は基本あったら、即死亡と考えて良いと言われている。唯一、生き残った者も腹から大量のキラープラントを溢れさせて、死亡した。



魔物の説明をしよう。

プラントイーターは何でも食べる植物触手系の魔物だ。全長は未だにわかっていないが、以前、森の火災で死亡したと思われるプラントイーターの死体は全長10m程度あったらしい。基本的に動物も植物も自身の触手で捕縛したうえで、花弁に包まれた口内と思われる部位に獲物を包み込むように加えて、徐々に溶かして食べる魔物だ。極たまに生殖の為に体長1m以上の生物を捕縛し、拘束したうえで苗床にする習性がある。苗床から生まれるキラープラントから考えるにキラープラントがプラントイーターの幼生種と考えられている。

キラープラントは主に、体長3m以下の動物を捕食する蔦系魔物である。生まれたばかりならば、隊長が10cm程度しかない。しかし、1週間ほどで直系1cmほどの蔦を成長させ、自身の体長が1m程になる。そしたら、人間も捕食対象になるので、見つけたらすぐに燃やすことが推奨されている。食べ方?蔦で締め上げで死亡させたのちに、蔦の先端についている捕食口を使って、徐々に噛みちぎりながら捕食するよ?



はい、全く持って現実逃避しています。

でも、おかしいことがあります。目の前のプラントイーターは俺を殺そうともしないし、犯そうともしていない。

プラントイーターの植生は、ほとんど知られていないが、人間を捕食することは確かなのに。

目の前のプラントイーターの捕食口がある部分を改めて見る。開けっ放しの口には、幾数もの鋭いが短い牙がついている。口の中には青い汁が一杯詰まっている。

花弁部には青と赤の瞳がついており、何故だかウルウルと潤んでいる。

植物系の触手はフルフルと震えており、何故だか感動?怯え?そんな雰囲気がある。

「俺はエバンスと言う。君は、俺を知っているのか?」

と尋ねることにした。

全く正気の沙汰ではない。しかし、どうせ死ぬならとつい、そうしてしまった。

「******、***。」

プラントイーターが喋った。わからない言語だが喋った。どうやら、プラントイーターは言葉を使用するだけの知能を持ち合わせているらしい。言葉はわからないが、悲しんでいるのが理解できた。どうやら、俺をしばらくは捕食しないことを理解した。しかし、今は捕食しないだけかもしれない。

「すまないが、君の言葉がまだ理解できない。少し、時間をくれ。」

と俺が言うと、プラントイーターは凄く悲しそうに花弁部がついた部位をしょんぼりと項垂れた。

そうするとプラントイーターの美しい瞳が見えにくくなったので、ちょっと欲望に従って、つい言ってしまった。

「君の綺麗な瞳はずっと見ていたいので、あまり下を向かないでくれ。」

と。

ちなみに、俺の死亡理由は、数か月前から頻繁に強盗殺人を犯していた犯人を捕まえて、家で監禁していたのだが、逃げようとした犯人に殺されたのが原因である。何故、監禁していたかと言うと犯人がとても綺麗な瞳をしていたからである。自分の家に強盗に来た犯人で、既に何十人も殺している犯人でもあったので、捕まっても恐らく税金を使って死刑にされるか長々と刑務所に滞在するだけの生き物だった。なら、有効に活用しようと思い、地下室に犯人を監禁したのだ。まぁ、1週間ほどでどうやったのかわからないが、脱出し、俺を殺したようなのだが。

一応、初犯だ。人間を監禁したのは後にも先にもあの犯人だけだ。



さて、この目の前のプラントイーターはとてもあの犯人に似た瞳をしている。青と赤の綺麗な瞳だ。



意識をもう一度、集中しなおす。まだ5歳だから、魔法技術など習ったことは無いが、魔法がある世界なのはこの世界で生きてきて知っている。だから、魔法を見たことならあるのだ。

魔法とは様々な言語を集約したような言語で、使用の際には魔法陣が現れることが多い。魔法陣は象形文字に似た言語と古代遺跡で見つけたような意味不明に見える線と点と円の組み合わせで形作られている。

照明の魔法は光を表す象形文字と点が3つに円弧を2つ繋いだような三日月に似た絵を描き、更に「カイトウ」と日本語のカタカナに似た文字を絵の真下に書き、最後に円で囲むと魔法陣として認識され、電球が光る程度の光源が得られる。作成された際に、『ピンポンピンポン』と不可思議な音がするが、これで、術式が成功したことがわかる。失敗したら、音がならないから失敗。



前世の記憶を呼び起こしてから、この世界のことを改めて考えるとあまりに笑える仕組みだと思ってしまう。

ちなみに、言語習得に関しては、チートは少しあったように思える。3歳の頃に親に内緒で書斎の本を読み漁り、様々な言語を習得できたのだ。と言っても、発音はできない。文字の読み書きができるだけだ。どんな発音をするかは本からはわからなかった。子供向けの教育本があれば、話は違っていたのかもしれないが、継母にいびられていた俺には無理難題。まぁ、読み書きができるだけ運が良かった。

おかげで、魔法書も読むことだけならできたのだから。

しかし、魔法陣について多く書かれた本は、実に図鑑形式の内容を無理矢理叙情的表現の文に置き換えた本で意味のないものに思えた。何故なら、この魔法陣なら火が出ます。水が出ます。と出た魔法がつらつらと書かれているだけだったからだ。無駄な記述が多く、威力についても叙情的表現が多用されていて、分かりにくかった。

『魔法陣の絵/必要な魔力量/威力/主な効能/補足事項』みたいな感じで形式を整えてくれればいいのにと何度思ったことか。

しかし、自分でそれらの本の内容をまとめ、自分なりに修正して図鑑形式で主要な部分だけを書き写し、手元に常においていた。おかげで、追い出された今も胸元に本が入っている。小さな手のひらサイズの手帳に小さな文字で書き写した。絵と文。おおよそ、200ページ程あるそれの中に翻訳が可能なものがあった。異なる言語を自分の言語に翻訳し、光文字で空中に展開する魔法陣。ただし、非常に魔力を使うものだったはず。

再度魔法陣を構成する文字と絵を確認し、変更が可能か考えてみる。



「よく考えれば、魔法陣に使われている文字も翻訳できるのでは?」

記憶を取り戻して、2年目でようやくこの答えに至るとは、とても俺は頭が悪い。

翻訳魔法を展開し、翻訳魔法を更生する文字を解読する。そこに書かれていた文はなんと、予想外のものであった。

「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」

「正解したら、ピンポンピンポンと音を発生させ、古代エルフ言語をカルフス言語に翻訳します。翻訳した文字は作成した本人の魔力を使用し、光で文字を空中に描き、数秒間固定させます。」

「回答:フライパン」

「提供支援:赤妖精セイシルフ」

ちなみに、カルフス言語と言うのは、この世界の共通言語である。

あまりの予想外の内容に、唖然とする。まさかと思い、照明魔法の方も翻訳してみる。

「朝は4本昼は2本夜は3本なーんだ?」

「正解したら、ピンポンピンポンと音を発生させ、正解ランプを3分間光らせる。」

「回答:人生」

「提供支援:赤妖精セイシルフ」

あまりのことに、頭を抱える。

(いままで、何故、魔法陣を翻訳した奴はいなかったのか?あり得んぞ?)

なんだか、心配そうにプラントイーターがこちらを窺っている気がする。

「大丈夫だ。問題・・・ない。多分。もう少し待ってくれ。」

そう言うと、プラントイーターは嬉しそうにしているように見えた。



この文から考えるに、なぞなぞと正解の時にかかる負荷を魔力に、そして、支援を赤妖精セイシルフにしてもらうことで成立するのが魔法陣のようだ。



・・・マジか。



正直、なぞなぞなんて、あんまり知らないんだが、まぁ、なら、正解したらどうなるかだけを変えて、例えば「光の文字」ではなく「土に文字を描く」で対応し、音はいらんよね・・・。まぁ、構文どうりにそこはしとこうか・・・。

そして、魔力をプラントイーター・・・名前決めよう。



「君の名前は何かあるか?」

と俺が聞くとプラントイーターは首を振った。

「じゃあ、君はエリザにしよう。俺がエバンスで、頭文字が一緒。兄弟だな。」

と言うと、なんか嬉しそうなプラントイーター。

手持ちのハンカチに自分の血文字で魔法陣を書く。



「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」

「正解したら、ピンポンピンポンと音を出し、本人『エリザ』の言葉をカルフス言語に翻訳して地面に文字を記す。」

「回答:フライパン」

「提供支援:赤妖精セイシルフ」



それをプラントイーターことエリザに渡す。

エリザは不思議そうにしながら、それを受け取る。

「これに魔力を含ませて、喋ってくれないか?」

と俺が言うとエリザは、先ほど様にしゃべり始めた。



「**、**?」

「ピンポンピンポン『これ、なに?』」

地面に文字が描かれた。しっかり、翻訳されて理解できる。

「よかった。成功だ。こうなるとピンポンピンポンは邪魔だな。もう一枚渡す。待って。」

「****。」

「ピンポンピンポン『わかった。』」

もう一枚ハンカチを取り出し、ピンポンピンポンの記述を抜いて、魔法陣を描く。それをもう一度、エリザに渡した。

「*****?」

「・・・。」

今度は何も反応なし。

(マジか・・・。音大事なんだ。)

一度、ならない方のハンカチを返してもらい、全部丸洗い。新しい別のハンカチに『ピンポンピンポン』と『リン♪』と書き換えたものを渡す。

「*******?」

「リン♪『これでいいの?』」

今度は成功した。いや、奥が深い。

これで魔力がある限り、プラントイーターとの会話が地面があるとこなら、可能になった。



それから、エリザからこの状況のことを聞いた。

その答えもあまりに非日常的すぎて、非常識だったので、軽くめまいを覚えた。聞いた内容はこうだ。



日本に生まれた。ずっと孤児をしていて、始めは施設に行ったけど、虐められた。逃げて、強盗してたら、変態に捕まった。いや、いい男だったけどさ。変態過ぎて怖くって。逃げたら今度は警察に捕まった。そして、刑務所で虐められて殺された。

気付いたら、ちっちゃい根っこになっていた。そこら中から食べて、食べて、食べまくったけど、寂しくて。それに、私は変異種ってやつらしくて、目の色がおかしいから、仲間からも嫌われていた。生まれ変わる前も同じ目の色で、それでいつも虐められた。でも、ムカついたから、仲間も食べた。

生まれ変わっても、虐められて、寂しくて。

ねぇ、あんたは私を虐めない?寂しくさせない?



(あぁ、これ、いいのかな?君、本当に、俺から逃げなくていいのかな?だって、前世から俺は君の虜だったってことじゃないか。確実に俺のことに気付いていない。言うべきなんだろうけど、今度は俺にしっかり依存させてから教えた方が良いのではないか?前回だって、怯えさせて殺されたんだ。今回もそうならないとは限らない。立場は前回と左程変わりはしない。強盗大量殺人犯と変態。魔物と変態。うん。左程変わらん。よし、愛しのエリザを大事にしよう。)

にっこり笑う。



「大丈夫。俺はエリザのことが大好きだから、虐めないよ。仕事とか作業とかして寂しくはさせるかもしれないけど、出来る限り君のことを大事に寂しくさせない様に努力するよ。だから、俺の奥さんになってくれるかい?」

と俺が言うとエリザは見るからに慌てた様子で

「リン♪『お前変態か?!でも、うん。よろしく頼む。』」

と書かれていたので、思わず、抱き着いた。



嬉しくて、涙が出そうだ。彼女のことを大事にしよう。

でも、困ったことがある。それは、彼女は多分、雌では無いことだ。便利なステータスや鑑定の魔法などは持っていない。あるのは必死に本で勉強した知識だけ。しかも偏っている可能性もある知識だ。そうでないかもしれない。

まぁ、でも、彼女と交配をしてもしなくても、俺は彼女が大好きだから問題ないと思いなおす。

それよりも先に、御飯の採取だ。



そして、エリザご飯と俺のご飯の採取をしようとエリザと狩りと言う名のデートに誘った。

驚くべきことにこの森には低級な魔物はほとんどいなかった。いるのは高位の魔物ばかり。ビックラビットと言う名の体長3mの魔獣を見つけ、速攻で倒す。それの首を刎ねて、エリザにたっぷりの生き血を与える。

「リン♪『これ、結構おいしいよ。エバンスも飲みなよ。』」

「ごめん。人間種だから、血は美味しく食べられないんだ。」

「リン♪『そうなのか。残念だ。』」

「でも、肉は一緒に食べよう。」

「リン♪『ああ、そうだな。』」

そんなのほほんとした会話をしながら、俺とエリザは過ごした。しばらくは、そういう風に狩りをし、語らい、毛皮で布団を作ったりしながら、のんびりと暮らしていた。



あれから幾日経ったのかはわからない。多分、2か月は過ぎたと思う。そしたら、あらかた高位の魔物は姿を見せなくなり、今度は低位の魔物が大量に発生し始めた。先先日、倒したドラゴンのようなものがきっかけだったように思える。実に美味しい肉だった。

エリザはドラゴンの生き血を飲んで、今世では見たことのない姿になった。前世で見たアラウネが一番姿形的には近い。

これなら、いずれ口でまともに俺たちの言語で喋れそうな気がする。

新婚のようにキャッキャウフフとプラトニックな恋愛をしていた。



そんなある日である。

森に武装具に身を包んだ、でも、明らかに正規の兵ではない男の集団がやってきたのは。





武装具は明らかに血にまみれていた。手入れは全くしていないようだったし、一人一人がつけている武装具に統一性が無い。手甲と足甲の種類が違うものさえいる。そこから導き出される答えは、盗賊団と言うこと。

正直、俺は人から物を盗むことには吐き気を覚える程、不愉快な感情を覚える。

食べないのに殺すと言うのは全く納得がいかない。人間らしい考えではないとは自覚しているのだが、例え、対象が人間であっても、殺したのなら、すべからず食べるべきだと思っている。

つまり、俺にとっての例外はエリザだけである。エリザは確かに前世、金の為に盗みを働いた。人を殺した。しかも、死体を放置、廃棄した。これは、俺には許せないことだ。エリザだけは許すけど、他の者にそのようなことは許すつもりはない。

つまり、この50人ほどいる盗賊団は俺にとって悪である。



エリザの触手範囲に既に盗賊団たちの皆は集まっている。

会話を遠隔魔法で聞いてみた。



あまりに不愉快だったので、要点だけ書くと

・森の外の領地でなん村か強盗して、焼いてきた。

・綺麗どころは売って、それ以外は遊んでから、森に捨てる

・適当なのを選んで、連れてこい。焼いて遊ぶ。犯して遊ぶ。切って遊ぶ



恐らく、焼いた村と言うのは元実家の治める村。今は、名前もあそこには残っていない。赤の他人の土地であるから、そこは問題ない。

しかし、人間を収集しておいて、非道なことをやろうとして・・・いや、やり始めた。



目の前で、中年の男性が切られたり、焼かれたりし始めた。



不愉快だ。

止めようにも、一人で50人はさすがに殺せない。ドラゴンだって、他の高位の魔物だって、エリザが居てこそなのだ。つまり、私はエリザのヒモ状態。そんな俺が、彼らを助けることは不可能ではある。

しかし、不愉快でたまらない。



「エリザ、テリトリーに汚いのが来たね。どうしよう。」

「リン♪『あんな汚いの食べたくないけど、袋としてはいいかも。実験したかったんだ。』」

「実験?」

「リン♪『私は魔物だし、恐らくは雄なんだと思う。だから、種付けは可能なんだ。それに今、私はどうやら発情期なんだ。』」

「え・・・。」

赤くなる俺。つられて、困った様子のエリザ。

「リン♪『いや、エバンスを無理矢理抱こうとか思わない。でも、欲求の発散はしたいし、従僕もそろそろ欲しい。魔物の子は基本的に親の従僕になる。』」

ちょっと、従僕を作ることに関しては不愉快な感覚ではあるが、しかし、魔物だしと思いなおす。

「リン♪『ちゃんと育てるよ。』」

「いや、君の子をあんな奴らが孕むと言うことが不愉快なだけで、それ以外のことは問題ない。」

と俺が答えると真っ赤になるエリザ。

「リン♪『でも、君が孕むと君が死んでしまうかもしれない。加減が分かるまで、絶対そんなことはしたくない。』」

とエリザは言ってから、更に真っ赤になって、うつむいた。

「つまり、いずれは俺を孕ませたいと言うことか?」

と言うと無言を貫き始めた。うつむいたせいで、目が見えない。

「君の瞳が見たいんだ。こっちを向いて、エリザ。」

そう言って、アラウネになったエリザの顔を軽く両手で包み込んだ。

「駄目かい。俺をちゃんと見て、エリザ。」

赤と青の瞳が困ったようにして、俺を見た。エリザはとても綺麗だ。あんな汚い奴らを孕ますのは嫌ではあるが、実験なら仕方が無い。いずれは、俺も彼女の子を孕むことになるんだろうけど、エリザとは一秒でも長く一緒に居たいし、その子とも一緒に居たい。なら、答えは決まっている。

「じゃあ、あれらをしっかり洗ってから、使用してね。」

そう言って、俺は雨の魔法陣を展開した。

この数か月で分かったことがある。それは支援を得なくても、魔法は使えると言うこと。魔法陣は結構簡単にオリジナルが作れると言うこと。

構文的に支援者の欄に自分の名前を書けば、なぞなぞ無しで魔法は展開できた。なぞなぞの代わりに必要なのは生贄のようなもの。要するにプレゼントだ。魔法を使うとプレゼントは消滅するが、強大な魔法が使用できることが分かった。そして、プレゼントの竜の血や鱗や皮は一杯ある。今なら、気候を操ることも訳ない状態だった。



雨が降り注ぎ始める。焚火の火は消え、テントをしているが、地面がべっちょりし過ぎて眠るのも困難な状態にあっと言う間になった。

あるものは馬車に。あるものは大樹のウロに。あるものは岩壁の洞窟の中に。

分散したので、奴隷として捕まった人間以外を対象にエリザは行動を開始した。



初めは大樹のウロと思って入っていった盗賊団たちの処理。

大樹のウロに見せかけていたのは、まさしくエリザの体内である。エリザは俺が常日頃から言っている犯罪者以外は手を出さない法則にしたがい、無理矢理連れ込まれた盗賊団以外のものをウロから触手で放り出した。

慌てる盗賊たち。

それらを触手で縛り上げるエリザ。

その間に、俺は、馬車内の盗賊たちにマヒの魔法を使う。

そして、それらを雨が降る大地に投げ捨てる。

先程の逃がす予定の一般人を馬車に移動させる。



次に洞窟に行くかと腰を上げたところで、エリザと合流。

ウロに固定されて、声も出せなくなっている盗賊たち。雨に濡れて、じわじわ綺麗になっていく。先ほどマヒさせた盗賊団たちもウロに突っ込む。すると、突っ込まれた盗賊たちも固定化される。



二人で洞窟に行き、ヒット&アウェイで徐々にマヒさせる俺。幾数もの太い触手や無数の細い触手で捕らえようとするエリザ。

最終的に多少の犠牲を出しつつ、ほぼ全員の盗賊団を捕まえることに成功した。

捕まえたものは、エリザのウロに移動。

雨がしっかり当たる様に移動させながら、固定拘束。

盗賊たちがいたぶって殺した人間も込みで馬車に載せる。

移動している間に、死体は雨で綺麗になった。

やや、正気を取り戻したものが居たので、軽く説明をする。



・ここは無名男爵家の領地であること。

・盗賊団は捕まえたこと。こっちでしっかり、盗賊たちは処分するが、君たちにはこの領地を出て行って欲しいこと。

・馬車は持って行って構わないこと



しかし、助かった彼らは、ここに残って、恩返ししたいと言う。どうか、ここに住まわせて欲しいと。それに、帰るところなど既に無いと。



しかしだ、ここの人たちは俗に言う亡命者にあたる。今なら盗賊団からの誘拐で済むが、ここに住み始めたら、そう言う扱いになる。加えてここには、衣食住は全く整わない。なにせ、商人さえ来ない魔境である。

森の木々に見える四分の一位はエリザの触手だ。彼らには判別不可能である。

ここに出る低位の魔物はキラーラビット。最近結構増えているが、それさえも、この人たちは倒すことは困難に思える。

「無理だ。君たちは弱すぎる。ここの森にはキラーラビットがわんさかいる。しょっちゅう助けられるのは、事実上無理だ。俺には奥さんがいるし、優先順位的にも君たちを守ることにあまり手を尽くさない。少なくとも今は準備が出来ていない。」

そう言うと半数は納得したが、半数は納得されなかった。

「大丈夫です。皆で協力します。」

「それに、キラーラビットなら倒したことがある者たちが居ます。」

「貴方様の魔法があれば、簡単ではありませんか!ぜひ、私たちをここに住まわせてください。」



本当にこういう人って困る。

結局、俺をあてにしての言動なのだし。

「まず、私はマヒの魔法は上手に使えるが、それ以外の魔法はあまり使えない。」

「は?」

「加えて、元実家タキール侯爵からは目の敵にされている。何せ、殺すためにこの森を領地に設定し、名無しの男爵位を与える位だ。」

(そう、恐らく、元実家のタキール侯爵家は、俺が生きていることが分かったら殺しに来るだろう。継母がそうする気がする。)

「え・・・。」

「先ほどの拘束などは、盗賊団たちを捕食するために魔物が勝手に行動したからだ。俺の意思はほとんど介在しない。」

少し嘘だが、そう言うと目に見えて真っ青になる人たち。

「非道な!」とか「それでも人ですか!」とか罵倒が飛ぶ。

「いいのか?君たちを隠すことだけはしたのだが、隠すことを止めて良いのか?俺もそんなに長くこの隠す魔法は使えない。」

これは半分いや、かなり嘘を含んでいる。俺自身には隠す魔法は使っている。こいつらには使っていない。

「そんなに力があるのに、使わないのは罪だ。」

と一人の女が叫ぶように言った。

物凄くムカついた。

しかし、その人の口を周りの人間が急いで塞いだ。

「俺は君たちを守ろうと思う気持ちが全く無くなってきている。先ほども言ったが、あれらの力は魔物が勝手にやっていることで俺の力ではない。そして、俺の力は俺自身と奥さんを守ることで精一杯だ。加えて、助けてもらうことが当然と言うような人間を助けようと思えないのだ。残念なことに。」

と俺は言った。

「すまない、仲間が暴言を吐いた。」

一番年長者と思われる人間が謝った。一応、こくりと頷く。

「あぁ、でも、既に守ろうと思えないと言ったことは本当だ。今すぐにでも君たちを隠すことを止めたい。魔力もきついのでな。」

そう言うと先ほどの女も真っ青になってきた。

これはかなり本当だ。一人分でも隠す魔力はまだあまりない。外見から察してほしい。まだ、5歳なのだ。大人びた喋り方はしているが。

小さな声で「そうだ、こどもになんてことを。」「悪徳タキール侯爵の実子。いや、暗殺対象か、確かに危ない。」「俺たちの方が非道じゃないか。」「俺たちはこんな子供に重責を押し付けようとしたんだ。」「人でなしは俺たちの方じゃないか。」とか聞こえ始めた。

もう少し早くその答えに行きついて欲しかったと心底思う。

「ごめんなさい。私たちと一緒に来ない?」

と先程の年長者の奥さんらしい人が言ってきた。

「いえ、俺の奥さんはとてもシャイだし、見た目のせいで、村に住めなかった者なのです。だから、遠慮いたします。」

と俺が言うと奥さんはしばらく逡巡し

「そう、わかったわ。じゃあ、助けてくれて、ありがとう。仲間が迷惑をかけたし、暴言もかけたわ。本当にごめんなさい。じゃあね。」

と言った。

「ええ、では、さようなら。」

俺はそう言って、馬車を見送った。

後ろから男の悲鳴が木霊している。馬車で逃げていく人たちはその声に震えあがっている。本当にやっと去ってくれて良かった。俺には人間を好んで食べる趣味はないんだから。



少しため息をつき、愛しのエリザのところへ俺は足を進めた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方の子どもじゃありません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,814pt お気に入り:3,879

服を脱いで妹に食べられにいく兄

恋愛 / 完結 24h.ポイント:958pt お気に入り:19

【完結】私がいなくなれば、あなたにも わかるでしょう

nao
恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,186pt お気に入り:937

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:40,011pt お気に入り:12,888

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,146pt お気に入り:7,488

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,847pt お気に入り:4,744

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,000pt お気に入り:3,527

処理中です...